休憩時間と労災、2つの気になる判決がありました。放課後児童クラブ(学童保育所)の世界で、しっかりと話題にしていきましょう。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く、成長ストーリーであり人間ドラマ小説「がくどう、 序」を書きました。アマゾンで発売中です。ぜひ手に取ってみてください! (https://amzn.asia/d/3r2KIzc) お読みいただけたらSNSに投稿してくださいね!
 最近、裁判に関して気になるニュースがありましたので紹介します。1つは、認められなかった休憩時間が認められたこと、もう1つは、職場内で感染した病気で労災が認められた、というものです。運営支援としては、その判決を導いた根拠うんぬんよりも、「こういう判決が出た」ということをぜひ、児童クラブの中の世界で話題にして広めていってほしいと期待します。話題にすることで興味関心を多くの人に広げていくことが、次の動きを起こすことにつながると考えているからです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<休憩時間が取れないのは現場の責任ではないのです。事業者の怠慢です>
 休憩なし勤務の禁止と損害賠償が認められたという裁判のニュースです。ヤフーニュースに2025年4月22日18時11分に配信された、テレ朝ニュースの「「ジェットスター」に休憩なし勤務禁止と賠償命令 東京地裁  客室乗務員らが提訴」という見出しの記事を一部引用して紹介します。
「客室乗務員らは、労働基準法に定める休憩時間が付与されず精神的苦痛を受けたとして、ジェットスター側に賠償と休憩の付与を求めて裁判を起こしていました。労働基準法では6時間を超える勤務をする場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を与えるよう定めています。」
「ジェットスター側は労働基準法の施行規則に定める長距離乗務にあたるため、休憩時間を与えなくても労働基準法に違反しないなどと主張していました。22日の判決で東京地裁は、施行規則は適用されないと判断し、「ジェットスターは安全配慮義務に違反する」と指摘しました。そのうえで、ジェットスター側に休憩なしの勤務命令を禁止するとともに、1人あたり11万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。」
(引用ここまで)

 この事件、長距離運航乗務員の特例に関する争いで、一般的な労働者の休憩時間に関するものではないのですが、多くの現場で休憩がなかなか取れない児童クラブの世界としては話題にしていきたいところです。話題にしたいのはもちろん、賠償が認められたというところですね。

 児童クラブの世界における休憩ですが、もちろん事業者や個々のクラブで異なるところがあるのは承知の上で、他の業界とは違う点がいくつかあります。列記しましょう。
「休憩が必要となる6時間超の所定労働時間ではない職場がある。所定労働時間が6時間超でも、こどもが学校に登校している日は休憩時間の設定に特に問題はないことが多い。ところが土曜日や長期休業日は朝から夜までの勤務となるので休憩が必要となる。つまり日によって休憩時間が必要か、必要ではないかが異なる」
「人件費不足で慢性的に従事する職員数が少ない。誰かが休憩に入ると、他の職員の業務量がただでさえ過重なのにさらに業務量が厳しくなる。よってシフト上は休憩時間を設定しているが、事実上、休憩を取ることができない」
「長期休業期間中や土曜日など、つまり一日開所の日の休憩時間を昼食の時間に設定することがある。ところが児童クラブの昼食時間はこどもの摂食喫食状況をしっかりと把握し事故防止に留意することが職員に求められるので、こどもと一緒に食事をしていても勤務時間に相当する。労働から解放されていないので休憩時間とは言えない」(こどもとは別室で、業務上の連絡を受ける必要がない状態で食事ができる状況であれば、その時間は休憩になります)
「休憩する場所がない。外に出ても休憩時間を過ごす場所がないこともある。児童クラブ室内に職員専用の事務室がない場合もある。事務室があっても他のクラブや運営本部、保護者から連絡が入ってその対応が求められるのであれば、休憩時間ではなく手待時間となる。労働からの解放を実現することがなかなか難しい」
「こどもと関わることが最も大切だという考えが行き過ぎてしまい、休憩も休日も削ってそれだけこどもと関わる、保護者と関わる時間を長くすることが児童クラブ職員の美徳である、という考えを持つ人がいる。そういう人が職場のリーダー(格)であると周囲が休憩を取りにくくなる」

 私が直面した事例を紹介しましょう。就業規則を変更し、1日の勤務時間が6時間「以上」の場合に1時間の休憩を与えるような内容にしたいとし、職員に投げかけました。また、休憩の「先付け」「後付け」(例えば8時間勤務の場合の1時間休憩を始業または終業に合わせてしまう。つまり7時間の連続勤務となる)を絶対に禁止しました。多くの人が消極的賛成で、中には明確に反対する職員もそれなりにいました。理由は「こどもと関わる時間が短くなる」「休憩時間の職員配置が厳しい」「7時間拘束となってしまう。その分、遅く出勤するなり早く帰宅するなりの方がうれしい」というものでした。職員配置についてはクラブごとの人件費予算に余裕を持たせることで解消できますが、休憩が不要な6時間勤務に1時間の休憩を付けることで「それだけ長く出勤していることになる」という心理的抵抗は、なかなか厳しいものがありました。それでも休憩を大事にすることで就業規則を変えましたが、1年もすれば「休憩1時間」が当たり前に根付いていきました。

 児童クラブで話題にしていきたい、つまり多くの人の関心事にしていきたいのは、「休憩を用意するのは事業者の責任だ」ということです。先の報道で明らかなように、休憩時間を与えないことで事業者は賠償金を支払うことにもなるのです。当たり前だと思われるのですが、なかなか当たり前ではないのです。「休憩時間はぜひシフトで設定してください。休憩をどうとるのかは現場で工夫してください」という事業者が多いのです。
 しかし、現実的に、従事している職員が少ない、休憩場所がない、こどもとごはんを食べる時間帯しか休憩時間の設定ができない職員配置になっている、職場の雰囲気そのものが休憩時間よりこどもと関わる時間の優先が高評価となっている、という問題が存在している事業者があるのです。これは現場の権限や工夫で解消できるものではありません。事業者が休憩についてその実施方法も含めて現場に丸投げしているのは、単に事業者の怠慢です。

 児童クラブの中の人たちは休憩時間に関するこの判決を話題にして、休憩時間に関する関心を広め深めていくようにしましょう。職員だけでなく利用する保護者にもお願いします。「先生たち、しっかり休憩は取れているの?」と聞きましょう。休憩をしっかり確保できず疲れて注意力が散漫になった職員に、わが子の命を託したいですか? 職員や保護者が休憩の必要性、重要性をしっかりと理解し、事業者に一致団結して休憩の確実な実施を求めて意見を上げていく、届けていく動きを持続して続けていくことが大事です。
 ただ注意したいのは、休憩に関する実施の責任は事業者にありますが、では具体的にどうすれば職員が充実した休憩時間を確保できるようになるのかについては労使双方でしっかりと相談しながら作り上げていくことです。休憩する場所が児童クラブ室内にない、ところがクラブの外で職員が休みながら過ごせる場所がない、車通勤ではないので移動にも不便だ、という場合に、どうしたら職員の休憩が確保できるようになるか、それは労使双方で一緒に悩んで考えることが必要だ、ということです。

<職場で感染、労災に! こどもから感染症をもらいやすい児童クラブの職場はどうなる?>
 次に紹介するのは、わたしはとても関心を持っています。職場で感染症にり患した場合の労災保険給付(労災)を認めた判決です。まだ地裁判決ですから控訴審等でひっくり返るかもしれませんが。ヤフーニュースに2025年4月22日20時33分に配信された京都新聞の「「上司の帯状疱疹から感染、意識障害に」 京都地裁が因果関係認める」という見出しの記事を一部引用して紹介します。

「帯状疱疹(ほうしん)にかかった上司からウイルスをうつされたことで水痘(水ぼうそう)や別の病気を発症したとして労災保険の給付を求めた30代女性が、労災認定をしなかった京都下労働基準監督署の処分を不服として国に処分取り消しを求めた行政訴訟で、京都地裁(植田智彦裁判長)は22日、業務と病気との関連があったとする女性側の訴えを認め、取り消しを命じた。」
「植田裁判長は判決理由で、医師らの意見を踏まえ「市中感染の可能性は低く、業務中に感染した」と判断。」(引用ここまで)

 感染症と労働に関してはいろいろと難しくややこしい面があります。法令(労働安全衛生法や感染症予防法)で「就業禁止」となる感染症については、法令で就業が禁止となっているので、会社が従業員を休ませる命令をしたわけではないので、会社側には休業補償をする必要はありません。よって職員には無給で休んでもらっても問題はありません。もっとも健康保険の傷病手当金の対象にはなります。
 なお新型コロナウイルスは5類の感染症になりましたが、業務に起因して(仕事が原因となって)新型コロナになって仕事ができ無くなれば労災の対象になることは変わりありません。

 感染症予防法で4類、5類(新型コロナを除く)となっている感染症になってしまった職員をどうするか、という問題がこれからとても重要になると私は考えています。その1つの面が今回の水痘ウイルスのり患によるものです。裁判の事例は同じ職場で働く人から感染したものですが、児童クラブの仕事は、多くの感染症が一気に流行しやすいこどもたち、それも大勢のこどもたちを相手にする仕事ですから、学校で感染が広がっている病気にかかりやすいのです。児童クラブで働いていて、季節性インフルエンザになったとか、ノロウイルスにかかってしまったとか、いろいろあります。

 正直なところ、今すぐ又は数年来のうちに「児童クラブの現場でこどもたちから移された病気が原因となる労災が認められる」状況になるとは考えにくい。そういう一般的な見方、ものの考え方がないからです。だからこそ、児童クラブの現場で、児童クラブを利用する保護者も巻き込んで、この判決のことや、職場でかかった感染症について話題にして広めていくべきなのです。そうした話題が当たり前に周知されれば、「児童クラブの現場で病気をうつされたら、それって労災にしないでいいの?」という疑問もまた、多くの人の脳裏に浮かび上がることを期待できるようになるでしょう。(いずれ、わたしが社会保険労務士の登録を済ませましたら、こうした児童クラブの職場における労災について積極的に関わっていきたいと考えています)

 労災はまだ先の話でも、事業者が休業の保障をするとか、あるいは現場でうつされた病気の治療には特別の有給休暇を設定して配慮するとか、そういうことを求めていくことはすぐにでも取り掛かっていきたいですね。児童クラブの多くの事業者が、職員がクラブ現場でり患した感染症の治療に特別の有給休暇を認めて対応しているということになれば、それは労災でも認めるべきだという意見にさらに正当性を与えることになります。

<大事なことは、問題意識を持っていることを広めること。そして記録、証拠集め>
 児童クラブでかかりやすい病気による対応、また先に取り上げた休憩時間のことについて、ぜひとも児童クラブの世界の中で、どんどん話題にして、あるいは会議で取り上げる、勉強会で学ぶ、いろいろな機会で多くの職員、また保護者に知ってもらい広めてもらいたいのです。たとえ問題だということが実際に存在しても、「人々に知られていなければ」話題にすらなりません。「問題が存在している」ことを知られなければ「問題は存在しない」と同じなのです。すなわち「このことについて、問題意識を持っている」ということを世間に広く知ってもらうことが大事です。
 児童クラブの世界を変える、より働きやすい業界に変えるのは、「みんなが知ること」が第一歩です。ぜひ話題にしましょう。このブログを印刷して配ってもいいですよ。私も引き続き、どんどん話題にしていきます。

 そして同時に、その問題意識を支える根拠として、「実際に、こういう状況にある」という事実を把握することです。つまり記録を取る、証拠を集めるということです。休憩のことであるなら、「シフトはこうなっている、ところが、この日の実際の勤務実態はこうだったので休憩は取れなかった。なぜ休憩が取れなかったのかは、こういう事情があった」ということを、該当する日時ごとにしっかりと記録に残すことです。クラブの現場でこどもたちから病気をもらったと思われることがあれば、「〇月〇日から小学校で〇〇病が流行して学級閉鎖となった。クラブの児童も何人かが発症して〇人が休んだ。〇日前から体調不良を訴えていたこどももいた。そして〇日になって職員も発症した」ということを記録で残しておくのです。前にも取り上げた熱中症も同じです。外気温、室温、熱中症指数をしっかりと記録して事実を積み上げていくのです。

 できればその記録は公開して、あるいは事業者や市区町村に提出して、問題の存在を広く一般に知らしめることです。SNSやメディアで取り上げてもらうことも大事です。

 問題意識を持つために、まずはどんどん、こうしたニュースを児童クラブの中の世界で当たり前に会話ができるようにしていきましょう。そして自分たちの職場環境をより快適にするために、改善につながるための記録を集め、証拠を積み重ねていきましょう。

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 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 放課後児童クラブを舞台にした、萩原の第1作目となる小説「がくどう、序」が発売となりました。アマゾンにてお買い求めできます。定価は2,080円(税込み2,288円)です。埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員・笠井志援が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。リアルを越えたフィクションと自負しています。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、群像劇であり、低収入でハードな長時間労働など、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子どもたちの生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。素人作品ではありますが、児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描けた「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作に向いている素材だと確信しています。商業出版についてもご提案、お待ちしております。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

(宣伝です:放課後児童クラブのエアコン機器の点検と清掃を考えている方に朗報です。弊会をバックアップしてくれている、埼玉県上尾市の「SVシステム株式会社」(埼玉県上尾市の電気・空調設備施工管理会社|点検・修理・メンテナンス|SVシステム株式会社)が、「児童クラブ限定」で、格安にエアコン機器の点検と清掃を承ります。上尾市に比較的近い地域であればお伺いできます。見積はもちろん無料です。技術者のスキルは超一流。私が以前、児童クラブ運営事業者だったときからの長いお付き合いです。弊会お問い合わせメールで連絡先をお送りいただければSVシステム社に転送いたします。直接のご連絡も、もちろん大丈夫です。夏前にぜひ、エアコンの点検を!)