無駄な補助はやめ、出すべきところにしっかりカネを出しましょう。放課後児童クラブ(学童保育所)にもっとお金を!
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした(とても長い)人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
放課後児童クラブは、基本的に国や市区町村から交付されるお金(交付金。いわゆる補助金)がなければ、運営がほぼできません。放課後児童健全育成事業を行っている場所が放課後児童クラブですが、放課後児童健全育成事業は市町村事業です。つまり公の事業ですから、放課後児童健全育成事業を行っている事業者には公のお金、つまり補助金が出るのは当たり前です。放課後児童健全育成事業を行っている事業者に補助金を出さない自治体もありますが、運営支援としては許しがたいですね。放課後児童クラブに国が出すお金について情報が出ましたので、例によって運営支援流にぶった切ります。こども家庭庁さん、本当にお願いしますよ。もっと効果的なお金の出し方をしてください。
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
<もう止めましょう、処遇改善等事業>
こども家庭庁が「令和6年度 放課後児童クラブ関係処遇改善事業の実施状況について」と題した調査結果をホームページで公開しました。児童クラブに関係する3つの処遇改善の補助金を、どれだけの自治体が実施しているかその割合を公表しているものです。
3つの処遇改善を先に紹介しましょう。文字が苦手な人は飛ばしてOKです。とにかく3種類あるってことです。
その1 「放課後児童支援員等処遇改善等事業」(金額は、1支援の単位当たり年額)
(1)家庭、学校等との連絡及び情報交換等の育成支援に従事する職員を配置 1,829,000円
(2)(1)の「家庭、学校等との連絡及び情報交換等」に加え、地域との連携・協力等の育成支援に従事する常勤職員を配置 3,330,000円
(非常に算定方法が複雑です。(1)は単に基準年度から賃金が増えた分の補助ですが(2)は特殊な計算が必要です。国は「放課後児童クラブに係る人件費の総額から、放課後児童健全育成事業(実施要綱の別添1)
及び小規模放課後児童クラブ支援事業(実施要綱の別添8)により充てられる費用を除いた額のうち、当該常勤職員に係る人件費(賃金改善分を含む)及び常勤職員以外の職員の賃金改善分を補助対象とし、当該額と国庫補助基準額3,330,000円を比較して少ない方の額を基に国庫補助額を算定する」としています。つまり、児童クラブの総人件費のうち、他の補助金でカバーしている人件費分を差し引いた残りの額と、333万円を比較して少ない金額の方の額を出しますよ、ということです。もっというと、人件費がとても高いクラブには補助が出ますよ、ということです)
その2 「放課後児童支援員キャリアアップ処遇改善事業」1支援の単位当たり年額(1)~(3)の合計額
(1)放課後児童支援員を配置=対象職員1人当たり 131,000円
(2)概ね経験年数5年以上の放課後児童支援員で、一定の研修を受講した者を配置=対象職員1人当たり 263,000円
(3)(2)の条件を満たす概ね経験年数10年以上の放課後児童支援員で、事業所長(マネジメント)的立場にある者を配置=対象職員1人当たり 394,000円
1支援の単位当たりの基準額は、919,000円を上限とする。
(放課後児童支援員の資格を持つ者だけが対象。経験年数に応じて補助されるので比較的分かりやすい補助金)
その3 放課後児童支援員等処遇改善事業(月額9,000円相当賃金改善)
支援の単位ごとに次により算出された額の合計額
11,000円×賃金改善対象者数×事業実施月数
(「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日閣議決定)において、看護、介護、保育、幼児教育など現場で働く方々の収入の引上げ等が掲げられたことを踏まえ、放課後児童支援員等の処遇改善を図るために設けられた事業に端を発していまも続いているもの。計算の手間はかかるが計算自体は簡単で、分かりやすい補助金。金額の3分の2以上を対象者の報酬に上乗せすることが求められる。なぜ月額9,000円かといえば、収入の3%相当という理由から。なぜ3%なのかは、物価上昇分なんでしょうかね。)
こども家庭庁はこの3つの補助事業の活用具合を調べたものです。その結果はこうなったとのこと。
(1)放課後児童支援員等処遇改善等事業
○ 内 容:放課後児童クラブにおいて、放課後児童支援員等の処遇の改善に取り組むとともに、18時半を超えて事業を行う者に対して職員の賃金改善等に必要な経費の補助を行う。
○ 実施状況:452自治体(27.7%)
(2)放課後児童支援員キャリアアップ処遇改善事業
○ 内 容:放課後児童クラブに従事する放課後児童支援員について、勤続年数や研修実績等に応じた賃金改善に要する費用を補助する。
〇 実施状況:508自治体(31.1%)
(3)放課後児童支援員等処遇改善事業(月額9,000円相当賃金改善)
○ 内 容:放課後児童支援員等を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、収入を3%(月額9,000円)程度引き上げるための措置を実施する。
○ 実施状況:1,028自治体(63.0%)
※実施状況における( )内は、放課後児童健全育成事業を実施している全国1,633市区町村に対する割合である。
(1)は3割以下、(2)でもほぼ3割の市区町村しか、この補助金を活用していません。
「もうやめましょう、3割程度の補助金事業は」(大谷選手のように言いたい)
「学童保育のトップランナー」を自認してきた埼玉県は、これら3つの補助金事業が比較的活用されている地域です。これらを含む補助事業の活用について一覧表でまとめられています。(r6houkagohojo.pdf)
埼玉県内の市町村にしても、川越市や川口市といった大きな自治体で「放課後児童支援員等処遇改善等事業」が活用されていません。川口市は「放課後児童支援員キャリアアップ処遇改善事業」も実施していません。
3割前後の数の市区町村しか活用していない補助事業は、根本的に「使いにくい」のです。そんな補助金、やめた方がいい。逆に、6割超の自治体が活用している補助事業を活用していない自治体には、国がもっと強くお説教するべきです。
<そもそも処遇改善の手法が間違い>
処遇改善は保育士や介護の世界にもある賃金改善策でしょう。ですから児童クラブの世界にあっても良いのですが、運営支援の考えはやや違います。児童クラブの世界の賃金は他の福祉の世界より一段低い水準にとどまっているので、「まずは土台をしっかりとすること。つまり基本の補助金を増やすこと」と訴えたいのです。土台がしっかりとしていれば、屋根の厚みを増す(=処遇改善を増やす)ことをしても建物はゆがみませんが、児童クラブは土台そのものがほとんどない、いわば地面の上に柱を立てているようなものです。そこに分厚い屋根を載せようとしても建物は崩れてしまいます。まずは土台、つまり「児童クラブの運営が安定するだけの補助」を先にするべきだと、運営支援は主張します。
児童クラブの基本的な補助である運営費の補助をもっと増やすべきです。2025(令和7)年度は常勤職員2人分で「構成する児童の数が36~45人の支援の単位 6,939,000円」とされているものです。この額を増やせば、職員に支払う給料を上げることができます。(なお、単に額を増やすのではなくて、補助金ビジネスの広域展開事業者がまるまる利益として計上しないような仕組みの整備も当然に必要です)
この額が低いから、児童クラブの職員の賃金がなかなか上がらない。だから、処遇改善の3つの方策を行って児童クラブ職員の給料が増える様にしているのですが、そのうち2つの施策についてはたった3割前後の市区町村しか、やっていない。
無駄です。効果的ではありません。もともとの運営費の補助額を引き上げ(同時に利益転嫁を防止する策を講じつつ)、2つの処遇改善の事業は廃止したほうがよいです。「放課後児童支援員」の資格がある者に対する補助であるキャリアアップ処遇改善は残してもいいでしょうが、資格者には機械的に補助が付く、という形にしなければ意味がありません。
運営費の補助単価額をただ上げるだけでは、財政事情が厳しい東京都以外の地方自治体はついていけませんので、国の示す運営費負担の割合もまた考え方を変えるべきです。今は保護者が半分、残りの半分を国、都道府県、市町村が3等分する考え方ですが、これを「国が10分の7,残りを保護者、道府県、市町村で10分の1ずつ」とするべきでしょう。東京都と特別区は「国が10分の5、都と特別区は10分の2ずつ、保護者が10分の1」で良いでしょう。
「放課後児童支援員等処遇改善等事業」は、そもそも、人件費の総額が大きい事業者でなければ対象となりません。それには「職員に多額の人件費を払える能力がある」ことが必要です。それがそもそも難しい。人件費を増やせても、それが国からの交付金である運営費頼みでは、その分が差し引かれて算定される処遇改善等事業の交付分は生じません。屋上屋を架す補助金は無駄です。
「運営費を増やすことで、放課後児童支援員等処遇改善等事業は廃止」が、運営支援の提言です。
<だから、国が10分の10としてくださいよ>
さて、国の総合経済対策の一環として、こども家庭庁が令和7年度補正予算案について資料を公開しました。先日、運営支援ブログでも、放課後児童クラブにも物価高対策として1支援の単位あたり5万円が出ると紹介しましたが、あれです。
その補正予算の説明資料がこども家庭庁から出ました。抜粋します。
「地域子ども・子育て支援事業における事業継続支援事業」<子ども・子育て支援交付金>令和7年度補正予算案 11億円
「昨今の物価高騰などを受け、様々な物の価格の変動が急激であり、安定的な地域子ども・子育て支援事業の継続が困難な状況にあることから、物価上昇といった厳しい環境の中でも安定的な事業運営を継続して提供できるよう支援を行う(令和7年度限り)。」
「【事業内容】物価上昇といった厳しい環境の中でも、安定的な事業運営を継続して提供できるように物品の購入等に係る経費に対する補助を行う。
【対象事業】子ども・子育て支援法に基づく地域子ども・子育て支援事業」
「【実施主体】市町村(特別区を含む)【補助率】国1/3、都道府県1/3、市町村1/3
【補助基準額】(1)放課後児童健全育成事業所1支援の単位当たり年額50千円(2)放課後児童健全育成事業所以外1か所当たり年額25千円」
補助率のところ、運営支援が太字にしました。いわゆるサンイチ、三分の一ずつの補助ですね。もうね、ここが、わたくし萩原には、国の本気度がまったく感じられません。物価高は国の施策の結果であるのだから、物価高対策なら国が全額、10分の10を出しなさい。そう強く言いたい。これはもう「やっているふり」です。見せかけだけです。この政権の、子育て世帯への支援に対する本気度が垣間見えた瞬間です。
金額は正直、しょっぱすぎる額ですから、自治体に30クラスの児童クラブがあれば、掛ける5万円ですから150万円。それを3分の1ずつ負担するわけですから最終的に市区町村は50万円の支出で済むわけです。しかしそれでも「なんだ、うちの持ち出しがあるのか。じゃあ、やりません」という市区町村が出てきても不思議ではありません。こういう臨時の1回限りのことに国が10分の10を出さないことに、わたくしは全国の児童クラブ担当の行政パーソンの多くが呆れていると想像します。
情けない。あまりにも情けない。がっかりです。子育ての強力な支援に今の政権は興味が無いのでしょうね。
<最後にもう一言>
この総合経済対策では保育士等の処遇改善が目玉メニューでした。その内容も資料で紹介されました。
「保育士等の処遇改善」として、「保育所・幼稚園・認定こども園等に従事する職員について、令和7年人事院勧告に伴う国家公務員の給与改定の内容に準じた保育士・幼稚園教諭等の処遇改善を行う。」とあり、「【対象】私立保育所・幼稚園・認定こども園等に従事する職員【実施主体】市町村【補助率】国1/2、都道府県1/4、市町村1/4」となっています。
先に紹介した物価高対策は、保育所などにも「公定価格における運営継続支援臨時加算(仮称)の創設」とあり、児童福祉施設ではない地域子ども・子育て事業の放課後児童クラブにも、この保育所の臨時加算に対応して1支援の単位あたり5万円の臨時補助がメニューに加わったものと運営支援は推測します。
なら、処遇改善だってできるはずです。今回の補正予算ではできなくても令和8年度の補正予算もおそらく早々に組むんですからそこにいれるべきです。保育所に向けて行われた施策が後追いで放課後児童クラブにも形を変えて実施されることは珍しくありません。ですから処遇改善だってするべきです。
そもそも、保育所も児童クラブも職員の処遇が厳しいのは政府、行政の中にいる人なら知っていて当然。むしろ保育士より放課後児童支援員の方がより劣悪な処遇に置かれています。いま、小学1年生の2人に1人が児童クラブを利用しています。重要な社会インフラを支えている職員の処遇改善こそ急務なのに、今回の総合経済対策に盛り込まなかったのは、明らかに政治と行政の怠慢であるとわたくしは強く批判します。
国が躍起になっている待機児童の解消も、児童クラブで働きたい人が増えないからですよ。それは仕事の重要さと、賃金の額が釣り合わないから。処遇を改善しなければいつまでたっても児童クラブは充実しませんよ。もっと、当たり前の事実を見て政策を組み立てていただきたいとわたくしは言いたいです。そしてこのことを政府に訴えることをしない野党の政治勢力にもがっかりです。当選できるならわたくしが議員になって議会で訴えたいぐらいですよ、まったくもう。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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