「労災について誰でもわかるように説明します」。放課後児童クラブ(学童保育所)の基礎知識シリーズ7です。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く、成長ストーリーであり人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
放課後児童クラブの基礎知識シリーズの7回目は、「労災(ろうさい)」について取り上げます。シリーズ6回目(2025年7月26日掲載)で「けが」を取り上げていて労災についても取り上げていますが、掲載後も児童クラブ関係者から労災について何度か問い合わせを受けた経験から「働いている多くの人は労災がどういうことなのか理解している人は少ない。労災という単語は知っていても、それがどういうことなのか、何をしたらいいのか、実は知らない人が案外と多いのだ」ということを痛感しました。よって今回は、「人生で初めてアルバイトをしています。児童クラブでバイトを始めました」という高校生でも「読んでいただければ」分かるように、労災について説明していきます。問題は、ただ文章が長いことだけです。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<労災とは>
厚生労働省のホームページにある「労働災害」(労働災害|しっかり学ぼう!働くときの基礎知識|確かめよう労働条件|厚生労働省)の内容を紹介しましょう。もちろんそのHPをご覧いただければ完璧なのですが、「ああいうページを見るのが苦手」という人も多いでしょうから、運営支援ブログが頑張って説明します。
ではさっそく、「労災」とはなんでしょう。労災は、「労働災害」の略です。また「労災保険」という単語を見聞きしたことがあるでしょう。労災保険とは「労働者災害補償保険」のことです。「労災」という単語は、「労働災害」の意味で使われることがありますし、「労災保険」のことを指して使う人もいます。「そのけが、労災の手続きをしてもらった?」という場合ですね。
つまり「労災」とは、「労働災害」のことですし「労災保険」のことを意味する場合もあります。
ここで実はとても難しい問題にぶちあたります。労働災害とは、「労働」のときにおきた「災害」ですが、「労働」とは何? 「災害」とは何? という問題があるんですね。ここはもう本当に難しい話になってしまいます。よって今回のブログでは、あえてその細かな定義には踏み込まず、単純に、「お仕事に関わる行動をしているときにけがをしたり、仕事が原因で病気になってしまったりしたこと」とします。間違ってはいませんから大丈夫です。1つだけ付け加えると、「お仕事に関わる行動」というのは通勤も含まれますし、仕事の時間中にトイレに行くことも、休憩時間中の外出が許されていないので会社の中でお弁当を食べている時間も含まれますよ、ということです。
当たり前なんですが、学生が高校や大学で授業中、あるいは休憩時間中でも、高校や大学のキャンパス内でけがをしても労災にはなりません。労働していないからです。しかし仮に、大学生が自分の大学の中の店でアルバイトをしていて、その仕事中にけがをしたら、それは労働災害になる可能性があります。(絶対に労災になるとは言えないのは、例えば、アルバイトの学生がわざと=故意に、けがを引き起こした場合は労災にならないからです。例えば学生食堂でアルバイトをして勤務中、ふざけて包丁を振り回して遊んでいてその包丁が自分に刺さった場合)
労災保険についても説明します。保険ですから、何か起きた時に補償(=通常は、お金)を受けられる仕組みです。保険というと、定期的(一括払い込みも可能な保険商品もありますが)にお金を支払って(積み立てか、掛け捨てかは、保険によって異なりますね)、いざ何かあったときに補償(=お金)を受け取ることができる、という仕組みです。生命保険であれば、加入したい人が保険会社にお金を払い込む、ということです。
労災保険というのは、国、つまり日本国政府が、日本国内で働いている人(または海外で日本の会社や組織の仕事をしている人で、日本国内にいるときに雇われている人)が働いていることに関連してけがをしたり病気になったりしたときに、基本的には、お金を払ってくれて補償してくれる仕組みです。
大きく分けると、労災保険には、治療に対する治療費を国が払ってくれる補償と、働けなくなった場合への給料の穴埋め補償の、2つの役割があります。(ほかにもありますが児童クラブでの仕事に関係が薄いので省略)
労災保険を身近に例えると、保険会社に該当するのが日本国政府です。政府にお金を払い込んでくれるのは、働く人を雇っている事業者(会社や団体など)です。誤解されやすいのですが、働いている人がもらう給料から天引きされてはいません。労災保険のために事業者が支払う労災保険料は事業者が全額、負担しています。また、日本で働いていれば外国人であっても当然、対象です。実は、違法な状態で日本に滞在している人でも対象になります。本当は働いていけない約束で日本に来ている外国人が児童クラブで働いていて、仕事中にけがをした場合、労災保険の対象となります。実際に労災保険の適用を認められるかどうかは別の観点で判断される、ということです。
一般的に、人が、けがや病気で病院に行くときは、2つの保険のどちらかが適用されると考えてください。
仕事に関係する場合=労災保険
仕事とは関係ない場合=健康保険
ですから、児童クラブでお仕事をしていて、足をくじいてアキレス腱を切ったり、骨折したりしたら、「仕事中のけが」ですから、高確率で労災保険が適用されることになるでしょう。児童クラブで仕事をして、退勤してから帰り道にショッピングモールに寄って買い物をしてフードコートで食事をしているときにすべって転んで足を骨折したら、それはもう仕事とは関係が無いので、健康保険を使うことになります。ただし、児童クラブで仕事を済ませて退勤して寄り道をせずにまっすぐ家に戻る途中に交通事故に巻き込まれた場合は、通勤途中の災害ですから労災保険が適用される可能性がでてきます。しかしこれもまた難しい問題があるんですね。次で説明します。
<労災かどうかを判断するのは誰?>
先に書いた、通勤途中の災害が典型的ですが、「労災になるかどうか」や、「労災保険が適用されるかどうか」は、労災保険における保険会社に当たる日本国政府が判断します。決して、会社や組織や病院が判断するのではありません。
児童クラブでこどもと遊んでいるときにけがをした。骨折だった。それが労災になるのか、ならないのか、判断するのは「国」であって、児童クラブの事業者ではありません。児童クラブの運営本部や事務局や、クラブの施設長や主任が、「それは労災になるよ」「それはちょっと労災じゃないね」と決めることは、絶対にできません。
もし、児童クラブの本部が「それは労災じゃないね」という対応をしたら、それは本日のブログの最後の方に書きますが「労災かくし」と呼ばれる、違法な行為です。絶対にダメなことです。そういう児童クラブだったら、どんどん口コミを広げてください。後で泣き寝入りする人を減らすには、悪徳ブラック児童クラブ事業者を目立たせることが必要ですからね。
国、と書きましたが、国は労働に関係する役所を設置しています。それが「労働基準監督署」であり「労働局」とよばれるものです。日本のどの地域であっても、必ず、その地域を担当している労働基準監督署(労基署)や労働局がありますから、ネットで調べてください。住んでいる地域に警察署がありますでしょ? 警察署は地域の警察本部(県警本部だったり府警本部だったり、都内だったら警視庁)が統括していますが、同じように、労基署の上に労働局がある、というイメージです。そこで、労災や残業代や突然の解雇といった問題を対応してくれています。なお、仕事が急に無くなった、あるいは仕事を探したいというときはハローワーク(公共職業安定所)というところが担当のお役所です。
大事なことだから繰り返し書きます。「労災になるか、ならないのかは、児童クラブ側が決めるんじゃない。国が決めるんだ」ということです。ですから「それは労災にならないから、労災の手続きはしませんよ」と児童クラブの会社が言うのは、「完全に間違い」です。
厚生労働省のHPの「労働災害が発生したとき」というページを見てください。
(労働災害が発生したとき |厚生労働省)
ここに、このように書いてあります。「労働者が労働災害により負傷した場合などには、休業補償給付などの労災保険給付の請求を労働基準監督署長あて行ってください。」
(→分かりやすく書くと、仕事中にけがをしたり病気になったりしたときは、お金をもらう手続きを国を相手にしてください)
「労働災害によって負傷した場合などには、労働基準監督署に備え付けてある請求書を提出することにより、労働基準監督署において必要な調査を行い、保険給付が受けられます。」
(→分かりやすく書くと、仕事中にけがをしたり病気になったりしたときは、労基署(という国の役所。つまり、国)に請求書を用意してありますからそこに必要事項を書き込んで病院(ただし条件があります)、労基署に提出してくれれば、その内容を国が調べて労災と認められる場合はお金を出しますよ)
<労災保険の申請は誰がするの?>
本来は、仕事に関わるけがをしたり仕事が影響で病気になったりした人が、自分で行います。ですから「会社がやってくれない」と怒る人がよくいますが、厳密に言えば「会社が申請の手続きをする義務はない」ので、会社が悪いとはいえません。
ところが現実では、特に会社が大きな会社の場合は会社の人事部だったり総務部だったり、社員や従業員、スタッフの面倒を見てくれる部署が必要なことをやってくれることがあります。ただしそれはやっぱり大きな会社や企業や、それほど大きくなくても従業員を大事にしている良心的な会社や組織であって、その会社や企業も実際の労災の手続きについては顧問になっている社会保険労務士にお任せすることが多いんですね。児童クラブでも、あちこちでクラブを運営している大きな会社や団体がありますが、そういう大きな組織であれば、本来は運営本部や事務局がスタッフの労災保険の申請手続きに協力することが望ましい姿です。
ちなみに、労災保険の申請手続きをすることは会社つまり事業主の義務ではないですが、申請の手続きに協力することは義務付けられています。これは新型コロナウイルスが大流行した2020年以降に問題となったことですが、当時は新型コロナも労災として認められていたんですね。その際の申請に雇い主が協力しないことが問題になりました。
労災保険を請求したい人が自分だけで保険給付の手続を行うことが困難である場合は、事業主(会社、雇い主)が助力しなければならないことに決まっています。それは具体的には、請求書の作成等への助力規定などがあります。難しいので覚えなくてもいいですが「労働者災害補償保険法施行規則」(第23条)に、事業主の助力義務が定められているからです。
よって、児童クラブでアルバイトをしていたらけがをした。労災の申請をしようと思って会社に相談したら「アルバイトだからダメです」と断られた、あるいは自分で必要書類をダウンロードしたので児童クラブの会社に必要なことを書いてほしいので相談したら「あなたはアルバイトだから、労災はないのよ」と言われたら、それは「助力義務違反ですよね。労基署に相談しますよ」と、言ってください。
「会社に必要なことを書いてほしい」というのは、つまるところ「仕事中に発生したけがですよ、こういう状況で、けがをしましたよ」ということの証明をしてほしい、ということなのです。仮に、児童クラブの運営会社が「それは労災じゃないと思っているから」と必要なことを書かなかった場合でも、労災保険の申請はできますから、どうしても児童クラブ側が協力してくれなくても大丈夫です。労基署の案内にしたがって書類を書いて出せばいいのです。なおその場合は労基署からその会社に問い合わせが行くことになります。
大事なことは、アルバイトでも正規職員でも、たった数日の勤務でも、「児童クラブで働いて、給料をもらう」という約束をしていたら、仕事中のけがは、労災になる可能性がありますよ、ということです。(労災です、と断言できないのは、先に書いたように、労災かどうかを決めるのは国だから、です)
そして、労災保険の申請は働いていてけがをした人が自分で行いますが、必要な書類に会社は記入する義務があるのです。現実的には会社がそれなりの規模であれば、あれこれ会社がやってくれるのですが、児童クラブは小さな事業者が多いので、けがをした本人がやることも多いでしょう。分からなかったら国に相談してください。あるいは(お金はかかりますが)社労士に相談するのもいいでしょう。すでにトラブルになったら労基署、労働局や、弁護士に相談しましょう。最初は社労士の無料相談を利用するのも手ですよ。会社側が協力してくれなくても、労災保険の申請はできますから、大丈夫です。
<労災にならない場合もあるよ!>
先に、「アルバイトでも正規職員でも」「たった数日の勤務でも」と書きました。重要なのは実は日数ではなくて、「あなたは、児童クラブに雇われましたか? それとも、ボランティアですか?」という、「立場」「身分」です。
労災保険は国が面倒を見る保険です。ですから「働いている国民全員が対象」なのです(ただし公務員など対象外の人もいます。それは別の保険が用意されているから)。アルバイトだろうが正規職員だろうが、それは関係ないんです。「雇われて、働いているかどうか」が、とても大事なんです。
ここでややこしいのは、児童クラブに「ボランティア」でやってくる人です。夏休みなどにいます。また児童クラブではないですが「放課後子ども教室」と呼ばれる仕組みの、こどもが放課後に過ごす事業において「有償ボランティア」という名前でこどもたちと関わる「仕事」をする人もいます。こうしたボランティアは「労働者」ではないので、労災保険の対象外になります。有償ボランティアはそれでも、似たような民間の保険に加入することが多いので、仕事中にけがをしたら治療費ぐらいは出るでしょうが、児童クラブのボランティアは、それが数日間と短い場合は、そういう民間の保険に加入しないこともあります。
この場合、こどもと遊んでいて骨折などの大けがをしたら大変なことになります。
ですから、児童クラブで働くことになった特に学生や高齢者の方は、自分の身分が「労働者としてなのか、ボランティアなのか」を必ず確認しましょう。ボランティアの場合には、本来は労働者としての契約=労働契約が適切なのですが、ボランティアとしてしか関われない場合は、できる限りボランティアを対象とした傷害保険に加入してもらうようにしましょう。それすら児童クラブ側が手続きをしてくれないなら、運営支援としては「そんなボランティアは、辞退しましょう」と言います。
また、保護者が児童クラブのイベントのお手伝いをすることも多いですね。その際にけがをしたらどうなるか。これも難しいです。完全に労働力として児童クラブ側に「計算されている」ならば労働者としての扱いとなる可能性がありますが、契約がそうなっていないので、自分が労働者であるということを示すのは難しい。ですので、「けがをしそうな場面には立ち入らない」とか「自分で普段から融通の利く保険に入っておく」とか、「万が一けがをしたら、病院で、こどもと遊んでいたら転んでけがをしちゃったと、健康保険を使う」ぐらいしか手がありません。
児童クラブ側も、保護者をボランティア参加させる場合には事前に保険に加入することはもはや必須ですよ。訴訟リスクを考えるとたった数百円のボランティア保険料は必要経費です。
<病院では注意してね>
最初の方に、「仕事に関係する場合=労災保険 仕事とは関係ない場合=健康保険」と、書きました。
これはちょっとややこしいことになりやすいのです。つまりこういうことです。
児童クラブで働いていて、転んでしまった。どうやら骨折らしいぞ。病院に行こう→病院に行ったら、業員の窓口で「どうされましたか?」と聞かれるか、状況を書類で申請する→「児童クラブでこどもと遊んでいたら転んでしまいまして、とても痛いんです」と正直に答えたり申請したりする→(その病院が労災指定病院ではなくて、しかも受付の人が児童クラブのことを知っていたら、おそらくはこうなるでしょう)「それは児童クラブで仕事中のことですね。ですので健康保険は使えません。労災保険になります。うちは労災指定病院ではないので、治療費は一時的に立て替えてもらいます」と言われてしまい、一時的に治療費用を全額、その場で支払うことになってしまう。しかも労災の手続きは労基署で行うことになってしまう。
※労災保険には、指定の医療機関(労災指定、とよく書いてあります)があったり「労災病院」という病院があります。労災指定の医療機関(病院や薬局)では、労働災害の場合は原則として「無料」で治療が受けられます。この場合、労災申請に必要な書類は衣料機関に提出することになります。そういう病院に通う交通費も労災保険の対象なので、後日、ある程度、補償される可能性もありますよ。
仕事中のけがなのか、そうではないのか、これはもう絶対に正直に必ず答えてください。仕事中のけがであることを隠したりあるいは報告し忘れたりして、最初は健康保険を使って治療しているうちに、「実は仕事中のけがであって労災保険の適用になるかもしれない」ことが分かった場合、「病院の事務の人」も「薬局の人」も、「ちゃんとした児童クラブで職員やスタッフの労災申請に協力的である事業者の、労災の手続き担当者の人」も、顔が真っ青になります。おおげさではなくて、その日はもう気分が滅入ってしまいます。
それだけ、健康保険から労災保険への切り替えは、とても大変な事務作業量が必要となるんです。だって、健康保険を使う場合は通常、3割の自己負担ですから、レントゲンを撮ったり診察台でお金を払いますよね。でも労災保険ですと、その必要がないので、患者が払った3割分を病院側は返すことになります。それがどんなに大変なことか。ですから児童クラブでアルバイトをしていてけがをしたときは、かならず「仕事中にけがをしました」と申し出てくださいね。
そして大事なことの2つ目。「すべての病院が、労災保険に対応していません」ということです。先に書いた「労災指定」の病院や薬局のことです。つまり労災保険がスムーズに使えるようになるには労災保険の対象となっている病院や薬局に行くことが大事です。病院の看板に「労災指定」と書いてある病院であれば大丈夫です。こんど、気にして見てください。あるいは病院に行く前にその病院に電話をして「労災対応していますか?」と確認してください。労災対応ではない病院に行ってしまって治療を受けても労災保険は適用できますが、一時的に治療費を立て替える必要があるので、お財布にも大変です。
では、児童クラブでけがをしたときに望ましい行動例を紹介します。
クラブで働いてけがをしたから病院に行くことを、児童クラブの担当者に事前に伝える。(これはとても大事です。労災かくしを防止するにも必要です)→労災指定の医療機関であることを確認してから、病院やクリニック、薬局に行く。→窓口で「仕事中のけがです」と伝える。すると必要な書類を渡されるので、それに記入する。→必要に応じて児童クラブの運営側に記入してもらう。記入を断られたら労基署に相談しつつ、書類を作成して、病院に提出する。(場合によっては指示に従って労基署に提出する)→労災保険が適用されるかどうか、判断をじっと待つ(数か月かかることも良くあります)。
治療が続いている間は治療を済ませてから書類を提出することもあります。よほどの大けがで、その後の生活に不自由が出る、あるいは1年半以上も治療が続く場合には、別のステージに入りますから、その際は専門家(社労士)に相談するのもよいでしょう。
なお、病院や薬局でもらう書面は、捨てずに保管しておきましょう。特に、最初に診察を受けた医療機関や薬局が労災指定ではない場合は、治療費などが書かれた書類は必要書類としてとても重要です。それを無くしてしまったらとても大変です。ですから、「仕事中のけがをしたときに医療機関でもらう書類は、捨てずにとっておく」こととしてください。完全に治ったら処分してもらっていいですが、別途、確定申告をする人は必要に応じて活用しましょう。
<最初の3日間は、労災保険はありません>
労災保険のうち、児童クラブで働く人に関係するのは「治療費に対する補償」と、「仕事を休むことに対する補償」の2つです。これまでは、治療費に対する補償を念頭に書いてきました。ここからは、仕事を休むことに対する補償についての話です。
これはあまり知られていないようですが、労災保険は、仕事に関係するけがや病気で仕事を休むことになったとき、最初の「3日間」は適用されません。労災保険は、仕事に関係するけがや病気で働けなくなった場合に減る給料の分を補ってくれる保険でもありますが、最初に仕事を休む3日間について稼げなくなった給料分の補償を労災保険は行ってくれません。この3日間のことを「待期(たいき)期間」といいます。待機ではなくて「待期」です。これの表現をしっかりできていると、分かる人には「お、この人、労災保険を勉強しているな」と、相手を身構えさせることができるでしょう。
つまりですね、児童クラブで働いていてけがをしました。その後の勤務シフトで3日間、仕事ができなかった場合、4日目以降の仕事を休んだ人の収入分について、最大で8割分の補償つまりお金を労災保険として国からもらえる可能性がある、ということです。8割というのは最大値で必ず8割ではないのですが、最低でも6割は国からもらえる可能性がある、ということです。つまり、その日の勤務シフトでは8000円の収入が入るはずだったら、最低でも4800円は労災保険でカバーできる可能性がある、ということです。ただし最初の3日間は労災保険からは減った給料の補償はできない、ということです。
しかし労災保険では対応していないだけで、労働基準法という法律によって、事業者は「業務災害」(=仕事中のけがや病気。通勤時のは認められません)で仕事を休む場合には賃金の6割を補償することと決められています。ですから待期期間で働けなくなった3日分でもらえるはずだった給料の6割は、労基法によってもらえることになるんですね。ただし実際はその3日間について、会社側が年次有給休暇を使うよう、けがをして休む職員に指示することが多いようです。
この待期期間の3日間ですが、誤解があって、「連続した3日間」の必要はありません。細切れでもいいんです。細切れ? それは例えば、9月8日(月曜日)にけがをした。9日は仕事を休んだ。10日はどうしてもクラブの人が足りないので痛いのを我慢して働いた。11日、12日は休んだ、とします。すると9日、11日、12日の3日間、仕事を休んだので待期期間は完成です。13日の土曜日の分から、補償(休業補償給付、という名称です)がもらえることになります。休業補償給付は仕事が休みの日の分も、もらえる仕組みになっています。
<労災かくしは、犯罪です>
最後に、児童クラブはとても労災が多い職場です。体を不規則に、しかもけっこう激しく動かすので、ころんだりつまづいたりして起きる転倒によるけがが多いです。腰痛もとても多いです。こどもが不意に飛び乗って来る、あるいは重い用具や本を移動させたりテーブルを持ち上げたりするときに足腰を痛めます。こどもの投げたボールが顔に当たることも当たり前にあります。また、何らかの原因でパニックになったこどもにぶたれたり蹴られたりしますし、けんかの仲裁で手足がバッティングすることだってあります。
これは正確には「第三者災害」というのですが、こどもが意図的に職員を傷つけようとして行為をなすことだって皆無ではありません。
児童クラブで働く人は、まずもって、「体力的にシビアな職場である」ことを認識してください。「いやいや、求人に応募したときにクラブの人から体力に不安が無くても大丈夫ですよと言われました」と反論したくなる人がいるかもしれませんが、それは、求人応募者を逃さないための方便です。実際の児童クラブの仕事は、体力を使いますから。外遊び担当はしないという約束で働き始めても、室内だってこどもは飛んだり跳ねたりしますし、こどもが不意に施設外に飛び出したときに追っかけることは、仕事です。それをしなかった結果、こどもが外で命を落としたら、安全管理において不注意があったとして座りっぱなしの職員が責任を追及される可能性がありますよ。
児童クラブの仕事は、けががつきもの。病気も実は、特に心理的、メンタル面での災害があります。適応障害になるというのが最も一般的です。人間関係がシビアなんですよ、児童クラブって。こどもの命を守るという重大な使命ですし、その割に働く人の人数が少ないですから、案外とピリピリした職場もあります。特に多いのが、自分勝手に我流でなんでもやってしまうベテラン職員がいるクラブ。もうね、すごい頭に来ますよ。でもベテランで偉ぶっているから誰も注意したり修正したりできないんです。
さて、そんな労災が多い児童クラブですが、だからといって労災について児童クラブ事業者がそれを隠すようでは、話になりません。なぜ隠したがるのか。それは、労災によって、事業者が刑事責任を問われる可能性があることと、当然ながら民事責任も問われる可能性があるからです。刑事責任とは、労働安全衛生法上の罰則ですし、刑法上の責任(業務上過失致死傷罪など)を問われることもあるでしょう。民事責任とは損害賠償責任で、これは「労働契約法」という法律で事業者は働く人を守る安全配慮義務、というのを負っているんですが、その義務を守れなかったという「不法行為」に基づく損害賠償ということです。簡単に言えば、児童クラブの雇い主が約束を守らなかったからお金で解決する、ということです。
(実は、働く側にも、労災を防止するために事業者に協力する義務がありますよ)
人を雇って働かせる事業者、児童クラブでいえば職員を雇っている会社や組織は、職員やスタッフが仕事中にけがをしたり病気になったりしたときは、その地域を管轄する労働基準監督署に「労働者死傷病報告」というものを提出せねばなりません。義務です。提出しないと罰則があります。これを行わないことを「労災かくし」と呼んでいます。提出する期間は起きた労災事故の内容によって異なっていますが、いずれにせよ労災保険が適用になる場面になれば、この労働者死傷病報告が国に出ていなければなりません。この報告をしない、つまり労災の適用もしないということは、絶対にあってはいけません。労災かくしは、犯罪ですから。
労災かくしをする事業者がたとえ1社でも児童クラブにあってはならないのです。ただでさえ児童クラブは働いている職員のいろいろな権利が守られていない現場が沢山あります。まして、仕事をしていてけがをしたり病気となったりしたのに、その手当や補償がないなんて、そんな業界に優れた人材がやってくるはずはありませんよね。
児童クラブがもっともっと安心して働ける職場になるように、夏休みにたった数日でもアルバイトする人でもちゃんとしっかり労災として必要な手続きが当たり前に受けられる職場になるように、児童クラブ業界は心していきましょう。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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