放課後児童クラブをもっと専門的に学べる大学や短大、専門学校が必要。研究を推し進めよう。専門家を育てよう!
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)は社会における重要な子育ての仕組みとなっており、今や重要な社会インフラの1つですが、その存立基盤は極めてぜい弱です。その改善のために、大学等で専門的に放課後児童クラブが取り上げられるべきだと考えます。
※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。
<児童クラブと学問>
放課後児童クラブは、全国の小学1年生のおよそ半数が利用する子育て支援の仕組みです。今やとても重要な社会の仕組みになっています。高学年になるにつれて利用する人数は確かに減りますが、未だに多くの地域で小学4年生以上の子どもが事実上、クラブを追い出される地域もあり、利用人数が減っているからといって、小学生低学年限定の子育て支援サービスではありません。(高学年こそ児童クラブで輝けることは、改めて取り上げていきます)
それほど大事な放課後児童クラブですが、私の見聞きする範囲で申し訳ないのですが、大学や短大で、放課後児童クラブを専門的に対象とした学部や学科は見当たりません。もちろん、保育や幼児教育を学ぶ課程の中で、放課後児童クラブについて学ぶ機会はあるでしょうが、それはおそらく「おまけ」的な扱いです。
児童クラブについて研究し、論文を発表している研究者の方は大勢いらっしゃいます。「日本放課後学会」という専門家の集まりもあります。その学会が発足したのは2022年。研究者と実践者が集い、子どもの豊かな放課後の時間を多角的に研究、分析するという素晴らしい理念を掲げています。このような動きが発展していけば、いずれ、多くの教育機関や研究機関で、放課後児童クラブについて学究的な探求、研究がなされるでしょう。大いに期待したいものです。
一方で、私の狭い見聞から思うに、ややもすると、児童クラブを対象とする学問の世界は、どこか偏りがあると感じています。児童クラブで子どもがどう過ごすか、どのように過ごすか、という「その場における子どもへの育成支援、援助の手法や効果」「法制度の変遷に伴う児童クラブの性質」という点についてはこれまでも多くの研究結果に触れることができますが、経済的な動きの中の放課後児童クラブのあり方や、実務的な運営に関する企業経営的な視点からの研究は、見つけることができないでいます。研究対象として確立していないのではなかろうかと私は思っています。
この点、日本放課後学会には大いに期待するのですが、研究者のすそ野が決して広くない分野ですし、研究をするに必要な費用も大学や企業から得られるとは思えないので、学問としての児童クラブの発展、特に実務上の分野における研究分析は、これからもなかなか進まないのではないかと悲観的に考えています。
<期待したい動き>
その中では、旧ツイッター(X)でのアカウント「雑木林琢磨@zokibayashi1969」氏が提唱する「放課後行財政学」には大いに期待しています。(なお、ネット空間ではなく現実として雑木林氏のことは存じておりますが、あえて雑木林氏と表記します)
氏の得意分野である行政機構と放課後児童クラブの関係性、行政(または各種団体)が用意する補助金の仕組み、事業執行における監査の仕組みなど、主に実務上の観点から放課後児童クラブの仕組みを体系化して考えるという取り組みです。それは、現実の放課後児童クラブの運営においてどのようなことが求められるのかを考えることとなり、堅実で安定した放課後児童クラブの事業経営に大いに資するものだと考えています。
こういう試みに、大学や研究機関は資金を出して、研究の後押しをしていただきたいと私は願っています。
<子どもの育ちを考える学問においても、より実務的な研究がほしい>
いま、広域展開事業者が急激に各地で児童クラブの運営に乗り出しています。この動きはさらに加速するでしょう。「わずかながらも児童クラブの補助金が増額または拡大しており、児童クラブ運営による利益がさらに確保できる見通しが強く、市場化がさらに加速している」、「日本版DBSや安全計画、事業継続計画策定など、任意団体や規模の小さな非営利法人では取り組みに限界がある仕組みが相次いで導入され、企業に有利な事業環境が構築されてきている」、「各種法令の遵守が当然求められる中で、事業者として安定した運営ができる組織が児童クラブ運営にふさわしいとみなされつつある」ということです。
その中で私が気にしているのは、規模の大きな広域展開事業者が「うちは、こんなに素晴らしいことをしていますよ!子どもたちにとっても大人気ですよ」とアピールする、種々の取り組みです。多くの広域展開事業者は、オンラインを駆使してネイティブスピーカーとの英会話やグローバルな視点を養うとして各地の子どもたちと会話するプログラムを導入しています。あるいは、これもパソコンなどを使って行う知的好奇心を育てるというゲームなどもあります。これら提供されるプログラムが、さも児童クラブで子どもが過ごす時間を多彩に、かつ、豊かにしているとアピールしています。
当然、比較対象としては、従来型の学童保育所にありがちな、「子どもと職員が校庭や公園で遊ぶ姿。ドッヂボール、鬼ごっこ、サッカー、虫取り、泥遊びに水遊び」という「遊びの形」が取り上げられます。ボールで「ただ」遊ぶより、ネットで各地の子どもとつながって会話して、いろいろな知識をお互いに交換し合うことが知的探求心を育てますよ、というアピールになります。
私はぜひ、研究者の方々に、子どもの育ちー何をもって育ちというのかが、難しいのですがーにおいて、広域展開事業者が提供する子どもの過ごす時間のあり方と、従来型の「遊び」を軸にした子どもの過ごし方において、その後の子どもの育ちにどのような影響を及ぼすのか、時間をかけてじっくりと調査研究してほしいと考えています。追跡的な調査でなくてもいいのですが。ただ単に「面白いと思った」「クラブにまた行きたいと思える時間になっていた」というような、子どもの感じ方の調査でもいいのですが。
どちらが良くてどちらがダメ、というものではないでしょう。ただお互いに、もし目を見張るような素晴らしい点があるのなら、それを取り入れればいいだけの話です。英会話で過ごす時間も、鬼ごっこで遊ぶ時間も、絶対的にどちらが優れどちらが劣るというものではないでしょう。ただ、子どもの育ちにとって、どういう効果があるのか、影響があるのかを研究し、それを世間に、社会に伝えていくような機会が欲しいと私は思っています。
その他にもいろいろな調査研究対象があるでしょう。保護者運営や非営利法人運営のクラブにおける子どもたちの過ごし方の研究と、その対比としての株式会社運営クラブにおける子どもたちの過ごし方、その結果で導かれる、子どもたちの心理面への影響は、ぜひ専門家に腰を据えて調べていただきたい。子どもだけではなく保護者も調査対象として。保護者会のあるクラブと無いクラブにおける保護者の子育てへの意識の差、保護者会も、自発的参加者が多い保護者会と強制参加の保護者会で、それぞれ保護者が子育てについてどういう意識を持っているのかなど、いろいろと調査研究のテーマがあろうかと思うのです。
<大学や短大でぜひ、放課後児童クラブ専門の学科を!>
放課後児童クラブを専門に取り上げる学部や学科を大学や短大で設けてほしいと期待します。専門学校でも、放課後児童クラブの就職を柱の1つとする専門学校があってもいいと期待しています。放課後児童支援員は、今の制度では保育士と違って専門的に児童クラブを学んでも得られない資格ですが、国家資格の保育士に指定養成校制度があるのですから、大学や短大などで卒業と同時に放課後児童支援員資格を得られるような仕組みも、児童クラブの業界全体として、政界に強く働きかけるべきです。それには、児童クラブについて学べる大学や短大が相次いでできれば、その働きかけを後押しすることになるでしょう。
放課後児童クラブそのものは数が増え続けます。就職先としても、雇用労働条件の良い所は探せばそれなりにあるのですから、少子化の進む現在、大学も倒産時代になっていますから、学生の募集の1つの宣伝材料として児童クラブのことを学べる課程を設けましたよ、ということは、大学や短大の経営に決してマイナスにはならないでしょう。
大学や短大さんには、ぜひ、放課後児童クラブのことを対象とする学科やコースを作って、研究者を増やし、育てていただきたいのです。少子化になればなるほど児童クラブの重要性は増すのです。なぜって?それだけ子どもにかける、向けられる保護者や社会の期待や意識が子どもに増すからです。より子どものことが「大事な」存在として社会に位置付けられていく。その大事な子どもの育ちに関わる重要な仕組みが、まさに児童クラブです。それほど重要な児童クラブを専門に学ぶ研究機関がなければ、おかしいのですから。
<最後に、私の夢>
放課後児童クラブについて、私の狭い、偏った知見や思いのたけをぶつける本が、この6月半ばにも刊行の運びです。この活字大不況、ネット時代の中で、狭い狭いニッチ過ぎるテーマの本が売れるとは到底思っていません。それでも、世の中に、「こんな学童保育でいいのか!学童で働く人たちがこんなにひどい待遇でいいのか!」というある意味、社会に怒りをぶつけたかったので、出版社さんにお願いして刊行していただく運びになりました。(本では学童保育という語句を使っています。本来は放課後児童クラブ、放課後児童健全育成なのでしょうが、世間的な認知度では学童保育が一般的ですので、やむなく学童保育という一般的な普通名詞を使っています)
奇跡が起きて、数千部なり1万部なり、さらに本が売れてしまったら、私の手元に若干の収入が来るでしょう。その額がある程度にまでなったら、私は放課後児童クラブの研究をしたい、でも費用が無いという研究者の方に寄附したいと思っていますし、補助金を受けられず、あるいは受けたとしてもほんのわずかな金額しかないという民設民営の児童クラブの運営に使っていただきたいと考えています。もちろん自分が生きるために必要な費用だけは確保したとしても。
そのためにも、1冊でも多く売れてほしいですし、第2弾、第3弾と続けて書籍には取り組んでいこうと今は考えています。
刊行まで、あと1か月ほどです。ぜひ1人でも多くの人に手に取っていただければ幸いです。待ち遠しい方はぜひ、「寿郎社」さんに問い合わせてみてください。札幌にある出版社さんです。ツイッターのアカウントがあります。(寿郎社 @jurousha)
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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