<運営支援ブログミニ・21>放課後児童クラブ(学童保育所)に関わる最近の報道から。滋賀・栗東、最低賃金など。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と保護者、働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だから児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
 本日の運営支援ブログは、わたくし萩原の所用のためミニ版。最近の、放課後児童クラブに関する、あるいは影響が強い報道に対するわたくしの感想を述べます。とりわけ、滋賀県栗東市の事案は、こどもの人権を社会が守れていない悲劇です。なんとかこどもと保護者に寄り添った対応を、結果はどうあれ、まずは過程において苦しんでいる側の立場に立って考えていただきたいと強く願うものです。
 (※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)

<こどもの苦しみに社会は寄り添えないのか?>
 当運営支援ブログでいくどか取り上げてきた、滋賀県栗東市の民設民営放課後児童クラブに通っていたこどもが、心的外傷後ストレス障害で苦しんでいる事案です。滋賀の地元紙、滋賀報知新聞がこの事案に関する報道をしました。2025年11月13日付の「動き出した県子どもの権利委員会 2~3案件について調査・調整を開始」との見出しの記事です。ぜひ「滋賀報知新聞 子どもの権利委員会」で検索していただき全文をご覧ください。(滋賀報知新聞
 この記事には小見出しとして「栗東市の学童問題も調査対象に決まる 女子児童、約2年半経とうとする今もストレス障害」と付けられています。この小見出し通り、まさに2年半を過ぎても真相が解明されないまま、児童クラブに通っていたこどもが児童クラブの出来事のために心に深い傷を負って苦しんでいます。
 記事を一部引用します。
「子どもの権利を守ろうと県は3月に「県子ども基本条例」を制定し、この条例に基づき10月1日、知事の付属機関「子どもの権利委員会」を設置して1か月半が過ぎようとしている。」
「子どもや保護者が県に申し立てをし、知事が委員会に調査を求めたため、委員会は10月に検討して2~3案件を調査対象にすることを決め、現在、子どもから聞き取りなどの調査が始まっている。この中には本紙が連載を続けてきた栗東市の学童保育所での子どもの権利侵害疑惑案件も含まれていることが分かった。」
「栗東市内のA学童保育所(民設民営)で1昨年7~8月、当時小学校2年生の女子児童によれば、同学童の代表者から、激しく怒鳴られたり、謝罪を強要されたりしたことで、現在も心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しめられているという。女子児童の母親は何回もこの状態を同市に訴えたが、市は「学童保育所側が『そのような行為はしていない』と否定しており、事実確認はできなかった」を繰り返すばかりだった。
 本紙では、昨年11月14日付から計7回、単独で、この問題を報じてきた。そのような中、今回、この事案が委員会の調査対象に決まったことは、女子児童や母親に希望の灯が見え始めたといえる。2年半近くもPTSDに苦しめられている女子児童には、一日も早い救済が求められる。」
(引用ここまで)

 記事はわたくしも電話でやりとしたことがある石川政実記者の筆によるものです。「一日も早い救済」、まさにそれに尽きます。

 この事案、どうしてこどもが心に深い傷を負ったのか、こどもの訴えを児童クラブの設置主体、運営主体ともに詳細な調査をしないまま時間が長々と経過してしまい、関係者の記憶があいまいになり、防犯カメラもデータが上書きされて手がかりがないまま、簡単な聞き取りだけで詳細の解明に至らず半ば放置されているままの状況にあります。こども基本法の精神とは乖離した状態となっています。

 県の「子どもの権利委員会」には、単に書面上の審理にとどまらず、関係者への聴取や現場検証など改めて事案の真相に少しでも近づけるような真摯な行動をとられますよう、運営支援は切に願うものです。 

<最低賃金の到達目標を撤回だと?>
 高市早苗首相は2025年11月14日の参議院予算委員会で、これまで国が掲げてきた「2020年代で最低賃金1500円」について、目標を明言しませんでした。この答弁で各メディアは、高市政権は最低賃金の1500円目標の事実上の撤回と大きく報道しました。
 その中から毎日新聞がヤフーニュースに2025年11月15日15時40分に配信した、「<1分で解説>最低賃金1500円、高市首相は目標時期明言せず」の記事から一部引用します。
「高市首相は「今、必ずいつまでにいくらということを申し上げるわけにはいかない」と述べ、目標をそのまま引き継ぐかどうかは明言しませんでした。」
(引用ここまで)

 放課後児童クラブ「だけ」の立場で最低賃金を考えると、やや難しい問題があるのです。職員の賃金水準を引き上げるのに大いに貢献する一方で、資金繰りが苦しい児童クラブ運営事業者の経営を直撃するからです。
1 児童クラブで働く者の賃金は、最低賃金レベルか、それに近い賃金水準が多い。よって最低賃金が上がることは時給額の連動しての引き上げを意味するので、収入が増える。(決して歓迎するべき話ではありません。最低賃金レベルの時給額であることが、ダメなんです)
2 児童クラブで国からの補助金を受けて運営している場合、事業運営は補助金頼みです。その補助金の中心となる運営費補助は職員の人件費(実際は福祉の仕事をする公務員の俸給)を基に算定されています。最低賃金が上がっていけば公務員の給与水準も上がるので、いずれ児童クラブの補助金も増額されていきます。
3 児童クラブは運営事業者が独自に収入額をコントロールすることはできない事業形態です。補助金は要求下通りに増えないですし利用料(保護者負担金、保育料など)は市区町村の同意なく勝手に引き上げができません。児童クラブを利用する児童数を野放図に増やせることもできません。収入額はどうしたって年度ごとに天井の高さが決まっています。しかし最低賃金引き上げや物価上昇で支出は確実に増えていきます。結果、地域に根差している児童クラブ事業者の多くは、その経営が極めて危機的な状態にあるといえます。楽して経営している児童クラブ専業事業者なんてまずありません。

 最低賃金が2020年代までに全国平均で1500円になるということは、とりわけ、最低賃金と同額レベルの地方の児童クラブ勤務の方々にとっては朗報でした。岸田文雄政権が2030年代の1500円を打ち出し、石破茂政権になって前倒しされて2020年代となりました。しかし高市政権では年度の目標をおかず、「事業者が取り組むべき問題」としました。これでは、児童クラブ事業者のように事業者の努力ではどうにもならない業態においては、最低賃金の引き上げはとてもできないことになります。
 よく、SNSでは威勢のいいことに「最低賃金の引き上げに対応できない企業は潰れて淘汰されればいい。それが健全だ」という人たちがいますが、視野が狭すぎです。経営したことがないか、経営していても真っ先に利益を確保してウハウハの人なんでしょう。アウトソーシングされた公の事業が社会インフラとして社会の種々の活動を支えているということに思いが及ばない。それだけで視野が狭いことが良く分かります。民間委託や指定管理者として民間に運営をゆだねられた公の事業は最低賃金を引き上げていかないとそこに従事する人たちの暮らしは楽になりません。
 わたくしも児童クラブの運営責任者として、この数年間ほどではなかったですが最低賃金引き上げの時期は「うーん、経費が増えるなぁ」と心配になったものです。たった数円、10円前後の引き上げですらそうなんです。高市政権の新たな姿勢は、児童クラブの経営側としては正直、一息つけるかもしれませんが、長い目で見れば、児童クラブで働いてくれる人をますます減らしかねないとわたくしは危惧します。愚策と断じます。

<保育士のスポットワークの調査をするとか。児童クラブでもやってほしい>
 こども家庭庁は、保育所における単発バイト(スポットワーク)、いわゆる「スキマバイト」に関して調査をするようです。ヤフーニュースに2025年11月15日18時39分に配信された共同通信の「保育士単発バイト、初の調査 人手不足で拡大、質に懸念」の記事から一部引用します。
「こども家庭庁が、保育現場で短時間・単発で働く保育士の実態調査に初めて乗り出したことが15日、分かった。」
「人手不足に悩む施設側と柔軟な勤務を求める働き手のニーズに合致して活用が拡大している。一方、質の低下を懸念する声が保護者から出ており、全国の保育施設や自治体を対象に活用状況を把握する。」
(引用ここまで)

 旧ツイッター(X)では、保育所のスポットワーカー利用について歓迎する投稿が、働く側と雇う側の双方から目立つようにわたくしには思えます。それはマッチングの問題が大きいのでしょう。つまり保育士側の「こういう場所で、条件で、雰囲気の中で働きたい」という希望と、事業者側が提示している条件や事業者が運営する保育所の雰囲気やいわゆる「社風」「職場の雰囲気」が、なかなか合致しないがゆえに、「短期のお試し勤務」としてスポットワークが便利に使われているということです。

 わたしも雇う側にいたのでそのメリットはよく分かります。しかし、保育所もそうですが児童クラブや、同じくスポットワークが活用されていると言われれている放課後等デイサービスにおいても、「こども」を軸にした思考展開を忘れてはならないと、わたくしは考えます。こどもが、その日だけやってくる大人を信頼できるか。こどもに適切な援助、支援がどれだけできるのか。

 一方で、深刻な人手不足が保育所も、まして児童クラブでも運営を瀬戸際まで追いつめています。だからスキマバイトでもなんでもいいので人を確保したいという状況に陥っています。

 こども家庭庁には、保育所だけではなくて児童クラブにもスポットワークがどれだけ浸透しているかの調査をぜひ期待します。スポットワークに頼らざるを得ない労働力確保の図式がすでにできあがっているのかどうかをつまびらかにしてほしい。言わずもがな、事業者が提示する雇用労働条件が一定水準以上であれば、職員は定着して長く働き続けてくれるものです。つまり、こどもの福祉に関する職場の雇用労働条件の水準に問題があるからスポットワークの活用が進むという想像ができます。国にはしっかり調査していただいて、その原因への手当てを確実に行ってほしいと運営支援は期待します。

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

New! ※当運営支援ブログにも時々登場する、名古屋の弁護士、鈴木愛子氏による「子どもが行きたい学童保育」(高文研)が発売されました。放課後児童クラブのあり方とその価値、本質が、具体的な事例に基づいて紹介されています。放課後児童クラブ、学童保育に関わるすべての方に読んでいただきたい、素晴らしい本です。とりわけ行政パーソンや議員の方々には必読と、わたくし萩原は断言します。この運営支援ブログを探してたどり着いた方々は、多かれ少なかれ児童クラブに興味関心がある方でしょう。であれば、「子どもが行きたい学童保育」をぜひ、お求めください。本には、児童クラブに詳しい専門家の間宮静香氏、安部芳絵氏のこれまた的確な解説も併せて収録されています。本当に「どえりゃー学童本」が誕生しました!
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(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

投稿者プロフィール

萩原和也