カスハラをなんとかして! 放課後児童クラブ(学童保育所)の現場と運営を悩ますカスハラ対策が、義務になります

※本日は<あい和社会保険労務士事務所>としての「児童クラブの社労士ブログ」です。 

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営事業者をサポートする「あい和社会保険労務士事務所」社会保険労務士の萩原和也です。
 放課後児童クラブで、多くの職員や運営者が頭を抱えている問題が、カスタマーハラスメント(カスハラ)問題です。児童クラブに向けられる理不尽なクレームについては「運営支援ブログ」でも何度か取り上げていて、2023年6月27日付の「学童保育への「苦情、クレーム」問題を考える。実は案外、簡単です。」の記事は今なおかなりお読みいただいているようです。今回の「社労士ブログ」では、事業者にカスハラ対策が義務となったことを紹介します。あわせて児童クラブのカスハラが難しい問題であることの筆者(萩原)の独自見解も紹介します。
 (※基本的に運営支援ブログ同様、「社労士ブログ」でも、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<法律が改正されました!>(001502757.pdf
 通称「労働施策総合推進法」と呼ばれる法律が2025年6月に改正されました。その改正で、事業主(=事業を営む会社や法人や団体。児童クラブを運営するすべての組織が該当します)にカスタマーハラスメント対策をすることが義務付けられました。詳細は厚生労働省のウェブサイトに資料がたくさん掲載されています。結構、難しい内容を含むのですが、厚生労働省の資料に掲載されている文章をとりあえず引用します。(001502748.pdf
「カスタマーハラスメント(※)を防止するため、事業主に雇用管理上必要な措置を義務付け、国が指針を示すとともに、カスタマーハラスメントに起因する問題に関する国、事業主、労働者及び顧客等の責務を明確化する。 ※ 職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境を害すること」

 この決まりですが、改正された法律が公布された2025年6月11日から1年6月以内、となっていますから、2026年12月までの間に実施することになります。

 ここで確認しておきたいことは「カスタマーハラスメントの定義」です。厚労省の資料では上記で紹介したように「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境を害すること」です。
 この資料(001502758.pdf)に、カスハラの3つの要素が説明されていますので、紹介します。
「①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う、②社会通念上許容される範囲を超えた言動により、③労働者の就業環境を害すること。」

 児童クラブにあてはめてみましょう。顧客と施設利用者は、児童クラブを利用する保護者が一番分かりやすい存在でしょう。取引先は、おやつを定期的に購入している業者が相当するでしょう。保護者が、社会通念上、「それはアウトだよね、言ってはならないことだよね、要求してはいけないことだよね」ということを、「児童クラブの現場職員や運営に従事する本部・事務局職員に対して行ったことで、職員の仕事やメンタルに悪影響を及ぼした」ということが、カスハラに該当するでしょう。
 例えば、児童クラブの閉所時刻に1~2分、間に合わずにクラブに到着した保護者に対して児童クラブ職員が規定通りに「延長料金のお支払いをお願いすることになります」と、これまた規定通りに知らせたところ、遅れてきた保護者が激高して「たった数分だろう、ふざけんな。絶対に払わないぞ。そんな言いがかり許せない、土下座して謝罪しろ!」と数十分、職員に要求し続けた、ということが考えられます。

 児童クラブにはまず間違いなくそれぞれの児童クラブなりのルールがあって、保護者もそのルールを守って児童クラブを利用することになるのですが、そのルールを保護者が一方的に破ったり無視したりすることで、現場や運営の職員に対して、一方的な要求を押し通そうとすることは、カスハラになるでしょう。度を越した謝罪要求や、月ぎめの利用料を滞納してその請求を受けたことに逆ギレして延々と職員を怒鳴りつける、あるいは差別的な言動を毎度毎度、職員に対して行うこともカスハラに相当すると、私(萩原)は考えます。

 私が実際に職員から受けた相談では、クラブの保護者がこどもを迎えに来るたびに嫌味を言ってくるので嫌だ、というものがありました。「あなたの顔を見ると元気なくなっちゃうんだよね」とか「あら、まだいるの? いつ辞めるの?」「こどもがあまり好きにならないタイプよ」と言われるんです、あの保護者とは顔を合わせたくありません、というものでした。

 わたしは児童クラブ運営法人で理事長や事務局長という組織のトップで経営者であって労働者ではなかったので厳密には何をされてもカスハラの被害者にはならないのでしょうが、「あなたみたいな老けた顔のオッサンにそんな説教臭いことを言われたくないです」と保護者に食って掛かられたことは、今なお「チクショー!」と苦笑いします。児童クラブ入所申請期限を不注意で忘れてしまった保護者から延々と何時間も入所を要求されたこと、毎月設定されている退所の申し出期限を過ぎたのに「今すぐ退所させろ。今月は1日も登所していないから保育料も払わない」とこれまた何時間も怒鳴り声で要求してきた保護者には、今も怒りを覚えますね。
(そういう困った保護者さんの対応を事務局職員に任せずに役員たるわたしが基本的に引き受けていたということは全体的な目で見れば職員防衛策ですが、組織防衛としてはリスクが高いため万人にはお勧めしません。後述します)

<何をどうすればいい?>
 これもまた、資料(001502758.pdf)に、「事業主が講ずべき具体的な措置の内容等は、今後、指針において示す予定」とあります。
 現段階では3つ、「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」「相談体制の整備・周知」「発生後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置」が、厚労省によって挙げられています。
 児童クラブに当てはめますと、児童クラブの運営事業者(=保護者会運営なら、実際に運営に関していろいろ決めている役員会や、運営委員会が相当するでしょう)は、「うちのクラブでは、カスハラ対応をこうします。こういうときは、こういう対応を取ります」と決めて全職員に説明し、対応方法についても研修で教えることです。そして、「カスハラで困ったときの連絡相談先はここですよ」と全職員にしっかり説明する。クラブにも連絡先を掲示しておく。そして、カスハラに直面した職員から報告があった場合、児童クラブ事業者は直ちにその対応を取り、カスハラ問題を収束させる、ということです。

 上記のことを円滑に行うには、児童クラブの事業者は、国が出すという指針を参考に、「カスタマーハラスメント対応マニュアル」を策定する必要があるでしょう。すでにパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントについては同様の対応マニュアルを(間違いなく)整備していることでしょうから、それにカスハラ対応が加わるということになります。
 つまり「来年(2026年)12月までに、児童クラブ事業者も、カスハラ対応を明確にしておく必要がある」ということです。

 なお、すでに厚労省がまとめた「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」があり、これにそって、カスハラ対策の指針を取りまとめて運用している保育所や児童館の運営事業者もあります。素晴らしい取り組みだと運営支援は考えます。

 さて、法改正があったのですから、児童クラブ事業者は、今から、カスハラの対応に関するルール、マニュアルの整備にとりかかりましょう。盛り込むことは次のことになるでしょう。
「これらはカスハラになります」という類型を職員と保護者の双方に示すこと
「このようなカスハラは児童クラブとしては認めません」と具体的な類型を示して保護者に説明すること
「職員がカスハラを受けた場合、わたしたちはこのような対応を必ず行います」として、職員を組織として守ることを明確に示すこと
「カスハラを受けた場合、すぐにここに相談してください。必ず解決まで対応します」と全職員に丁寧に確実に伝えること
「カスハラをなる行為が生じないよう、児童クラブとしてこのようなことを行います」と具体的な方策を職員と保護者の双方に示し、実施すること
 これらを盛り込んだルールやマニュアルを作成し、実際に職員がその決まりに対応した動きを行うことを、2026年12月までに完成させましょう。これらのルールやマニュアル作りは、労働に関する専門的なことですから、社会保険労務士や弁護士に相談することで、より充実したハラスメント対策を講じることができます。

 なお、多くの児童クラブでは「入所案内」や「利用の手引き」などに、「児童クラブ側の指示に従わない場合、退所していただくことがあります」とする規定を設けています。入所を申請した世帯に、誓約書として「児童クラブのルールを守れない場合は退所」という決まりを設けて署名、提出させることも多いでしょう。
 それらは訓示的なもので、一定程度の「警告」の意味合いとして効果は期待できるでしょう。ただし現実にカスハラ行為があったからとしてその訓示的な規定を根拠に問題を起こした世帯のこどもを退所させることは、私は問題があると考えます。児童クラブは民間学童保育所でなければ一般的には公の事業である放課後全児童対策事業という児童福祉サービスをこどもに提供する施設であり、こどもがそのサービスを受ける権利を中断させられる措置はよほど慎重に検討が加えられる必要があるでしょう。児童クラブの運営に重大な影響を及ぼしている状態からの回復に、カスハラ行為を行った世帯の退所措置しか合理的な手法が存在しないということが客観的に明らかである必要があると、運営支援は考えます。

 万が一、あまりにもひどいカスハラ行為を起こした世帯を、やむなく退所退会させる措置を取る場合においては、「具体的に、カスハラ行為の類型や程度に応じて、児童クラブ側が取りうる措置を明示すること」が必要です。それも、注意、その次の段階はいきなり退所処分だけ、という2つしかないという極端な対応策ではなく、段階的に、その程度や回数に応じた措置を決めておく必要があるでしょう。
 例えばですが、定期的な面談の義務付け(=得てして度を越したカスハラ行為の実施者=モンスタークレーマーの中には、子育て生活において深刻な悩みを抱えておりそのはけ口として度を越した極端な行為に走る傾向の保護者がいると、私は考えます)や、延長利用の一時的な制限、制限された日数での休所措置など、段階を経て、退所処分を課すことが必要でしょう。当然ながら、児童クラブの事業が指定管理者だったり業務委託だったり、あるいは事業補助といった、公の事業の肩代わりである場合は、設置主体または委託者、補助を行う側の市区町村の了解を得て、そうして処分のルールを決定することになります。児童クラブ事業者が勝手に処分の基準を決めて実施することは、やめましょう。
 ルールを決めるときには、保護者にもヒアリングしたりアンケートをして意見を集めることは効果的ですね。
 なお、カスハラ行為の原因を作る根本原因が児童クラブの運営事業者側に存在する場合があります。よくあるのが、「こどもがクラブでけんかに巻き込まれたり、けがをしたりしたのに、職員が保護者に説明を忘れていた場合」です。自宅でこどもから顛末を聞いた保護者が大いに怒ってクラブに怒鳴り込んでくるというパターンです。度を越した怒りのぶつけ方はもちろんカスハラになります。土下座しろとか、利用料をタダにしろ、とかの無理な要求は直ちに犯罪行為にもなりますから、事業者は毅然とした対応が必要です。ですが、そのカスハラを生んだ過失が児童クラブ側にある場合も、私はかなりあると考えます。そのようなことが無いように、平時から、児童クラブ事業者は職員の教育研修を徹底することが必要です。
 また、昼食提供や開所時刻、閉所時刻による保護者の不満もまた何らかのきっかけでカスハラ行為を招く恐れがあります。便宜面での向上は児童クラブに必要なことであり、カスハラを減らす一助ともなることと理解してください。午後6時で閉まる児童クラブより午後7時で閉まる児童クラブの方が今は求められていることを理解してください。早い時間に閉まることでたまっていた保護者の不満は閉所時刻を後にずらすことで劇的に解消します。「それでは、職員側が不利になる」という考え方は間違いです。延長した時間をタダ働きさせられては不利ですが、それは法によって許されません。児童クラブにおける児童受入時間が延長した際の労務面の手当ては児童クラブ事業者が適切に行うことが当然です。適切な対応ができるように関係各所と交渉するなりするのが事業者の責務であり役目です。

 さて、上記の一連の流れのうち、「発生後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置」が児童クラブにおいてはかなり難しいと私は考えます。特に、「適切な対応・抑止のための措置」が難しいと私は考えます。「対応」と「抑止」の2つのうち、さらに「抑止」の方がより難易度が高いと私は考えます。ここから先は、わたくしの独自の考察が延々と続きますので、とりあえず「来年12月までに、ここに書かれたような内容のルールやマニュアルを作ればいいんだな」ということが分かれば、まずは十分です。興味のある方は先にお進みください。

<難しい理由だと考える理由>
 先の「対応」「抑止」、とりわけ抑止が難しいと私が考えるのは、児童クラブにおける顧客=保護者との関係にあります。しかも児童クラブの運営形態によって児童クラブ事業者と顧客との関係が大きく変化します。
・「児童クラブが、保護者運営の場合」=事業者つまりカスハラ対策を講じる義務を負う側と、顧客つまりカスハラ行為をする者の立場が本質的に同一であること。
・「児童クラブの運営事業者に、保護者が含まれることがあること(保護者が任意で役員として参加する法人運営の場合)」=事業者つまりカスハラ対策を講じる義務を負う側に、顧客つまりカスハラ行為をする側の立場の者が属する状況がありうること。
・「児童クラブの運営事業者と保護者が完全に分離されているが、保護者が児童クラブにおける育成支援の方針や方向に関してのみ、職員側と相談しながらその形成に関与している場合」=事業者つまりカスハラ対策を講じる義務を負う側と、顧客つまりカスハラ行為をする者は事業者の経営において同一の立場に属することはないが、「育成支援」という事業運営に関しては立場を同じくする状況がありうること。
・「児童クラブの運営事業者と保護者が完全に分離されており、かつ、保護者は、児童クラブにおける育成支援の方針や方向に関しても運営事業者と連携したり相談したりする機会がない場合」=保護者は、完全に利用者としての立場だけに属するので、カスハラについては一方的な当事者となる。

 児童クラブの事業者と保護者との関係性が児童クラブの運営形態によって異なることは、児童クラブにおけるカスハラ問題を包括的に考えることを妨げます。
 より重要で複雑なのは、保護者が事業者側に属することがあるということです。カスハラ対策を講じる、考える、カスハラを防止しようと呼びかける側でありながらカスハラ行為をしてしまうごく一部の保護者と同じ立場の側に属することです。その年度の運営に関わる役員でありながら職員に対してハラスメント行為を行うこともありえます。もっともその場合は役員であるという優越的な立場がありますから、パワーハラスメントに該当する可能性があるでしょう。

 児童クラブ事業者側の視点で考えると、極めて複雑な事態があります。児童クラブ側からみると、顧客としての保護者は、「収入源」であり、「育ちを支えたいこどもの居場所を決定できる立場」であって「職員と一緒に、こどもの育ちを考えて方針を共有する立場にある」こどもの監護者、になります。
 「保護者の要求に従わないと、その家庭はクラブを辞めちゃう」という心配は、特に収入を保護者負担金(利用料や保育料)に頼っている事業者には心配の種になります。つまり運営側に属する職員はその心配を強めるでしょう。むしろ現場のクラブ職員は個別運営でなければさほど気にはならない心配でしょうが、現場職員についてはむしろ「この子とずっと関わっていきたいのに、こちらの対応が気に入らないでクラブを退所してしまってこの子がクラブに来なくなることの方が心配」という意識を持つ傾向があると、わたしは考えます。そしてその傾向が、必要以上に、合理的に求められる受忍(我慢)の限度を超えて保護者からの理不尽な要求にただ耐えるという、児童クラブの職員を苦しめる状況を招く最大の要因と、わたしは考えます。

 児童クラブで一緒にこどもの育ちを考えていきたい、よく児童クラブの世界で言われる「こどもを真ん中に、職員(指導員)と保護者が手を取り合って運営する児童クラブ」という概念もまた、保護者からのカスハラに対して児童クラブの対応を鈍らせえる深刻な要因となります。一緒にこども育ちを考える立場なので、保護者と職員は常に理解しあって連携して、仲良くしていかねばならないから、保護者の要求はある程度、職員側が我慢して受け入れねばならない、ということです。これもまた、特に現場職員を苦しめる、カスハラの我慢構造になります。我慢が限界に達したとき、つまり職員のメンタルが再生不能なほどボロボロになったとき、職員は「もう、この仕事はできません。辞めます」となるのです。

 児童クラブは、顧客である保護者からのカスハラに対応するのが難しい構造がそもそも存在するといえるのではないでしょうか。保育所や放課後等デイサービスも同様でしょうが、児童クラブがそれらと違うのは「事業内容(=育成支援の具体的な内容や手法)について保護者と職員つまり事業者側が、一緒に考えていくことを運営方針に盛り込んでいる事業者が少なからず存在する」ということです。

 かつては、保護者が運営に関わる児童クラブがはるかに多かったので、児童クラブの利用に関して生じる保護者側の不満を、運営に関わる保護者がその不満をくみ上げて解決に向けて努力することができました。それが解決策を実現させなくても「解決に向けて取り組んだ」という行為の存在そのものが、不満を持った保護者のその不満を和らげる効果をもたらしたことでしょう。あるいは、保護者運営であっても運営に関わっていない年度であれこれ不満をぶつけていた保護者が次の年度に運営に関わることになってしまって「なんだ、そういうことだったのか」ということを知って「児童クラブの利用については受け入れなきゃいけないこともあるんだなあ」と知る、身に染みる機会を嫌でも知る機会にぶち当たる、ということだって、大いにあったでしょう。
 その構造は、カスハラそのものを無くしはしませんが、顧客である保護者自身がカスハラを生む理由を自分自身で解消する、あるいは納得させる結果もまた、もたらしていたと私は考えます。もっともややこしい理屈を付けなくても「文句を言うなら、あんたが役員になって解決しなさい」と周りの人に言われたかもしれませんし、現在のように「あってあたりまえの児童クラブ」時代ではない時代は、本当にせっぱつまった子育て世帯が児童クラブを利用していた時代ですから「あれこれ文句を言ってもなんだかんだで、利用は続ける」ことを選択するほかなかった、文句を言ってクラブ側を困らしても自分自身に跳ね返ってくるだけだった、という構造もあったでしょう。
(なお、わたしはベテランの職員からたくさんの話を聞きましたが、保護者運営時代にも、我慢ならない文句や要求を突きつける保護者はやっぱりいた、ということです。ただそれ以上に、職員と一心同体となって児童クラブ運営に尽力してくれた保護者が圧倒的に多かった、ということでした。クラブ職員が結婚した、結婚披露宴とは別にクラブでも独自の披露宴を催してくれて、職員の車に、いっぱい空き缶をひもで結び付けてクラブの園庭をその車でぐるぐる走り回った、というエピソードは、聞いていてうれしくなりましたね)

 いまの時代は、とりわけ放課後全児童対策事業や、新たに誕生している民設民営の児童クラブにおいて、「面倒な保護者会は一切ありません!」「保護者のみなさんを集める会合は行いません!」と、保護者の時間拘束という負担を無くすことを、保護者側の利点としてアピールして人気を集めようとする児童クラブが、ものすごく増えています。その場合は、児童クラブ事業者と保護者は、完全に「サービスの提供者」と「受けたサービスに応じて対価を支払う利用者(ユーザー)」との関係に固定されます。それは世間一般の「事業者と、お客様」の関係になります。
 そして、こと、「こども」という保護者が最も大事にする事象の1つに関するサービスですから、そのサービスに求める質の水準の高さや充実具合に関しての要求は肥大化し、先鋭化していくのは必然です。保護者のそのような心理的な傾向を踏まえて、児童クラブの事業者側は、どう対応するのかを考える必要があります。事業者と保護者が完全に分離した「お客様関係」の場合は、どうしても、「ルール」に従った措置を取る、ことを徹底する必要があります。そこに、妙な情状を紛れ込ませると、同じようなカスハラ行為に対する措置のブレが生じ、それがまた新たなカスハラ行為を招くことが考えられるためです。「あの人にはああいう対応をしたそうじゃない。だったらうちにだってできるわよね!」ということです。もう、こうなったらカスハラ収拾のきっかけがつかめません。
 カスハラ対応のルール(その内容は保護者側にも確実に伝わっていることが必要)に従って、事業者側は毅然と対応することになります。
 なお、ここで対応する側ですが、かつての私のように、その組織の最も上位の責任者が軽々に出ることは、絶対にやめてください。それで事態収拾に失敗したら、打つ手はなくなります。対外的、保護者に対するカスハラ対応の責任者はその事業者の名実ともにトップとはせずに、現場部門の責任者や役員の上位クラスにすることです。そして最終的なカスハラ行為に対する事業者としての決定や判断は、最高責任者の専決であったり理事会や執行委員会などの協議決定の機関において決められるべきでしょう。つまりは、最も上のトップがしくじったら、その後の解決は、第三者例えば裁判所に委ねる他はなくなるということです。

 児童クラブの事業者も、「どちらの方が、事態を招いた原因がより多いのか。ここまでこじれるまでに至った過程において、事業者側に落ち度やミスがあったのではないか」を第三者の視点で探り、判断してもらうためにも、弁護士を筆頭にした外部の専門家を顧問にするなどして、カスハラ問題に取り組むことが必要な時代に入ったのだと運営支援は考えます。そのためにも、顧問料だって財政負担になるのですから、児童クラブは小さな事業者ではなかなか対応ができないので、どんどん合体合併して規模を大きくして、弁護士や学識者を顧問として招いておくための費用を捻出することが重要になっているのです。

 児童クラブではなかなか難しいカスハラ対策、カスハラ対応ですが、「児童クラブだから難しい」で片づけてはなりません。まして「職員が誠実に保護者と向き合えばよい」だけの「太陽政策」だけでは限界です。やたら文句や言いがかりをつけてくる保護者に、実は隠された悩みや追いつめられている現状が隠されているとしたら、それらに速やかに気づき、相談に乗り、必要に応じて関係機関につないでその地域の社会福祉のネットワークの中で対応することができればいいですし、そうするのは当然でそれも児童クラブの職員の職務とするべきですが、残念ながらどうしたって論理的な思考や議論、話し合いを一切受け付けない保護者も存在するのは事実です。議論が成立しない相手には毅然とした対応が必要であって、その準備ができていない事業者のもとでは、児童クラブの職員は安心して勤務ができません。

 児童クラブも、ごくごく世間一般にある企業や法人と同じ顧客対応をすることが当然の時代となったことを、児童クラブの経営、事業運営に携わる立場の者は、しっかりと認識してください。 

 
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

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萩原和也