放課後児童クラブで働く人の処遇が改善されつつあるのかどうか、国には継続的に調査実施を期待します

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。6月24日のニュースで、こども家庭庁が保育士不足の実態を把握するための「初の」調査を行うと報じられていました。え、今までしていなかったの?と逆に驚きです。では放課後児童クラブは??
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<放課後児童クラブにも定期的な調査を>
 放課後児童クラブに関する国の調査は、毎年12月に公表される「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」があります。クラブ数や単位数、開所や閉所の時間帯、運営種別や運営主体の調査など、とても参考になる調査ですが、あくまでクラブの実施状況であって、クラブで働く職員に関する調査ではありません。この調査は毎年5月1日時点の状況を報告するものです。もう20年ほど続けている調査ですから、ぜひこの調査に職員の給与状況や配置状況、欠員状態の有無について合わせて報告を求めるようにしていただきたいと強く希望します。以上。

 で終わってしまうのも物足りないので、話を広げます。放課後児童クラブの職員に関する調査として私が大変頼りにしているデータは次の調査です。
「令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査報告書」(令和5(2023)年3月 みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)
 ※インターネットで検索すれば簡単にたどり着けます。

 この調査は、「本調査は、放課後児童クラブの職員の状況や決算情報等を収集し分析することにより、これまでの処遇改善策の効果や職員の給与の状況等について分析を行い、今後の施策の検討の基礎資料を得ることを目的として実施した。」(調査書1ページ目)とあるように、職員の給与について、多方面から調査分析しています。例えば、職員の給与については次の通りに分類されています。
・都市の規模別(政令指定都市や一般市など都市の大小による職員の給与の多寡を比べられる)
 →東京23区の常勤職員の年収額が一番高いことが分かります。(政令)指定市より200万円も高い。
・登録児童数別(クラブの規模で職員の給与の多寡を比べられる)
 →児童数71人以上の大規模クラブ職員の給与が一番高いわけではない、ことが分かります。仕事はきつい、給料は一番高くないわで、大規模踏んだり蹴ったり。
・経営主体別(社会福祉法人、NPO、運営委員会、保護者会、その他法人と、公営の区別で比べられる)
 →社会福祉法人のクラブで働く職員が最も収入が多いことが分かります。経営的に安定しているからでしょう。

 先に、調査の目的を紹介しました。私はこの調査結果を見ていて、いずれクラブ職員への処遇を改善せざるを得ないだろうと想像していました。その後、国は常勤職員2人分の補助金創設の考えを公表し、2024年度から実施されています。やはり、こうした大掛かりな調査は、調査しておしまい、とはさすがに国レベルの組織ではしません。その意味では、「こども家庭庁 令和5年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業 放課後児童支援員等の人材に関する調査研究報告書」(2024(令和6)年3月 みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)にある、「若い世代の確保に向け、大学や専門学校等と連携した取組が必要である。」という提言は数年来のうちにその具体的な施策が明らかになることでしょう。また、「人材定着のためには、業務負担軽減・業務効率化が必要。ICT 導入及び導入に係る職員へのサポート体制の整備は、その有効な施策の一つである。」という提言は、国のデジタル化方針の流れもあって急速に進展しています。最もこの部分、人材定着のためには「賃金アップと配置人数増による1人あたり業務量の軽減」という基本的なことを無視しているので私は間違っていると思いますが。

 現状をしっかり把握できること、今後の動向を予測して事業経営の参考にすることができる点で、同種の調査を継続的に行っていただきたい。毎年というのは無理としても、2年ごと、3年ごとでもいいのです。5年ごとはちょっと間が空きすぎます。2024年度から実施された常勤職員2人配置の補助金の効果を確認するためにも、ぜひ、国には「運営状況及び職員の処遇に関する調査」は継続して実施することを強く期待します。職員の欠員状況に関する調査項目も充実させることも合わせて期待します。

<しかし、残念な点がある。クラブ側に>
 とても有益な情報が満載の「運営状況及び職員の処遇に関する調査」ですが、残念な点があります。過去の本ブログでも触れたことですが改めて強調して訴えたい。

それは、調査対象数が2万5783(クラブ)あるにもかかわらず、有効回答数がかなり少ないことです。放課後児童クラブ調査票のうち、「放課後児童クラブの状況」は8,482(32.9%)、「職員給与」は5,519(21.4%)です。せめて50パーセントの有効回答がほしいところです。なお、この調査では市区町村あてにも調査票があり、そちらは1,741の調査対象のうち有効回答数1,028(59.0%)です。基礎自治体で6割届かないのもどうかと思いますが、クラブ事業者が給与の調査では2割ちょっとしか回答しないというのは、私に言わせれば異常です。国や市区町村から補助金(つまり税金)を交付されている立場でありながら、こういう調査に協力しようとするクラブが2割ちょっとなのは、私にしては理解できません。
 こども家庭庁は、今後、この種の調査に協力しなかった児童クラブ事業者への補助金交付を取りやめる、または削減することも合わせて検討していいですよ。調査に協力しなかった事業者名は同時に公表するべきです。

<今後の調査に期待したいこと>
・株式会社に焦点を当てた調査を行ってほしいこと。この数年来の、広域展開事業者による児童クラブ運営の拡大は著しいものがあります。よって今後の調査では、複数の都道府県でクラブを運営している事業者に関してはそれとわかるように調査結果を表示していただきたい。前回の調査では、広域展開事業者が多数を占める株式会社が入ると思われる「その他法人」において、クラブの収支状況で判明する損益差額で285万円のプラスとなっていることが判明しています。いわゆる純利益が1単位で285万円ということですが、では広域展開事業者で働く職員の年収の額はどうなのかを調査結果で示していただきたい。仮に、その年収額がNPOや社会福祉法人と大差がないということになれば、広域展開事業者のクラブ運営は合理的かつ効率的であり、学ぶところが多いということになります。逆であれば、職員の収入を抑えて事業者の利益確保を優先しているということで、今後は国の規制の対象になるかどうかの議論につなげていくきっかけになるかもしれません。

・公設民営でNPOや株式会社が運営をする場合、「公募」と「非公募」によってもデータを取り出していただきたい。これは、調査書に、「公募」か「非公募」かのチェックボックスを1つ入れれば、その後のデータの判別も容易です。これはぜひ行っていただきたい。公募と非公募でどれだけ職員や子ども1人あたりにかける予算額に変化があるのか、これは極めて有益なデータとなります。

・会社や運営組織において、組織運営業務に従事する職員、役員の年収や、従事する時間についても調査をしていただきたい。特に保護者会や運営委員会において、組織運営業務に無償で従事する保護者や職員が相当数います。それらの者が収入はどれだけで(おそらく0円でしょうが)、どれだけの時間を、その業務に費やしているのかもぜひ、調査していただきたい。その対として、クラブにおいて児童の育成支援業務に従事する職員の、育成支援業務に費やす時間と、事務仕事などいわゆる周辺業務に従事する時間についても、ぜひ調査を期待したいところです。職員の年次有給休暇に関するデータも欲しいですね。

 放課後児童クラブの慢性的かつ深刻な人手不足と人材不足、つまり、数と質の双方の不足において、この局面を打開するために必要な策を考えるための前提条件が、現状はどうなのかという「今を知ること」です。年収という金銭だけでなく、費やす労働時間も合わせて、実際の状況を定期的に知ることが何より重要だと運営支援は考えます。国にはぜひ、しっかり予算を付けて、この調査を継続して実施することを強く求めます。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、7月上旬に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。正式な情報は随時、お伝えしますが、注文は書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。特に埼玉近辺の方で、まとまった部数をお買い求めいただける方は、萩原まで直接、ご相談ください。その方が個人的にもありがたい(なにせ、ある程度のまとまった部数が手元に届くので)です。発売まで、もうまもなくです。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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