さいたま市の放課後子ども居場所事業、2026年度の運営事業者が事実上決まりました。他の自治体と一線を画す?

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 さいたま市は、「放課後子ども居場所事業」として、いわゆる放課後全児童対策事業を推進しています。希望するこどもに居場所を提供し、午後5時以降は放課後児童健全育成事業として機能する仕組みです。このほど、2026年度の運営事業者が事実上決まり、さいたま市のホームページで公表されています。同様の全児童対策事業を行っている自治体とは、どことなく色合いが異なっていると運営支援は感じています。
さいたま市/【最優秀提案者が決定しました】さいたま市放課後子ども居場所事業運営業務 企画提案の募集について
 (※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)

<運営事業者の顔ぶれ>
運営支援ブログの2025年10月6日投稿に、さいたま市の放課後子ども居場所事業を取り上げました。その投稿では、2026年度に25校で実施とつづりました。その内容と、このたび市が公表した「最優秀提案者」(公募に応募して勝ち抜いた事業者。事実上、この事業者で決まりです)を合わせてみます。令和8年度在籍児童数は10月6日の投稿内容です。「競合」とは複数事業者の提案があって選考が行われたことを意味します。

栄(西区)     令和8年度在籍児童数590人(2024年度から実施中) 特定非営利活動法人三楽
(2025年度から運営事業者変更。2025年度はシダックス大新東ヒューマンサービス株式会社)
植竹(北区)    同=710人 特定非営利活動法人ユナイテッドキッズ ※競合
芝川(大宮区)   同=765人 特定非営利活動法人三楽
七里(見沼区)   同=307人(2025年度から実施中) 特定非営利活動法人ユナイテッドキッズ
(2025年度と運営事業者の変更なし)
大砂土東(見沼区) 同=776人 株式会社理究キッズ ※競合
大和田(見沼区)  同=650人(2026年4月に新設開校予定) 株式会社理究キッズ ※競合
鈴谷(中央区)   同=578人(2024年度から実施中) 特定非営利活動法人厚生福祉協会
(2025年度と運営事業者の変更なし)
与野本町(中央区) 同=560人(2025年度から実施中) 株式会社理究キッズ ※競合
(2025年度と運営事業者の変更なし)
神田(桜区)    同=398人 特定非営利活動法人厚生福祉協会
大久保(桜区)   同=222人 社会福祉法人さいたま市社会福祉事業団
常盤(浦和区)   同=1065人(2025年度から実施中) 株式会社理究キッズ ※競合
(2025年度と運営事業者の変更なし)
上木崎(浦和区)  同=929人(大幅に児童数増加予想) 株式会社理究キッズ ※競合
本太(浦和区)   同=863人 社会福祉法人朋仁会 ※競合
針ヶ谷(浦和区)  同=625人(2025年度から実施中) 株式会社学研ココファン・ナーサリー
(2025年度は社会福祉法人さいたま市社会福祉事業団)
岸町(浦和区)   同=772人(2024年度から実施中) 株式会社理究キッズ
(2025年度と運営事業者の変更なし)
文蔵(南区)    同=672人 特定非営利活動法人ユナイテッドキッズ
大谷場東(南区)  同=597人(2025年度から実施中) 特定非営利活動法人子ども・高齢者生活支援クラブ
(2025年度は社会福祉法人さいたま市社会福祉事業団)
三室(緑区)    同=902人 特定非営利活動法人エール
中尾(緑区)    同=822人(2025年度から実施中) 特定非営利活動法人エール
(2025年度と運営事業者の変更なし)
大門(緑区)    同=790人 特定非営利活動法人三楽
道祖土(緑区)   同=992人(2025年度から実施中) 特定非営利活動法人エール
(2025年度と運営事業者の変更なし)
尾間木(緑区)   同=973人(2025年度から実施中) 株式会社理究キッズ
(2025年度と運営事業者の変更なし)
西原(岩槻区)   同=441人 特定非営利活動法人三楽
上里(岩槻区)   同=348人(2025年度から実施中) 社会福祉法人さいたま市社会福祉事業団
(2025年度と運営事業者の変更なし)
新和(岩槻区)   同=297人(2024年度から実施中) 社会福祉法人さいたま市社会福祉事業団
(2025年度と運営事業者の変更なし)

<運営支援が感じた注目どころ>
1 運営事業者の変更は例外的
  2026年度に運営する事業者が変わるのは少数です。栄小学校が業界最大手シダックス社から、NPOとしては珍しく全国で児童クラブ運営を手掛けようと運営クラブ数が増加中のNPO法人三楽に替わります。また、針ヶ谷小学校は社会福祉法人さいたま市社会福祉事業団から、株式会社学研ココファン・ナーサリーに替わり、大矢場東小学校も社会福祉法人さいたま市社会福祉事業団から、NPO法人子ども・高齢者生活支援クラブに替わります。この3校だけです。学研ココファン・ナーサリーも運営支援ブログが定義する広域展開事業者で、さいたま市は初進出でしょう。
 この3校とも、競合していません。つまり2025年度に運営をしている事業者は次年度の運営に名乗りを上げなかった。撤退するわけです。これは、他の多数の引継ぎがある小学校で前年度の事業者が引き続き運営をしていることを考慮すると、さいたま市側が出した条件が厳しいか何らかの難問があるというよりも2025年度に運営している事業者側の何らかの事情で次年度の運営候補に名乗りを上げられなかったという気配が運営支援には感じられます。

2 競合が少ない
 競合は6小学校(来年開校の小学校はすでに実施している学校とセットだったのでしょう。小学校数で言えば7校になります)だけです。24校のうち6校です。競合が少ないというのは、事業運営に名乗りを上げた側にしてみれば非常に安心できるありがたい状況ですが、「提案内容を競い合ってより質の良い内容を提案する事業者を選ぶ」という、公募の建前からすると、決して歓迎はできません。もともと競合が少ないなら公募で提案内容など選ぶ手間とコストをかけずにすでに運営している事業者と随意契約を結ぶ方がコスト的には良いです。市側が示した運営条件をクリアできない事業者は辞退するでしょうからそうした校区だけ公募すればよいだけです。
 競合が少ないのは、運営事業者側からすると「運営してもさほどメリットはない」と判断されたのかもしれません。もちろん、運営事業者の「濡れ手に粟」となってはいけませんし、かといって、職員をギリギリの人数でしかも最低賃金レベルでしか雇用できないほどの委託料しか用意できなければ、育成支援の質を真摯に高めたいと考えている事業者は公募に応募しません。無理な運営をしてまで育成支援をすることが、こどもの育ちに逆効果と判断するからです。
 行政が本当に質の高い育成支援をする事業者を集めたいなら、委託料等、交付するお金は必要十分(こども10人に1人の職員数、当然に複数の常勤職員を配置できるだけの補助金)に用意しつつ事業者がそっくり利益計上しないように別の方策、例えば公契約条例で職員の最低賃金水準を非常勤なら最低賃金プラス500円、常勤職員なら最低賃金プラス2000円を下回らない、とする等の規制を設ければよいのです。
 単に、事業者側の工夫を求めるでは、あきまへん。

3 おなじみの顔ぶれではない
 おなじみの顔というのは、大都市で児童クラブの運営を引き受けている広域展開事業者の、よく見かける法人名が見当たらないということです。シダックス社は2026年度は姿を消します。業界ナンバー2で飛ぶ鳥を落とす勢いの(株)明日葉は入っていません。他にも、関東ではおなじみ、東北でも存在感があり、最近は九州にも進出している(株)アンフィニ、全国展開している(労協)ワーカーズ・コープもありません。大阪市内や都内に多い(株)セリオも見当たりませんね。
 さいたま市は児童クラブの待機児童数が多いことから分かるように、極めて児童クラブのニーズが高い地域です。市場として考えれば当分の間、有望な市場です。補助金ビジネスにとって是が非でも押さえておきたい地域のはずです。それなのに、児童クラブ運営ではおなじみの顔ぶれがほとんどないのは、何か理由があるのでしょうか。競合が少ないことから積極的に「獲っていこう」という広域展開事業者が少なかったことがうかがえるのですが、これはツワモノぞろいの広域展開事業者が、ビジネスとして冷静に判断した結果なのでしょうか。
 一方で、(株)理究キッズはさいたま市で大躍進といえます。市側(と市側が用意した選考者)と波長が合ったのでしょうか。埼玉を基盤とするNPO法人三楽も着実にシェアを拡大しています。さいたま市の、この放課後子ども居場所事業はこれからさらに実施個所が増えるはずですから、基盤を固めておくとその後の事業拡大に大いに資することでしょう。

 反面、市の福祉事業団の事業縮小傾向は気になります。いままでさいたま市内で公設児童クラブを担ってきた組織です。さいたま市は、福祉事業団が公設クラブを、NPO法人さいたま市学童保育の会が保護者運営を基盤とする民設民営クラブを手掛け、その2大勢力が児童クラブを支えてきました。NPO法人もこの放課後子ども居場所事業に参入する様子はなく、子ども居場所事業では受け止めきれない児童クラブへのニーズの対応に注力するのでしょうが、いずれにせよ、さいたま市の放課後等のこどもの居場所については、企業を中心にした広域展開事業者が中核となり、地場の非営利法人も一部支えていく構図となっていきそうです。
 これは、都内や千葉市とは様相が異なっています。さいたま市の、放課後児童福祉行政の担当者の見解をぜひとも聞きたいものです。
 
 <今後はどうなるのでしょう>
 さいたま市の放課後児童クラブの待機児童数は全国でも上位クラスの多さです。児童クラブの待機児童は保護者の社会経済活動に大きな影響を与えます。親、とりわけ母親である女性のキャリアの断絶を招きます。何をとっても良いことはなく、待機児童は起こしてはなりません。そのためには児童の受入れ数を増やすことですが、ギュウギュウ詰めにするのは最悪の手段、でもそれしかやりようがないならごく短期間に留めてこどもの居場所を早急に拡充、整備することが必要です。基本的には計画的にこどもの居場所を整備しなければなりません。
 さいたま市の放課後子ども居場所事業は、その内容を公開資料から推測すると、こどもが落ち着いて過ごせる場所の整備が不安定であり、予算面も十分な職員確保に及びません。小学校内でこどもの居場所をタイムシェアで用意するなど、単にこどもを「預かっている」だけの意識でしかないものと想像できてしまいます。大人の社会人が勤め先のオフィスが、「きょうは3回の会議室。明日は5回の食堂の隅っこだよ」と日替わりで移り変わるとしたら、そのオフィスで働く人は何と思うのか想像してみてください。根無し草か俺たちは私たちは、と思うでしょう。そんなぞんざいな扱われ方で人間の尊厳が守れますか。
 他地域の全児童対策事業とは違い、それなりの料金設定をしているので、必要に迫られた世帯の利用に絞れるという判断がさいたま市側にあるかもしれませんが、そうであっても何かと物騒なこの時代、午後5時まで月額4,000円で安全な居場所で過ごせるならと利用する世帯は多いことでしょう。
(ところで既存の居場所事業において、登録している児童数に対する1人当たりの面積は算定されて公表されているのでしょうか。1.65平方メートルをうわ待っているのかどうか気になります。従事している平均職員数1人あたりのこどもの人数も気になります)

 十分な職員数を確保できるだけの予算を、この放課後子ども居場所事業には割り当ててほしいものです。そしてできる限り専用の居場所を小学校内に確保するべきでしょう。

 一方で、放課後子ども居場所事業だけで放課後等のこどもの居場所のニーズが満たされることではありません。多種多彩なこどもの居場所をこの機にぜひとも整備することをさいたま市には期待します。
 民設民営放課後児童クラブは既存のNPO以外にも、勉強やスポーツなどこどもの多種多彩な活動希望を受け止められる施設を増やすことが必要です。補助金交付を掲げることで参入を考える民間企業を増やしていくことが求められます。その流れで、いわゆる「民間学童保育所」も、補助金交付は不要としても誘致をすることも良いでしょう。
 児童館やこどもセンターなど、好きな時にこどもが過ごせる場所も必要です。児童クラブではどうしても、集団生活のためにスケジュールや時間割があります。そういう時間の区切りが苦手、あるいは自分のペースで過ごしたいこどもには、児童館が最適です。しかもこどもの育ちを援助し、支援する専門職が配置されています。もっと児童館を公費投入で増やすべきです。さらには、自宅で過ごしたいこどもだっています(実は最多かもしれませんが)ので、ボランティアの世界線にあるファミリー・サポート・センターを思い切って独自に発展させて、事業者にとって収支が見込める事業として育てれば、自宅で過ごせるこどもが増えて、児童クラブの待機児童の緩和にもなります。

 埼玉県は「学童保育のトップランナー」と呼ばれてきました。その埼玉県の学童保育を支えてきたのは浦和であり大宮であり(たぶん与野も)、そして今のさいたま市もその輝かしい歴史を引き継いでいます。全国のお手本となるような子ども居場所事業の展開を期待します。

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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萩原和也