無償化ー放課後児童クラブ(学童保育所)の利用料を無料にする動き。基本的に歓迎ですが、大事な2点を説明します。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く、成長ストーリーであり人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
 放課後児童クラブの利用料金無償化に関する集英社オンラインの記事(2025年9月15日配信)にコメントを寄せました。とても分かりやすくまとめられている記事(https://shueisha.online/articles/-/255075)ですから、ぜひ、一人でも多くの方に読んでほしいです。実は文字数の関係で伝えきれていない趣旨もありますので、今回の運営支援ブログで紹介します。
 (※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)

<児童クラブの無償化>
 児童クラブの無償化とは、保護者が定期的に支払う料金を無料にすることです。集英社オンラインの記事では、北海道小樽市と神奈川県松田町、そして東京都中央区が紹介されていましたね。小樽市も、松田町も、運営支援ブログで取り上げたことがある記憶があります。集英社オンラインの記事では、保育所は無償化になった、でもなぜ学童は無償化されないのか? という疑問から取材をスタートしたようです。

 児童クラブの利用料を無償にしている地域は確かに少ないです。基本的には人口の少ない地域がほとんどで、ずっと以前から利用料を無償にしてきているようです。一方で、小樽市や松田町などはつい最近に無償化に踏み切りました。それはひとえに「シティーセールス」「シティープロモーション」、つまり子育て世帯を呼び込んで定着させ、人口を維持しようという目的のためにぶち上げた施策、という性質があります。東京都中央区も夜間人口増加のため以前から無償だったようですが最近は人口が増えすぎて大変のようですね。

 児童クラブを利用する保護者が支払うのは大きく分けて3種類です。1つは今回の無償化の対象ともなっている「利用料」、保護者負担金や保育料、育成料など地域によって様々な呼び名があります。この呼び名の種類の多さがすなわち児童クラブの事業内容の多種多彩な実情を示していますね。この利用料は、児童クラブの事業運営に使われます。具体的には職員の人件費、施設の光熱水費、児童クラブ事業者の組織そのものの運営に使われます。一般的に、公営クラブは低額、民営クラブのうち職員を無期雇用で処遇している(つまりそれだけ運営の質を重視している)非営利法人は高めの額に推移します。最も利用料が高額なのは学力支援やスポーツなどその事業者が行う自主事業が充実している民間企業運営のクラブで、その自主事業に要する費用を利用料に上乗せして徴収するか、別途、請求することになります。
 もう1つは実費負担分、つまり保護者(実際はクラブを利用する、こども)の個人的な利益に還元されるための費用です。おやつ料金、昼食の弁当代や給食費用、送迎に関する費用が該当します。また、児童クラブ事業者によっては教材に関する費用(折り紙や書籍等)もこの実費負担分として個々の世帯が支払うことにしています。教材費は利用料に含めることが多いようですが、このあたりもまた児童クラブの振れ幅の大きさの現れでしょう。また、保護者による団体(=保護者会、父母会)の活動費用をここに含めて徴収する児童クラブもあります。
 最後は保険料です。児童クラブは、こどもも職員も何かとけがが多い業態です。放課後児童クラブ運営指針では、運営主体は損害賠償保険に必ず加入することが示されており、傷害保険についても必要としています。このことで、入所するこどもの保険について保険料が発生します。ただしこの保険料を設置主体である自治体が負担するとしている地域も、かなり少数ではありますが存在します。

 つまり、児童クラブを利用する保護者が負担する費用は主に3種類あって、それぞれ「利用料」「実費負担分(おやつ代や保護者会費)」「保険料」です。

 児童クラブの無償化が話題になる場合は、3つの費用負担のうち「利用料」が取りざたされることがほとんどです。

<ここで、私の意見を>
 先の集英社オンラインの記事で児童クラブの無償化についてコメントを依頼されましたが、そのコメントしてわたくし(萩原)が示したコメントをここに掲載します。とても長くなったのでそのうちの10分の1程度しか、実際に記事では使えなかった(それはむしろ当然)のですが、無償化を考えるうえで必要な視点が含まれているので、紹介します。

(以下、萩原のコメント)
 無償化に踏み切る自治体が珍しいのは、運営経費の確保の面で当然だと考えます。無償化が広まることに賛成かどうかで申せば、私は無償化には基本的に歓迎ですが「条件付きの賛成」のスタンスです。
 児童クラブの利用者の経済的負担が軽減されることは歓迎です。ただし、保護者からいただくお金も児童クラブ事業の運営に使われることを考えると、その無償化によって児童クラブ事業者(公営クラブの場合は、自治体の中の児童クラブ運営部門)の収入が減ってしまっては事業経営にダメージが生じます。無償化によって、児童クラブで行われる健全育成事業の質が損なわれてはならないと考えますし、児童クラブで行われるこどもへの支援の質が下がるような無償化であれば、行うべきではありません。
 具体的には、無償化によって減る児童クラブ事業者の収入分をしっかりと自治体が児童クラブ事業者に出す、補填することが約束されるのか、という問題です。自治体が児童クラブに投じる予算額がなかなか増えることが無くその結果として職員の人件費が低い額に留まって職員の雇用労働条件が改善される方向にないのであれば、無償化には問題があるとします。有能な職員を確保するには当然ながらその専門的な職務に応じた賃金設定が必要ですが、無償化によって自治体が児童クラブに対して割り当てる予算の総額に影響が出るとしたら、真っ先に影響を受けるのは職員の人件費であり、人件費の削減や抑制という形態で表面化します。児童クラブの職員はいわゆるワーキングプアの状態ですから、予算が減って賃金がなお上がらないとなると、優秀な人材の確保どころか、職員の頭数すら確保できない深刻な状況が、今ですらそうなのに、さらに悪化します。それは事業の質をさらに低下させることになります。
 さらには、待機児童が生じる、既存の児童クラブの大規模状態が解消されない、ということが無償化による全体の予算の減少によってもたらされるのであれば、無償化の弊害の方が深刻と考えます。児童クラブ利用者の経済的負担は、きめ細やかな応能負担の徹底でもカバーできます。自治体が児童クラブの無償化を進めるのであれば、その分の減少した収入を自治体の一般予算から確実に拠出することがセットで必要となるでしょう。それができる自治体が増えて無償化される児童クラブが増えることを望みますが、それはなかなかの難問だと感じています。
 むしろ、低所得者世帯が確実に児童クラブを利用でき、かつ、所得が高い世帯からはある程度の金額(数千円程度)を徴収することの方が、長い目で見れば安定した児童クラブ事業が実現できると考えます。(ほとんどの自治体で、生活保護の世帯は利用料無料で、就学援助の世帯は利用料を半減するなどの減免措置を設けていますが、極度に低所得の世帯は、実費負担とされるおやつ料金や昼食料金、保護者会費などの経済的負担が厳しく、児童クラブの入所をあきらめている実態があります。そしてまさにそうした世帯こそ、児童福祉において児童虐待など種々の困難を抱えている世帯です。そうした世帯が確実に児童福祉の一端を担う児童クラブに入所でき、貧困世帯を把握する社会のセーフティーネットに把握できるよう、おやつ料金など実費負担分をも免除する無償化施策が必要です)

 放課後児童クラブは「放課後児童健全育成事業」を実施する場所のことですが、その「放課後児童健全育成事業」が、児童福祉法による法定事業であっても市町村の任意事業であると位置づけられていることが、最大の要因と私は考えます。保育所は、保育を必要とする住民が存在する限りにおいて自治体は保育の場を用意する義務がありますが、放課後児童クラブは任意事業ですから、実施するもしないも、市町村が事情に合わせて判断することができます。つまり「やっても、やらなくてもいい」というのが児童クラブです。
 児童クラブの法的な位置づけが構造的に貧弱であることが、自治体や国も、なかなか、思い切った児童クラブの拡充、まして無償化に動かない要因であると考えます。待機児童がなかなか減らないのは児童クラブ事業の量的な整備が社会のニーズに足りていないことの証左ですが、児童クラブの設置や事業の実施すら心もとない地域が存在するのですから、無償化ともなると、さらに困難です。
 もとより、放課後児童健全育成事業は1950年代から必要に応じて住民や自治体が独自に行ってきたものですが、法制化は1997年からであって、児童福祉の世界では「もともと必要が無かった」とみなされていた分野です。それは、「小学生ともなれば、留守番もできるだろうし、地域で自分の力で過ごすことができる」という社会の認識が根強い(実際、1980年代まではそういう地域が多かったことでしょう)ため、今に至るも、公的な補助を投入して支える福祉の分野とは、まだまだ確実な理解が及んでいないことが、後回しになっている要因の1つであると考えます。
 最後に、急激な少子化の進行です。「いま、児童クラブの整備に投資しても、あとちょっとすれば小学生の数はどんどん減るから」として自治体の児童クラブ整備の意欲が上向きません。無償化を進めるどころか、児童クラブの量的な整備そのものが立ち遅れています。(ただし、地域差はあります。いわゆる「放課後全児童対策事業」を実施している地域では待機児童は生じていません。代わりに深刻な大規模状態がもたらす弊害が懸念されています)

 放課後児童クラブに関して、国はずっと以前から、児童クラブの運営経費の半分(5割)は、保護者の負担(受益者負担)である旨、示しています。こども家庭庁に児童クラブが移管されていますが、こども家庭庁が発表する資料、例えば予算の概算要求に関する報道発表資料にも、児童クラブに関する補助金を解説する資料の冒頭に、その国の考え方が示されています。あくまで国の考え方であって自治体に強制するものではありませんが、例えば自治体が保護者負担金(利用料、保育料などと呼ばれるもの)の引き上げを考えるにあたって、引き上げの根拠として、この国の考え方がほぼ必ずと言っていいほど例示されています。
 この国の方針が変わらない限り、特別な事情、それは自治体の子育て支援のアピールのために無償化に踏み切るといった個々の自治体の特別な事情や戦略でも存在しない限りは、全国規模の児童クラブ無償化はなかなか実現しないでしょう。なお児童クラブの運営側の立場を代弁すれば「無償化でもなんでもいい。とにかく、児童クラブを安定して運営するに足るだけの補助金を国と自治体は、出してください。最低賃金を守ることすらままならない状況ですよ」です。

 児童クラブは質と量の双方において、まだまだ貧弱な構造です。児童クラブで配置が求められている「放課後児童支援員」という都道府県資格は非常に容易に取得でき、本来の児童クラブにて求められる職務の専門性を裏打ちするような資格とはなっていません。資格1つとっても位置づけや構造が弱いのです。児童クラブの世界が今後、安定して発展していくためには、「現在の法定任意事業から、保育所と同等の、児童福祉施設へと位置づけを変えること」が最重要です。
 また、保護者が運営経費の半分を負担するという国の方針の変更も必要です。多くの自治体では児童クラブに予算を割きたくても優先度が低いためかなかなか予算を児童クラブに充てません。児童クラブに関する国の補助額の割合は全体の6分の1(保護者が2分の1であり、国と都道府県、市町村がそれぞれ3分の1ずつ)と国は示していますが、この国の負担割合をもっと引き上げることが重要です。
 最後に、児童クラブの市場化が急拡大する中で、児童クラブ事業に参入する企業や団体も増えていますが、補助金が交付される事業であることを鑑みて、過度に利益追求を求める事業者への規制が必要です。児童クラブの民間企業参入を私は否定しませんし、公営より民営の方が全般的にサービスの質が向上することが多いのですが、「補助金ビジネス」として、児童クラブを運営することで利益確保を優先する事業者が少なからず存在している現状は問題だと考えています。児童クラブの収益構造は補助金と利用者から徴収する利用料ですが、前者は税金であり、後者もいわば働きながら子育てをするためにやむなく児童クラブを利用するために支払っている「子育て税」のようなものです。児童クラブの収入は基本的に児童クラブの安定した運営に使われるべきで、その上で生じた剰余金を事業者の利益とすることは問題ないとしても、先に必要な利益分を確保した残余の額で児童クラブを運営しなさいとしている事業者がほとんどです。
 この点の規制は、特に自治体は「職員の賃金額を例示した公契約条例」を制定することや、個々の事業者と交わす契約の段階で利益確保を最優先とできないようにする歯止めをもうけること、補助金を交付されて児童クラブ事業を営んでいる事業者がその収支をクラブごとに完全に公開すること(つまり納税者たる国民が児童クラブ事業者のお金の使い方をチェックできること)が、限られた予算の中で安定した児童クラブ事業を続けるために肝要であると、考えます。

(以上ここまで。このすべてを15分ほどで一気に書き上げました)

<無償化で大事にしたい2点>
 上のコメントにありますように、1つは「質の維持」です。無償化はもっぱら利用料の無料化ですが、利用料の多くは児童クラブで働く職員(それは組織運営の本部、事務局等で働く者も当然に含みます)の人件費に使われます。通常で70%以上、職員配置を重視する事業者では支出の80%が人件費です。無償化によって単純に収入が減ってしまったら、この人件費を削すしかありません。それは職員の安定した雇用を不可能とします。大変で専門性のある仕事なのに、めちゃくちゃ安い給料しかもらえないとしたら、なかなか職員は集まりません。有能でこどもの支援に優れた職員が、「やりがい」を大事に踏みとどまったとしても、いつしか、低賃金では生活苦に押しつぶされて離職してしまいますし、「あんなに働いても、もらえる報酬はこれだけか」という絶望感にさいなまれて離職してしまいます。それは当然で、離職する者は絶対に責められません。

 無償化をするには、自治体が、減った収入分をしっかりと自治体の予算で補填することが絶対に必要です。(このことはつまり、受益者である児童クラブ利用者の経済的負担を減らして、その地域に住む人々がみんなで児童クラブの運営費用を負担する方針への転換を意味します)

 もう1点は「実費負担分と保険料の無償化も併せて検討すること」です。児童クラブで毎月必要となる実費負担分、その中心であるおやつ料金はだいたい2,000円前後。この費用負担が厳しくて児童クラブに入らない低所得の世界は珍しくありません。全国ほとんどの地域で、生活保護の対象世帯は児童クラブの利用料は無償となっていますがおやつ料金は支払うことが求められます。最近、急増している長期休業期間中の昼食料金にしても、生活保護世帯であっても一定の負担を必要とする地域が多いようです。
 このため、生活が不安定で福祉のネットーワークに関わらせておくことが必要な世帯のこどもが、児童クラブに入れずにいるために地域の福祉のネットワークにて常時、その生活の様子が把握できない状態が生じています。これこそ児童福祉の観点からすると大問題です。
 放課後児童クラブは、保護者の就労等と子育てを両立する社会インフラですが、その土台は「こどもの健全育成」、こどもの生存権を守るための児童福祉の仕組みです。いまは仕組み上、働きながらの子育てを支えるという留守家庭のこどもが主な対象となっていますが、わたくしはかねて、生活に余裕のない世帯のこどもを児童クラブは受け入れるべきだと訴えています。子育てがままならない世帯のこどもを無償で受け入れてその子を見守る役割を児童クラブに与えるために、児童クラブの無償化は、児童福祉の観点から推進されるべきでしょう。ただしそれは応能負担の工夫でも実現できます。つまりは特定の所得層の無償化ということです。

 「児童クラブの運営の質を低下させない、ことに職員の雇用労働条件を悪化させない」無償化が求められますし、「実費負担分や保険料も無償化として子育てが困難な世帯のこどもを積極的に受け入れる」無償化が必要です。無償化の狙いに、自治体の存在アピール、人口の呼び込みがあるのは理解できますし全くもって異論はありませんが、無償化する地域にはぜひとも、すべてのこどもの利益になるような無償化と、その地域の児童クラブで働く職員が誇りを胸に抱いて長く働ける充実した雇用労働条件が実現されている無償化を、切に望みます。 
 
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

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萩原和也