運営委員会方式の放課後児童クラブで起きた不可解な事態。経営責任が不明瞭な運営形態は、もうやめるべきだ
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の運営方式の一つである「(地域)運営委員会」方式の放課後児童クラブで不可解な事態が起きたと報道されました。もう、経営責任が明確になっていない形態での放課後児童クラブ運営は、やめましょう。トラブルの温床です。
※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。
<報道では「人件費が急増」>
トラブルが起きたと報じられたのは徳島県阿南市の放課後児童クラブです。2024年6月17日18時45分に配信された四国放送のニュース動画に詳しく報じられています。文字で報じられた記事は掲載されていませんので動画をご覧ください。
(https://news.ntv.co.jp/n/jrt/category/society/jr5c40174ac38c4d97b6b932d54e290549?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTAAAR2rsrdMpRrUx3O1_UGTcBKvPaO51UmcNm-HNUY-1YJ5KwoOLEHwaWkFvg4_aem_ZmFrZWR1bW15MTZieXRlcw)
大まかにまとめると次の通りです。
・人件費が倍増。2022年度が770万円台だったものが2023年度は1600万円台に。
・昨年7月に運営委員の1人が招いて採用した人物(防犯兼管理相談役)の人件費(報酬)が人件費が増えた要因。
・この人物は「常識的な範囲を超える報酬を受け取っていた」(多い月は1か月65万円)と、市は説明している。
・市は、この人物の解雇を運営委員会に提案する予定だったが、この人物からすでに退職の申出があった。
・クラブは「民営化」が決まっている。保護者が要望しており、すでに事業者も社会福祉法人に決まっている。
・運営が正常化すれば保護者の経済的な負担は増えることは無い。
運営委員会方式は放課後児童クラブの運営をする形態の1つです。近年はだいぶ数を減らしていますが、まだまだそれなりの数が残っています。令和5年度の国の調査(運営状況調査)によると、運営委員会方式と、形態がよく似ている保護者会(双方とも任意団体で共通)の合計で、公設民営が2724クラブ(全体の10.6%)、民設民営が1205クラブ(全体の4.7%)で、全国の放課後児童クラブの約15%が、この形態で運営されています。
運営委員会方式というのは、地域の方々(自治会や地域の方々や学校関係者に加え、保護者、職員も加わることが通例です)が児童クラブの運営を行っているということです。児童クラブの世界は「運営」という単語をよく使いますが、「経営」を含む運営です。ただ、事業に充てる予算(収入)は、市区町村が毎年、一定額を保障していることに加えて利用者である保護者からも一定額の収入が見込めます。よって、企業経営の中で最も重要な「収益を確保すること」に関する事業者の負担は通常の企業経営と比べると極めて少なく、その意味では「与えられた資金で、どうやりくりをして事業を営んでいくか」の「運営」の意味が、しっくりする状態でもあります。
<組織統治の問題>
この事案の原因はもちろん私にはわかりません。報道でも、ある人物の招へいが人件費を急増させた旨が伝えられているものの、「なぜ、その人物が招かれたのか」とか、「その人物を雇用、もしくは役員待遇であれば委嘱、いずれにせよ児童クラブの運営に関わらせることを決めた会議では、どのような議論がなされたのか」とか、「その人物の仕事の実態、任務遂行の状態はどうだったか」など、重要な点の報道がありません。
現実的には、今後、過大な人件費が発生する状況になく、この状況に関してより詳しい調査が行われる見通しもなさそうで、なんとなく一件落着として処理されるのでしょう。しかも、次年度からは新たな運営主体によるクラブ運営が始まるとのことで、同様の事態が起こる可能性はほぼありえないでしょうから、保護者にしても安心でしょう。
それにしても、不思議なことばかりです。まず、その人物への報酬が過大だったということですが、招き入れたときの職務や任務と、それに対する報酬額は当然決まっていたでしょう。もしそこからして、あいまいなままであったとしたら、問題を起こした責任の大半は、運営側に起因します。職や任務に見合う報酬を設定することは当然なことですが、それがなされていなかったとしたら、運営側の問題です。この場合の運営側というのは、個々の運営委員ということではなく運営委員会という組織全体の問題であり、その組織が従っている規程や規則などのルールの不備の問題です。
つまり、仮に、その人物が果たしていた役割が実はクラブ運営に関して極めて重要であったとしたなら、最高で月に65万円の報酬額だとしても、その額は妥当であるということになります。報道では、常識を超えた報酬と伝えれているので現実の職務内容に見合った報酬ではなかったということですが。ただ単に、65万円の報酬額がダメ、という問題ではなく、職務内容に見合った報酬額であったかどうかが問われる、ということです。そしてその判断こそ、運営側が責任をもって判断しなければならないことであり、それが不明瞭であったがゆえに起こった事態だとしたら、それは運営側の問題だ、つまり組織統治(ガバナンス)の問題である、ということを私は指摘したいのです。
<不思議な点>
事態そのものよりも、私がもっと気になったことを紹介します。
・クラブ全体の人件費の額について。「正常」とされる2022年度は770万円だったとありますが、果たしてその人件費で、常勤と非常勤を合わせて雇用していた職員数は何人いて、どのくらいの年収を得ていたか、ということです。770万円台では、およそ安定した生活を営むだけの賃金を支払うことができたのかな、ということがむしろ気になります。仮に常勤1人、非常勤4人の計5人でクラブ運営をしていたとしたら、非常勤の年収が100万円が2人、60万円2人としてとして320万円となり、残りの450万円台が常勤職員の年収であると想像できますが、人件費に事業者の法定福利費も含んでいるとしたら、300万円台の年収になるでしょう。その地域で安定して暮らせる年収額なのでしょうか。770万円台の予算で複数の職員を雇用して事業を運営していた状態そのものが、職員への待遇としては満足のいくものであったのかどうか、それが気になるのです。
・「民営化」について。報道では、保護者は民営化を望んでいると何度も紹介されていました。しかし運営委員会方式であり、報道では、外部から招かれた「高額の報酬を受けていた人物」の解雇を運営委員会に提案しようとしていた、とあることから、市が経営をしていた公営クラブではないことは明確です。つまり、この件での運営委員会方式は民営クラブです。ところが、保護者は民営化を望むという意見が多数であるということは、「保護者は公営だという意識を持っている」ということの現われです。もし、この当該クラブの運営委員会に保護者(会)が加わっているとしたら、保護者は経営主体の側です。しかし、意識としては公営であるとしたら、「運営主体としての責任を感じていない」ということになります。この意識のずれこそ、不明瞭な運営を導く1つの要素になりえたのではないかと、私は感じました。
松山市で起きた運営費の不正流用をはじめ、運営委員会による児童クラブで起きた事案や出来事について報道がたびたびなされるようになってきました。いずれも、組織統治が不完全ゆえに起きたことだと私は考えています。組織統治が不完全なのは、法令遵守(コンプライアンス)の意識が希薄なのです。運営主体に加わっている立場の人たちの「自分たちが経営者の一員として、しっかりと運営状況を管理監督し、運営を遂行しなければならない」という意識が希薄なのです。
それでは、どんどんと、法人に運営が移ります。多くの保護者が望んでいるのであれば、市区町村は、早期に「民営化」ではなく、運営の「法人化」を推進するべきでしょう。
・65万円は、必要な任務であれば決して常識外の報酬ではない。先にも述べましたが、770万円台の人件費が1500万円台になったとしても、児童クラブの職員の仕事に対する報酬額の観点で、人件費の額の正当性は評価されるべきです。1500万円だから高い、770万円だから適正だ、ではありません。1500万円の人件費であったとしても、児童クラブの本旨である育成支援において極めて質の高い事業内容を遂行できている有能な職員であれば、賃金は年収500万円台が当たり前ですし、クラブの実質的な運営責任者を果たしているのであれば、多くの子どもの命を守り、保護者の子育て生活を支える事業の中心者としては年収700万円台であっても、私は何ら問題があるとは考えません。ただ、クラブの中にいていつもぼーっと立っていて子どもの様子を見ているだけであれば、年収200万円台であっても妥当です。要は、仕事の内容において賃金、報酬は評価されなければならず、児童クラブにおいてはその評価が不当に低すぎる、というのが私の主張です。
児童クラブは重要な社会インフラです。子どもの安全安心を確保する場所であり、それがあって初めて保護者は仕事や就学などに安心して打ち込めます。その児童クラブを正常に運営することはとても重要な仕事です。いい加減な運営がなされてはなりません。事業の責任者が明確であり、事業の運営に当たる者の責任の所在や職務の範囲が明確であり、どのような事態があってどのように受け止め判断し、どのような対応策を考えて実施したのか、運営主体そのものの行動もまた、明確に、外部に説明できるようでなければなりません。
なぜなら、多くの税金が投入されているからです。また保護者が支払う利用料は、実質的にそれを支払うことが無ければ生活を成り立たせることができないという点で実質的に「子育て税」ですから、貴重な公金と同じような性質です。納税者でもある子育て中の保護者はもちろん、すべての納税者である国民が、「児童クラブでは、どのような事業が現実に行われているのか。どのように組織統治がなされているのか。収入はどのように使われているのか」について、もっと関心を持たねばなりません。監視の目が必要です。そうでなければ、不当に、個人又は運営主体に、許容される額以上の利益が吸い込まれていることを見抜けません。その点では、気づくことができ正常化へ舵を切ることができた今回の報道の事案はまだよかったとも言えます。気付かずに、あるいは気づいていても放置することで不当に利益を得ているケースが、おそらく日本のどこかで存在しているのだろうと、憂うからです。
子ども家庭庁は、ぜひ、公営を含む全国すべての児童クラブ運営主体について、得られた収入の具体的な使途を公開するよう義務付けてください。税金の使い道を知ることは国民の権利です。全国統一フォーマットで、役員への報酬額や、法人が運営主体である場合は法人が得られる利益の額を含めて、社会に公開されねばなりません。市区町村に対しては、普段から運営主体に対して、運営について調べる、問い合わせる、報告を求める、ということを実行していただきたいと私は期待します。
<おわりに:PR>
放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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