横浜市の放課後児童クラブにおける昼食提供の件について、運営支援ブログからお伝えしたいことがあります。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。さる7月31日に、当運営支援ブログでは、横浜市の放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)における昼食提供でアレルギー対応事案についてお伝えしました。その続きです。当ブログを読まれた当該事案に関係のある方から連絡をいただいたのです。そして私がその関係者から託されたことがあります。そのことをお伝えいたします。なお、今回のブログでは「学童」表記を多用しますが、関係者側が基本的に「学童」という言葉を使っていることによるものです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<託されたことは「学童の落ち度ではない!」ということ>
 まずは託された内容をお伝えいたします。関係者の方はとても丁寧に、理路整然に、私に説明をしてくださいました。その内容を一言で申し上げるなら、「昼食を提供する場となった学童保育所に、まったく、なんの落ち度もない」ということです。この関係者の方は、大変に心を痛めておられます。というのも、各種の報道における見出しからは、いかにも学童保育所側の落ち度やミスがあって在籍児童にアレルギー被害をもたらしたように読者に連想させる可能性があって、普段は丁寧に子どものアレルギー対応を行っている学童の職員に心労、心痛を及ぼしてしまうことを、とても心配されているのです。

 関係者からの情報によると、被害児童が体調不良を起こしたとき、学童側は疲労などによる体調不良を想定しました。昼食提供業者が用意した献立表には当該児童にアレルギー症状をもたらすアレルゲンの記載がなかったので、それはやむを得ないことでしょう。しかしそれから間もなく保護者が当該児童を引き取りに来た際は当該児童の症状からアレルギー症状の可能性をも懸念していたということで、この点においても学童側の判断は結果的に間違っていなかったということになります。

 横浜市の児童クラブにおける昼食提供は基本的に保護者と昼食提供業者とのやりとりになり、児童クラブ側は発注や献立作成には関与しません。保護者側は昼食提供業者が作成した献立表を見て、アレルゲンの有無を確認して注文するので児童クラブ側が関与する余地はありません。その点においても、児童クラブ側には当該事案において何らかの段階で関与する機会がなかったのであって、「学童側のミスで子どもがアレルギー被害になった」ということは、まったくもってありえないことである、ということを、しっかりとお伝えいたします。むしろ普段から丁寧に子どもたちに寄り添っている学童である、ということも合わせてお伝えします。

 同様に、保護者側についても過失を招く余地はなかったということが言えます。献立表を信頼してアレルゲンの有無を確認し、適切な弁当を注文するわけですから、保護者にはどうしたって献立表に記載されていながら実は含まれていたアレルゲンによってもたらされたアレルギー症状について知ることが不可能であり、健康被害についての予見可能性はありえません。いわば、提供される食事の原材料の表示そのものが間違っていたわけですから、食べる側がいくら注意をしてアレルゲンを確認したところで防ぎようがないのです。

 「学童側と、保護者側、この双方には防ぎようがないアレルギー事案だった」ということは、重ねて指摘しておきます。

<責任を問われるべきは業者と横浜市>
 関係者は強い憤りを持って訴えています。まず、学童における昼食提供については上記の通り、保護者が献立表を見て適切な弁当を注文する仕組みになっています。その献立表にアレルゲンの記載ミスがあった以上、学童も保護者もアレルギー被害を回避する術が無いのは言うまでもなく、それがゆえに、献立表が正確に作成されていることを、昼食提供業者は当然のこと、制度を準備して児童クラブおよび昼食提供業者を管理監督する立場である行政当局には、適切な事業執行が期待されて当然です。関係者によると、献立表の作成にはダブルチェックが行われていなかったといいます。まずもって考えられないことです。
 また、横浜市における当該事案の第二報において、アレルゲンの追加記載漏れが発表されていました。これも関係者情報によると、昼食提供業者が自ら発見したのではなく被害者側からの指摘で気づいたとのことです。こういうこともあって、被害者側は事業者にかなりの不信を募らせている、ということです。

 アレルゲンの記載を怠った事業者の業務上の過失は厳しく問われてしかるべきでしょう。

 同時に、被害者側は、横浜市に対しても管理監督の責任を厳しく問いていきたいという考えがあるとこの関係者からの情報です。ミスを起こした昼食提供業者はかねて横浜市内で給食提供業務を行っていた事業者であり、本来ならばこうしたアレルギー対応について十分なノウハウの蓄積があることが期待されて当然です。しかしながら、報道記事にもあったように以前、食中毒事案を起こしていたことが明るみになっています。先に触れたように今回の事案で献立表作成において社内でダブルチェックを行っていなかったことが発覚したなど、事業の信頼性に難があることが浮き彫りになってきています。

 ところが報道では次のように伝えられています。
「横浜市が学童保育拠点で昼食を提供する夏休み中のモデル事業を巡り、委託先の事業者によるアレルギー品目の表示ミスが相次ぎ児童1人が体調を崩した問題で、市は31日、この事業者による昼食の提供を8月1日に再開すると明らかにした。最終提供日の同23日までの全てのメニューについて、保護者向けに作成した献立表のアレルギー表示に誤りがないことを確認したという。」(神奈川新聞7月31日20時40分配信記事)

 関係者によると、被害者側と横浜市と業者との間の話し合いはまだ続いているようです。もちろん、昼食提供を待っている世帯、子どももいるわけで、この点について関係者は、「学童の子どもたちが安心して昼食を食べられる環境を重視したい、という考えで話し合いに臨んでいる」としています。

 再発防止策は本当に安全な段階まで構築できたのか。行政の、昼食提供事業者に対するこれまでの管理監督体制に不備はなかったのか。業者にまかせっきりの丸投げ体制ではなかったのか。今後、同様の健康被害を児童に及ぼす可能性のある事案を徹底的に防げるための管理監督体制は整ったのか。その点、被害者側はとても心配なことでしょうし、同じように、市内の児童クラブで昼食提供を受ける子ども、保護者も心配でしょう。そういった人たちを安心させられるだけの丁寧な対応をしているのかが、まさに問われているのです。

<子どもの命が守られること、そしてさらに考えていきたいこと>
 放課後児童クラブ、学童保育所は、子育て中の保護者の就労保障として社会的に期待されている仕組みです。もとより、子どもを受け入れる場として安全安心な場であらねばなりません。今回のような、保護者も子どもも、児童クラブ側も防ぎようがない事案が起こってしまっては、子どもの心身に重大な影響を及ぼすだけではなく、社会的な信頼性も傷つきます。よって、アレルギー事故や食中毒、夏場なら熱中症といった、大人の側がしっかりと正確に、正しい知識を持って業務を遂行していれば防げる事故や事案は、ゼロに極めて近い確率で防がねばなりません。

 これは最低条件であり、絶対条件です。

 しかし私は今回の横浜の事案で関係者の方とやりとりを重ねていくうち、以前も経験し、今も、もやもやとした思いをぬぐい切れません。それは、「子どもの気持ちにどこまで寄り添っているだろうか」ということです。これは大変難しい問題です。まずは子どもの安全を確保することが優先であり、子どもの希望や意向に完全に大人や児童クラブという仕組みが「従う」ことはもとより不可能ですし、そうする必要も現実的にはありません。
 ですが、例えばアレルギー対応のときのことを私は思うのです。アレルギーのある子どもが、周りのクラブ在籍児童と違った食事や、おやつを食べるということは、ごく当たり前に行われることです。私もそれが当然だと理解します。しかし、このときの子どもの気持ちはどうなのか。「アレルギーだから仕方ないよ」と折り合いを付けられるのは大人です。大人はそうやって感情を処理できます。しかし、子どもは子どもなりに感情を処理、折り合いをつけてもどこか心に傷ついた局面を残しています。それを最初から生じさせないようにすることは事実上、不可能でしょう。しかし、その傷ついた子どもの気持ちをどう補っていくか、別のチカラで子どもに元気や前向きな気持ちを与えることができるか、クラブ職員や保護者、クラブ運営者は、そうした志を忘れてはならないのではないだろうかと、私は今回、改めて感じました。

 具体的にどうすればいい?という解を私は残念ながら今は持ち合わせていません。せいぜい、何か別の時に、周りの人と同じものを食べて一緒に同じ気持ちになれる機会を作ること、ぐらいしか思い浮かびませんし、それが正しいのかどうかも分かりません。無責任ですがそこは育成支援の専門家が頭をひねってください。

 大事なことは、子どもの気持ちをまったく考えないですべての物事を決めることはどうなの、ということです。少なくとも「思いやり」の気持ちだけは常に持ちながら、日々、児童クラブや学童保育の仕事や運営に関わっていってほしいですし、私もそうした人たちを支えていきたいと、考えている次第です。

参考資料(以前紹介したものと同じ)
放課後キッズクラブ・放課後児童クラブにおける昼食提供事業者による食物アレルギー対応の記載漏れについて 横浜市 (yokohama.lg.jp)
20240729houkago.pdf (yokohama.lg.jp)
放課後キッズクラブ・放課後児童クラブにおける昼食提供事業者による食物アレルギー対応の記載漏れについて(第2報) 横浜市 (yokohama.lg.jp)
0002_20240730.pdf (yokohama.lg.jp)

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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