児童クラブを民間委託するデメリットは?
この問題に対する回答がいくつかインターネット上で見かけますが、いずれも定義を誤解しているため、とんちんかんな回答になっています。それは、児童福祉法で規定されている「放課後児童健全育成事業」を行う放課後児童クラブのうち、民間事業者(個人も含む)が、市区町村からクラブ運営を任される「民営クラブ」と、放課後児童健全育成事業とは関係ない独自の事業を行っている、いわゆる「民間学童保育所」とを区別していないことが原因です。その結果、民間委託のクラブは料金が数万円の高額になる、というとんちんかんな回答が提供されています。数万円程度の利用料金が必要なのは、民間委託のクラブではない「民間学童保育所」です。まったくの間違いです。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所も一部含まれます)を設置できるのは、市区町村と民間です。市区町村が設置し、クラブの運営も行っている場合を「公設公営」「公立公営」と区分することが一般的です。放課後児童クラブの運営は児童福祉法の規定によって民間に任せることが可能であり、その場合は「民営」と呼びます。つまり民営クラブには、公設(公立)民営と民設民営の2形式があります。
民間が児童クラブを運営することによるデメリットは、実は一般的な利用者にはほとんど実感できません。むしろメリットの方が多い。というのは、公営クラブが民営になると、開設時間が拡大されたり施設整備が進んだり、昼食の提供が可能となったりと利便性に関するサービスが向上することが多いのです。これは公営クラブ時代より多くの予算を投入することが一般的だからです。
デメリットはむしろ働く側、雇用される側にありますが、それもすべての場合に当てはまるものではありません。民営クラブにおいて、クラブを経営する事業者(運営主体と呼びます)は大きく2つに分けられます。1つは、保護者(会)もしくは保護者(会)由来の非営利法人系(例外的に設立の容易さから株式会社を選ぶ場合もあり)の事業者とです。もう1つは広範囲の地域で児童クラブ運営を業として手掛けている広域展開事業者です。前者は、職員の継続的な雇用を重視する傾向が強く、後者は企業としての利益確保を最大の目的とするために職員の人件費を極力抑える傾向が強いので職員の雇用は有期雇用がほとんどで、つまり、ずっと将来も安定して働ける保障が持てない、ということが最大のデメリットです。
子ども(保護者にも)にとっては、ずっと同じ事業者がクラブを運営できるとは限りらない点がデメリットとなります。民間にクラブ運営を任せる場合、市区町村は、3年間や5年間ごとに業者を選び直すことが通例です。同じ事業者がずっとクラブを運営するとは限らないのです。クラブの職員、クラブの先生の顔ぶれが数年ごとにがらっと変わるかもしれない。これは、とても大きなデメリットです。
また、株式会社の運営するクラブは、非営利法人が運営するクラブよりも数倍の純利益を手に入れているという調査結果があります。つまり、保護者から集めた利用料や国等から交付される補助金のうち、相当な額が会社の「儲け」に化けてしまっています。投下した予算がすべて児童クラブの運営そのものに使われるのではなく、児童クラブを運営する企業の役員の報酬や株主への配当になってしまうのです。
もちろん、公の事業で利益を上げること自体はまったく問題ありませんが、必要以上に儲けとして得てしまうのであれば問題です。しかもその儲けは、職員への賃金をギリギリまで下げることによって生み出されていることが圧倒的に多いのです。企業の存在意義として事業活動における必要最小限の儲けは認めるとして、それを超える分について保護者の利用料を下げられるし、税金からなる補助金がもっと有効に活用できるはずにあるのが今の児童クラブの一部の民営事業者に関する問題といえます。ある調査では、東京都23区内でにある株式会社系のクラブは1つのクラブで年間800万円以上の儲けを得ています。これを利用料に還元すれば保護者負担は0円になるでしょうし、儲けが半分の400万円にしても、浮いた補助金を活用して児童クラブを増やす資金にすればいいのです。
なお、補助金を全く交付されていない民間学童保育所はこのような問題とは無関係です。私企業による純然たる経済活動だからです。補助金を受けないからこそ、数万円の高い利用料金が必要となるともいえます。
最後に、民間委託とありますが、児童クラブを市区町村が民間に任せる場合、公設のクラブであれば業務委託契約に基づく「委託」と、指定管理者制度に基づく「指定管理者」があります。民設のクラブであれば「委託」と、民間事業者が行う事業に市区町村が補助をする「事業補助」があります。委託の文字でひとくくりにされていますが実際には3つの形態が含まれています。
(運営支援による「放課後児童クラブ・学童保育用語の基礎知識」)