こども性暴力防止法(日本版DBS法)に関して意見や懸念、希望も含めて関係者が交流し、社会に発信しましょう。
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。本日の運営支援ブログは、いわゆる「こども性暴力防止法」(日本版DBS法)による新制度について、この制度に関わる又は関わるであろう立場の人たちによる意見交流を盛んにしてその内容をどんどん社会に発信し、これから細部が詰められるであろうこの新制度の具体的な制度設計に少しでも反映させられることを期待する、ということを訴えるものです。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<こども性暴力防止法には、誰も反対していない>
子どもに関わる仕組みや施設、事業に従事する者に、過去の一定の性犯罪歴を持っている人物(特定性犯罪事実該当者)を就かせない仕組みとして導入が決まったものです。ただ、それはあくまで法全体が求めるものの一部で、同法の本質としては、子どもとかかわる一定の事業者に対して子どもを対象とした性暴力等の防止をする責任を課すことです。そのために日頃から「児童対象性暴力等の防止に関する関心を高め、取り組むべき事項の研修を受講させる」「児童対象性暴力が行われるおそれを早期に把握するための措置を実施する」「容易に相談できるように必要な措置を実施する」ことが重要です。
学校設置者等は義務です。学校教育法上による学校、幼稚園、認定こども園法と児童福祉法による認可等の対象となっている認定こども園、保育所や児童館を含む児童福祉施設、放課後等デイサービスなどが含まれる指定障害児通所支援事業が義務となります。一方、民間教育保育等事業者は、専修学校や各種学校、放課後児童クラブや病児保育、認可外保育施設のように児童福祉法の届出による事業、学習塾やスポーツクラブのような民間教育事業が対象で、「認定」を受けた事業者は、学校設置者等に課せられる義務を履行することになります。
なお、正式名称は「学校設置者など及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」が正式名称ですが、運営支援ブログでは「こども性暴力防止法」と表記しています。
以前から、保育所や学校で、業務に従事する立場の者が子どもに対して性加害をして検挙摘発されて報道されるたびに「性犯罪をするような者を子どもに関わる職に就かせるな」という市井の厳しい声が上がっていました。こどもが受けた性犯罪や性暴力は被害児童のその後の人生にあまりにも深刻な影響を及ぼすことから、厳しく対処することが必要だという世論が盛り上がっていました。英国ではすでに同様の仕組みが導入されていることも後押ししました。
2024年5月23日に衆議院本会議で、同年6月19日は参議院本会議で、それぞれ「全会一致」で可決されたことは、極めて重要です。政策や理念で常に対立することが多い政党が、それこそ自由民主党から日本共産党まですべての議員による賛成で成立したのは驚くべきことです。あえて申せば「子どもの権利を守る」という「錦の御旗」の前にはあらゆる政治イデオロギーもすべて無になるという事態である、ということでしょうか。
私自身は、かつて事業者の長として児童クラブ運営に携わっていた時期、子どもを巻き込んだ卑劣な事態に直面して数年間、その対応に全身全霊で向き合った経緯があり、子どもが性犯罪の被害者となる事態を生む可能性は極力、低くするべきだという信念を持っているので、こども性暴力防止法については原則として賛成の立場です。むしろ遅きに失したとすら考えますが、以下に触れる懸念は解消されるべきだと考えておりますし、それとは別として、「子どものためになると思われることであれば、それはあらゆる事柄に優越する」という思考はまったくもっておりません。本日のブログの趣旨と外れるので長々と書きませんが、私は「子どものために必要でしょう!」という「錦の御旗」は、子どもに関する施策や政策を取り扱う立場の者にとって必要な合理的な思考や対応を阻害する可能性があると考えており、極めて危険と常々認識している立場の者です。
<懸念を表明することを戸惑ってはならない>
国会は全会一致で賛成、メディアもおおむね、子どもを守る新たなスーパーシステムとして、こども性暴力防止法の施行に大いに期待しているようです。
しかし、それこそ「子どもを守るために万々歳」という雰囲気に流されている恐れがややもするとあると、私は感じています。この法律は、国民の基本的人権を限定的であっても制限するものであり、子どもに関わる職業に就くことを希望する者又は現に就いている者に限定されてはいるものの国民のプライバシー情報やプライバシー権を、子どもに関わる事業者が把握することを容易にしていることは、しっかり認識していなければなりません。まして、特定性犯罪事実該当者は、職業選択の自由を制限されること、現に職に就いている者が特定性犯罪事実該当者だった場合は判決が確定して罪に服して完全に更生したと判断できる状況になっていたとしても過去の事実を理由として解雇や待遇が大きく低下する配置転換を余儀なくされるということで、労働者の権利を制限されるのです。このことを、本来なら、人権にとりわけ敏感であるべきメディアは常に念頭において報道するべきでしょう。
この法律は、子ども自身と、子どもの将来という、社会が絶対的に守らねばならないものを、同等に重要であって守られて当然の他の国民の権利を制限することで守っていくという「超劇薬」です。それだけに、実際の施行にあたっては、なるべく深刻な影響が生じないように、この法律に関係する立場の者や法律の専門家の意見を国はしっかりと聞いて、今後の具体的な制度設計や事業者が従うべきガイドラインの策定に反映させていっていただきたいと運営支援は訴えます。児童クラブの世界に限定してですが、この法律に関して深刻な影響が懸念されることは以下のようなものがあるでしょうか。
・認定事業者になるための手続の煩雑さと複雑さ。当然ながら簡単にする必要はないが、事実上、大手の児童クラブ運営事業者に限定されるような煩雑で複雑な制度は、この制度の活用が容易な大手事業者の市場拡大を事実上、推進することになる。中小規模の児童クラブ事業者でも分かりやすく取り組みやすい業務フローになるのか。分かりやすいマニュアルが整備されるのか。認定事業者となるための書類作成と申請手続きを行政書士、司法書士、弁護士が代行できる制度として設計されるのか。
・犯罪事実確認書の漏洩の危険性。児童クラブの事業者の組織運営能力に起因する。適正な管理ができるのか。ろくに事務室も設けていない児童クラブ事業者が大勢ある中で、厳重な管理が必要な情報をどう取り扱うのか。
・犯罪事実確認書の交付に必要な戸籍情報の提出に関する一連の業務について児童クラブ事業者側への配慮がなされるのか。同法33条7項に、申請従事者が戸籍謄本等の提出を対象事業者を経由して行うことを希望するときは、当該対象事業者はこれを拒んではならない、となっている。つまり、児童クラブに採用を希望する者が、「戸籍謄本の提出の作業は、そっちでやってくれないかな」と児童クラブの事業者側に求めた場合は、児童クラブ側が戸籍謄本の提出に関わる業務を行うことになる。これへの対応はしっかりとなされるのか。必要業務を行う職員配置の補助金の増額や、自治体が必ずこの補助金を活用することを義務付けるのか、あるいは士業に代行させるために必要な助成金を容易に活用でき、かつ、必要十分な額が確保されるのかが重要。現状ではとても採用希望者あるいは現に就業している者の戸籍謄本関係の事務を担えるだけの事務処理能力が、ごく一部の大手の広域展開事業者を除いて児童クラブ事業者には欠けている。
・職に就いている者が特定性犯罪事実該当者だった場合には、「本来業務に従事させないことその他の必要な措置」を講ずる義務が生じる。つまり、子どもと接触しない業務への配置転換が必要な措置として含まれているが、児童クラブの事業では、子どもと接触しない業務はほとんど存在しないのが現実。子どもと接触しない業務がある事業者は大手の広域展開事業者や、少なくとも50を超える支援の単位数を運営する事業者(予算規模として年間10億円弱)に限定されてくる。そのぐらいの事業規模を有していないと、子どもと接触しない業務に従事する職員を雇用する財政的な能力がない。となると、次は解雇になるが、解雇に関する判例は十分に積み重なっており、現に問題なく業務に従事している者の解雇が容易に認められるとは現時点では考えにくい。となると、同法を理由とした職員の解雇が認められるか否かの判例が積み重なる以前の状況において訴訟トラブルに発展することはどの事業者であっても避けたい。これは、「過去の性犯罪の事実が判明しても、それに目をつぶる事業者が現れる」事態をも懸念させる。
・認定を受けようとも種々の事情で受けられない児童クラブ事業者が、市区町村が実施する公募プロポーザルにおいて不利となる状況が容易に予想される。認定を受けたいが財政的あるいは人的資源の不足で認定を受けられないが、児童クラブにおける育成支援の実績においては高く評価されている事業者であっても、認定を受けないことによる職員による児童への性暴力等の防止に関するリスクが高いと判断されて公募プロポーザルへの応募資格を与えられない、あるいは配点において致命的な不利を課せられる状況が予想される。このような想定に関する対応策は講じられるのか。
・同法による煩雑な手続きを懸念して公営クラブの民営化が加速することはないのか。
<今こそ、意見を社会に広く、力強く伝える仕掛けが必要>
子どもを守るという錦の御旗であるこども性暴力防止法ですが、錦の御旗だからといって、しっかりと観察もせずにただ拝めるだけではダメです。しっかりと問題点や課題点、改善点があるなら、それへの対処を国に求めていくできです。まして、児童クラブの世界は学校や保育所、学習塾の業界と比べて政治や中央省庁への意見発信のチカラが格段に弱い業界です。現行の児童クラブの業界に与える影響が激震以上の激震となることが必須である以上、今すぐにでも、児童クラブにとって、できる限り、問題なく適応できる制度に持っていくことを訴える必要があるのです。
運営支援としては、以下の方法で、すみやかに、児童クラブに関わる関係各位による意見交流や検討会、シンポジウムを数多く開催して社会に意見を発出していく必要があると訴えます。
(方法その1)中央省庁や地方自治体にも通じている児童クラブ関連団体による会議体の開催。例えばNPO放課後アフタースクールのような全国規模の非営利団体が望ましいでしょう。
(方法その2)全国学童保育連絡協議会(全国連協)が呼びかけて行う会議体の開催。こども家庭庁ともネットワークがあるようですから。
(方法その3)日本弁護士連合会による会議体の開催。全国連協と連携しての開催でもよいでしょう。
会議体に参加が望ましい立場の方は、次のような方々が当然に名前が上がるでしょう。
・児童クラブの運営事業者。営利、非営利を問わず、事業運営の責任者。実務上の懸念点をぜひ挙げてほしい。
・児童クラブの現場職員。現場における同法への印象と不安、期待と実務上の懸念点をぜひ挙げてほしい。
・児童クラブの保護者、または保護者だった方。
・児童クラブの業界団体関係者。
・弁護士。法律的な観点での同法の影響や分析において基本的人権の観点からの意見が何より重要
・子どもへの性暴力等の防止を研究している有識者。
・社会保険労務士、行政書士、司法書士。同法の具体的な施行に関して果たすべき役割が大きくなるものと考えられる。配置転換や解雇のルールを定めるには社労士が、同法の認定事業者になるために必要な書類作成や申請手続代行、また身近な相談窓口として行政書士、場合によっては司法書士の士業の協力が不可欠。
・報道機関。記者、ジャーナリスト。問題点を取材して会議に提示したり、会議の内容を整理して社会に発信することが何より重要。
会議はオンラインでまったく問題ありません。大事なのは、論点の整理と実施回数、そして内容の広報と周知の徹底です。例えば、ある会議では「児童クラブが認定事業者になるにあたっての手続面に関する懸念」と題したり、またある会議では「児童クラブにおける個人情報の管理における問題点」を議題として、意見を交換して話し合い、お互いの知識の補てんや強化につなげる会議とすることが重要です。
事前に参加者に対して論者、講演担当者が作成した意見を送付して、会議ではその意見を熟読していることを前提に意見交換から始めれば、1時間や90分の会議時間でも、多くの人の知見を出し合える会議となることでしょう。1人の論者が20~30分使って持論を披露するよりも、持論は事前に書面で参加者に伝えたうえで意見交流、意見交換や質問、疑問点の発出に入れば、より実のなる会議体となることでしょう。
もう、時間がありません。すぐにでもこうした会議体を開いて、社会に、児童クラブ側の抱く懸念や実務上の問題点を広く伝えるべきです。それを国(こども家庭庁)に届けることで、子どもをしっかり守りつつ児童クラブの事業の健全な発展にも資する制度としてスタートするよう、関係各位は、今こそ力を結集するべきです。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」とタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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