放課後児童クラブや保育施設での重大事故が過去最多との報道。子どもの生命身体と同じく、運営組織を守る策は?
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。報道で、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)や保育施設で起きた重大事故が過去最多と伝えられました。子どもの生命身体は守られて当然ですが、運営支援としては法人(組織)をどうやって守るかを考えます。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<重大事故の情報公開に不備>
この報道はNHK NEWS WEBが2024年8月3日7時34分に配信した「保育施設や学童保育などでの重大事故 去年2772件で過去最多に」という見出しの記事です。その記事を一部引用します。
「こども家庭庁のまとめによりますと、全国の認可保育所や認定こども園、それに放課後児童クラブいわゆる学童保育などで発生した死亡事故や治療に30日以上かかるけがなどの重大事故は、去年1年間で2772件にのぼりました。前の年から311件増加し、報告が義務化された平成27年以降、過去最多となりました。」
「施設別でみると、▽認可保育所での事故が1268件、▽学童保育が651件、▽幼保連携型認定こども園が568件などとなっています。」
「また、死亡事故は9件で前の年から4件増加し、年齢別でみると、▽0歳が4件、▽1歳と2歳がそれぞれ1件、▽学童保育を利用する小学生が3件でした。」
「こども家庭庁は事故が増加した原因として、学童保育の利用者が過去最多と増加していることなどをあげ、十分なスペースの確保などの防止策を進めるよう自治体に通知しました。」(引用ここまで)
放課後児童クラブの死亡事故が3件となっています。滋賀県のプール活動中の事故は疑いのないものとして、他の2件は何でしょうか。島根県のウォータースライダーの件でしょうか。さらにもう1件は何でしょうか。
このNHKの報道のデータとなった2023年度の重大事故の調査結果ですが、こども家庭庁の公式ホームページを検索しても、私には見つけられません。まして、放課後児童クラブにおける3件の死亡事故について説明している資料も見つかりません。こども家庭庁の情報提供、情報公開は、審議会関係については迅速かつ丁寧ですが、それ以外のもの、たとえば補助金関係はとりわけ、情報公開が遅い。遅すぎます。国がその体たらくでは、都道府県、市区町村も、上に倣え、ですよ。
<もっと丁寧な分析を>
先のNHKの記事では、事故増加の原因として「学童保育の利用者が過去最多と増加している」としています。これは、重大事故の全体の発生数が最多となった原因を指しているのでしょう。つまり母数が増えたから事故が増加したということです。なんといい加減なのでしょう。いや実はもっと詳細に分析していて、NHKが大幅に省略して伝えたにすぎないと信じることにします。
さて認可保育所の事故は1268件となっています。では認可保育所の個所数は?と思い調べたのですが、データが見つかりません。「保育所」の数なら分かります。23,806です。(「保育所等関連状況取りまとめ(令和5年4月1日)」こども家庭庁)。放課後児童クラブは単位数なら37,034です。重大事故数は651ですから、保育所より、事故の発生割合については低いことが分かります。自ら危険を察知して回避する判断能力が、乳幼児よりも成長しているので、これは理解できます。ところで放課後児童クラブの利用人数ですが、令和5年度の登録人数が1,457,384人、令和4年度は1,392,158人で、65,226人増えました。保育所などは令和5年度が2,555,935人、令和4年度が2,575,402人でした。その差はマイナス19,467人となります。保育所の利用人数は確実に減っているのですね。
単純に放課後児童クラブの利用人数が増えたから重大事故件数が増えたというのはそれはその通りなのでしょうが、ではどうして放課後児童クラブでは重大事故が多いのかを指摘してほしいところです。私が感じている、放課後児童クラブにおける重大事故が多い理由は次の通りです。
(1)重大事故とは骨折などで全治30日以上の療養期間を有するものですが、小学生を対象とする放課後児童クラブは、外遊び、運動遊びによって体を活発に動かす遊びが多く、子どもの活動範囲が大変広がるので、乳幼児と比べれば当然、骨折事故が増えます。走っているときの足、脚部、球技などでの指や腕などは、まったく珍しくない骨折部位です。雲梯からの落下による骨折もあります。骨折といってもいわゆる剥離骨折も含むので、その件数は多くなります。
(2)児童クラブ室内の広さに対して滞在している児童数が多い、つまり大規模状況にある施設が多いことです。混雑している室内で、活発に動き回る子どもが大勢いることは当然、衝突や接触による児童の負傷が増えます。大規模クラブはもちろん、児童1人あたり1.65平方メートルのスペースが確保できており大規模ではない、といっても、よく考えてみてください。あんなにちょこちょこ動き回る子ども1人あたり1.65平方メール分、だいたい畳1枚分の広さを与えていれば良い、というそもそもこの基準が適切であるかといえば、そんなことはないのです。年度当初で登録児童数が多い時期、雨が降れば、適正な入所人数とされる児童数40人前後でもほぼ全員が登所すれば、やっぱり室内はギュウギュウ詰めの印象です。大規模はもちろん、大規模状態ではない児童クラブであっても、室内における衝突や接触による重大事故は起こるものです。
(3)子どもの活動を見守る、あるいは統制する職員数が少ないこと。放課後児童クラブは有資格者2人(うち1人は補助員代替可能)という大変に緩い配置基準しかありませんが、おおくの地域や運営主体は独自に職員配置基準を設けています。およそ児童20人に1人ということが多いようです。(適正とされる登録児童数が40人であり、配置が必要な職員数が2人ということから導かれる数値でしょう)ですから、50人いる児童クラブなら3~4人の職員が最低でもいる、ということです。現実的には50人登所が常態化しているクラブでしたら4~6人の職員が出勤しているでしょう。しかしその全員が子どもたちの活動に関わったり様子を見守っているわけではありません。運営本部や保護者と話したり打ち合わせしたりあるいは書類事務を行っていたりと正規職員1人は常にではないですがかなりの時間、自分自身の別の職務に取り組んでいます。おやつの提供準備や片づけ、食器洗いなどで1人は台所、調理場にいてもおかしくありません。すると6人のうち4人が子どもと関われますが、これもまたごくごく普通にある、子ども同士のいざこざの仲裁や解決に関わる職員がいたり、ほぼ常時そばにいないと他の子どもとトラブルになりがちな子どものそばに職員を付けている、ということがあると、子どもたちが自由に遊んでいるところを見ていられる職員は2~3人になってしまいます。つまり、職員の目の届かないところで、ちょっと遊びがエスカレートしたりスリルを追求しすぎたりして、けがを招くという状況が、ままあるのですね。これはもう、職員数が足りないことにつきます。いいですか、国も行政も、「小学生だから、たいてい、自分でできるだろう。だから大人の数、職員数は保育所とちがってそれほど必要ないだろう」というのは、まったくの間違いです。海を見て「高い山だね」と言っているようなものです。活発に遊びまわる小学生だからこそ、まして、他者とのトラブルが本当に絶えない小学生だからこそ、配置が必要な職員数はもっともっと必要です。理想を言えば児童5人に対して1人は必要です。
上記1~3の状況は早々に大きく変わる、改善することは期待できませんから、児童クラブの入所数、登録児童数が増え続ける近年の傾向が続く限り、重大事故数は増えることは否定できようがない推定です。
<運営側、職員側はどうする?>
ここで対応が必要なのは訴訟リスク、損害賠償の可能性です。もちろん、子どもの重大事故を減らすために必要なことはもれなく実施されねばなりません。しかしそうであっても、現状、大きく変わらない限り、「もし、そうなってしまったら」に備える必要はあります。被害に遭った側に最大限の誠意を示すことは当たり前なので論じないとして、「誠意を尽くす側」にはどのような対応が必要でしょうか。それは、重大事故を起こしたことによって、その後の事業継続が不可能になる、あるいは不可能な状況に追い込まれる事態を避けることを考えることです。
つまり、「私たちは重大事故を起こさないように、これだけの対応を講じてきた。考えられる限りの対応策を実施してきた」ということを客観的に示すことです。責任を問われるのは、その重大事故に関して児童クラブの運営主体、事業者が行ってきた事業内容と相当因果関係が認められ、運営主体、事業者がその重大事故が起きる予見可能性を把握していた、もしくは把握できることが容易であった場合です。つまり、「これだけいろいろな対策を講じてきたので、そういう重大事故が起きるとは到底、予測しきれなかった」ということが客観的に証明できればいいのです。
とても難しいことですが、児童クラブの運営主体、事業者にとっては、自ら事業を行える立場にあることが最も守るべきことですから、それを実現するために必要な方策を行わねばなりません。例えば次のようなことです。
・運営主体、事業主が自ら「重大事故が起こりえる状況」をいくつか想定し、その発生防止について「職員への研修」や「必要な作業(遊具の点検、児童の体調管理など)の徹底を指示」している。
・出勤して業務に従事している職員数が少ない日で、クラブに登所する児童数が多い日については、事故の発生防止のために「必要な職員配置のモデル体制」をマニュアル等で示し、「その徹底を指示」し、「指示が実践されているか確認」を行うこと。
・児童クラブの職員は、現場の職員が全員参加する会議などで、重大事故防止のために必要な対策、行動について議題にし、検討すること。その内容を必ず記録に残すこと。第三者から提示を求められた場合にすぐ提出できるようにしておくこと。
・恒常的に出勤して業務に従事する職員数が少ない児童クラブがある場合は、重大事故防止の観点を明確にして職員の募集、補充に尽くしていることを「客観的に証明できる」ことにする。求人広告の常時掲載、実際に採用に応募してきた方への面接などが事実として記録されていること。
・運営主体、事業者として、職員数不足が重大事故発生を招く要因の1つとして認識し、その解決のために「市区町村に職員数充実のために必要な施策の実施(補助金の新規採用や増額)を訴えていることを書面等で確認できるようにしておく」こと。
・重大事故が起こりそうな現状について「市区町村の行政担当者や、地域の議員に現状を実際に現地で確認してもらう、あるいは記録を示して、その現状の解消を求める具体的な行動を重ねている」こと。
・保護者には常に「重大事故が起こりうる状況にあり、その解決のために善処していること。合わせて家庭においても子どもに重大事故を招きかねない行動についてよく考える機会をもってもらう」ことを要請すること。
・保護者に配布する「おたより」で、重大事故に関する注意喚起を行うこと。
はっきり言ってしまえば「責任逃れ」です。しかし、運営主体や事業主がいくら努力しても防げなかった重大事故がある、ということを証明するのは責任逃れではありません。非営利法人や保護者主体の運営形態が多い児童クラブの運営主体や事業者は、万が一の損害賠償にも十分応じられるだけの資金力、財務状態にはありません。保険に入っていたところで、なんだかんだで減額されてしまうのが関の山ですし、重大な過失があると保険会社に判断されてしまって保険金の支払いを断られる可能性だってあります。被害に遭われた方に満足な賠償金を支払えないということは、責任に応じられないということです。そんな不誠実な事態をみすみす招いていいのでしょうか。そうではないはずです。もちろん、重大事故を起こさない最善の努力は大前提で言わずもがな。しかし現実に、児童クラブの現状は重大事故発生と常に紙一重です。大規模状態、突発的な行動でトラブルを起こしがちな子どもの増加、従事する職員数の不足に、従事する職員の決して高くはない資質など、重大事故を招きかねない要素だらけ。であれば、「組織防衛」であり「職員個人の立場を守る」ためにも、「これだけ努力してきましたよ」と言えるだけの実績を積み重ねておく必要があります。
いいですか、いざというとき、児童クラブの運営主体や事業者を行政が守ってくれるなんてことは期待できません。世の中、そんな善意は期待してはダメです。組織防衛という言葉があります。市区町村は、自分たちの組織に影響が及ぼされることならちゅうちょなく委託先や指定管理先だって切り捨てます。職員個人と、職員を雇う組織との関係も同じです。組織なんてものは、組織を守るためには職員1人の人生がどうなろうが、負債を背負おうが、責任をおっかぶせようが、知ったこっちゃありません。いざとなったら会社や組織は自分を守らないものだ、それが世間なんだと、冷静に思って最悪の事態に備えておく方が安心です。
もっとも、上記に掲げた「責任逃れの策」は、これを着実に実施していれば、当然、現実的に重大事故を減らすことに直結する策です。児童クラブの運営主体や事業者においてはぜひ、取り組んでいただくことを強く推奨します。
<おわりに:PR>
放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。8月7日時点では楽天ブックスなら在庫があります。また、寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)