ナイナイ尽くしの放課後児童クラブ(学童保育所)の職場。無理を承知で最善を尽くす手法を考えよう。その2
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だから児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
慢性的な人手不足にあえぐ放課後児童クラブですが、こどもの健全な育成を支え、子育て世帯の社会経済活動を支える重要な社会インフラです。いずれ、補助金の増額で必要な職員数を確保できる時代を必ずや到来させましょう。それまでの間、いかにして、少ない職員数の状態で消耗しきることなく仕事をなんとか続けられるかを考えるシリーズ。現状の、ひどい状態100を、なんとか80、60ぐらいまで減らす工夫をしようということです。今回は、少しでも児童クラブで働く人のワークライフバランスに有利になる制度として「フレックスタイム制度」導入を訴えます。(今回の内容は「社労士ブログ」が適切ですが、シリーズ全体としての統一感から「運営支援ブログ」と分類しています)
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
<フレックスタイム制度とは?>
1993年から1994年のウインターシーズンに大ヒットした「ロマンスの神様」(広瀬香美さん)という曲があります。いま20代の子育て中の方々にとっては生まれる前のヒット曲かもしれませんね。この曲の中に、「週休二日 しかもフレックス」というフレーズが出てきます。当時、フレックスタイム制度は大いに関心を集めたようです。「好きな時間に出社して、好きな時間に退勤できる」という仕組みが宣伝され、興味を集めたのですね。
フレックスタイム制度の説明をする前に、現在のフレックスタイム制度の導入具合、広まり具合を確認しましょう。「令和6年就労条件総合調査」(厚生労働省)に、導入について調査結果が掲載されています。10ページにあります。(gaikyou.pdf)
それによると、フレックスタイム制度を導入している企業は7.2%。かなり少ないです。放課後児童クラブの事業者も取り入れることがある1年単位の変形労働時間制が32.3%ですから。1か月単位の変形労働時間制でも25.2%です。
しかもフレックスの場合、大企業ほど導入する割合が高くなっています。フレックスタイム制度を導入している企業のうち、労働者が1,000人以上の企業は34.9%で、労働者数が減るほど導入している企業の割合も減っていき、30人から99人の中小企業では、たった4.4%まで減ってしまいます。
さてフレックスタイム制度ですが、考え方としては難しいものではありません。「好きな時間に出勤して、好きな時間に退勤できる」制度であって、「週平均の労働時間が40時間を超えることがない。月単位でみても、割増賃金が必要な時間外勤務(つまり法外残業)とならない労働時間で働く」制度です。この基本的な考えに基づいていくつかのルールがある、それがフレックスタイム制度です。
いくつかのルールを説明していきましょう。
まず1つ目、「清算期間」という概念があります。フレックスタイム制度はこの清算期間という期間内において、週40時間を超える法外残業の時間が生じないように、さらに月単位の法外残業が生じないように働く仕組みです。この清算期間は「3か月以内であること」と決まっています。
2つ目、「清算期間における総労働時間」を決める必要があります。その総労働時間を超えて労働すると法外残業となると考えて良いでしょう。
3つ目、「標準となる1日の労働時間」を決める必要があります。フレックスタイム制度は、1日1日でみれば、労働者が自分で勤務時間、労働時間を決定しますので、「1日何時間働きなさい」と、会社や雇い主が決めることはしません。ただしそれでは、年次有給休暇を使った時の賃金の算定ができませんから、年休を使ったときに雇い主が支払う金額を決めるためにも、この「標準となる1日の労働時間」を決めておくのです。
4つ目、これは任意に設定するものですが、フレックスタイム制度であっても必ず勤務することを求める「コアタイム」と、勤務しようがしまいが労働者の判断に任せる「フレキシブルタイム」という考え方があります。コアタイムは無くても構いませんし、むしろ、無い方がそれこそ自由な働き方が可能となるでしょう。一方で、コアタイムがとても長いフレックスタイム制度は、好きな時間に出勤して退勤することができる幅を狭めてしまうので、フレックスタイム制度とはなりません。
最後にとても重要なこととして、「就業規則には、出退勤の時刻は労働者が自主的に設定する、自主的に決めるという内容が含まれること」があります。つまり、雇い主は、「うちの社員は朝9時に出勤だ」と決めることが、そもそも起こらないということです。
フレックスタイム制度とは、かように自由な働き方ですね。とりわけ、育児や介護、看病をしながら働いている人には、使い勝手が良い制度です。ですので、改正された育児・介護休業法において、企業側は、3歳から小学校に入るまでの子を育ててている労働者や介護をしている労働者に、柔軟な働き方を実現するための措置として、このフレックスタイム制度も措置の1つとして認められているのです。
<フレックスタイム制度の弱点>
働く人が自分自身で出勤、退勤時刻を決めるということは、どういうことでしょう。つまり、「自分が抱えている仕事は、何日までに終わらせることができる」「過去の経験や周りの人の行動から考えると、今後、場合によっては、新たに仕事を依頼される可能性がある」というような、自分自身の仕事をこなす環境をしっかり把握して、「仕事を終わらすメド」「新たな仕事を指示される可能性」「自分自身の体調や私生活上における出来事」などをしっかり想定した上で、自分自身の労働時間の割り振りを日ごとに考えて置く必要があるのです。
つまり、「自分自身の、タスクコントロールが、できるかどうか」が、フレックスタイム制度を使いこなせるかどうかの分かれ道となります。
自分自身が、「仕事の量の見積もり、仕事がやってくるタイミングの見極め」と、「仕事を片付ける段取りと、仕事をこなす手立ての確立」、そして「想定通りに仕事をこなしていくだけの実行力」が備わっていないと、このフレックスタイム制度は、地獄の制度と化してしまいます。
それはですね、仕事について自分で見極めができずにいつも上司から指示を受けて動く「指示待ちタイプ」の人では、フレックスタイム制度は使いこなせないからです。「自分自身で仕事の量と質を見極めつつ、仕事量の増減イメージの把握」ができない自己主体型の人間でないと、フレックスタイム制度の魅力を活かせないからです。
「のんびり仕事しようっと」と、月の下旬に至るまで他の同僚より毎日1時間ほど短く働いていた人が、月が終わる数日前に「ええっ、こんなにやらねばならない仕事があるなんて! 徹夜しても間に合わない!」ということになる可能性があるのが、フレックスタイム制度です。
こども時代、夏休みの宿題を、夏休み最後の1~2日間、ほとんど寝ないでなんとか片づけた、そういう夏休みを毎年過ごしていたという人には、わたくし萩原は断言します。「フレックスタイム制度は、泣くぞ」と。逆に、毎年夏休みには、お盆に入るころには全部宿題を終わらせていたとう人には「あなたはぜひともフレックスタイム制度のある会社に勤めなさい」と勧めます。
<児童クラブの仕事とフレックスタイム制度>
わたくしは、児童クラブの仕事とフレックスタイム制度は、かなり相性が良いと考えます。それは、児童クラブの仕事には「不確実性が高い」からです。ちょっとまってよ、見通しが立たないとフレックスタイム制度は厳しいとあんた書いていませんでしたか? と思われる方が大勢いるでしょう。
この不確実性というのは、短いスパン、つまり「1日単位」のことをわたくしは考えています。分かりやすいのが、こども同士のトラブルやこどもと職員のトラブル、あるいは職員間の意見のすれ違いなどで、それらが発覚したその日にある程度の事後対応をする必要があることが、児童クラブはままあるのですね。夕方の午後6時すぎに、クラブにいるこども同士が大げんかをはじめてしまい、その対応を余儀なくされることって、あるものです。フレックスタイム制度でない場合は、退勤時刻を過ぎたら残業になってしまうので、いつも運営本部や役員連中から「残業はダメ!」と口うるさく言われてしまっている職員は、残業をしないためにトラブル対応がおざなりになってしまったり、解決を後日に持ち越したゆえにトラブルが悪化してどうしようもなくなる、ということがあるものです。
しかしフレックスタイム制度の場合は、その日に何時に退勤するか、自分自身で決められます。「よし、ここまで対応すればトラブル解決の糸口が見えたから、きっとうまくまとまる」という時点まで働くことができます。夜も安心して眠れるというものです。
仕事が山積みの児童クラブですが、それでも時々、「奇跡の日」がありませんか? 特にイベントもないし、午前中の会議や研修も入っていない、午後からは頼みになるパート職員がフルに入ってくれる。最近のこどもたちは、とても落ち着いてまとまっている。提供する予定のおやつの品の数量も賞味期限もしっかり確認済みだ。「これなら、1年生が登所してくる1時間前の午後1時出勤で、十分間に合いそうだ!」という奇跡の日は、自分の判断で、午後1時に出勤することもできるのです。これは、就業規則や勤務シフトで出退勤の時刻が定められている変形労働時間制であってもできないことです。フレックスタイム制度の場合ならではの、柔軟な働き方の実現です。
また、月の前半はルーティン業務もさほどではない。月の下旬は、児童票や児童の記録を作成しなければならないし、勤怠管理でいろいろな作業があるから、下旬に労働時間を長く設定しよう、ということもフレックスなら容易です。標準となる1日の労働時間が1日8時間であっても、上旬は7時間勤務の日を増やし、下旬は逆に9時間勤務の日を増やすということができます。
体力に自信がある人でしたら、あまり仕事に気分が乗らない週の前半は労働時間を短めにして早く帰宅して体調を整え、週末の休みが近づいてうれしくなってくる木曜日や金曜日の勤務時間を9時間や10時間にして仕事を片付け、週末を満喫する、ということができます。土曜日も開所していることが多い児童クラブですから、疲れがたまる週の真ん中の水曜日は5時間、6時間の勤務としておいて、こどもの登所人数が少ない土曜日は長く働いて、こどもの支援、援助の通常業務をこなしつつ書類仕事、事務仕事もやっつける、ということもできます。
児童クラブで働く人は老若男女さまざまです。育児や介護、看病、自身の病気の治療など、いろいろな事情を抱えている人も当然います。そういう人たちに、柔軟な働きかたを提示できるのも、フレックスタイム制度です。
<メリットが多いはず>
フレックスタイム制度を入れたとて、職員数が増えなければ結局は職員1人あたりの仕事の量は変化がありません。そういう意味では、人手不足による苦しみから児童クラブ職員を解放する決め手には、なりません。なりませんが、職員1人1人の事情に合わせた働き方をなるべく実現できる制度ですから、1か月や3か月という期間を上手に活用し、仕事の量や、新たな仕事がやってくるタイミングを上手に見極めつつ、自分自身で働き方のペースを調整することで、「自分自身にとって、少しでも仕事を上手に消化できる環境」を整えることができれば、とてもきつい仕事量であっても、少しぐらいは負担が軽減できるでしょう。
厚労省はHPにある資料(フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き)で、「労働者にとっては、⽇々の都合に合わせて、時間という限られた資源をプライベートと仕事に自由に配分することができるため、プライベートと仕事とのバランスがとりやすくなります。」と、紹介しています。
児童クラブにおいては、少人数の職員同士が常に綿密にコミュニケーションを図りながら日々の仕事を行っています。フレックスタイム制は、「〇月〇日は、誰々さんは、〇時に出勤/退勤する」ということを、その職場の全員が知っていないと混乱を招きますが、児童クラブはもともとコミュニケーションが綿密「なはず」であり、少人数ですから顔を見合わせて働いているので、互いの状況だって把握しやすい。そのような濃密人間関係が苦になる場合もありますが、こと、フレックスタイム制度においては、本来なら有利と働く要素です。あえていえば、少人数の労働集約型産業ゆえ、「個々の職員にとって最適な時間帯に」、業務を集約させることができるフレックスタイム制こそ、児童クラブにぴったりの、労働制度といえるでしょう。
それはすなわち、児童クラブではなかなか難しい、労働生産性の向上に貢献することです。
<フレックスタイム制導入について>
制度そのものは簡単です。ですが、フレックスタイム制度の導入については、法令によって手続きを踏まねばなりません。所轄労働基準監督署長に就業規則(1か月以内の清算期間)や、労使協定と就業規則(1か月を超える清算期間の場合)を提出しなければならず、また、いわゆる「三六協定」も通常のものとは違う内容になります。
よって、普段から給与計算などでお付き合いのある社会保険労務士に相談すると良いでしょう。費用はかかりますが、きっと丁寧に、フレックスタイム制度の導入を実現してくれることでしょう。
何より、「現場クラブや運営本部で働いている職員、スタッフ」にとって「基本的には、メリットがありますよ」ということを丁寧に、時間がややかかってもいいので、じっくりと説明して理解を得ることが欠かせません。いくら事業運営の責任者や経営者が「よし、では再来月から導入してくれ」と一方的に指示しても、「自分で自分の労働時間を把握しておくなんて面倒くさい!」と、ちょっとした弱点が大きく捉えられてしまって職員の一層の不満をたぎらせる結果になるかもしれません。その点だけは、ご留意を。
何かと忙しい児童クラブの現場にこそ、自分自身で仕事の片づけ方、取り組み方を決められるフレックスタイム制度はお勧め、というのが本日の結論です。それはつまり、児童クラブの職員は、自分自身で主体性をもって仕事に取り組む範囲が広いということでもあるでしょう。ですから、指示待ち人間には向かず、自分自身であれこれ考えて仕事に取り組める能動的な人が必要な仕事、ともいえるのです。児童クラブでうまく仕事をこなしている人は、すなわち自主的であって能動的な人であることをおのずと証明しているのですから、究極の自主性の尊重であるフレックスタイム制度は、まさにぴったりであると、いえるでしょう。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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New! ※当運営支援ブログにも時々登場する、名古屋の弁護士、鈴木愛子氏による「子どもが行きたい学童保育」(高文研)が発売されました。放課後児童クラブのあり方とその価値、本質が、具体的な事例に基づいて紹介されています。放課後児童クラブ、学童保育に関わるすべての方に読んでいただきたい、素晴らしい本です。とりわけ行政パーソンや議員の方々には必読と、わたくし萩原は断言します。この運営支援ブログを探してたどり着いた方々は、多かれ少なかれ児童クラブに興味関心がある方でしょう。であれば、「子どもが行きたい学童保育」をぜひ、お求めください。本には、児童クラブに詳しい専門家の間宮静香氏、安部芳絵氏のこれまた的確な解説も併せて収録されています。本当に「どえりゃー学童本」が誕生しました!
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