「放課後児童クラブDXの推進」と国は意気込んでいます。それはそれとして、職場・経営環境改善に予算を!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。国はなんでもかんでもデジタル化するようですが、放課後児童クラブにもプランが出されました。児童クラブの世界にもデジタル化は必要ですが、順番が違うでしょ、と私はいいたいのです。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<放課後児童クラブDX?>
 正直申し上げて私も残念なアナログ人間なので、デジタルトランスフォーメーションということについていけていません。そういうことは、そういうことが得意な人が丁寧に解説してくれるのを聞いて学んでいたり、任せたりしています。今回の、放課後児童クラブDXということも、「放課後行財政学」提唱者の雑木林琢磨氏がフェイスブック等で発信してくれているので知ることができた次第です。

 貼り付けたものが、こども家庭庁がデジタル庁に提出した資料のようです。これを見る限り、新規入所を中心とする入退所時の手続きを、紙の書面の提出ではなくてデジタル(つまりインターネット?)で提出できることが標準化となることを目指しているようです。また、児童のクラブ登所・入室の情報を保護者へ伝えられる仕組みも含まれるでしょう。

 私も1,000人以上の児童の入退所の実務をこなしてきましたが、それがパソコンで処理できるとなれば、作業能率が向上することは容易に想像できます。入退所の申請に限らず、いろいろな作業の流れにおいて、画面を見ながら処理できる時代が来れば、それは間違いなく作業効率、生産性が向上すると私も考えます。よって、この放課後児童クラブDXという目標に賛成ですし、そのために必要な予算を潤沢に投じてほしいと国に願います。

<しかし、順番が違う>
 先の資料の左側は「課題」となっています。アナログ時代の児童クラブの問題点を挙げているのですが、概ね次のようなことでしょう。
・児童クラブを運営する会社、組織、団体の性質がバラバラで、手続きの方法もバラバラ。
・児童クラブ職員の資質の問題。機器を導入しても活用できるかどうか不安なレベル。
・児童クラブに関する各種手続きは紙による書面の提出で、保護者の負担が大きい。
・各種手続きが紙による書面中心であることで自治体の負担も大きい。
・紙による書面の処理なので時間がかかる。
・児童の出欠、登所降所の連絡は書面だったり電話だったりするのでミスが起こりがち。
・児童が登所したという連絡を受けないと保護者は不安。

 その課題についてはその通りだと私も考えます。しかし、同時に、「その課題を作り上げたのは、国や市区町村の姿勢ですよ」と申し上げたい。国と市区町村が放課後児童クラブに対して、児童の安全安心な居場所作りに必要な予算を十分に投じてこなかった結果が、今、放課後児童クラブにおけるデジタル化の遅れを招いたのですよ、と言いたいのです。

 順番が違うのです。児童クラブのデジタル化が遅れている。自治体にも保護者にも不便である。だからデジタル化を推進しようというのですが、そもそもデジタル化ができなかったのは、私に言わせれば次の通りです。
・児童クラブの運営形態、運営事業者がバラバラ(保護者会など任意団体、公営、非営利法人、営利法人が入り乱れている)なのは、良くも悪くも法的な規制や方向性の指図がなかったから。児童クラブ運営に乗り出した事業者が、大変厳しい予算状況の中で必死に模索してたどり着いた経営運営形態である。入退所をはじめとする各種手続きも、その方面に投入できる補助金メニューがなかった、最近は運営支援の補助金があるといってもその補助金は自動的に適用されるものではなく自治体の裁量である。要は、事務仕事、書類作業の仕事に対して投入できる予算が確保できなかったので最小の予算でできるアナログ的な処理技術を確立するしかなかった。それは国や自治体の行動の結果である。

・児童クラブの職員の資質は、これこそ国と自治体の問題。社会人として優れた資質の人員ばかりを確保できるだけの人件費が確保できない収入構造にしているのは国と自治体。良質な人材を必要なだけ確保して従事させられる予算を確保できない。デジタル化が大事だよと説いたところで、「私にはパソコン、タブレットは無理よ」と言ってはばからない程度の職員は珍しくないし、「一生懸命頑張って習得します」といって本人は真面目にパソコンやデジタルネットワークへの取り組みを熱心に行っているものの、どうしても覚えられない、ミスばかり繰り返してしまう職員もいる。前者は、社会人としての心構えの問題(本来、業務に必要な技能や技術は社員従業員が率先して身に着けようという意欲を持つことを前提とするものの、そういう意識を持てない程度の方々を多数、雇用せざるを得ない)です。
 後者は、当たり前に情報機器類を駆使するような職場や職種では勤まらない程度の方々を多数、雇用せざるを得ない状況が招いているものです。それもこれも、良い人材を多数雇うにはとても足りない人件費しか確保できない収入構造を強いられている業界の現実です。この現実がある以上、いくら補助金を準備してデジタル機器を投入しても、使いこなせず、いつしかほこりをかぶったまま放置されるようになると、私は想像します。結果的に、情報機器メーカーだけが潤うということです。

 児童クラブの収入は、利用者からの利用料収入と、補助金収入です。それはバランスを取っての設定になります。利用料は、いわゆる民間学童保育所は別として、極端に高い料金を設定することは公共の児童福祉サービスの観点からはばかられます。運営にかかる経費は利用料と補助金収入が同程度の割合にする、という国の方針もあります。しかも基本的に、クラブにおいて従事する職員を対象とした補助金となります。事務作業、組織運営に対する補助は顧みられなかった。しかも、補助金を活用する、しないは市区町村の裁量に任されている。その仕組みゆえに、児童クラブの、子どもに対する直接的な支援、援助に関わる以外の分野への予算を確保することができないのです。そのような状態では、数少ない人数あるいは支援に従事する職員の兼務で、むりやり時間を確保して、事務作業や組織運営に取り掛かるしかない。そのような状態では、従事する職員がやりやすいような、極度の属人性をもったアナログ的な処理方法しか、採用できないのです。

 事務作業や組織運営に従事する、いわゆる本部事務局的な作業への予算を増やさない限り、いわゆるバックオフィス機能の充実のための予算を増やさない限り、いまの状態で新たな情報機器を導入しても、その効果は限定的です。そもそも、情報機器を活用するに必要な通信設備の制度や、運転費用に対する補助が貧弱であれば、活用すら難しい。その方面への予算すら確保できない状態で、デジタルトランスフォーメーションといったところで、絵に描いた餅に過ぎません。

 人的資源の確保にこそ、まずは国や自治体が取り組むべきです。良質な人材を今よりはるかに、しかも複数、確保できる運営費補助の増額が必要です。DXなんたらは、その後か、あるいは同時に進めるべきです。

<放課後児童クラブDXに必要な2つのこと>
 放火児童クラブの人的資源が改善されることを大前提に、2つの観点が必要だと私は訴えます。

 1つは、放課後児童クラブにおいて地域による差を無視できる分野、入退所や登所降所の確認のような手続的な業務において、全国で統一的な作業手順や業務執行手順の標準的な仕様を、国が提示することです。それも、ある程度の強制力を持たせることです。
 例えば、小学校から児童クラブに登所するはずの児童が自宅へ帰ってしまったとき。その時の対応を、まずは小学校が責任をもって行い、児童クラブ側は小学校が行う所在確認作業の補助をすると提示し、その際に必要な作業、例えば保護者への連絡や関係機関への連絡について、情報機器を駆使しして行うとしたらその手順や対応について、国が具体的に標準例を示すということです。
 私は全市区町村のホームページからその地域での放課後児童クラブの実施状況を観察していますが、数はごく少ないながら、入退所に関する申請をQRコードで読み取ってすべてインターネット上で処理する仕組みを導入している自治体があるのを知っています。要は、まずは市区町村に、意欲があれば、デジタル化は可能だということです。まして国が、統一した標準化されたデジタル情報処理の手順や水準を示し、必要な予算を準備すれば、もっと多くの市区町村がDX化を推進できるでしょう。

 もう1つは、放課後児童クラブの運営者側の意識改革です。事務作業に従事する職員の質的および量的な確保が前提なのはいうまでもありませんが、「情報機器に投じる予算があれば、もっと別の事に、子どもに直接関わることに使いたい」という意識があれば、ある程度の修正が必要です。組織運営の効率化もまた、全体的に、児童クラブの運営の質的向上につながるという理解が必要です。「パソコンに使うお金があるなら、通信回線維持の費用にこれだけ予算を使うなら」という気持ちは分かりますが、デジタル処理して効率化ができる作業があるなら、それに取り組む意識が必要です。
 (なお、現場の職員の人数や資質に関係なく、企業や組織の運営本部が、ほいほい決めてどんどん新たな機器や仕組みを投入しても、使いこなせないことは明白。そのような企業や組織は、児童クラブの運営の質の向上より、補助金をもらうことに興味関心があるのでしょう)

 最後に、デジタル化が大好きな中央省庁の方々にお伝えしたい。児童クラブの現場においては、「相手の顔を見る、息づかいを感じる」という究極のアナログもまた、デジタル化と同じように重要なことであるということです。確かに、児童の登所管理は、ICカードを子どもが児童クラブ出入り口に置かれた機器にタッチ、かざすことで記録され、児童クラブの事業者と保護者に登所の事実がデータとして記録され、通知されるでしょう。保護者はそのデータを確認して安心するでしょう。
 しかし、児童クラブの職員にとっては、それは仕事になりません。登所してきた子どもの表情、態度、言葉遣いを、職員が目で見ることで、「ああ、今日は学校で何かあったかな」とか「体調が今一つ良くないのかな」といった情報を察知するのです。それが大事な仕事です。私の想像では、たとえ児童クラブに登所降所管理システムを入れても、多くの児童クラブでは結局、入退室を記録する書面を使って職員が何かしら記入することは止めないだろうと考えます。それは無駄な作業ではなくて、その日、子どもへの支援、援助をどうしようかと考える児童クラブ職員にとって必要な作業手順だからです。

 児童クラブにおけるDX化が可能であると思われやすい業務であっても、児童クラブは人が人と関わって成り立つ仕事であるという前提をもって、今度のDX戦略を構築していただきたいと私は期待します。

 <おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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