東京都の「学童職員に家賃補助」にびっくり。大歓迎ですが放課後児童クラブ(学童保育所)間の格差を縮める努力を。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした(とても長い)人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
先日、びっくりする報道がありました。報道段階なので事実なのかどうかは分かりませんが、東京都が放課後児童クラブ職員を対象に最大8万円を上回る家賃補助の制度を設ける、というものです。運営支援は評価して歓迎します。一方で、大規模な事業者がますます有利になることと、周辺地域も同じように職員の福利厚生に度力をしなければならないことを指摘します。
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
<なんと最大で月8万2000円の家賃補助!>
読売新聞オンラインが2026年1月28日15時に配信した、「学童職員に家賃補助、最大月8万2000円…都が「小1の壁」解消へ待遇改善を後押し」との見出しの記事です。びっくりしました。まずは一部引用いたします。しかしまずは、元の記事の全文をぜひ、ご自身で読んでくださいませ。
(https://www.yomiuri.co.jp/national/20260128-GYT1T00191/)
「東京都は新年度、共働き家庭などの小学生を預かる「放課後児童クラブ(学童保育)」について、職員向け住宅の家賃を最大月8万2000円補助する制度を創設する方針を固めた。事業者の一部負担を条件に、都と区市町村が月約7万円まで支援する。」
「都関係者によると、対象は都内で働く常勤の放課後児童支援員と補助員。学童保育の事業者が用意した借り上げ住宅の賃料などについて、1戸あたり月額最大8万2000円のうち約1万円(12・5%)を事業者が負担することを条件に、残りを都(最大75%)と区市町村が負担する。」
(引用ここまで)
わたくし萩原が読んだ上で指摘したいポイントは次の通り。
・対象は常勤。(なお記事のほかの部分によると1クラスにつき最大3戸)
・事業者の一部負担が条件。負担は12.5%だから1割ちょっと。
・借り上げ住宅の賃料であること
なお、初年度は特にクラブ職員が不足している地域を中心に約450戸分の予算を確保する方針とのことです。
率直に申し上げて評価します。というか、うれしいですね。これから指摘する、結構深刻な懸念事項はあるのですが、「児童クラブの世界にこれほどの手厚い支援が行われる時代になったのか」という、素朴な感慨があります。まずもって児童クラブの世界に他の業種でもなかなか実現しない補助や支援が行われたという歴史を、わたくしはほとんど知りません。X(旧ツイッター)では「放デイ職員や児童指導員が学童に転職するかも」という投稿すらありました。
東京都福祉局のウェブサイトでは1月30日午前9時時点で、この読売新聞の報道が事実と確認できるような資料の公表はしていませんでした。まあ、記事の内容が具体的ですから間違いはないのでしょう。予算案の内容を調べればわかる内容でもあります。あとは読売新聞に運営支援からお願いしたいのですが、記事の冒頭の<共働き家庭などの小学生を預かる「放課後児童クラブ(学童保育)」>という書きぶりは、もう止めましょう。児童福祉法など法令のどこをみても児童クラブは「小学生を預かる」という目的の事業ではありません。児童クラブは、留守家庭のこどもの、遊びと生活の場と定義されていますから、せめて<共働き家庭などの小学生が過ごす「放課後児童クラブ(学童保育)」>という書きぶりにしましょう。
<借り上げだけが対象?>
今回の報道では、事業者が用意した借り上げ住宅の賃料など、という書きぶりです。ここの内容が気になります。あくまでも児童クラブ運営事業者が「借り上げた」住宅の賃料への補助なのか、それとも児童クラブで働く常勤職員が自分で借りている物件の賃料にも補助が出るのか、ということが気になります。
報道されている限りでわたくしが想像しますと、事業者が借り上げた物件に対して支出している賃料に関しての補助が中心のように感じられます。となると、職員が入居する借り上げ物件をそもそも確保できる児童クラブ事業者は、よほど財政基盤がしっかりしている、かなり大きな事業者が対象となるのでしょうか。それでは、運営する支援の単位数が数単位や10単位前後の、小さな児童クラブ事業者ではなかなか補助対象の事業者になることは難しいのではないでしょうか。
ぜひとも、児童クラブ職員が自身で借りて入居している賃貸物件への家賃補助も含めてほしいと運営支援は希望します。
東京都内といっても区部から多摩地域などで賃貸料の高い低いの差はあるでしょう。常勤職員が家族3人で過ごす物件となれば、区部での家賃は十数万円台が当たり前ではないでしょうか。多摩地域でも駅に近い物件ならそれくらいしそうですね。単身住まいの物件でも10万円に届く物件がありそうです。ぜひとも、児童クラブで働いている常勤職員が「定着」できるような、使い勝手の良い制度でスタートすることを切に希望します。
<格差は生じる。それはやむを得ないのだが>
仮に借り上げ住宅だけが対象となると、先に記したように、それなりに大きな児童クラブ運営事業者がこの家賃補助制度の対象になるでしょう。それ自体は特に運営支援も当然のことだと考えますが、結果的に、児童クラブを運営する事業者は、児童クラブ運営を事業の1つとしている大きな規模の事業者にいずれ集約されていくのではないか、その動きを後押しする制度としてこの住宅補助も機能するのではないかと、わたくしは考えます。
懸念しているのは、規模の大きな事業者は当然、ビジネスとして児童クラブを運営しているのですから、収益第一で考えます。児童福祉の世界にある児童クラブにおいては、時には効率や収益性よりも優先されることが望ましい、こどもや保護者への単発的な対応(例えば、トラブルが起きた時には時間外勤務を躊躇せずにトラブル対応に取り組む、等)があります。事業収益確保を第一に最優先に考えがちな、児童クラブを事業収益の1つとしてみなす事業者が、この先さらに勢力を拡大していくことに対する不安を、わたくしはぬぐえません。事業収益を追求することには文句ありませんが、「事業収益を求める考え」と「こどもの育成支援の質の向上」のバランスは、しっかりと確保していただきたい。大きな事業者、弊会ブログが言うところの広域展開事業者には、どうにも補助金ビジネスに夢中になって児童クラブは単なる収益確保の1つの手段に過ぎないという判断が、見え隠れしていますので。
報道された家賃補助は結果的に、その制度に対応できる大きな事業者をより有利にします。東京都は都認証クラブ制度など児童クラブ全体の質の底上げに果敢に取り組んでおり、それも評価しますが、「いまだ小学3年生や4年生までしか、公設クラブに入所ができない」自治体が多く残っているのが東京都です。児童クラブ全体のレベルアップ、事業内容の底上げに、まず取り組んでいただきたいというのが運営支援のホンネです。児童クラブの利用を希望するすべての家庭のニーズに応じられる努力を最優先にして、その上で、都認証クラブの整備や、今回報じられた家賃補助などの個別具体的な政策を繰り出してほしいと、考えます。いまの都の方向性は、「児童クラブ事業で収益を確保できている大きな事業者」をより有利にさせることで児童クラブ全体の事業の拡充を目指すというように、わたくしの目には映ります。
<近隣の県や市町にも努力が求められる>
今回報道された家賃補助制度を歓迎する児童クラブ職員はきっと大勢いるでしょう。同時に「うーむ」と苦笑いする児童クラブ関係者もいるでしょう。都の隣の埼玉や神奈川、千葉の県庁の児童クラブ担当や、都に接するか近い場所に位置する自治体内部で児童クラブを運営する事業者が、「こりゃ参ったなあ」と、思っているかもしれません。わたくしは上尾市内の児童クラブ運営事業者の長でしたが、もしその立場のままで、今回の読売新聞報道に接したら「何らかの影響があるかも」と当然に心配したでしょう。
それほど、なかなかにエポックメーキングな報道です。つまり「都内の事業者に有能な人材をどんどん取られてしまう!」という心配、いや恐怖感です。
このことにどう対応するのか。答えは1つです。「自分たちも負けじとできる限りのことをやる」だけです。まかり間違っても東京都に文句を言ってはなりません。「いいよな東京都はカネが余っているから」とスネているだけでは無能です。
東京都に負けない家賃補助制度を広域自治体と基礎自治体が連携して実施すればいい。それだけの話です。報道されている東京都の予算案の額は約1億4000万円。それぐらい、工夫すれば出せるでしょう。例えば神奈川県の令和7年度の一般会計予算の当初予算案の総額は2兆2158億円と報じられていました。2兆円を超す予算ですよ、ちょっと工夫すれば1億円ちょっとの予算ぐらい捻出できるでしょう。これが100億円かかるなら、そりゃすぐにはできない。でも1億円ちょっとで東京都に負けない家賃補助が実現できるのですから、東京都の隣の県は「こっちだってやってやるぞ」と思っていただきたい。当然、議員の後押しは必要ですね。
今回の報道で見落とせないのは、小1の壁対策として児童クラブ職員の確保が必要だ、ということを東京都が(専門家からの意見具申を踏まえて)正確に理解した上での施策である、ということです。小1の壁対策とは、とりもなおさず児童クラブの整備拡充ですが、それには従事する職員、スタッフの確保が必要です。ハコがあっても働く人が見つからないのが児童クラブの致命傷です。まして東京都内は家賃が高い。だったらそこに手当てをして職員を確保しようじゃないか、という当たり前の施策です。
それは埼玉も神奈川も千葉も同じです。埼玉県民ですから埼玉を先頭に出しますが。児童クラブで働く人が足りない。だから児童クラブを思うように整備できないですし、既存のクラブでも、生活苦のためなかなか職員が定着しないから児童クラブで行われる事業すなわち育成支援の質が向上しづらい。人が人を支援する対人ケア労働ですしコミュニケーション労働ですから、従事者の入れ替わりが激しければ、事業内容が向上するはずがないのです。事業所内で職員たちが連携して働いてきたそれまでの経験値がゼロになることの繰り返しですからね。
児童クラブを整備拡充するには、「人」の確保です。単に頭数を確保するという人手の確保のみならず、育成支援に優れた能力を発揮できる「人材」の確保、人材確保こそ重要です。東京都が人材確保に乗り出しているのですから、有能な人的資源を東京都に吸い込まれないために、近隣地域も同様の施策や、さらに上回る施策を講じればいいだけの話です。それが「競争」です。
わたくしの思い出話(自慢話)ですが、有能な職員が長く勤務を続けてくれるようにと、かつて運営に携わっていた児童クラブ運営法人にて、家賃補助制度を創設しました。最大3万円です。2パターンがあって、市内の賃貸住居に居住の場合は賃料10万円まで3割、市外居住は2割(つまり最大2万円)。もう1つは住宅ローン補助で、住宅ローンの残債額に応じて最大3万円の補助としました。弱小法人の身の丈にあっていない支出ですが、人こそ児童クラブの財産です。人に投資するのは当然だということで、行政にも粘り強く説明をして足掛け2年で実現しました。この制度のおかげで、マンションを買ったり戸建てを買ったりした職員も現れました。それは「ずっとこの組織で働きたい」という意志表示と同じですからね、ありがたかったですね。
何を言いたいかと言えば、「やればできる」のです。やらないでブーブーと東京都だけずるいと文句を言うレベルに落ちてはなりません。
小さな事業者にはなかなか難しい。だったら「どうすれば住宅借り上げができる財力を確保できる?」を考えれば良い。その結果が「同じ規模の事業者同士が合流して大きくなればよい」となれば、運営支援は大歓迎です。
<最後に、どうしても言いたい当たり前のこと>
家賃補助はとても助かる施策ですが、そもそも、児童クラブで従事する職員の所得が低い、年収が低いから、住むところに困るし、家族で居住するに必要な広さの住まいでは家賃が高くなってしまうので生活が苦しい、まして結婚もこどももあきらめてしまう、ということがあるのです。この運営支援ブログを始めた2022年12月に旧ツイッターで「学童で働いている。生活ができないのでこどもをあきらめた」というわたくしにとっては衝撃的な投稿がありました。
児童クラブで働く職員(正確に言えば、しっかりきちんと育成支援の本旨に従った業務ができる、まじめで有能な職員)の賃金がもっと高ければ、高額な家賃補助もそこまで必要となるはずでもないはずです。
児童クラブの職員の賃金はおおむね国からの交付金が原資となります。よって、国の補助額、運営費の額をもっともっと引き上げることが、本来もっとも先に行われるべき施策です。高額な家賃補助は、あえて申せば「付け焼刃」なのです。たいへんありがたい付け焼刃ですが、対症療法に過ぎません。児童クラブの職員の仕事の専門性を国と社会が正当に評価して、専門職に見合った賃金が支払われるような補助額まで国は面倒をみるべきなのです。
もちろん、児童クラブで働く側も、賃金に見合ったプロフェッショナルな働きをすることは言うまでもありません。ただ黙って腕を組んで突っ立っているだけとか、やたらこどもを怒鳴りつけて意のままに動かそうとするとか、チームワークを無視して自分の流儀だけでこどもと関わろうとするとか、そういう職員はそもそも専門性を帯びていないダメ職員ですから、高い賃金は不要ですし、業界そのものにも不要な存在です。「しっかりとした賃金を支払うことができるように、国や自治体はもっと補助を出す。当然、児童クラブ事業者側も人材育成に取り組み、育成支援の業務が理解できない人にはお辞めいただく」という両輪で、児童クラブ業界全体の底上げを目指していくべきでしょう。
そして東京都には、国に対してもっともっと児童クラブ業界底上げに役だつプレッシャーをかけてくださることを期待します。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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New! いわゆる日本版DBS制度を専門分野の1つとして事業者の取り組みを支えたいと事業活動を始めた新進気鋭の行政書士さんをご紹介します。「行政書士窪田法務事務所」の窪田洋之さんです。なんと、事務所がわたくしと同じ町内でして、わたくしの自宅から徒歩5分程度に事務所を構えられておられるという奇跡的なご縁です。窪田さんは、日本版DBS制度の認定支援とIT・AI活用サポートを中心に、幅広く事業所の活動を支えていくとのことです。「子どもを守り、あなあたの事業も守る。」と名刺に記載されていて、とても心強いです。ぜひ、ご相談されてみてはいかがでしょうか。お問い合わせは「日本版DBS導入支援センター | 行政書士窪田法務事務所」へどうぞ。
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