新潟市が指定管理者選定に地元企業に配慮した仕組みを実現。他地域も放課後児童クラブの指定管理者選定に参考を!
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。全国各地で、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)の運営を任せる企業・団体を決定する際に、公募や競争で決定する仕組みが一般的に導入されています。運営支援はその仕組みの改善を求めていますが、このたび新潟市が行った指定管理者選定において、他地域でも参考になるであろうことがありましたので紹介します。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<新潟市による児童館の選定>
新潟市のホームページに、3つの児童館と1つの児童センターに関して行っていた、指定管理者の選定結果が公表されています。施設名は、「白根南児童館」、「白根北児童館」、「味方児童館」と「白根児童センター」です。公表は2024年10月30日付です。選定結果はそれぞれ次の通りです。
白根南児童館は「労働者協同組合ワーカーズコープごまのたね」(本社:新潟市中央区)
白根北児童館は「労働者協同組合ワーカーズコープごまのたね」(本社:新潟市中央区)
味方児童館は「南区ふれあい創造事業体 代表団体 株式会社ヴァーテックス」(本社:新潟市江南区)
白根児童センターは「シダックス大新東ヒューマンサービス株式会社」(本社:東京都調布市)
補足しますと、白根南児童館と白根北児童館は広域展開事業者のワーカーズコープが母体で、新潟に法人を設立して応募した格好です。味方児童館の株式会社ヴァーテックスは地元の企業で、飲食店やスポーツクラブを直営またはフランチャイジーで運営し、並行して公の事業のアウトソーシングも手掛けていることが同社のHPで紹介されています。
<評価結果に注目>
注目は評価結果です。それを紹介する前に、先に、新潟市に関する報道記事を紹介します。新潟日報が2024年5月31日13時30分に配信した「新潟市、指定管理者の選定時に市内中小企業・団体へ加点 地元企業振興後押し狙い、2024年度から適用」との見出しの記事です。一部引用します。
「新潟市は5月30日、市の公共施設の指定管理者を選定する際、市内の中小企業や団体に加点することを、市議会総務常任委員協議会に説明した。2024年度の選定から適用する。地元業者が指定管理者に選ばれる確率を高めることで、中小企業の振興につなげるのが狙いだ。」(ここまで。尚この記事は有料記事です)
この記事で報じられた内容が、今回の3つの児童館と1つの児童センターの指定管理者選定で実際に適用となった、ということです。
評価結果を見てみましょう。評価表には、「評価表による評価」として各審査基準に合計100点が割り振られ、「評価表以外の評価」として「市内中小企業者等への加点」の欄が設けられています。この加点の基準点は記載がありませんが、今回の4つの選定では「5点」の加点があります。
たった5点ですが、されど5点なのです。白根南児童館の選定では、評価表による評価では1位が82.3点、次点(2位)だった社は78点だったものが、この加点の5点を受けた次点の社が逆転し、指定管理者の候補者に選定されたのです。これは、極めて印象的な事例です。
同様に、白根北児童館でも、評価表による評価で1位だった社は84.8点、次点は80.6点だったものが、次点の社のみに市内中小企業の加点5点を受けて85.6点となり逆転で候補者に選定されました。味方児童館でも同じような現象となり、こちらも次点の社が5点の加点を受けて0.7点差で逆転で候補者に選定されたのです。
対照的なのが、シダックス社が候補者に選定された白根児童センターの結果です。同社は市内の中小企業ではないので5点の加点はありません。が、評価表による評価の段階で他の2社より10点差程度も上回る点を獲得しており、他社が5点を得ましたが最終的にシダックス社が候補者に選定されました。
市内の中小企業に与えられる5点が最終結果を左右することになったのは、極めて印象的です。
<これで万全か?>
児童館も、放課後児童クラブも、その事業内容は、「質の高い健全育成事業が行われている限りにおいて」、継続性が重要です。3年や5年で事業者が入れ替わっては、質の高い事業が継続して行われる可能性は減ります。職員の継続雇用が保障されませんし、雇用労働条件の変化によって離職する職員も出てくるでしょう。今まで、充分に安心して満足していた健全育成が新たな事業者が引き続き継続するかどうか、その確約はできません。「質の高い健全育成事業が行われている限り」において、事業者は、継続して事業を担うことが合理的です。
現行の公募プロポーザルと指定管理者選定は、その審査基準において、事業者としての評価に重きを置きすぎ、その事業者が「実際にどのような事業を行い、どのような評価を受けているか」に関しての評価は相対的に弱いといえます。結果的に、事業規模が大きい事業者や他地域で事業を行っている事業者が多く点を獲得することになります。健全育成、育成支援の内容においては資料で提出する内容に、どの応募者もそれほど差がないのが通例ですから、結果的に、事業者が大きくて財務基盤に優れるもの、他地域で事業を行っているものが、それによって得た点で上回ることになります。
その点において、新潟市が今回取り入れた、市内の中小企業への加点は、画期的なものです。
しかし万全とは言えません。それは今回の結果を見ても容易に想像ができます。運営支援は問題点を次のように考えます。
(1)全国展開する事業者であっても、地域に分社を設立すれば加点を受けられる。
これはワーカーズコープが2つの児童館の候補者に選ばれたことで明白になりました。ワーカーズコープは全国にて事業を展開している巨大な非営利組織ですが、地域ごとに事業本部を置いて事業展開を行っています。その形を上手に利用したのでしょう、新潟市内に拠点を置く事業者を設立して応募し、中小企業加点の対象で最終的に勝ちぬきました。抜け穴、とまでは言いませんが、制度にうまく対応したということです。
(2)評価表による評価において、事業の質、とりわけ、地域で実施されてきた事業への利用者からの評価などが審査基準に反映されていない。
本来はここの点を改善することが本丸、最重要です。今回の新潟市の選定結果(公表されていて、素晴らしいです。これをすぐに非公開にする市区町村があまりにも多すぎますが、いかがなものでしょうか。ずっと公開することに改めるべきです)では、「児童の発達段階に応じた健全育成事業」に5点の配点がありますが、健全育成事業は事業のそれこそ中心です。ここが100点のうち5点しかありません。ここを20点ぐらいにして、そのうちの半分は、地域にどのように評価されているかを配点するべきです。
確かに、地元の企業振興、地域に根差した運営事業者を実質的に有利に導く、市内の中小企業への加点制度は評価できます。しかし本質的には、地域に根差した事業内容への評価こそ、加点されるべきものです。この点への理解が必要です。
(3)市内の中小企業への加点が受けられなくても選ばれる手段を取る可能性がある。
これは、応募企業が巨大であれば可能であることです。つまり、地元企業ではないので加点はないが、それ以外の点でがっちりと点を稼ぐということです。今回の新潟でいえば、児童センターの候補者選定の例があてはまってくるでしょう。広域展開事業者であれば、市内の中小企業と比べて有利さをより強調できるのは、財政面と人的資源です。つまり、「うちは、もっと安い費用で受けられますよ」、「うちは、他の事業者でいっぱい人が働いていますから、人手不足にすぐに対応できますよ」ということを徹底的に訴えることで、その点で競争相手よりぐんと差を広げることを狙うのです。そして、加点がなくても勝ち抜けることを目指します。
これがなぜ問題かといえば、単純です。安い費用で大丈夫です、とアピールすることは結局、人件費を抑制することにほかなりません。予算の8割は人件費ですから。人件費を抑えた結果、そこで働く人の待遇はどうなるかを考えればすぐに分かることです。人手不足にしても、スキマバイトで人を集められてはたまりません。広域展開事業者の人材採用については、良い情報があまり入ってこないのです。適性も関係なく応募してきた人を誰でも採用しているという話が各地から聞こえてきます。予算を必要以上に抑制して受託、指定管理者となって運営することは、結局は、育成支援の質を落とし、子どもと保護者のために、働く職員のためになりません。それでも事業者は利益を確保するというのは、社会正義にもとる行いです。
<まずはこの一歩から。さらに進歩を目指そう>
今まで、地域に根差した事業者が、公募や指定管理者選定で有利とされる扱いは、ありませんでした。その点、今回の新潟市の取り組みは、まだ不十分な点があっても評価できます。ぜひ他地域においても、新潟市のこの考え方を参考に、公募プロポーザルでの選定や指定管理者の候補者選定に反映させていただきたいものです。
ついてはその際に、地域ですでに行われている事業内容を適切に評価でき、審査基準に反映できる仕組みも考えて導入してください。これはプラス面だけではなくてマイナス面においても同様です。地域に根差した事業者がすべて子どもと保護者、職員にとって理想的な運営をしているとはもちろん言えません。地域に根差した事業者というだけで、実はひどい事業内容を漫然と続けている可能性だってありますし、実は結構、あるでしょう。そういう事業者を排除する仕組みとしても、地域にて行われている事業内容を審査基準に反映させる仕組みを、ぜひとも、取り入れてください。
多くの税金が補助金として投入されている事業です。適切な事業者を選定して業務を行わせることこそ、税金の有効かつ効率的な使い方を実現します。そのことも考えて、審査基準の見直しを、運営支援は求めます。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。
(萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!)
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中で、ほぼ完成しました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子だけを描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)