放課後児童クラブの責任者が、子どもに土下座を強要?子どもが急性ストレス障害で治療を余儀なくされた事案に思う

 放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。全国各地の放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)では日々、誠実に子ども達と保護者の支援を行っていると信じていますが、残念ながらごく一部の施設において、不適切な対応に陥るクラブがあるようです。ごくごく一握りの不祥事が業界全体の信頼性を損ねるのです。運営支援は強く是正を求めてここに提言します。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
※原稿に訂正がございます。下記に分かるように表記いたします。(11月30日13時42分に訂正)

<これが事実なら許し難い事案>
 放課後児童クラブの責任者が在籍児童に不適切な対応を重ね、子どもは精神的なダメージで治療を余儀なくされたという、大変残念な事案を伝える報道がありました。その報道内容を紹介しますが、その前に、この事案は児童クラブ側と、児童側の言い分が真っ向対立していることを指摘しておきます。要は、「そんな事実はない」という事業者側の主張と、「子どもは、ひどい対応をされたと訴えている」という保護者側の主張が食い違っており、双方で争いが生じているということです。報道内容もその点には十分配慮されており、双方の主張をしっかり伝えている、記者の優れた力量を感じさせる読み応えのある記事となっています。

 記事は、滋賀県内の地域紙「滋賀報知新聞」の報道です。2024年11月14日付の1面トップ記事で、ウェブ版では見出しが「女子児童が深刻な急性ストレス障害 栗東市内の学童保育所でパワハラ疑惑」となっています。全文は滋賀報知新聞社のウェブサイトで閲覧できますので、検索してぜひ読んでみてください。ここではごく一部のみ、引用して紹介します。
「栗東市内のA学童保育所(民設民営)の代表から昨年7~8月に、当時小学2年生の高橋真由美さん(仮名)がパワハラを受けたと疑われる事案が発生して、急性ストレス障害になり、いまも通院する状況が続いている。市は、母親の圭子さん(同)から約1年2か月前にパワハラ疑惑の報告を受けながら、ようやく最近になって当時A学童保育所(以下学童)に通っていた児童たちにアンケート調査を行うといった対応の遅さに市民から批判の声が上がっている。」
「昨年7月末ごろ学童の部屋の端っこで、真由美さんら3人の児童が遊んでいると、折りたたみの机がバタンと倒れたため代表が学童の部屋に駆けつけた。その場にいた児童や少し離れて遊んでいた真由美さんらも呼ばれて、謝罪を強要させられたという。(代表は、机をしっかり組み立てていなかった支援員や机の上で遊んでいた男子児童に注意したが、その他の児童に注意したり、謝罪を強要したりはしていないと反論)。」
「A学童を退所した児童8人に先月22日から今月4日までアンケート調査(質問用紙を児童の自宅に郵送)を実施し、現在は集約中だ。」
(引用ここまで)

 記事が伝える要点は、私が思うには以下の通りです。
・児童クラブの代表者が子どもに不適切な行為をしたとされるが、事実関係を巡って双方に争いがある。
・子どもは急性ストレス障害の診断を受けて現在も治療中。子どもが精神的に傷害を負っていることは事実。
・行政の対応は非常に遅れており事実確認のアンケートは事案発生後から1年4か月後。

 この事案の関係者から弊会代表(萩原)にもたらされた内部情報では、記事にある謝罪を強要させられたというのは被害児童側の話では土下座を強要された、ということです。当たり前ですが、土下座の強要は刑法の強要罪に該当する可能性があります。過去に何度も常軌を逸したカスタマーハラスメントで土下座を強要した側が検挙されています。仮に、児童クラブで、責任者側がこともあろうに子どもに土下座を強要したということが事実であれば、もうこれだけで大問題です。なおこの点は、事実関係そのものに争いがある、まさに事案の核心的な部分であり、いまだ客観的な事実認定はなされていないことは留意してください。あくまで関係者からの情報によると、ということです。
 またこの関係者によると、この年の5月過ぎから、児童クラブの代表による児童クラブ在籍児童への不適切な対応が始まり、当該被害児童以外にも退所児童が相次いでいるとのこと。事案があったとされる夏休み終了後に5人が、さらに年末までにもほぼ同数の児童が退所したということです。
 なお、当ブログの引用部分以外にも児童クラブ側が被害児童に対し、事実なら不適切であろう行為をしたという状況が記事で紹介されています。

 疑わしきは被告人の利益に、という考えがあります。明確に非違行為、犯罪行為を行ったと客観的に証明できない場合は被疑容疑を持たれている人は無実と考えねばなりません。しかしこの事案、被害児童は、その原因、因果関係はまだ明らかになっていないものの児童クラブを通っていたことが理由で急性ストレス障害となり現在も通院を余儀なくされている、客観的な事実があります。子どもの最善の利益は、生命身体に危害を加えられずに安全安心にこの社会で過ごすことで守られます。児童クラブはだからこそ子どもの安全基地、安全地帯であらねばならぬところ、児童クラブに通ったがために1年半近くも心に深い傷を負って苦しんでいるこの現実を、大人の社会は、厳正に受け止めねばならないと、私は考えます。その点、記事には「パワハラ疑惑」という見出しが使われていますが、ここは正しい表現としては「児童虐待の恐れ」でしょう。中身は似ているとしても、パワーハラスメントという言葉よりも「児童虐待」という表現の方が事案の性質をより正確に指摘するものと私は考えます。

 この事案で、どうしても残念なのが行政の対応です。記事でもその点が最も厳しく追及されています。

 児童クラブの世界で働いている人は先刻承知ですが、児童クラブにおいてトラブルが起こった時は「即座に」解決に取り組むことが重要です。「その日に遭ったトラブルはその日のうちに解決せよ」が、まっとうな児童クラブの運営事業者なら当然に理解していますし、誠心誠意、子どもの支援、援助に取り組んでいる支援員、補助員も当然、このことを肌身に染みて理解しています。なぜなら、人の記憶はあいまいな上に、子どもの記憶はその証言の証拠能力が時間経過とともに低下するからです。まして児童クラブでの出来事は多数の人物が関わることが多いので、ただでさえ複雑な関係がからみあって事態の全容解明にたいそう時間がかかりがちだからです。

 この事案は児童クラブ側の関係者が代表者とされています。つまりクラブ側の運営の最高責任者であることもまた、事案の客観的な把握には困難さを招きます。ですので、放課後児童クラブを管理監督する立場の行政が積極的に全容解明に取り組み、何がどうだったのかをできる限り早期に明らかにして、善処するべきだったのですが、残念ながら記事によると、まったくその動きとは逆だったようです。なお、これについては行政側にもとるべき対応に限界があり、どうしようもない点が若干あると私は考えています。それは後述します。

<もう1つの事案ではどうだったか>
 児童クラブ側から子どもへの不適切な対応として、数日前に別の事案が報道されていました。この栗東市の事案とはある点、対照的です。報道を紹介します。南日本新聞が11月27日22時10分にインターネットで公開した、「床に転がる男児を引きずったり、足で押したり…児童クラブの男性支援員が不適切対応 南九州市が運営法人へ改善指示書」という見出しの記事です。一部引用します。
「鹿児島県南九州市の放課後児童クラブで10月下旬、40代男性支援員が小学3年男児の体を引っ張ったり足で押しやったりしていたことが27日、市などへの取材で分かった。男児にけがはなかった。市は不適切な行為として、クラブを運営する同市の社会福祉法人に21日付で改善指示書を出した。」
「保護者からの相談や法人の報告を受けた市は11月12日、法人に聞き取りを実施。支援員が男児に乱暴な対応をし、管理者に事態をすぐに報告しなかったことを不適切と判断した。」(引用ここまで)

 この事案で私が注目したのは、行政の対応です。この事案の推移を簡単に記してみます。
10月25日に発生→(この間、おそらく何らかの対応が保護者と児童クラブ側であったと想像できる)→10月28日に関係する支援員は別の事業所に移る→(保護者、運営の法人から行政に連絡、報告があったと想像できる)→11月12日、市が運営法人に聞き取り実施→11月21日付けで改善指示書を市が運営法人に出す→11月27日にこの事案が報道される。

 保護者側の申出、訴えを受けた事業者はすぐに対応したことと、行政も1か月でこの事案の対応を終えています。栗東市が1年4カ月もたってまだ対応を終えていないにも関わらず、このスピード感の違いは圧倒的です。もちろん、栗東市の場合は運営側の責任者が当事者であるという事情があります。しかしこの点は、たとえ運営の責任者が当事者であったとしても事案への対応、解明の努力は「法人組織」が行うことが当然ですから、裏を返せば、運営責任者の属人的な組織運営であって組織統治(ガバナンス)が機能していなかったのでは、という疑問も生じさせるものです。

 その点、南九州市の事案は、不適切な子どもへの対応があったとされたことはもちろん残念なことですが、その対処、後始末については事業者、行政ともかなりの迅速さをもって対応したことは大いに評価できると私は考えます。

<問題点は最終的に、制度の不備に行きつく>
 まずは栗東市の事案においては、速やかに事態の収拾と全容解明が望まれます。(次の文章を訂正します。元の文章「関係者によると、事案があった児童クラブの「職員たち」と、被害児童の在籍する小学校、」→訂正後「関係者によると、事案があってから異動して新しく移った児童クラブの「職員たち」と、被害児童の在籍する小学校」
 関係者によると、事案があってから異動して新しく移った児童クラブの「職員たち」と、被害児童の在籍する小学校そして児童精神科医から、手厚いフォローを受けているとのこと。現場クラブの職員たちはあくまでも子どもに寄り添った対応を続けているという情報に、私はこの絶望的な事案に少しだけ安堵しました。そして地元の報道機関がしっかりと取材を重ねていることも大変心強く感じます。
(訂正につき、関係各位にご心配をおかけしましたことをお詫びいたします)

 さて、先に行政の対応について私は限界があると述べました。これはすなわち、行政側が児童クラブにどこまで明確に管理監督、あるいは調査指導を行えるのか、その具体的な行動を定めた規定がないがためです。どうしても一般的な考え方による管理監督責任において行政が対応することを求めるほかなく、それは結局のところ、行政の担当者の裁量や判断、考え方によってその行動に差が出てしまうからです。
 仮に、明確に、このような場合において、たとえ栗東市の事案のように民設民営の放課後児童クラブであっても、行政が設置届を受理して国の補助金を交付している場合は、明確に市区町村の管理監督下にあると定めた上で、保護者や事業者からの申出を受けた場合は行政は速やかに子ども、保護者、従事者等関係者からの聞き取りや書類の確認、検査を行うことを義務づける法令があれば、行政も速やかに安心して対応できる、いや対応せざるを得ないのです。行政は法令などルールがないと動けない組織です。民間事業者や一般の市民、国民が思うように「どうしてすぐに動かないのか」というのは、それは動いて良い根拠がなければ、動けないからです。法治国家ですから当然です。

 児童クラブに関するあまりにもゆるやかな制度設計の弱点、ひずみが、悪しき影響を及ぼしていると私は考えます。児童福祉施設への格上げは当然必要として、それは時間がかかるでしょうが、とにもかくにも、何か問題があったと思われる児童クラブや事業者への調査、そしてその後の指導に関しては大至急、明確な規定の必要性を国が示し、都道府県を指導するべきです。

 そしてもう1点。児童クラブの中で起きたことが、客観的に第三者でも後日確認できるよう、施設内の映像記録について大至急、国は補助金を活用して全放課後児童クラブにカメラの設置を義務づけるべきでしょう。せっかくICT化の補助金があるのですから、施設内の状況を記録するカメラの設置もその補助金の対象に盛り込んで、児童クラブにいる人の身の安全が守られるようにするべきです。子どもだけではなく、職員にとっても大いに助かるはずです。施設内で起きた不祥事について映像で確認できればその原因の解明に役立ちますし、そもそも抑止力にもなります。子どもと職員が日常的に立ち入る場所についてはもれなく映像を記録できるようにして、カメラで映らない死角が極力ないように設置するようにすればいいのです。
 仮に栗東市の事案も、施設内に映像記録装置があれば、一目瞭然ですよね。その記録を見て、これは不適切でしょう、いやいやこれは指導の範囲内として理解できる、という判定も容易になるはずです。

 国には、児童クラブに関する市区町村の調査権限をさらに強化することを地方自治体に指導することを求めると同時に、児童クラブ施設内(外敵の侵入に際しても検証できるように出入口にも)の映像記録装置の設置を大至急、推し進めるよう、運営支援は強く求めます。これは最終的に児童クラブに関わる人の利益になります。(あとカメラを売る会社、取りつける会社の利益にもなりますよ)

 それが、今もきっと存在するであろう、誰にも気づかれずに苦しんでいる子どもや保護者、あるいは職員を救うことになります。また、児童クラブへの高い信頼性を社会が維持することを支えます。ぜひ国、こども家庭庁には真剣に考えていただきたいですし、議員の方はどのレベルであっても議会で訴えてほしいと切に望みます。

 もう、第二の高橋真由美さんを生み出してはなりません。それが大人の、責務です。

<おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中で、ほぼ完成しました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子だけを描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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