最近の報道から運営支援が気になるポイントを紹介します。放課後児童クラブ内で盗撮? 熱中症防止、「困った人」って何?
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている、ほぼ唯一の事業者「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く、成長ストーリーであり人間ドラマ小説「がくどう、 序」を書きました。アマゾンで発売中です。ぜひ手に取ってみてください! (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)お読みいただけたらSNSに投稿してくださいね!
この数日の間に報じられた事案、出来事のうち、運営支援が気になる報道を3つ取り上げます。児童クラブ職員が盗撮で検挙された事案、以前も触れましたが職場における熱中症対策、そしてSNSで炎上中の、スーパーカウンセラーを称する人物の新刊書籍「職場の「困った人」をうまく動かす心理術」(三笠書房)について私見をつづります。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<児童クラブ職員が盗撮?>
この事案を伝える報道を2つ、引用して紹介します。まずはNHK千葉の千葉 NEWS WEBが2025年4月17日18時22分に配信した「千葉 松戸 学童保育施設の元支援員 盗撮の疑いで逮捕」との見出しの記事です。
「千葉県松戸市にある学童保育の施設で支援員を務めていた26歳の男の容疑者が、女子児童のスカートの中を盗撮したなどとして逮捕されました。調べに対し、容疑を一部否認しているということです。」
「逮捕されたのは、松戸市内にある放課後児童クラブ、いわゆる学童保育の施設の元支援員」
「警察によりますと、先月下旬、支援員として勤務していた施設内で、女子児童のスカートの中を盗撮する(中略)疑いがもたれています。」
「施設での盗撮については「わざとではありません」と容疑を否認しているということです。施設を運営するNPOには、今月上旬に退職届が出されていた」
(引用ここまで)
もう1つの記事はヤフーニュースに掲載された千葉日報の記事で2025年4月17日19時に配信された「勤務していた学童保育所で盗撮か 駅で盗撮疑いも 26歳男を逮捕、千葉県警」との見出しの記事です。
「千葉県警は17日、性的姿態撮影処罰法違反(撮影)の疑いで千葉県野田市、無職の男(26)を逮捕した。」
「逮捕容疑は3月28日午前10時35分ごろ、学童保育士として当時勤務していた千葉県内の学童保育所内で、寝そべっていた女児=県内=のスカート内をスマートフォンで盗撮した疑い。」
「県警によると、女子高校生の盗撮容疑については容疑を認めているが、女児の盗撮容疑には「わざとではない」と供述している。」
(引用ここまで)
さて大変細かい点から取り上げます。NHKの記事に「放課後児童クラブ、いわゆる学童保育」と記載があります。この記事を書いたNHKの記者さんは、当運営支援ブログの読者さん?と思ってしまいました。この文言があるだけで、私には「この記事を書いた人は放課後児童クラブ、いわゆる学童保育のことは相当詳しいのだろう」と安心感を覚えるほどです。
一方で千葉日報の記事には「学童保育士」という職業名が出てきます。学童保育士という資格はありません。某一般社団法人が、学童保育士という民間の資格を広めようと活動しているようですが、「放課後児童支援員」「補助員」が、放課後児童クラブにおける資格や地位のすべてです。それ以外はまったくの単なる勝手資格です。インターネット検索では、学童保育士という名称を使って放課後児童クラブや児童クラブの職業、仕事の内容についてさも専門家を装って解説しているウェブサイトや団体が数多く見つかりますので、もしかすると千葉日報も検索して惑わされた可能性があるかもしれませんね。いずれにしても、児童クラブに、学童保育士という公的な資格があると誤認させるような肩書、職業名を報道機関が使うのは極めて遺憾です。もしかすると警察発表の丸写しかもしれませんが、であれば、NHKがこの名称を使っていないところはさすがです。先に述べた「安心感」のゆえんです。細かいところですが、こだわってみました。
さてこの事案で私がもっと気になるのは2点。千葉日報の報道による容疑には、被疑者が施設内で寝そべってい児童のスカート内をスマートフォンで盗撮した疑いがある、となっています。私が気になるのは、「この施設で従事していた他の職員は、被疑者職員が、スマホを手にして施設内で児童と関わっていたことを目撃したことはなかったのか、当該被疑事案の日時、場所はもちろん、そのほかの日時でもこの職員がスマホを手にして勤務していたことは目撃されていなかったのか」ということです。
私はかねて、児童クラブ職員には「早期発見行動」が重要であると訴えています。これは地位やキャリアにかかわらず、児童クラブで従事しているすべての職員が、他の職員の行動について、不審や疑念を持たれるようなことをしていないか常に確認の視点をもって従事する、ということです。私からこの早期発見行動について教わっている事業者や職員であれば、「スマホを手に施設内でこどもと関わっている? なぜその合理性がある? 何かおかしい」とすぐに気づき、対応にとりかかるでしょう。
また、職員がスマホを手にして従事していることが他の誰にも気づかれていない場合はありえるでしょうか。それには2つのパターンがあります。1つは、スマホを持っていることを隠していること。もう1つは、単独で従事しているときに限ってスマホを持っている、ということです。ただ、児童クラブの職場は、比較的狭い空間で数人の職員が従事しています。1~2日間であればともかく、半月、1か月以上、スマホを手にして従事していることを隠し通せることは不可能に近いです。(現に、私がクラブ運営最高責任者だった時代は、職員が私物のスマホをもって従事しているという他の同僚からの相談が数件、来ていました。隠していても、バレるものです)
後者の、単独で従事する時間帯があるというのは、それ自体が問題です。それはすなわち是正項目に該当するからです。他の職員が比較的近くにいて、児童と2人きりもしくはごく少数の児童と1人の職員で過ごす時間と空間が存在することを、その近くにいる他の職員が承知をして注意を払える状況にない限り、1対1で児童と対応する時間は原則として持たないことが基本的な概念として徹底されなければなりません。この被疑事案があった児童クラブの事業者は、その点を認識していたのでしょうか。
他の職員が、被疑者となった職員がスマホを手に児童と接していた様子を目撃していなくても、児童クラブ内にいるこどもたちに目撃されていた可能性は、私はゼロではなくそれなりにあったのではと予想します。児童クラブ側が、こどもたちに対して、少しでも不思議に思ったこと、奇妙に思ったことは、信頼できる大人にすぐに話して大丈夫だから、ということを徹底して伝えていれば、「うちの学童の先生、スマホを手に仕事しているよ」と自分の親に言ってくれるこどもが、いたかもしれません。そこから、非違行為を未然に防げる行動に取り掛かれる可能性だってあったでしょう。この事業者が、こどもにたいして、「嫌なことや気になることは、どんどん話していこうね」と普段から説明して理解を育てていたかどうか、この点も私はとても気になります。
つまり、性犯罪に限りませんが、児童クラブ内での犯罪行為そのものは個人の刑事責任であり、裁判で有罪となってからは罪を償うことが必要ですが、犯罪行為を防ぐことは児童クラブ事業者に課せられた事業責任であるので、事業者には早期発見行動と、こどもの意見表明をしっかり育てていくことが重要な責任として求められるのです。この点の意識があまりにも薄いのが児童クラブの業界全体に感じられ、私はとても不安でなりません。
気になったもう1つの点は、被疑者が逮捕されたときに肩書が無職であったこと、つまり児童クラブの職員ではなかったという点です。NHKの記事には、退職届が出されていた、とあります。児童クラブ事業者が退職を受理した時点において、事業者がこの被疑者に関して非違行為のおそれがあったことを認識していたか、いなかったのかは分かりません。もし認識していれば、私には遺憾です。しっぽ切りではないですが、逮捕または起訴などの何らかの時点まで職員としての身分を確保しておくべきではなかったか、ということを言いたいのです。事業者の使用者責任は早くクビにしたところで消えるものではありません。この点、NPOのような保護者由来の組織は認識が甘いと私は感じます。
児童クラブにおけるこどもを対象とした犯罪行為を起こさない努力を、すべての事業者が徹底して講じてほしいですね。もちろん運営支援は全面的にその取り組みを支援できます。むしろ得意分野です。
<熱中症に罰則!>
当ブログで以前(2025年3月13日)にも伝えた「国が熱中症対策を罰則付きで強化するとの報道。であれば、国は放課後児童クラブに対して2つの対応が必要です!」で取り上げた、事業者の熱中症対策について動きがありました。ヤフーニュースに配信されたテレ朝newsの2025年4月15日16時26分配信の「職場の熱中症対策を罰則付きで義務化 6月1日に施行 厚労省」の記事を一部引用して紹介します。
「職場での熱中症対策について、罰則付きの義務化とする改正省令が公布されました。6月1日に施行されます。」
「事業者に対して熱中症の疑いがある人を早期に発見するための体制整備や熱中症の疑いがある人が見つかった場合に行う体を冷やす措置などについて、手順の作成や周知が義務付けられます。対象となるのは暑さ指数28以上か気温31℃以上で、連続して1時間以上か一日あたり4時間を超えて行う作業となります。事業者が対策を怠った場合は6カ月以下の拘禁刑か50万円以下の罰金が科されることとなります。」
(引用ここまで)
この法令は重要です。児童クラブ職員の熱中症対策を児童クラブ事業者が行うよう、罰則付きで必ず実施することが求められるということです。エアコンがなかなか整備されない、整備されても能力的に熱中症対策には不十分である施設がたくさんある児童クラブ業界ですから、事業者がすぐさま対策に動くよう、クラブ運営者は直ちに動きましょう。児童クラブ職員は事業者に必要な対策を講じるよう求めましょう。
「なかなか事業者が対応してくれない」とか、「事業者としては理解しているけれど、整備に必要な予算を市区町村が用意してくれない」という現実問題があるのは承知しています。「事実として、こうなっている」というデータを、すぐさまそろえましょう。
前年度の夏を中心とした期間に、児童クラブ室内の温度のデータがあるなら、とりまとめて事業者、または市区町村担当課に提示して対策を求めるよう提案しましょう。データがなければ、さっそくデータを収集し、なるべく早いうちに対策を講じることができるよう、事実をもって働きかけましょう。
来週から、例えばこういうことを行いましょう。
・毎日、定時の室温、湿度の観測。エアコンの稼働状況、天候、室内にいる大人と児童の人数を一緒に記録する。暑さ指数を計測できる仕組みの構築。必要な備品の導入。
・定時の観測はこどもたちと一緒に行うことでもよい。今から始めれば、暑さが本格化する6月ごろには定時観測が習慣化されている。
・職員の健康状況も併せて取りまとめる。できれば個人の平熱データは全員分、主任や施設長でいいのでその日に従事している最も責任のある立場の職員の、その日の体温もせめて1日2回、測定して室温データとともに記録する。
・医師など健康管理の専門家に熱中症対策を相談する。個々のクラブごとに応じた対応を助言してもらう。産業医がいるなら職場の巡回をしてもらって対策を助言してもらう。
なにか新しい制度を講じ、動かすには、特にエアコン整備など予算が必要な事項については、客観的な事実を合わせて提示して協議を求めなければ、組織は動きません。たとえ2025年度の夏に整備が整わなくてもこの夏の間のデータをしっかりとって、事業者や市区町村に提示して対応を粘り強く求めましょう。
<職場の困った人??>
SNSを中心に、いわゆる炎上している本があります。スーパーカウンセラーを称する人物の新刊書籍「職場の「困った人」をうまく動かす心理術」(三笠書房)という書籍です。前提として、私もかつて新聞記者として、そして今もひっそりと書籍を送り出している立場、またこのブログで意見を発信している立場として、言論の自由、出版の自由は民主主義の根幹ともいえる基本的な権利であり、その権利は最大限、護られるべきだという立場です。もちろん、書籍や言論が、第三者や特定の人物の権利を侵害する、傷つけるという不法な行為を構成するのであれば、それは許されないとも考えます。例えば個人の名誉やプライバシーを侵害する言論は許されないということです。
話題の本が直ちに誰かの名誉やプライバシーを侵害するかどうか分かりません。また、いわゆる発達障害と称される方々の権利や人権を直ちに侵害しているかどうか、分かりません。であれば、別段、この書籍の発刊には問題がないということは言えるでしょう。しかしながら、私が憂慮していることがあります。
種々の障害や症状によって決して本意でないのに「生きにくさ、働きにくさ」を自他ともに感じている人たちが、職場やあらゆる場所において、自身の行動や言動によって周りの人から差別的に取り扱われる、あるいは(対照的な用語として用いますが)定型的な発達をしている人とは明確に違う待遇におかれているという現実が多いことを考えると、職場などで困ったことしかしない人の対応を「尻ぬぐい」と表記し、その尻ぬぐいたる行為をする立場の人に同情を寄せるふりをしてノウハウ的な思考を売りつける書籍は、結果的に、生きにくさを感じて苦しみながら生きている人たちを、さらに分断の向こうに追いやることに加担する恐れが大きい、と私は憂慮します。
その点から、いったんここは発売を立ち止まり、その生きにくさを感じながら働いている立場の人たちの声をも取り入れながら改めて再構成した書籍を発刊することのほうが、よりメリットがあると私は思うのです。いわゆる発達障害と呼ばれる人たちの存在を「困った人」と定義して、その困った人に対応する人たちに優越感を植え付けるような内容は、結果的に社会の分断を招き、それは最終的に、何らかの点で弱い面を抱えている人を追いやる差別的な思考が一般的な思考であると社会に植え付ける懸念があると私は考えます。そのような世界においては結局、言論や出版の自由すら「そんな困った人の言う意見など無用である」として無視され、排除され、意見の発信の機会すら奪われてしまうという可能性を私は見てしまうのです。出版社にとってそれは最悪の社会であるはずです。その最悪の世界を招きかねない恐れのある行為に出版社が加担する、まして利益のみを重視して目先のメリットだけにとらわれて出版することを出版社が判断してしまうことは、私は大問題だと考えるのです。著者個人よりも出版社の意識として、私は大きな問題があると考えています。
しかし、きっと売れるでしょうね。なぜなら、現実的に「尻ぬぐいをさせられてほとほと困っている」という人が、ごまんといるからです。SNSにも少数ですが投稿されています。(これはわたしの独断と偏見ですが、この著者の方自身が、ここに至って周囲の方々にいわゆる「尻ぬぐい」をさせている事実に気づいていないのでしょうか。であれば、悲しいかなご自身の問題ということになってしまいます。)
きれいごとを抜きに、児童クラブの世界では、実はこの騒動が投げかけた問題は実際にあり、かつ、顕著です。私も何度となく遭遇、直面した案件でもあります。児童クラブの世界の「中」にいる人には、いわゆる発達障害と呼ばれる特質、特性、能力や症状がある人は珍しくありません。これは児童クラブが長年にわたって解消されていないどころか悪化し続けている、深刻な人手不足があります。人手不足の原因は人件費が足りないことによる不十分な雇用労働条件、とりわけ低賃金があります。このような状況では、現実的に、いわゆる発達障害と診断されている人も多く求人に応募してきて採用されることになります。それだけ、人手不足がはなはだしいのです。
児童クラブには「加配職員」と呼ばれる、「障害児受入事業」があり、人件費補助があります。児童クラブにおいて特別な支援を必要とするこどもの成長発達を支える職員が加配職員です。この加配職員に、いわゆる発達障害の方が就くことも珍しくありません。まして正規職員にも、珍しくありません。
こうなると、他の職員からするとまさに「しりぬぐいばっかりさせられている」という状況が避けがたいのは、事実です。現に、数えきれないぐらい「あの人のしでかした後始末をするのはもう嫌だ。あの人がいなくなるか、私がいなくなるか、どちらかです」と職員に言われたことも数えきれないぐらいあります。守秘義務の関係で詳しくは書けませんが、いわゆる発達障害と後日、専門家から判定を受けた職員が、児童に食べさせてはいけないアレルゲン入りのおやつを提供したこともありました。もちろん、当該の職員は、その日のおやつには、ある児童には食べさせてはいけないアレルゲンが入ったおやつがあるので、それは提供しないということは、当日の打ち合わせでも確認していました。当該職員自ら「これは提供できないおやつですね」と発信していたのです。ところが、おやつ提供時直前に起きた別の出来事の対処に集中するあまり、提供してはいけないアレルゲン入りのおやつをごく自然に手渡してしまっていた。「マルチタスク能力の重大な欠如」といえるでしょう。同時に複数のことを処理できない、ということです。
これはもちろん重大な事故になりました。運営の最高責任者であった私こそまさに「尻ぬぐい」をした張本人です。本当に大変な措置でした。
しかし、だからといって、「尻ぬぐいばかりさせる人は消えてなくなれ」とは全く思いません。そもそも「(問題がないと思う人から位置づけられる)困った人」はいても、その「困った人」を「消えてほしい、去ってほしい」という考えの対象とすることは、あってはならないのです。「(自分自身が)困ってしまっている人」は大勢います。その、困ってしまっている人の起こしたミスや失敗をフォローする、リカバリーする、謝ったり修正したりする人は、仕事を増やされてしまって困ってしまう人にはなりますが、「あの人は、本当に困った人だ」という意識から「困った人は、不要だ。いらない」という意識に容易に昇華されてしまってはダメなのです。なぜダメなのか。それは優生思想と本質的に変わらないからです。
適材適所の配置は当然です。能力に見合った職務、職種を用意するのは事業者の務めです。ただ現実に、なかなかそこまでの対応は、多くに児童クラブではできないし、するつもりもない事業者も多いのです。
現状において、いわゆる発達障害の方の雇用が児童クラブで難しいのは事実です。こういう事情です。
ある児童クラブで必要な業務の量を100単位とします。正規職員1人が担える業務の適正な量は20単位です。報酬も1人20単位です。
→この場合、適正な職員数は5人です。必要な報酬は100単位です。
ところが現実の児童クラブでは、予算が足りない(補助金が少ない、保護者から徴収する料金も政策的に低く抑えられている)ので、報酬が80単位しかありません。この場合、どうなるでしょうか。
①人数を変えず報酬を変える。必要な業務の量100単位、職員数5人、報酬80単位ですから、職員1人あたりの業務量は適正な20単位だけれども報酬は16単位に下がります。当然、衛生要因の悪化で職員のモラールは悪化します。
②報酬を変えないので人数を減らす。必要な業務の量100単位、報酬1人あたり20単位を変えないために職員を4人にしました。この場合、職員1人あたりの業務量は適正を超える25単位となります。これもまた、賃金あたりの業務量が増えますから、職員のモラールは悪化します。
この①または②が単発もしくは圧倒的に多くの現場で同時に起こっているのが児童クラブです。さて、このような職場に、適正な業務量において客観的に他の職員より低い業務処理能力の職員が採用されたらどうなるでしょうか、ということです。これがつまり、いわゆる発達障害の方が一緒に働いている児童クラブにおける、他の職員の仕事を大いに影響するのです。児童クラブの業務は、同時多発的に複数の出来事が起こり、職員はその出来事を同時に処理する能力が求められます。優先順位を付けて最も重要な事案に傾斜しつつ複数の事案を処理していく、このマルチタスク能力は、特定の方においてはとても苦手な分野です。また、数人という比較的少数の職員集団が多数の児童に対応していくには、綿密なコミュニケーションが求められますが、このコミュニケーションが得意ではない方もいます。
マルチタスク能力やコミュニケーション能力が他の職員より十分ではない職員の適正な業務量は、他の職員より少なくなるのはやむを得ないことです。
業務量100単位で職員数5人の児童クラブで、うち1人がマルチタスク能力が十分ではない方になった場合を考えます。この職員に求めることができる業務量が15単位だった場合、残る4人(各20単位の業務量)が、5の単位を引き受けることになります。また、職員数4人の児童クラブでは、残る3人(各25単位の業務量)が、10の単位を引き受けることになります。
これが、現在の児童クラブにおいて、児童クラブにおいて必要な業務能力を十分にこなすことが難しい、いわゆる発達障害の方の就業を避ける、拒絶する理由です。しかしそれでも「職員」がいなければ補助金の交付要件を満たせない場合、事業者はそういう方を雇用します。現場に「しっかり面倒見てあげてね」という一言だけ添えて。
このような構図では、「困った人」「困らせる人」という避けたい構図が生まれてしまうのは避けがたい。あまりにも残念ですが、現状からして対立の構図を生み出してしまっているのです。
まして、児童数の大幅な増加で大規模状態になっている児童クラブでは、業務量全体が100単位どころか120単位、150単位になります。当然、職員が負わねばならない業務量はどんどん増えていきます。これではどのような職員がいても誰かが疲弊してミスをして、誰かが「尻ぬぐい」する構図にしかなりません。まさに「やりがい搾取」の労働現場です。
これを解消するには、余裕が必要。つまり「規模の大きさ」が必要です。適材適所という言葉はやはり重要であって、いわゆる発達障害の職員でも対応できる、こなせる、やり遂げられる職場、職務を用意するには、事業者の規模が必要です。マルチタスク能力をさほど必要としない職務があれば、その職務に異動してもらうことで全体的に児童福祉のために従事してもらう、という理解をしてもらうことです。
例えばこういうことでしょう。
業務量100単位の職場が3つになって全体として業務量300単位の事業者になりました。このうち、15単位の部分は、マルチタスク能力がいらない部門の仕事です。業務量15の方は新たにその仕事についてもらうことになりました。報酬も15単位となりました。残り285単位の仕事を14人で引き受けます。計算すると業務量も報酬も20.35単位となります。業務量と報酬が見合っていますから、大きな影響はでないでしょう。
あるいは、事業者の規模が拡大すれば業務量が増えますから、業務量300プラスアルファの、このプラスアルファの部分を業務量15の人に担ってもらえばいいのです。
1クラブ1法人や、数クラブ1法人ではどうしてもスケールメリットが無いので、マルチタスク能力等、いわゆる発達障害の方には不向きな仕事ばかり児童クラブ職員として担ってもらうしかなく、結果的に「困った人はいらない、追い出せ」という考え方を生み出す構造に陥ってしまいます。これが現状です。ですので現状において「もう発達障害の人は雇ってくれるな」という現場の声は否定しがたいのもまた事実なのです。この不幸な構造を解消するには、補助金が大幅に増えればいいのですが、それは相手があること。国が決めなければ実現しません。
であれば、事業者側が大きく育つしかありません。地域に根差した地域ながらの児童クラブが一番良いのだ、というこだわりは、私に言わせればそれは事業の本質を重視しているのではなくて、単に「地域のブランド」をありがたがっているだけです。小さな規模の児童クラブ運営事業者が大きくなっていって、50クラブ近くを運営するまでになれば、いろいろな職員の持ち味、得意分野、苦手分野に合わせた職種の創設や配置が可能になってきます。職務が違うのですから報酬は異なること、それだけはしっかりと周知させつつ、人手不足が著しく、それがなかなか解消される見通しがないからこそ、自分たちでできる対策、「事業者の規模拡大」を行っていくことが、「いろいろな人が働ける、活躍できる児童クラブの職場、職種の実現」になると私は考えています。
例の本は今もアマゾンの売れ筋ランキングでベストテン以内をずっとキープしているようです。人がどのような本を読もうがそれこそ良心の自由ですが、もし何か知的好奇心を刺激されたいとして本をお探しでいるのなら、わたし(萩原)の「がくどう、 序」や「知られざる学童保育の世界」こそ、自信をもってお勧めします。
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弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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放課後児童クラブを舞台にした、萩原の第1作目となる小説「がくどう、序」が発売となりました。アマゾンにてお買い求めできます。定価は2,080円(税込み2,288円)です。埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員・笠井志援が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。リアルを越えたフィクションと自負しています。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、群像劇であり、低収入でハードな長時間労働など、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子どもたちの生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。素人作品ではありますが、児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描けた「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作に向いている素材だと確信しています。商業出版についてもご提案、お待ちしております。
☆
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
☆
放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)