放課後児童クラブの職員は午前中、併設の保育所などで働いてもらうことが効率的だ。その考えに、もやっとします。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)に関して社会が持っている誤解の1つに「学校がある日は、午後からの仕事で十分だよね?」があります。その誤解から「では午前中は別の仕事をしてもらえばいいじゃないか」という考えも生まれてしまうようです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<効率よく、とはどういうことか>
 運営支援ブログは8月28日、佐賀市の公営クラブ民営化について題材にしました。民営化を伝えるサガテレビの8月27日19時13分配信の記事を紹介しましたが、その中で、放課後児童クラブと認定こども園を運営している事業者のコメントが掲載されており、その内容をブログにも引用しました。
「認定こども園もしているので、昼間は認定こども園のほうを手伝ってもらって、夕方に児童クラブの仕事をしてもらう。その辺職員を効率よくつかって運営ができていると思っている」(※筆者注:放課後児童クラブと、認定こども園の双方を運営している事業者のコメント)
(引用ここまで)

 28日のブログでは分量の問題でこのコメントについて触れませんでしたが、実はこのコメントに記されている状況は、ずっと以前から私が問題意識を持っているものです。それは次のような問題意識です。

 「放課後児童クラブの職員における、児童登所前の時間の意義とは」

 先のコメントには「効率よく」という言葉が出てきます。児童クラブに登録している小学生がクラブに登所する前の時間は別の仕事をしてもらい、子どもが登所したら児童クラブの仕事に就く。それによって効率が良くなると考えられるということは、どういうことなのでしょう。すぐに思いつくのは「無駄な(と事業者が考えている)時間に仕事をさせればいいじゃないか」ということです。同じ給料、人件費を支払うのならということでもありますし、子どもがクラブに登所する午後の数時間しか出勤しない職員を雇用しながら午前中の仕事のために別の人間を雇うより、午後しか仕事が無いクラブ職員をフルタイム8時間の職員として雇ったほうが良い、という考えなのでしょう。

 いずれにしても根底には、「子どもが登所しない時間に、児童クラブの職員の仕事は無い」という共通した理解として存在するものだと私には受け取れます。効率よく、とは、子どもが登所する前の時間には児童クラブの職員は何もすることがないのだから別の仕事をさせればいいのだ、働いている側だって労働時間が長くなれば給料が増えるじゃないか、一石二鳥だね、という理解があるのでしょう。合理的じゃないか、という考え方になるのでしょう。

<誤解を生むのは「子どもと遊ぶだけ」の理解であろう>
 先のコメント以外にも、ずっと以前に、確か岡山県だったでしょうか、同じように保育所などを経営する事業者が午前中は保育士、午後は放課後児童支援員として勤務をしてもらうことで生産性を上げる、ということを紹介した記事を読んだ記憶があります。サガテレビの記事もそうですが、「子どもが来る前は別の仕事、子どもが登所したら児童クラブの仕事」ということをそのまま紹介しているということは、この記事を送り出す側にとっても違和感や疑問を持っていないということです。何も疑問に感じないからそのまま紹介するのです。

 私も以前は児童クラブを運営し、人を雇う側でした。よって人件費の無駄を徹底的に無くすことが経営者として当然の行動原理であるということは理解します。よって、先の記事のコメントについて、そうコメントしたくなる側の考えも理解できます。ただしそれは、子どもがクラブに登所する前の時間の児童クラブには何もすることがない、という理解に基づく場合だからこそです。実際は、児童クラブに子どもが登所する前の時間から、児童クラブの職員には重要な仕事があることを、少なくとも私は認識しているので、先のコメントにあるような趣旨には、疑問を感じますし、疑問を感じないメディアの取材にもまた疑問を感じます。

 子どもが登所する前の時間、社会一般には何もすることが無い時間だと思われる時間に、児童クラブの職員は、安定した子どもへの支援、援助を実現するために、子ども達の状況について確認し、同僚など他の職員と議論(これを「育成支援討議」といいます)を行い、必要な支援、援助の方策について検討します。同じように保護者への対応を協議、検討します。また、育成支援に必要な知識や技量を磨き上げるための研修の時間に充てます。技量を研鑽する時間になります。

 私が思うに、世間一般、社会一般の抱く児童クラブの職員の仕事のイメージが、「子どもが放課後にクラブにやってきた。クラブの職員は、子どもが宿題をしっかりやるのを見張り、宿題が終わった自由時間は子どもの遊び相手となり、保護者が迎えに来るまで子供の面倒を見て過ごす」という内容で固定化されているのでしょう。だからこそ、子どもがクラブに登所する前の時間は、子どもがいないから仕事としてすることがない、見張りや、遊び相手が仕事だけどその相手がいないから児童クラブ職員の仕事がない、ということなのでしょう。

 だから、子どもがいない時間には別の仕事をしてもらえばいいんだ、という事業者の考え方が生まれるのでしょう。しかし、午前10時開店のスーパーだって、商品の品出しや搬入にはそれこそもっと早い時間から社員、従業員が従事しているのです。レジの担当者だって開店前に打ち合わせやレクチャーだってあるでしょう。児童クラブだって同じこと。どうして、子どもが登所する前には、職員にする仕事はないはずだと思ってしまうのでしょうか。(その答えがつまり、子どもの相手が仕事だという誤解に基づく認識が一般化しているから、なのですが)

 これはひとえに、児童クラブ側の発信が足りないから。周知広報が足りないから引き起こされた状況だと私は考えています。午前中の時間をどう使うのか、育成支援の専門性を深めることに欠かせない時間であるし、当日又はその後数日間に児童クラブにおいて実際に行う支援、援助の方針と具体的な手順を決定するために使う時間であって必要不可欠な時間であるのだ、ということを、社会や世間に知られていないからです。知ってもらう努力が足りないのです。ここを頑張りましょうよ、児童クラブの関係者は。

 なお、私には経営者側を支援する思考もあります。その観点からすると、月曜日から金曜日において、すべての児童クラブ職員がまったく1日も、1時間も、午前中に別の仕事に就くことはありえないという考えでは、ありません。週のうち最低1日、あるいは数時間であれば、児童クラブではない仕事に就いて事業者全体の生産性向上に資することは可能でしょうし、職位によっては、週に数日は別の仕事に就くことも可能でしょう。そもそも保育所などを併設していない児童クラブ運営事業者であっても、午前中に組織そのものの運営業務に職員を従事させることは珍しくないことです。児童クラブにおける事業の質を向上させるために必要な方策が確保されていること、例えば、午前中や児童登所前に別の業務を行っていた者に対して、その間に育成支援討議によってまとまった内容や考え方を確実に共有できる機会が確実に確保されているなどの方策が講じられておれば、「事業者内ダブルワーク」であっても、問題はほぼ起きないでしょう。そこは事業者の工夫次第です。

 経済的合理性を考えることは大事ですが、育成支援の専門性を深めるために必要な時間を確保すること。この双方のバランスをしっかりとりつつ、事業の本旨である育成支援の質の向上が実現できるような職員の勤務形態を確立することが大事です。

<保育所などを運営する社会福祉法人の児童クラブはどうなっている?>
 私が極めて気になっているのが、全国各地にある、保育所や認定こども園を設置運営している法人が、児童クラブもまた運営している場合における職員の勤務形態です。特に、同じ敷地内に保育所や認定こども園、幼稚園がある場合です。午前中は保育所などで、午後の小学校放課後の時間帯は児童クラブで、という仕事の形態を採用している事業者は、実は多いのではないでしょうか。

 しかし、社会福祉法人や学校法人など、保育所などと児童クラブを運営している事業者における、児童クラブにおける育成支援の実態について紹介する記事や資料などに、私はほとんどお目にかかったことがありません。実際はそれなりにあって私が見つけられていない可能性だってもちろん高いのですが、未就学児と小学生児童の支援の双方を行っている事業者における児童クラブでの育成支援についての現実が、何か話題になったり、(なっては困るのですが)問題となって取りざたされたということは私の記憶にないのです。仕事の形態も、仕事の内容も、いったいどうなっているのだろう。

 私が行っている市区町村の児童クラブデーターベースの作業では、特に地方都市において、保育所等を設置運営している事業者が児童クラブを運営する事例がごく当たり前に見つかります。そのうちかなりの数が、卒所生、卒園生を対象としていたり、小学3年生や4年生といった限定的な受入れを行っていると見受けられます。保育所、こども園、幼稚園の延長といった形です。実際、「保育所を出た子ども達の居場所が無いから、保護者を支えるべく児童クラブを設置した」と説明している事業者も見つかります。

 いったい、どのような方針で、どのような育成支援が行われているのでしょう。午前中は未就学児、午後は小学生児童の支援をごく当たり前に仕事としているのでしょうか。あるいはシフトで、ある日の午後は保育所で、ある日の午後は児童クラブで、というシフトになっていることがあるのでしょうか。放課後児童クラブ運営指針はどこまで参考とされているのでしょうか。気になることばかりです。社会福祉法人や学校法人は法令上、計算書類など情報公開はかなり徹底していますし、未就学児に対してどのような保育を行っているのかについては結構詳しくホームページで紹介されていると感じます(それは入所する児童の獲得競争のためでしょうかね)。が、こと児童クラブについて事業の内容については情報公開がおざなりな事業者が多く、むしろベールに包まれているという印象すら私には感じられます。

 そういう社会福祉法人や学校法人で勤務する放課後児童支援員、補助員の人はそれなりの人数がいるはずです。そこでの雇用労働条件について、もっと社会に広く知られていいのではないでしょうか。どのような支援、援助がおこなわれているか、もっと広く社会に発信していっていただきたい。運営に関して補助金が交付されているなら、納税者たる国民に対して、このような事業を行っていますと公開することが当然に求められていると私は考えています。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)