放課後児童クラブ(学童保育所)より、こどもを預かる企業に財政支援する、こども家庭庁。炭酸が抜けたコーラだ。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と保護者、働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だから児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
こども家庭庁が、放課後児童クラブの待機児童対策として、こどもを預かる企業に経費支援をするということが報道されました。こどもの居場所が増えること自体は、運営支援は賛成ですが、「やらないより、やったほうが良い」程度です。いわば「炭酸が抜けたコーラ」です。やっぱり炭酸がばっちり効いたコーラのほうが、歓迎されやしませんかね?
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
<報道から>
このニュースは新聞、テレビとも多くの媒体が報じています。決して大ニュースではないですが取り上げる媒体が多いということは、今後、何かしら社会に与える影響が予想されるとそれぞれの報道機関が判断したのでしょうか。いくつかの記事を引用して紹介します。いずれもヤフーニュースに掲載されているものです。
TBSニュースが11月18日10時21分に掲載した「総合経済対策に「子ども預かり事業を行う企業の支援」や「ベビーシッターの情報提供サイト」盛り込む方針 こども家庭庁」との見出しの記事です。
「こども家庭庁によりますと、今回の経済対策として、小学生が放課後の時間を過ごすための預かり事業を行う企業などに対し、国が人件費などを補助する事業を盛り込むということです。」
読売新聞オンラインが11月18日19時31分に掲載した「「学童保育」の待機児童解消へ、「居場所」設けた企業に賃料や人件費支援…こども家庭庁がモデル事業」との見出しの記事です。
「同庁によると、モデル事業では小学生が過ごせる場所を設けた民間企業に、建物の賃借料や見守りのための人件費などを出す。事務所に従業員らの子が過ごせるスペースを設けた企業のほか、習い事などの教室を開く企業も対象にする。黄川田少子化相はこの日の閣議後記者会見で、「モデル事業の創設で、放課後の小学生の安全な預かりを拡大する」と強調した。」
朝日新聞が11月18日16時30分に掲載した「放課後の子ども、企業が居場所づくりへ 総合経済対策でモデル事業」との見出しの記事です。
「都市部を中心に放課後児童クラブが定員超えとなるなか、企業の力を借りて「待機児童」の解消をめざす。こども家庭庁によると、事業所内で保育所を運営している企業が、余剰スペースを活用したりスペースを追加したりして放課後に児童を受け入れるケースなどが想定されるという。」
時事通信が11月18日10時49分に掲載した「放課後の小学生、企業で預かり 待機児童抑制でモデル事業 こども家庭庁」との見出しの記事です。
「こども家庭庁は18日、近く策定する政府の総合経済対策で、放課後の小学生を企業で預かるモデル事業を創設すると発表した。(中略)同庁によると、5月1日時点で放課後児童クラブの待機児童数は約1万7000人。共働き世帯の増加に伴い利用希望者は増えている。居場所を提供し、子どもを預かる企業などに補助することで、子育て家庭の就労や育児を支援する。」
(引用ここまで)
気になる点は次の通り。
・この事業を行う企業に補助をする。つまり「カネを渡す」。
・企業の従業員のこどもだけではなく、「習い事の教室を開く企業も対象」。
・放課後の小学生の「預かり」が目的。
・保育所を運営している企業が小学生を受け入れるケースが想定されている。
・放課後児童クラブの待機児童解消の効果を期待している。
<どうしたこども家庭庁>
わたくし萩原は、この新たな施策については冒頭に記した通り、炭酸の抜けたコーラという印象しかありません。よほどコーラが飲みたければ飲みますが、当然に当たり前ですが飲みたいのはコークであり、ペプシであり、ジョルトコーラです。そういえば数年前の「クラフトコーラ」流行はどこにいったのでしょう。アサヒのクラフトコーラ、好きだったんですが。
こども家庭庁が公表した報道資料も見ました。こう書かれています。
「「放課後のこどもの居場所」の充実は、
・ こどもにとっても(安全・安心な育ち)
・ 子育て家庭にとっても(両立支援・育児負担の軽減)
重要であり、喫緊の課題。」
わたくしの勝手な解釈ですが、「児童クラブの待機児童数を少しでも減らせるなら、なんでもやったるわい」というこども家庭庁の姿勢が見えます。しかし、わたくしは言いたいのは、「放課後のこどもが過ごす居場所は多種多彩であっていいのだけれど、放課後児童クラブを利用したくても利用できないこどもは、やはり放課後児童健全育成事業をもって受け入れるべきでしょう。放課後児童クラブではなくて短期のこどもの居場所ニーズを満たす目的を果たすのがこの新施策であって、決して放課後児童クラブ待機児童数の減少のために打つ施策ではない」ということを、こども家庭庁がしっかりとメッセージとして打ち出すべきでしょう、ということです。
夏休みを過ぎると児童クラブの待機児童数がほぼ半減するのは数年前から始まった、児童クラブの実施状況速報値で明らかになっています。その半減こそ短期のこどもの居場所ニーズの現れであるとわたくしは考えます。今回の新施策は、こうした短期の居場所ニーズについて若干の効果はあるでしょうが、「放課後児童クラブを利用したいけれど利用できない」本質的な待機児童の解消には、効果はほとんどないでしょう。なぜならこの新施策の下で整備されるこどもの居場所は、放課後に便利に利用できる仕組みではないからです。保護者の勤め先と、学校が、近距離にあるなら通年利用もできましょう。居住地がさいたま市で、親の勤め先が都内であるなら、夏休みや冬、春休みなどの学校休業日にしか利用できません。それでは、設置運営するにはコストがかかります。労働集約型の産業はなるべく通期に稼働していることが運営コストを一定水準に抑え込めるのであって、細切れの稼働では労働力を短気に確保するコストが跳ね上がります。そのコストを政府が補助するというのが、今回の新施策であるとわたくしには感じられます。
中小企業庁による調査(都道府県・大都市別企業数、常用雇用者数、従業者総数(民営、非一次産業、2021年))によると、日本の企業数3,375,255のうち大企業は10,364、0.3%に過ぎません。ところが従業者数では47,483,272のうち大企業は14,384,830となり、30.29%にまで増えます。たった0.3%の企業が日本の労働者の3割を雇っているんですね。その点では、大企業に対して、こどもの居場所の事業をするのであれば補助金を出すよ、というのは、机上の計算では効果が見込めるかもしれません。
しかしながら本当に児童クラブの待機児童を企業の助力をもって解消を目指すのであれば、圧倒的多数の中小企業にも、こどもの受け入れに関して補助金を出すことをするべきで、大企業だけに偏った補助は問題がありやしませんか。児童クラブを利用する人の多くは中小企業や法人の従業員です。それらの企業や団体にも、こどもの受け入れに関して助力を求めてこそ、児童クラブの待機児童の抑制につながります。大企業だけに補助するのでは、大企業だけの優遇措置にほかなりません。
特定の企業に補助するよりも、通年利用できる放課後児童クラブへの財政支援をもっと拡充することのほうが、こどもの居場所を整備する上でも無駄ではありません。細切れ稼働で運用コストが高くなる、企業によるこどもの預かりに国の予算を投ずるより、通年で稼働している児童クラブへの運用に予算を投じるべきなのです。しかし、そうはならなかったのですね。
そこに、先の報道から2つの気になる点があるのです。
「習い事などの教室を開く企業も対象」
「事業所内で保育所を運営している企業が、余剰スペースを活用したりスペースを追加したりして放課後に児童を受け入れるケースなどが想定」
この2つは、学習塾系の企業と、企業主導型保育事業を容易に連想させます。まさかそうではないとわたくしは期待しますが、よもや、この2分野からこども家庭庁、与党の有力政治家や、あるいは総理や閣僚が、しっかりとレクチャーを受けていて、「なるほど、学習塾がもっとこどもを受け入れればよい」とか「保育園落ちた日本死ねの時代も過ぎて、企業主導型保育事業の身の振り方を考えねばならないな。そうだ、学童保育っていうぐらいなんだから同じ保育だ、だからこれから企業内保育所で、小学生を受け入れればいいじゃないか」という考えに、至っているのではないかと、わたくし萩原は大いに勘ぐっているのです。まあまさかそんなことは、ないですよね。しかし、「どうしたこども家庭庁。放課後児童健全育成事業は絵に描いた餅か?」と、言いたいのです。
<対抗勢力がだらしなさぎて自滅しているからだ>
広い視点で見ればこれも「放課後児童クラブの企業運営化」に含まれるでしょう。わたくしは何度も言いますが児童クラブに民間企業が参入することに賛成です。それが非営利法人でなくても賛成です。「放課後児童クラブ運営指針」の理念を理解して指針が示す育成支援を実施しようとし、そのために職員の雇用の確保と雇用労働条件の向上を最優先として、その通りに児童クラブ事業を営んでいるのであれば、交付された補助金の残りを企業の利益に計上したってかまわないと考えています。
ただ、現実的には、全国あちこちで児童クラブや児童館を運営している、運営支援ブログが定義するところの「広域展開事業者」には、営利法人も非営利法人も、まずは事業者の利益確保が至上命題、としているようにしかうかがえないので、「そりゃダメだよ」と、わたくしは言っているだけです。
今回の新施策は、こども家庭庁としても、総合経済対策に盛り込むメニューを官邸から出せと言われたことと、高市早苗総理が自民党総裁選の折に口にした「企業型学童保育」のイメージを合わせたものでしょう。メニューを出さねば官邸から締め付けられますからね。高市総理が以前に話していたイメージに合わせる形で官邸が喜ぶメニューをあわてて用意したのではないかと、わたくしは想像しています。例えるなら、こども家庭庁側は官邸に対して「いまどきのコーラはこのように微炭酸ですから」というイメージでコーラを提出したのでしょうかね。「微炭酸どころか炭酸が入っていないようだが?」と官房副長官が首をかしげても、役人側は「いえいえ。これがバスり中の超微炭酸コーラですから」とでも言ったのでしょう。
そうこう、気の抜けたコーラを飲み干していくうちに、いつしかその抜けたコーラがなじみの味となり、かつて人気だった炭酸が効いた「スカッとさわやか」は過去の味となっていきます。放課後児童クラブもそうなりやしないか。こどもの健全育成には、有資格者をしっかり配置し、こどもにしっかりと関わる育成支援を行う放課後児童クラブが必要なんだ、ではなくて、企業内で行われる「単なる居場所だって、こどもにはそれでいいんだ」という考え方が主流となってしまうでしょう。
「こどもの健全育成には、児童クラブでの育成支援が欠かせません」と政治家や役所に継続的に訴え、アプローチし続ける努力が、とりわけ伝統的な児童クラブの界隈では、残念ながら力が足りていませんでした。それどころか、「企業参入は問題だ。保護者が指導員と手を取り合ってこどもを真ん中にする学童保育がいいんだ」と相も変わらず自分たちの立場だけを自画自賛しているだけであって、「現に、児童クラブの待機児童で困っている」保護者や社会に対して、何ら解決策を提示していませんでした。それでは、現実的に事態解消の責任を持つ行政や政府から相手にされません。いまだに「学童保育士」といった保育士と一般社会から誤認されやすい資格の創設を目指しているようでは、話になりません。
学童保育という名称にこだわっていると、結局は「保育所をやっている企業に任せておけばいい。学童保育なんだから保育なんだろ?」となっても不思議ではないのですし、そうなりつつありませんか。せっかく育成支援という新たな定義が誕生したのに、「いや、保育は育成支援の上位互換だからいいんだ」とかたくななのは、単に、旧勢力がなじんできた「学童保育」という以前からのなじみの呼称に愛着だけでその使用にこだわっているだけでしょう。「指導員」なんてまさにそう。「こどもを指導、つまり指示してあれこれやらせるだけの仕事でしょ? それならそんなに高い給料はいらないよね。だってこどもは大人の言うことに従うのが当たり前だからね」というイメージが一般化、定着し続ける恐れにちっとも目を向けない旧勢力には、ほとほとあきれます。つまり、「こどもまんなか」を目指す業界ではなくて自分たちが自分たちのままであることに酔いしれているだけの、井の中の蛙です。いまやその水の温度が沸騰して茹でガエルになってしまいつつあることに気が付かないとは、残念です。
児童クラブにはすでにもう営利が一番の企業がわんさか進出しています。その事業実施場所が企業内になるだけのことですが、こども家庭庁には、こんどの新施策は、放課後児童健全育成事業ではないと明確に区分した上で、「こどもと関わる人員には資格面などで一定の制限を課す」ことと「こども1人あたりの面積要件など、こどもの快適性に留意した基準の制定」「交付した補助金額とその使途の完全公開」を義務とするよう、運営支援は強く求めます。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
☆
「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
☆
New! ※当運営支援ブログにも時々登場する、名古屋の弁護士、鈴木愛子氏による「子どもが行きたい学童保育」(高文研)が発売されました。放課後児童クラブのあり方とその価値、本質が、具体的な事例に基づいて紹介されています。放課後児童クラブ、学童保育に関わるすべての方に読んでいただきたい、素晴らしい本です。とりわけ行政パーソンや議員の方々には必読と、わたくし萩原は断言します。この運営支援ブログを探してたどり着いた方々は、多かれ少なかれ児童クラブに興味関心がある方でしょう。であれば、「子どもが行きたい学童保育」をぜひ、お求めください。本には、児童クラブに詳しい専門家の間宮静香氏、安部芳絵氏のこれまた的確な解説も併せて収録されています。本当に「どえりゃー学童本」が誕生しました!
(https://amzn.asia/d/3QWpbvI)
☆
(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)
