「小1の壁」をどうするべきか。「現状対応」を行いつつ社会の仕組みや制度を変える。画一的な見方もダメ。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表で「あい和社会保険労務士事務所」の萩原和也です。放課後児童クラブ(学童保育所)運営支援アドバイザーであり、放課後児童クラブの労務管理や事業運営をサポートする社会保険労務士です。放課後児童クラブを舞台にした人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン(https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描くハッピーサクセスストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!

 「小1の壁」は世間一般の関心が高いテーマなのでしょう、X(旧ツイッター)では大型連休中に投稿された日本経済新聞社の記事をめぐって多くのアカウントから投稿がなされています。運営支援ブログでも何度も言及していることですが、ちょっと気になった投稿をいろいろ見かけましたので、改めて小1の壁、とりわけ放課後児童クラブをめぐる小1の壁について、わたくし萩原の思うところを書き綴りましょう。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。) 

<学校で朝ご飯、がひっかかっているようです>
 日本経済新聞社の有料記事ですが、2026年5月6日にXへ同社が投稿した「「小1の壁」解消へ、学校で朝食提供 共働き世帯支援で対策進む」という見出しの記事があります。これは4月2日に同社が配信公開した記事の再投稿ですが、Xに再投稿されるやいなや、多くの投稿を読んでいます。有料記事ですが、その見出しの記事を一部引用して紹介します。
「共働きで子どもを育てる世帯にとって朝の支度の負担は軽くない。就学時に預け先に困る「小1の壁」対策をさらに進め、朝食提供に乗り出す自治体が出てきた。子育てしやすい社会に向けて、教員の働き方改革との両立や、保護者が柔軟に働けるような企業側の取り組みも欠かせない。」
(引用ここまで)

 まずこの記事ですが、わたくしの解釈では、媒体が経済界に向けてのものであることを留意するべきであって、それは引用した部分にある「保護者が柔軟に働けるような企業側の取り組みも欠かせない」ということにまさに現れています。つまり、労働力の確保には雇用している労働者のワークライフバランスに十分配慮しないと、これからの企業は人手不足時代の中で十分な労働力を確保できませんよ、と訴えたい記事なのでしょう。
 ところがXでは「こどもに学校で朝ご飯を食べさせるのは絶対におかしい。こどもが家庭で親と一緒に朝ご飯を食べられる社会にするべきだろう!」という意見ばかりあふれています。おそらくですが、この日経の記事も、そのことを含んでいるはずです。

<えっ? と目を丸くした投稿も>
 SNSはどうしても短文での意見表明、意見発信ですから、どうしても1点に収れんする意見の発信になりがちという点はあるでしょう。この日経の記事には、とりわけ小学校など教員の世界に属するであろう方のアカウントから懸念や反発の意見が相次いでいました。先に記したように「こどもが学校で朝ご飯を食べる社会を目指してはならない」という意見が多いのですが、そういう内容しか記載されていない投稿でも、書ききれない部分には「現状対応はそれでやむを得ないが、社会の構造として、こどもが家庭で朝ご飯を食べられる社会にするべきだ」という内容がきっと含まれているであろうと、わたくしは願っています。

 しかし中には、不思議な投稿もありました。次のような趣旨の投稿がありました。
「子育てのために正規の仕事を辞めて、こどもと長く過ごすことを選んだ。それが小1の壁の解消法なのに、そうしない子育て世帯が理解できない」
 子育ての時間を確保する選択をした、というか「選択ができる境遇にあった」のでそういう選択をしたということでしょう。そういう選択をしたことは素朴にすごいことだと私は感じますし、それ以上でもそれ以下でもないのですが、「小1の壁で困っている人たちは、そのような選択肢を取りたくてもできない人たち」という観点がすっぽり抜け落ちているところに投稿された方は気が付いていなかったのでしょうか。
 「~の壁」と呼ばれる、生活上において課題や障害として立ちはだかる諸課題は、それを回避できたり克服できる人にとっては壁ではありません。朝食ぐらいこどもと一緒に食べて、こどもが学校に行くのを見送ってから出勤、出社ができる人や、正規職を辞して非正規職で得られる収入でも子育て生活を成り立たせることができる境遇の方々にとっては、それらの壁は結局のところ、壁ではなくて、ちょっと迂回すればやり過ごせる水たまりのようなものです。「小1の壁」の大変さを、「小1の水たまり」として回避できた方がその状況を基本にして論評しても、歯車はかみ合いません。

<いまそこにある事態への対応は当然必要で、問題はその先を見据えた行動>
 運営支援は常々申し上げていますが、「いま、こどもより早く出勤、出社しなければならない保護者へと、結果的に1人で行動しなければならないこどもへの対応は、いまそこにある事態への対応として措置を講じるべきだ」と考えます。朝ご飯がろくに食べられない家庭があるなら、社会全体としてどうするべきかを考えた結果、1つの手法として、小学校で朝ご飯を提供するというのであれば、それはそれで実施するべきです。当然、それをもって「すべて解決」とはならないことは言うまでもありません。いまそこにある事態に対処できただけです。根本的なところは、日経記事がおそらく訴えたいように「企業側の柔軟な対応」が必要となるのです。

 「朝ご飯を学校で出す? 馬鹿じゃないのその自治体」では、やむなく導入に踏み切った自治体をいたずらに批判するだけです。目の前にある危機に対応したのに「何もわかっていないね」とSNSでバンバン批判を浴びせられるのは、わたくしからすれば「そうやって批判を浴びせている側こそ、何もわかっていない」と皮肉の1つでも言いたくなりますし、自治体や学校側の対応が気の毒に思えてなりません。

 朝、やむなく放置されてしまうこどもへの対応を講じることは必要です。それはあくまで緊急避難的な対応であるのは承知ですが、朝食をろくに食べずに学校に行って授業を受けることで受けるこどもの不利益と、学校で朝食を食べさせることによるコスト増の不利益は、比べるべくもありません。こどもが救われることに勝るものはありません。

 おそらく教員関係者でしょうか、「こどもに朝ご飯を食べさせるようになれば、それを頼りにする家庭がどんどん増える。夕食もいずれそうなる」と、保護者の要求がエスカレートすることを懸念する趣旨の投稿も目につきます。懸念の気持ちはわからないでもないですが、「朝食提供の対応が必要な世帯」をしっかり定義すればよいだけです。明らかに家庭で十分対応できるのに自治体の朝食提供に丸投げしようとする子育て世帯があるなら、それは別の対応ー子育てに対する保護者の意識や理解にどう働きかけていくべきかーが必要だということです。ましてネグレクトのような育児放棄に近い状況がある世帯であれば、福祉的な視点での介入が必要となるでしょう。

<似たようなことが児童クラブでも>
 保護者の利便性を向上させようとする施策には、往々にして内部から懸念や反対の声が上がります。児童クラブの開所時刻や閉所時刻を変更して、こどもを受け入れる時間を伸ばそうとするときには、「午後6時半までだったところを午後7時までにしたら、こんどは午後7時半まで開所してくれという要望が増えるに違いない」とか「朝8時に開所していたのを7時半にしたら、こんどは7時に開所してという声が出てくる」といったものです。
 確かに更なる利便性の向上を求める意見は出るでしょう。出て当然ではないですか? それこそ使う側にとって便利になるのですから。まして利用料が変わらずに児童受入時間だけが増えるなら実質的な値下げになります。
 実のところ、保護者の利便性向上というのは、児童クラブ職員や運営側の負担増によって成し遂げられ来たという過去の構図があるために、「なし崩し的に利便性が向上すると、さらにもっと働く自分たちにとって負担が増える」という不安や心配が先に立ってしまうのでしょう。それは職員のせいではなく、事業者として担うべき業務量が増えることに対して職員の増員をして職員1人あたりの業務量を過度に増えないように配慮するべき当然の措置を事業者が怠ってきたーあるいは措置を講じたくても予算が足りずにできなかったー結果の1つだと、わたくしは考えます。

 その点の配慮が欠けてしまうと、まさに群馬県高崎市で問題となった、早朝のこども受入に対する教職員の懸念が噴出することになるのですね。

 なお、小学校と児童クラブで決定的に違うのは、児童クラブは任意で利用を選択できる仕組みであることです。また、児童クラブ職員とこどもの保護者との関係性についても、学校の教職員と保護者とのそれとは異なり、「こどもの育ちを共有し、ともに考える」という立場である児童クラブ職員に対しては、保護者の中に少数であっても、職員の境遇についても考えて声を出してくれる方がいます。なし崩し的に利便性の拡大だけを求める保護者ばかりの児童クラブになることは、保護者を完全にお客様としている児童クラブでない限り、なかなか考えにくいものがあります。「そんなことしたら、学童の先生たちには無理よ」と言ってくれる保護者がいるものです。もっとも、保護者を完全にお客様としている児童クラブであれば、「もっと利便性の拡大を」という声は上がりやすいでしょうが、そのような児童クラブでは「わかりました。では受益者負担で月額5,000円引き上げます」と運営事業者側が対応できる手段を持っています。利用するしないはまさに契約するかどうかだけの問題です。利便性向上と引き換えに月額の利用料が上がる契約を結びたい人は結ぶ、そうしたくない人は別のこどもの居場所を見つけてくださいね、というだけの話に、現状はなってしまうからです。最もそれで良いとは私は考えませんが。

<社会を変える、こどもまんなか社会を目指す>
 小1の壁については、現状への救済策を基礎自治体が中心となって措置を講じるべきです。朝食提供も、児童クラブの児童受入時間延長も、また元祖・小1の壁である「放課後児童クラブの待機児童」については市区町村が全力を挙げて対応するべきものです。
 それらは「現状対応」です。当然に必要な対応です。おろそかにしてはいけません。
 同時に、現状対応をもって「この問題は根本的に解決された」としてはなりません。

 企業側に柔軟な対応を求める、それはすなわち育児期間中の時短勤務制度の確実な実施なのですが、収入の減少で従来通りまたは若干低下する生活レベルで維持できればいいのですが、現状はなかなかそうではない。育児時短制度を受け入れた世帯への収入面への配慮は企業がすべて負うのではなくて、国の社会保障政策の1つとして考えるべきものです。もちろん企業、経済界も積極的に育児期間中の労働者が選べる選択肢を増やすよう努力が必要です。

 なお、圧倒的多数を占める中小企業やそれ以下の事業者、また自営業や専門業に就いている子育て中の保護者にもそれぞれ対応が必要です。中小企業や零細事業者、自営業者にも、自分の子育てに向き合える制度を国が整えるべきです。企業にとっては補助金でしょうし、代替労働力確保のための手段の用意が必要となるでしょう。

 SNSもメディアも、児童クラブの世界も、社会を変える動きを起こすことはできます。社会を変えるとはまずは法制度を変えることがその現実的な1つの手法ですが、それができる議員、政治家の理解を求めることこそ、継続的に、地道に、粘り強く行うべきことでしょう。SNSやメディアは世論を興し、業界は個々の働きかけで政治家や政党に必要なことを訴えて理解を求め、最終的に国会の場、あるいは地方議会の場で、こどもが家庭で過ごせる機会を選択できるような社会の仕組みに、変えていくことを目指す必要があります。

 <例外を例外としてはならない>
 最後に申し上げたいのですが、「育児の時間」よりも「自分の仕事の時間の確保」のほうが相対的に重要とする人もいるということ、そういう人たちのことを異端視してはならないこと、排除してはならないこと、そういう人たちが利用できる、頼れるような制度もまた社会が準備しておくべきだ、ということは強く訴えたい。わかりやすいのはスペシャリストとして仕事をしている方々です。そういった方々が育児に向き合うとき、決して育児を軽視するのではなく、育児を放棄したいのではなく、育児だってもちろんしっかりちゃんとしたい。「でも」、専門技能を持つ、あるいは非常に重視され評価されている自分の能力を発揮できる機会を減らしたくない、失いたくないということです。それはネグレクトではまったくありません。仕事がオフのときは、全力でこどもと向き合っています。ただ、こどもに対して「世話」をする時間がなかなか確保できないということです。
 そういった人たちのために、朝ご飯を小学校などで提供したり、夕食を児童クラブで提供することを、「親の子育ての姿勢が悪い!」と短絡的に批判して妨げるようなことはしてはならないと、わたくしは主張します。「ふーん、こどもより仕事を選ぶんだ、そうなんだ」という皮肉や嫌味が、どれだけ専門職として社会に貢献してきた人の心を傷つけてしまうのか、この社会の、とりわけSNSにて気軽に書き込まれる意見が、仕事も育児も頑張っている人の気持ちをズタズタにするのか、あまりにも配慮や想像力がなさすぎるのが、今のこの国のSNS界隈です。「こどもがかわいそうじゃないの?」という書き込みはよく見かけます。こどもが放置されることのほうが、ひどいことだと私は思うのですがね。

<家庭に縛り付けておきたいの?>
 児童相談所に相談しながら結果的に最悪の結果を迎えてしまったという事件は今でも年に1~2回、報じられているでしょうか。「こどもは家でご飯を食べて当然」という意見を持つ人の根本的な思考には「こどもは家庭で過ごしてこそ幸せ」という意識がこびりついているであろうと、わたくしは想像します。100人のこどもがいたとして100人のこどもはすべて家庭で過ごすことが幸せなのでしょうか。
 小学校でも保育所でも児童クラブでも、こどもと保護者に接する仕事をしていれば、すべての家庭がこどもにとって安全基地とはなっていないという現実を目の当たりにすることが多いものでしょう。わたくしなどたった十数年の児童クラブ運営責任者ですが両手に余る数の虐待またはそれに近い世帯と向き合ってきました。それらの家庭においては、こどもは家庭こそ戦場のようなもの。親と分離することでようやく生命身体の危害の恐怖から脱した生活を送れるこどもがいるのだ、とう現実が存在するということを、「こどもは家庭でこそ幸せだ」と訴える人たちは、おそらく幸せな境遇にずっといるので想像力が働かないのでしょう。

 種々の法令には、子育ては保護者の一義的な責任のもとに行われるという趣旨の記載があります。「児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う。」(児童福祉法第2条②)
 それはそうなのですが、その責任を全うできない保護者もまた、少数ですが存在する事実があることを踏まえた、こどもの居場所の議論展開が必要です。そうでないと、何が何でもこどもを家庭に戻すことを絶対的な目標としてしまい、結果として、こどもが親に殺められるという悲劇を呼び起こすことが起きてしまいます。絶対的な件数は確かに少ないとしても、それでも1人として悲劇的な結末を迎えるこどもがいていいはずは、決してありません。

 「こどもは家庭にいてこそ絶対に幸せ」という考え方が無意識にでも染みついているのであれば、まずはそこから冷静に考えるべきです。「このケースはどうか。家庭で過ごすことがよい例なのか、またはそうではないのか」ということを、個別具体的に考えることをベースにしつつ、全体的な構造を組み立てる意見の展開を、わたくしは期待します。

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 放課後児童クラブ事業を考えている民間企業の方へ朗報! 児童クラブ参入の手引きとなる「埼玉県 放課後児童クラブ新規参入スタートブック」が公開されました。全40ページ。フルカラー。冊子は2部に分けて埼玉県福祉部こども支援課のページで公開されています。なお本スタートブックは弊会が作成受託しました。
(前編)
 https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/166938/r0803_houkago-jidou-club-startbook01.pdf

(後編)
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/166938/r0803_houkago-jidou-club-startbook02.pdf

 「Wedge ONLINE(ウェッジオンライン)」にて2026年4月13日、「「こどもが学童に入れたから仕事も安泰!」なのか?小1、行き渋り、夏休み…いくつも存在する“学童保育の壁”とその対処法」という記事が公開、配信されました。(https://wedge.ismedia.jp/articles/-/40473)。わたくし萩原が編集部の依頼に応じて寄稿しました。ぜひご高覧ください。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

投稿者プロフィール

萩原和也