放課後児童クラブ(学童保育所)の運営形態ごとに長所、短所を考えてみます。理想の運営モデルはある?その4
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)は、全国各地で様々な運営の形態があります。市区町村ごとにそれぞれの運営形態があるといってもいいでしょう。その地域ごとに、地域に適した運営形態を目指した結果が現状である、と言えそうです。ではその運営形態ごとの利点や不便な点を様々な視点で運営支援の独断と偏見をもって考えてみることにします。放課後児童クラブ、学童保育について今一つよく分からない、という方にお勧めです。初回(10月21日)は公営クラブ、2回目(10月22日)は株式会社(とりわけ広域展開事業者)運営の民営クラブ、3回目(10月23日)は保護者運営系から発展した非営利法人運営クラブを考えました。今回は、学童保育の原点の1つである保護者運営のクラブを考えます。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<民営クラブに関する留意点:再掲>
民営クラブとは、民間の団体、法人が運営する放課後児童クラブのことです。実に多種多様な運営形態を含んでいます。市区町村ではない組織が運営する児童クラブはぜんぶ民営クラブです。この中にある、例えば保護者会運営のクラブと株式会社運営のクラブはその形態がまったく異なりますから、民営クラブというくくり方で考えることは難しいのです。以下に挙げる運営形態はぜんぶ民営です。
・保護者会が運営するクラブ
・(地域)運営委員会が運営するクラブ
・地域の社会福祉協議会、シルバー人材センター、福祉事業団などが運営するクラブ
・NPO法人、一般社団法人、社会福祉法人、学校法人が運営するクラブ
・株式会社、合同会社が運営するクラブ
・個人が運営するクラブ
(再掲ここまで)
民営クラブの中でいろいろな分類ができるのですが、今回は保護者会が運営するクラブを考えます。その変化形ともいえる(地域)運営委員会も含んでいいでしょう。保護者会又は運営委員会が運営するクラブとは、つまり、児童クラブを利用している保護者が、「利用者」でありながら「クラブの運営側=経営者」でもある、ということです。自分たちが利用する鉄道会社を自分たちが運営している、というようなものですね。なお、これに近い形態で、クラブの設置は市区町村つまり行政、自治体であってクラブで働く職員は市区町村が雇用している公営クラブでありながら職員の給与、社会保険関係以外のクラブの運営に関すること(利用料の徴収や、おやつ代など実費負担分の徴収、イベントの計画と実施、施設の掃除や整備など)を、保護者会に任せている、ゆだねている場合もあります。こういうクラブは「保護者運営クラブに準ずるもの」と、いえそうですね。
保護者運営のクラブはこのところずっと数を減らしています。この傾向は続くでしょう。いずれは、特別な理由がない限り、保護者運営クラブはほとんど消えるのではないでしょうか。
種別 | 令和5年(増減数)・全体の割合 | 令和4年 | 種別 | 令和5年(増減数)・全体の割合 | 令和4年 |
公立公営 | 6,707(652減)・26.0% | 7,359 | 公立民営(全体) | 12,859(255減)・49.8% | 13,114 |
公立民営・ 社会福祉法人 | 3,355(147減)・13.0% | 3,502 | 公立民営・ 公益社団法人等 | 1,246(78減)・4.8% | 1,324 |
公立民営・ NPO法人 | 1,753(114減)・6.8% | 1,867 | 公立民営・ 運営委員会・保護者会 | 2,724(259減)・10.6% | 2,983 |
公立民営・ 任意団体 | 255(27減)・1.0% | 282 | 公立民営・ 株式会社 | 3,109(307増)・12.0% | 2,802 |
公立民営・ 学校法人 | 194(10減)・0.8% | 204 | 公立民営・ その他 | 223(73増)・0.9% | 150 |
民立民営(全体) | 6,241(31増)・24.2% | 6,210 | 民立民営・ 社会福祉法人 | 2,015(35増)・7.8% | 1,980 |
民立民営・ 公益社団法人等 | 485(42増)・1.9% | 443 | 民立民営・ NPO法人 | 1,116(9減)・4.3% | 1,125 |
民立民営・ 運営委員会・保護者会 | 1,205(139減)・4.7% | 1,344 | 民立民営・ 任意団体 | 66(9減)・0.3% | 75 |
民立民営・ 株式会社 | 545(60増)・2.1% | 485 | 民立民営・ 学校法人 | 348(10増)・1.3% | 338 |
民立民営・ その他 | 461(41増)・1.8% | 41 | 計(全体) | 25,807(876減)・100% |
<保護者が運営に関わるクラブの利点>
上記の表では保護者が運営するクラブは減っています。259クラブの減少です。この理由は不便な点で紹介しますが、運営に関する負担が要因で間違いないでしょう。保護者運営クラブの利点を考えてみます。
・保護者は育成支援を受ける子どもの声を代弁できる立場であることから、子どもにとって最善の育成支援を実施するために必要なこと、不必要なことを運営に反映させやすい→これが最大かつ最強の利点です。
・保護者=利用者=運営者・経営者であるから、利用者が希望するサービス提供の種類や中身について児童クラブの事業の実施内容に反映させやすい。職員との交流も濃密である。→この正反対のパターンも同時に起こり得ます。後述します。
・「子育ては保護者等が一義的に責任を負う」と各種の法令で定められている(例:こども基本法第3条の5「こどもの養育については、家庭を基本として行われ、父母その他の保護者が第一義的責任を有するとの認識の下(以下省略)」現状で、保護者が、家庭に代わって児童の健全育成を行う児童クラブの設置運営にも責任を負うことは、各種法令の趣旨に沿っている。
・保護者が運営に関わる場合は、運営に従事する者へ支払う賃金コストが不要なため経費が削減できる。つまり、組織運営に充てるコストが膨らまないで済む。これは予算を支出する市区町村はもとより、毎月の利用料負担がある保護者自身にとっても利用料を低く抑える利点がある。もちろんその反対に「時間」コストは必要となる。
・(株式会社運営クラブと比べて)予算を組織運営そのものにしっかりと配分しやすい。企業の利益確保を主目的にしない分、予算を職員の人件費や育成支援実務にかかる経費に投下しやすい。
<保護者が運営に関わるクラブの不便な点>
・児童クラブの経営と事業運営は「企業経営、ビジネス」に他なりませんが、経営や運営に関して知識や技能がない、あるいは興味や関心が薄い者が運営に携わることによる組織運営の不確実さがぬぐえません。
・保護者の負担が大きすぎます。「負担感」ではなく負担そのものが大きい。各種料金の集金、給与計算、社会保険手続、年度末の決算や予算など数えきれないほどの業務を保護者が分担します。税理士や社労士に業務を外注できようになっても結局は元データを集める必要があるのでそれほど負担は減らないのです。結果的に保護者の不満が高まり、保護者運営の児童クラブ以外の選択肢がある場合はそちらに入所希望者は流れますし、やむなく入所した者はクラブの存在そのものに敵意、反感を持って入所しますから、何かとトラブルが起こりやすくなります。
・保護者は利用者でありながら経営者であり、職員を雇用する立場です。経営者である以上、事業運営に責任を負います。特に役員にある保護者は「善管注意義務」を負うと考えられますし、職員を雇用する以上、民法上の使用者責任を負うことになります。仮に、職員が故意または未必の故意や重過失で何らかの損害を及ぼしたとしたならば被害者から損害賠償責任を追及される可能性があります。もし賠償支払いが判決で命じられた場合、保護者会がその賠償金を負担することになりますが、そこまで考えている保護者運営クラブは皆無でしょう。
・事業を行う団体、法人組織においては通常、事業執行の責任者は常勤であることが当然です。保護者運営クラブは通常、最高責任者(おおよそ、その年度の保護者会の会長)は児童クラブ運営においては「非常勤」です。企業や会社で社長が非常勤な会社はほとんどないですよね?特に補助金交付を受けて事業を行う組織として事業の最高責任者が非常勤であることは、社会的な信頼度が上がりません。
・最高責任者だけでなく他の分野の任務も保護者による「片手間」の運営なだけに、とりわけ広報、周知宣伝の部門や教育研修が決定的に弱いのです。保護者運営のクラブがインターネット等で外部に運営状況や入所手続き等について情報を丁寧に発信していることは、めったにありません。
・保護者に有利となる事業運営に偏りがちとなる。あるいはその正反対のことも起こり得ます。保護者が支払う利用料を意図的に低額に抑えると結果的に事業収入も低額となり、職員への給与もまた低く抑えられる可能性があります。一方で、どうしても児童クラブが必要な子育て世帯がある状況で入所児童数が少ない場合、クラブ存続のために1世帯が支払う利用料を高額にせざるを得ない状況になります。現実的に、国や自治体からの補助金が少ない保護者運営クラブの場合、利用世帯が支払う毎月の利用料は3~5万円になってしまいます。
・職員の負担が増える可能性が高くなりますが、その正反対のことも起こり得ます。負担が増えるとは、保護者が結局は日々の生活で忙しいために業務の多くをクラブで勤務する職員に丸投げするということです。職員からすると、保護者は経営者であるために、面と向かって異議を申し立てり文句や抗議を言いにくい関係性が生じます。業務が増えるなら給与を増やしてほしいのにそれが言えない、という状況です。一方で、保護者が組織運営に興味関心がない、あるいはやり方が分からないという状況を利用(悪用?)し、職員が運営を引き受ける代わりに職員自身が仕事を容易とする方法で運営してしまうという事もあります。こうなると職員の不祥事があってもなかなか明るみになりませんし、育成支援の質は確実に低下します。
<利点、不便な点をまとめてみました>
保護者が運営するクラブ | 子どもへの影響 | 保護者への影響 | 職員への影響 | 行政機構への影響 |
利点 | 子どもの立場に沿った事業運営ができる可能性は高い | 期待したい育成支援サービス、利便性の向上が図れる | 職員の期待する施策を運営に要求・伝達しやすい/保護者運営をサポートするため職員自陣も経営側に加わる機会が得られやすい | 組織運営に関する費用が削減できる |
不便な点 | 運営を丸投げされた職員による運営では、子ども主体の育成支援が実施されない可能性がある | 運営に関する負担が大きい/運営に関する責任を負うこと | 保護者が自身の利益だけを追求すると職員にしわ寄せが及びやすい/運営を丸投げされると業務量が過度に増える/運営を丸投げされると職員に有利な運営に偏りがちとなる | クラブ運営に疲れた保護者が突然、運営を投げ出す可能性があり児童の新たな受け入れ先を探さねばならなくなる/必ずしも行政経営に適した事業運営とはならない |
保護者運営のクラブは存在に必然性がありました。もともと法定外でスタートした「学童保育(所)」は、法令の根拠がない中で、カネも時間も知恵も情熱もすべて保護者が出し合って設置、運営するしかありませんでした。保護者の運営は児童クラブの原点の1つです。その歴史が今も受け継がれているとも言えます。
しかし、もう時代は変わったのです。小学1年生の半数が利用する児童クラブは、社会にとって重要な子育てインフラとなり、安定して継続的に児童クラブの事業運営が行われることが当然に社会から期待されています。その状況は、児童クラブの運営を安定した組織に担わせることを求めているのです。
保護者が運営する児童クラブにおける最大の弱点は、児童クラブを利用するために児童クラブに関わった者が運営の責任を負わねばならないことです。運営に関する負担=時間のコストや労力のコストもそうですが、何より重要なのは「運営に関して法的な責任を課せられる」ということです。人を雇って事業を行うことですから、ありとあらゆる法令に従って運営することが求められますが、保護者はほぼ全員が非常勤、つまり日本的な意味でのボランティアです。どうしたって片手間になります。つまり、児童の育成支援事業サービスの実施において不完全となります。ろくに人物を評価しないで採用したり業務に従事させたりした結果、その人物が児童や同僚に危害を加えた場合、経営陣である保護者会が責任を負うのですが、そこまで説明を受けて運営に当たる保護者はどれだけいますか?保護者運営は理想の児童クラブ運営であると熱心に訴える業界団体がありますが、「何かあった場合、保護者は賠償責任を追及されることがありますよ」とは決して言いません。それは卑怯なだまし討ちです。児童クラブの運営が事業であって健全に安定して継続的に実施されねばならないことを軽視しています。
運営支援が考える、理想的な児童クラブ運営を最後の回で紹介します。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)