放課後児童クラブの日本版DBS対応、大手事業者は前向きの様子。将来的に事業存続を左右する可能性大です!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。国会で成立した、通称・こども性暴力防止法案(いわゆる日本版DBS)ですが、それなりの規模の法人は当然ながら、認定事業者となるべく方針を固めているようです。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<読売新聞の記事から>
 2024年6月19日に成立した、いわゆる日本版DBSとよばれる「こども性暴力防止法」(正式名称は、「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」)について、読売新聞が気になる記事を配信していましたので紹介します。
 6月25日5時02分配信の記事です。
「子どもと接する職場で働く人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」について、読売新聞は、制度参加が任意とされた民間の事業者で学習塾を経営する大手50社を対象にアンケートを実施した。」
「読売新聞は水泳と英会話、音楽教室、学童保育を運営する民間の大手事業者20社にもアンケートを実施。14社から回答が得られ、DBS制度に「参加する」(1社)と「参加する方向で検討中」(9社)を合わせ、計10社が参加に前向きだった。」(引用ここまで)

 記事の主な内容は大手の学習塾が日本版DBS制度にどの程度関心があるかのアンケート調査の結果を報じるものですが、その最後の部分にちょこっと付け加えられた部分に、私は注目した次第です。この記事では、学童保育を含む事業を行っている大手20社にアンケートした結果、その半数の10社が日本版DBS制度に前向きだった、ということです。

<放課後児童クラブは認定事業者になる必要があるが、簡単ではないぞ!>
 日本版DBSですが、放課後児童クラブは任意での参加です。制度を適用するには、いろいろな基準を満たせることが確実であると認められて「認定事業者」となることが必要です。
 この法律の第19条第3項には、次のように記されています。
「認定を受けようとする民間教育保育等事業者は、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書を内閣総理大臣に提出しなければならない。」
そして第4項には、こうあります。
「前項の申請書には、次に掲げる書類を添付しなければならない。」
これが大変なのです。「次に掲げる書類」を準備、用意するのは、規模の小さな非営利法人では難儀でしょう。
・前項第二号の民間教育保育等事業及び同項第四号の業務の詳細を説明する資料
・次条第一項各号に掲げる基準に適合していることを証する資料
・次条第一項第四号に規定する児童対象性暴力等対処規程
・認定を受けようとする民間教育保育等事業者が犯罪事実確認を適切に実施する旨を誓約する書面
・その他内閣府令で定める書類

 この、「次条第一項各号」というのが、これまた大変。紹介します。(なお、読み飛ばしてもらっても構いません。認定を受けるのは「とてつもなく、準備が大変だ」というが伝わればいいのですから)
・認定を受けようとする民間教育保育等事業者が前条第三項第四号の業務に従事させようとする者の犯罪事実確認を適切に実施するための体制として内閣府令で定めるものを備えていること。
・認定を受けようとする民間教育保育等事業者が前条第三項第四号の業務に従事する者による児童対象性暴力等が行われるおそれがないかどうかを早期に把握するための措置として内閣府令で定めるものを実施していること。
・認定を受けようとする民間教育保育等事業者が前条第三項第四号の業務に従事する者による児童対象性暴力等に関して児童等が容易に相談を行うことができるようにするために必要な措置として内閣府令で定めるものを実施していること。
・認定を受けようとする民間教育保育等事業者が次のイからハまでに掲げる措置を定めた規程(以下この章において「児童対象性暴力等対処規程」という。)を作成しており、かつ、その内容が内閣府令で定める基準に適合するものであること。
イ 犯罪事実確認の結果、第二号の措置により把握した状況、前号の児童等からの相談の内容その他の事情を踏まえて前条第三項第四号の業務に従事する者による児童対象性暴力等が行われるおそれがあると認める場合において、児童対象性暴力等を防止するためにとるべき措置(第二十六条第七項において「防止措置」という。)
ロ 前条第三項第四号の業務に従事する者による児童対象性暴力等が行われた疑いがあると認める場合において、その事実の有無及び内容を確認するための調査の実施
ハ 前条第三項第四号の業務に従事する者による児童対象性暴力等を受けた児童等があると認める場合において、当該児童等を保護し、及び支援するためにとるべき措置
・認定を受けようとする民間教育保育等事業者が、児童対象性暴力等の防止に対する関心を高めるとともに、そのために取り組むべき事項に関する理解を深めるための研修として内閣府令で定めるものを前条第三項第四号の業務に従事する者に受講させていること。
・認定を受けようとする民間教育保育等事業者が犯罪事実確認記録等を適正に管理するために必要な措置として内閣府令で定めるものを講じていること。

 (読み飛ばしはここまでで) 大雑把にまとめると、「過去の性犯罪の記録をしっかり管理できる体制」と、「職員が子どもに対して性犯罪を行おうをしてもすぐに察知できる体制」と、「子どもからの相談窓口がしっかり機能していること、子どもを守る体制ができていること」と、「性犯罪を行う可能性がありそうな職員への対処方法が決まっていること」、「研修をしっかりと行えること」などです。
 そして、これらに関する準備がしっかりとできていなければ、それも書面にしっかりと記載できるように説明ができなければ、政府は放課後児童クラブを認定事業者として認めませんよ、ということです。

 以前、厳重に情報を管理することが求められたものとして「マイナンバー」がありました。あのときも、導入前にはいろいろと心配や不安が(ある意味、コンサルタント会社や情報機器会社、会計処理ソフト会社などが、あおりたてる形で)社会に伝えられました。確かに、個人番号の管理は、通常の個人情報の管理より厳格にしなければならず、罰則も厳しいものがありました。私も実務担当者と2人でせっせとセミナーに通ったり専門家に話を聞いたりして準備に取り掛かった記憶がありますが、日本版DBSの認定事業者になるレベルは、個人番号導入に必要な準備の難易度をはるかに上回っています。個人番号管理はドラゴンクエストでいえばレベル5ぐらいですが、日本版DBSの認定事業者になるには、「ロンダルキアへの洞窟」(ドラクエ2。詳細は検索してくださいね)並みの難易度が必要だと感じます。分かりにくい例えでゴメンナサイ。

 確実に、児童クラブの業務をよく理解している行政書士など士業に依頼しなければ、政府に申請すらできないでしょう。この点、こども家庭庁が、標準の申請様式となる書式を公表して、事業者はそこに記載例通りに記入していくだけ、という形にしてくれることを強く希望します。

<それでも、認定事業者になる必要がある>
 保護者の心情を考えましょう。「我が子が利用する放課後児童クラブの職員は、確実に性犯罪の前科前歴がない」という状況であるかどうか、保護者はどう思うでしょうか。もちろん、「児童クラブの職員は、全員が、性犯罪の前科前歴がないことが当たり前」という考えになるでしょう。「私は気にしないわ」という保護者は、まずいないと思ってください。

 ということは、児童クラブは認定事業者になる必要があります。保護者がそう思うということは、その地域の住民、国民がそう思うということであって、市区町村としても同じであると予測しておくべきです。つまり、認定事業者ではない児童クラブ事業者は存在できなくなる、あるいは公募や指定管理者選定において極端に不利になる、ということです。なお、これは補助金の交付対象において、という意味であって、認定事業者でなければ、市区町村から、放課後児童クラブの運営をまかされなくなるという想定をしておくことが重要です。例えば、児童クラブの運営が公募であろうが非公募であろうが、随意指定や随意契約であろうが、「認定事業者ではない事業者は、補助金交付対象となる児童クラブ事業者となるそもそもの前提条件を満たさない」と市区町村が判断する可能性が高い、ということを理解しておくべきです。

 いま、日本の各地で、1クラブを運営している1つの法人があります。NPOだったり一般社団法人だったり、または運営委員会や保護者会です。それら運営事業者を構成する中核は保護者だったり、保護者OBだったりしますね。それらの方が、「性犯罪の過去は気にしない」という考えでまとまることができるでしょうか。保護者の多くが性犯罪の前歴の有無をしっかり確認したいと思う当たり前の気持ちがある限り、それら1クラブ1運営事業者であっても、この制度の適用を考えていく必要があります。事業者側が「認定を受けるのは大変だ」と思っていても、保護者が納得しないでしょうし、そもそも行政が認定事業者ではないと運営を任せないという事実上の事業者選定を行うようになれば、それら1クラブ1運営事業者にとって、大変大きな地盤変動が起きる可能性が高いと、私は想像しています。

 日本版DBSがはじまる2年後からも引き続き児童クラブを運営したいのであれば、日本版DBSの認定事業者となる覚悟と準備が必要だ、ということです。
(よほど地域に根差した児童クラブであって、利用者たる保護者の総意で、うちのクラブは日本版DBSは不要、と決めればそれはそれでいいのですが、行政がそのような事業者は補助金交付対象としないと決める可能性はあるので、いざというときは自主運営を余儀なくされる覚悟は必要でしょう)

<さあ、大手事業者の急激なシェア拡大が始まる?>
 そこで、この読売新聞の記事を重ね合わせてみます。ごくごく一部の断片的な記事内容ですが、大手事業者の半数が日本版DBS導入に肯定的ということは、当たり前ですが、半数はいずれ全部の企業が導入に前向き、となります。なぜなら、保護者の支持=安心して子どもを通わせられる施設であるという理解、を得るにライバルの会社に劣ってしまっては、資本主義社会において敗北=事業縮小であり破たん、を意味するからです。

 児童クラブを各地で運営する広域展開事業者である企業は間違いなく認定事業者となる、と確実に想定しておきましょう。大手事業者は企業としてそれなりに担当分野ごとに専門の従業員を置いたり外部専門家へ委託発注したりしていますから、日本版DBSであっても認定事業者になるには無理なくできるでしょう。ボランティア保護者や職員が兼務で、本業の合間を縫って書類を作成するような放課後児童クラブの事業者とは、まったく世界が違います。そうして早々と認定事業者になった大手の児童クラブ運営事業者=広域展開事業者は、認定事業者を歓迎する市区町村(その土台は日本版DBS導入を当たり前と考える保護者)の意向に従って、どんどんと運営を任されていくことになるでしょう。

 私はこのこと自体は問題視しません。広域展開事業者であっても児童クラブ運営の本質である育成支援がしっかりとできてさえいればいいのです。現状、そうではない事業者が相当多いので、育成支援が実はできていない広域展開事業者が日本版DBSの認定事業者であることを大きな利点として市場を拡大していくことを不安視しているだけです。日本版DBS導入という制度上のことだけに限定すれば、むしろ広域展開事業者のような大手事業者の方が確実に制度を導入できるでしょう。育成支援の質の観点と、日本版DBS導入に対する取り組みとは、私は区別して考えています。

 認定事業者となった大きな児童クラブ運営事業者と競って勝てるかどうかというのが、特に地域におけるシェアをそれなりに持っている非営利法人には重大な点となります。1つの市区町村内全てあるいは多くのクラブ運営を任されている、しかし運営基盤がぜい弱な非営利法人が特に岐路に立たされることになるでしょう。逆にみれば、認定事業者となった広域展開事業者とすれば、まとまったクラブ数を一挙に獲得できるシェア拡大のまたとない好機になります。

 新聞社や、あるいは業界団体には、全市区町村や広域展開事業者を含む児童クラブ運営事業者に対する、日本版DBSへの意識・取り組み調査を早急に行っていただきたいと希望します。特に行政には、認定事業者となることが運営を任せるかどうかについて重要な判断基準となるかどうかの意向を持っているかどうかの調査が必要です。ぐずぐずしていたら、あっという間に2年は過ぎてしまいます。今すぐ、調査実施をぶち上げて、数か月以内に調査を行ってほしいと期待します。

<おわりに:PR>
放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)