放課後児童クラブの福利厚生、なかなか厳しい状況ですが、現場職員のために「特別休暇」の充実を考えよう。

 放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。きのう(2024年11月18日)から全国に「冬将軍」が到来したようで、北海道では積雪もかなりあったとニュースが伝えています。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)は冬場も元気に開所(しなければならない)ですが、そのためには事業者が、福利厚生を充実させて職員を支える体制が必要ですよ。運営支援のお勧めは特別休暇の充実です。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<特別休暇とは>
 特別休暇は、事業者が独自に定める制度で、従業員・職員に対して、有給で労働義務を免除(=休みを与える)ことです。いわゆる年休、有休と呼ばれるものは、労働基準法に従って労働者に付与される基本的な権利ですが、特別休暇は事業者が定める就業規則等に従って事業者が労働者に付与するものです。どんな理由であれ構いません。何日付与しても構いません。働く側にとってはある意味、預金みたいなもので、必要に応じて引き出せる、つまり行使すれば欠勤控除なくして賃金が保障されるというものですね。

 なお、事業者にとってはもちろん、これは支出となります。有給の特別休暇を増やすことはそれだけ予算が必要です。労働義務を免除しても賃金分の報酬を支払うことですから当然です。減った労働分を他の誰かの労働力で補うのですから、その分の賃金が当然、必要となります。なお、職員が減ってもその分の労働力を補充しなければ事業者の追加の支出は抑えられますが、それはダメです。人が減った分、その現場でその日に出勤して働く職員の労働量が増えます。場合によっては残業になるかもしれない。そうでなくても、充分な業務ができずに業務の質が落ちる可能性が高いうえ、その日に出勤した職員のモチベーションが低下します。「なんだよ、応援や補充がないのかよ」と。これは事業者に対する忠誠心を損ねます。それが積もり積もって職員が辞めてしまったら、事業者にとって、取り返しのつかない大きな痛手になります。
 特別休暇で休みをただバラまくのでは、事業の遂行において、逆効果であることを先に指摘します。

<お勧めは、病気での休みを保障>
 なんといっても病気で休むときに使える特別休暇は、特に現場職員にとって大変ありがたいものです。ぜひ制度を整備しましょう。職員が、手取り額を気にすることなく、安心して病気の治療に専念できることは、病気の快復にも効果的でしょう。なにより、職員を安心させることが事業者の務めです。
 何らかの事由で、例えば使い切ってしまった、あるいはまだ採用されて半年が経過していないなどで年休が使えない職員が病気治療で休むと、欠勤控除が増えて手取り額はどんどん減る。よって、まだ治りきっていないのに出勤してしまうというケースが一番困るのです。感染を拡大させることになりかねないですし、病状が悪化してより長期の休みが必要となる可能性もあります。それは事業の遂行にとっては打撃となります。事業者であれば、職員が早期に完全に治癒する環境を整えることこそ、合理的です。その方が最終的に出費を抑えられるのです。

 児童クラブの現場は、子ども達から伝染する感染症に職員が罹患することがごく普通にあります。新型コロナウイルス、インフルエンザはその両横綱でしょう。ほかにも、いわゆる風邪(アデノウイルス)、流行性角結膜炎や溶連菌感染症、挙げればきりがありません。

 最低限の衛生対策をしている限り、職員は業務に従事していて意図せず感染症に罹患しているわけですから、職員に非はありません。それなのに、子どもから伝染した感染症にかかって仕事を休む時に、自分の年次有給休暇を行使しなければならないのは、私の考えでは公正を欠きます。事業者が特別休暇で、職員の治療による休業日について賃金を保障するべきです。

 日数については病状が回復して出勤できるようになるまでが、運営支援としての理想です。ただ、それでは「治っていませんと延々と職員に休まれてしまう可能性がある」という事業者さんの心配もあるでしょうから、期間を限定することでも良いでしょう。実際、モラール(士気)が崩壊気味の事業者では、職員が通常考えられる程度の範囲を超えて自らの一方的な利益になるための行動を選択することがみられます。

 例えばインフルエンザは、法令で特に「待期期間」は設けられいないものの、通常は医師から「ウイルスを多く排出する1週間は休んでください」と言われることが多いよう。また、学校保健安全法施行規則第19条によると小学校は解熱後2日を過ぎて、かつ、発症後5日を過ぎてからの登校が可能となるのですから、最長7日間、もしくは完全週休二日制の場合は平日5日間とする、ということでもよいでしょう。新型コロナウイルスも同様の扱いでいいでしょう。なお新型コロナウイルスの場合は同条によると、「新型コロナウイルス感染症にあつては、発症した後五日を経過し、かつ、症状が軽快した後一日を経過するまで」が出席停止の期間とされています。これに即した特別休暇の期間設定が理想でしょう。

 この特別休暇を設定するには、原則として、業務に従事していることで感染した場合が疑われるときに行使できる制度にしておくことが必要です。例えば、何らかの理由で比較的長い間(最低でも1週間)、休んでいた職員(夏季休暇や何らかの特別休暇の行使)が、インフルエンザになりました、新型コロナウイルスになりました、というときには、その休暇期間中に何らかの理由で感染した可能性が高いわけですから、病気による特別休暇は利用できない、とすることは必要でしょう。こういう規定がないと、1カ月や半月以上、何らかの理由で休んでいた職員が「インフルになったのでさらに5日間休みます」となってしまうので、最低限のモラール崩壊を防ぐために必要です。

 また、少なくとも、医師の診察を受けた証明は必要でしょう。診断書は高額ですので、医師の診察を受けたことが分かる書類やデータの提出を求めることで十分です。処方箋や処方された薬のデータでも良いでしょう。特定の感染症に有効な特効薬があれば、確かにその感染症で受診したことが分かります。ですが新型インフルでは、特効薬が高額なので通常の風邪の感染症と同じような薬しか処方されないことが増えています。その場合は職員の良識を最低限、信用するしかありませんね。

 なお、小学校で流行しやすい感染症や子どもがかかりやすい感染症以外の感染症に罹患した場合は、特別休暇の適用は難しいでしょう。就業規則で、明確に、「この診断が出た場合には適用できる」という趣旨の文言を加えておくべきです。通常の風邪はダメですよ、という結論が見いだせれば良いのです。ノロウイルスのような感染性胃腸炎の場合は、勤務先のクラブで同じ病状を発した者がいる、クラブで感染性胃腸炎による子どもの急変の処置対応(嘔吐の処理等)に従事したことが認められた場合とする、という規定も有効です。

<インフルにはワクチン代の補助も>
 秋になるとインフルエンザ予防接種がたいていの地域で始まりますね。このワクチン接種代の補助も、職員にはありがたい福利厚生です。だいたい5,000円前後でしょうか。できれば全額、せめて半額でも事業者は補助しましょう。考えてみてください、40人の職員に5,000円の補助をしたところで、20万円です。たった20万円で、職員から「うちの事業者は優しい!」という評価を得られるなら、こんなに安いことはありません。
 特に、広域展開事業者のように、普段は有期雇用スタッフで昇給も一時金も無いような場合は、せめてこうした費用対効果に優れた福利厚生を充実させていただきたいものです。全額補助でお願いしたいですね。

 補助対象者の基準を設けることは良いでしょう。正規は当然として、非正規・非常勤は週3日以上や週20時間以上の雇用契約を締結している者を対象とする、ということは必要でしょう。接種後3か月以内に退職した者には補助料の返還を求める規定もあってよいでしょう。

<採用してすぐ使える有給休暇も>
 労働基準法では採用後半年しないと最初の年次有給休暇は付与できませんが、それは最低基準ですから、その基準を上回る条件は有効です。これは正規職員に限定して構わないのですが、入職してすぐに使える特別休暇を付与することは、とても職員からするとありがたいのです。

 このパターンは2種類あります。1つは、半年後に付与される年次有給休暇の繰上げ使用を認めること。つまり、年休の付与日を半年繰り上げることです。この場合は1年後に2回目の付与日が到来します。4月1日採用の職員は10月1日に年次有給休暇が付与され、その1年後に2回目の付与となりますが、採用日に付与することで、その後もずっと4月1日を付与日としてしまうということです。

 もう1つは、半年後に付与する年次有給休暇はそのままに、プラスして、数日間の特別休暇を付与することです。この特別休暇の使用目的は一切不問とすることが重要です。この場合、4月1日採用の職員の年次有給休暇付与日は10月1日で変わりません。付与した特別休暇は年次有給休暇とは別に事業者が管理します。有効期間は消滅時効を考えると最長2年間でしょう。3日や5日あるだけで、新人職員には限りない安心感が与えらえるでしょう。

 こうした工夫で、新人採用を有利にもっていくことは、事業者なら当然の知恵です(私も当然、導入しました)。とかく人手不足、有能な人材がなかなか確保できないのですが、その時に前を進むには事業者の知恵です。特に新卒採用者には、こうした「休みの充実」は魅力的に映るのです。給料はまあ、多少の差があって仕方がない。業種によっても事業者によっても給料の額は違うものだ。だが、休みの数は自分にとって有利な企業、法人を選びたい、という新卒者が多いのです。入社して半年の間で自由に休める特別休暇は、特に新人募集において、費用対効果に優れた制度です。

<その他、充実させておきたい特別休暇>
・慶弔休暇は充実させよう。特に「とむらい」の方は、なんだかんだで故人の書類の手続きに時間がかかるもの。周囲の同業他社より数日長い日程を設定するぐらいの「知恵」を事業者は持ちましょう。児童クラブの職員同士の口コミは、軽視できません。「あら、そっちのほうが、働きやすいわね」となれば引き抜きだって可能です。

・リフレッシュ休暇は、励みになる。10年や20年の永年勤続休暇制度は、たいていの事業者で設けていることでしょう。日数をちょっと増やす、あるいは5年刻みとする、など機会を増やすことです。

・ペット休暇。ペットはもう家族以上のパートナーとしている人が大勢います。病気の治療や予防接種、定期健診で獣医さんに行く用事は結構あります。そこでペット休暇です。年休ではあっという間に使い切ってしまうので、ペット特別休暇を年に数日用意するだけで、職員から「うちの会社はとても思いやりのある会社」という評価を得られます。プライスレスの評価こそ、職員の定着や新人募集に効果的なものはありませんよ。「うちは、ペット休暇があります」とすれば、ペットを飼っている求職者に有利に響きますね。なお、支給要件としてペットのデータは提出してもらわねばなりませんね。そのとき、写真付きでデータを提出してもらって、社内報の形で紹介するのがいいでしょう。愛称や、お利口さんのところを書いてもらって、それを公開するのです。もちろん未公開希望でもいいのですが、提出は求めましょう。カネを払うのですから。

<福利厚生とは、事業の充実>
 福利厚生は、職員が、安心して働いてもらうための制度です。それは、事業の質の向上につながります。離職率を下げ、人手不足に陥る危険性を減らすものです。職員が足りない、それこそ事業における最大最強の敵です。福利厚生は、その導入の策によって、費用対効果に優れた職員のモラール向上を実現させます。

 むやみに導入すればいいものではありません。職員の、事業者に対する忠誠心や信頼感が極度に低下しているときに病気休暇を大々的に導入しても、想定しない使われ方をしてしまう恐れがあります。病気ではないのに病気と偽られて休まれる、ということです。どういう状況に、どういう特別休暇がふさわしいのかは、その事業者で働く職員の状況を見て考える必要があります。その点は注意が必要です。

 児童クラブの世界は薄給で激務。本来は基本給の大幅アップが必要です。職員の人数増が必要です。それはそれとして取り組みつつ、さほど大きな額ではない費用で職員のモラール向上が計算できる特別休暇の充実を積極的に検討しましょう。

<おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。
(萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!)

 現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)