またも放課後児童クラブ関係者による子どもへの性犯罪の報道。もし事件の背景に見過ごせない構造があるならば?
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。残念なことに、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)の職員による性犯罪の報道がありました。またしても、です。被害に遭われたお子さんには徹底してケアをお願いしたいです。この報道事案が事実であれば大変おぞましい事態です。その背景について考えてみます。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<報道では>
この事案に関する報道をいくつか拾ってみます。
岡山放送が10月28日19時25分に配信した記事は、見出しが「68歳の「放課後児童クラブ管理・監督者」を13歳未満の女児に対する“不同意性交”容疑で逮捕【岡山】」とあります。記事の一部を引用します。
「容疑者は2022年4月ごろから24年3月ごろまでの間、岡山県北部に住む13歳未満の女の子の自宅で、女の子に複数回にわたり、わいせつな行為などをした疑いです。」
「容疑者は、児童クラブで児童の管理・監督をする責任者だったということで、警察は他の児童にもわいせつな行為がなかったか、余罪の可能性も視野に調べを進めています。」
RNC西日本放送が10月28日18時40分に配信した記事は、見出しが「女児にわいせつ行為の疑い 津山市の学童保育勤務の男 逮捕」とあります。記事の一部を引用します。
「警察は先月(9月)14日、女子児童の家族から被害申告を受けて調べを進め」
共同通信社が10月28日17時59分に配信した記事は、見出しが「学童保育の元職員逮捕、岡山県警 利用の女児にわいせつ疑い」とあります。記事の一部を引用します。
「放課後児童クラブ(学童保育)を利用する10代の小学生女児にわいせつな行為をしたとして、岡山県警は28日、不同意性交と強制わいせつの疑い」
「逮捕容疑は2022年4月~24年3月ごろ、女児宅で複数回わいせつな行為をした疑い。県警によると、女児から話を聞いた小学校の教員が保護者に伝え、保護者が署に届け出た。」
他にも複数の報道機関による記事がインターネット上で配信されています。それらの記事から私が気になる点を挙げると次の通りになります。
・被疑者は、児童クラブの管理監督者である
・2022年4月から約2年間に及ぶ長期間である
・被害児童は自宅で被害に遭った
・事案が明るみになったきっかけは、被害児童が小学校の教員に話したこと
この事案では被疑者を実名報道している記事もあります。そのため、被疑者が勤めている児童クラブや雇用主も容易に特定できます。(このブログをお読みになった方々には確実にいないと信じていますが、こういう事案があると勤め先や関係先に匿名で電話をかけたりメールを送りつけたりする人がいます。そういうことはしてはなりません。)ちょっと検索するだけで、気になる背景がうっすらと見えてきました。
<役員である?法人の説明責任は?>
記事にも、児童クラブの管理・監督者と書いているものがあります。検索すると、被疑者は児童クラブを運営する非営利法人の役員(理事)に就任していることが分かります。つまり、児童クラブを運営する役員、経営者の一端を担っている立場でありながら被疑事実を行っていた可能性がある、といえます。被疑事実が事実であったなら、なんとおぞましいことか。
児童クラブでも保育所でも小売りでも製造でもどんな企業でも法人でも、従業員だろうが役員だろうが、犯罪はもちろんしてはなりません。その意味で従業員と役員に差はありません。しかし一方で、法人の役員は、事業において「善良な管理者としての注意義務」を負っています。事業の執行に、従業員(使用人)よりもはるかに重い責任を負っています。経営者ですから当然です。そういう立場の者が、よりによって、児童福祉の事業において、絶対に守られねばならない子どもの人権を蹂躙する行為を行っていたとしたら、言語道断です。
また、私が気になることに、報道では「元職員」と記載されている記事があります。世間にはよくありますが、何か不祥事があった場合、すぐに懲戒解雇だったり自主退職を迫ったりということで、事案や問題、トラブルが世間に明るみになったときには「元職」になっている。雇用側は「辞めた職員のしたことですので」と言い逃れる。これほど卑怯なことはないと私は考えます。(今回の事案、職員=使用人としては退職させていた可能性は高いのですが、役員としてはどうでしょう)
確かに就業規則に従って、定められた懲戒事由に該当した者を組織内の規定に従って解雇することそのものに問題はありません。しかし、「とかげのしっぽ切り」「臭いものにふた」ではありませんが、問題や犯罪事案の責任を個人の資質に押し込めてその個人を追い出して「組織には問題ありませんし、むしろ被害者ですよ」というような振る舞いをするとしたら、「そのような卑怯な体質が問題を生む」と私はいいたい。それを言えば、裁判で有罪となるまでは無罪推定ですから裁判の結果が出るまでは雇用に関する社内処分を保留しておく(大企業では、そのような対応はあります)ことが理想でしょうが、せめて、逮捕・送検される、つまり企業や法人に社会的な評価の損失を生む可能性がある時点までは雇用に関する社内処分は待つべきです。
そして法人の役員であるなら、法人がしっかりと、文書でも構わないので、できうる限りの状況、情報の説明を行うべきでしょう。どのような経緯で採用され、どういう業務、任務を行っていたのか。それが、公益に資する活動をしている法人としての最低限の責務ではありませんか。
監査報告書もインターネットで確認できます。被疑者が勤務している児童クラブについても、「業務の執行の状況」について「適正に処理されていることを認め報告します」とあります。監事は、このクラブにおいて、業務監査をどれだけの頻度で行っていたのでしょうか。決算についての監査、としか記載がありませんから、ろくに業務監査を行っていなかったのではありませんか?監事は責任を免れません。この報告書はまったく不正確なものだったのですから。
児童クラブの業務において職員が行う違法な行為について、もし、周囲の職員が何らかの異変や疑問を生じていたとしても、その疑念を持たれた者が運営法人の役員であり何らかの威光を振りかざせる立場、あるいはすでに威光を振りかざした振る舞いをしていたとしたなら、おぞましい行為の発覚になかなか至らなかったということは想像できます。この点においても、児童クラブの職場において、被疑者をめぐる他の職員との関係性がどのような状況であったのか、法人はしっかり調査して公表するべきでしょう。
当然、法令遵守や、子どもの人権を守ることに関する教育、研修をどの程度、どのような内容で行ってきたのかについても情報公開が必要です。
<あれもこれも気になる>
本事案では逮捕の罪名が強制わいせつ、不同意性交となっています。2023年7月の刑法改正で罪名が変わったのですが、その改正前の行為についても捜査が及んだのでしょう、その改正前の行為に関する逮捕には以前の罪名である強制わいせつ容疑となります。つまりそれだけ長期間にわたって被疑容疑があるのですが、「どうしてそんな長い間、誰も気が付かなかったのか=長い間、子どもが苦しみ抜いていた」ということです。長期間、犯罪となる行為が行われていた可能性があることに対し、被害児童が通っている児童クラブの者は真摯に受け止めねばなりません。
これについてさらに気になります。通常逮捕ですから警察は逮捕状を裁判所に請求します。あやふやな容疑では逮捕状は出ません。強制わいせつ事案について、2022年の被疑事案について、ある程度の逮捕容疑が特定されていなければなりません。特に日時について、〇月〇日〇〇時ごろまでの詳細なものまで求められないとしても、「春ごろ」とか「6月ごろ」では通常、逮捕状は出ません。私の過去の経験からして(注:逮捕されたわけではありませんよ!記者として、または雇用していた者が性犯罪で逮捕されたときの過去の事例が参考です)「5月〇〇日から〇〇日」程度まで絞り込むことが通常は必要なはずです。となると、今回のことは、もしかすると被疑者が映像を残していたとかメモに書いていたということを、私は想像しました。たまにあるんですよね、被疑者が、〇月〇日にこんなことをしたと記録に残すことが。
インターネットで検索すると被疑者は勤務先の児童クラブで「障害児加配」として事業報告書に記載されています。その立場を悪用していたと想像すると言葉が見つかりません。これ以上、被害児童に関してあれこれ詮索はしません。ただただ、被疑者を雇用していた法人は、必要な限り、被害児童へのケアを全責任を負って行うべきです。心理的にかなり深刻な傷害を負わせられた可能性があります。児童精神科医やカウンセラーによる万全のケアが必要でしょう。
社会福祉法人や学校法人が、自ら設置する保育所や認定こども園の卒所生、卒園生を受け入れるために児童クラブを併設することはよくあります。地方都市に大変多く、いくつかの自治体ではそのような児童クラブが地域にある児童クラブの大半を占める、ということもあります。
そのような児童クラブにおける、職員の教育研修体制がどうなっているのか、私はとても興味があります。都道府県などが主催する研修で参加しなければ補助金の交付対象とならない研修には参加するでしょうが、それ以外に、例えば放課後児童支援員が自主的に開催する勉強会や分科会、あるいは大学などで行われる公開講座等に、積極的に受講を勧めている法人はあるのでしょうか。時間と費用を出しているのでしょうか。つまり、職員の資質の向上に雇用主は積極的に取り組んでいるのでしょうか。大変気になります。
本事案の発覚は被害児童が小学校の教員に話したことがきっかけのようです。これは「家族にも打ち明けられなかった」ということです。子どもからのサインを教員が見逃さなかったのでしょうか。あるいは子どもが「この人なら自分を守ってくれる」と信じることができたからでしょうか。いずれにせよ、子どもにとって安全安心の場である児童クラブの側が結果的に子どもを傷つけ、救うことができなかったことは、大変に残念であり、むなしいことです。二度とこのような事案を出さないと、児童クラブの世界は反省しなけばなりません。
よく、こういう事案があると「まじめにやっている自分たちが巻き添えを喰らう」「同じようにみられてしまって悔しい」という声があがります。それはその通りで、真面目に働いている、特に男性の児童クラブ職員や保育士さんたちが、やるせない気持ちになるのは分かります。しかしあえていいます。そのレベルである限り「平凡」です。児童クラブに関する不祥事があったとして、子どものことをもっと守る、社会に評価される存在であることを目指し「どうしたら自分個人の力であっても、児童クラブ全体の評価を向上させるために、尽くせることがあるだろうか」ということを考えるようになってほしい。
その点で申せば、児童クラブの比較的大きな団体は定期的に大規模な研修、会合を開催します。今年度も11月、くしくも岡山県で開催されます。児童クラブの世界で起きた重大な事故、事案について、どうしたらそのようなことを起こさないよう業界全体として取り組めるのか、法令遵守、健全な組織統治、危機管理、安全管理、リスクマネジメントについて過去の事案を基にして検討し、将来的な取り組みを考えるような研修内容が、まったくといっていいほど設定されないことは、はなはだ残念です。子どもへの関わり、技法、運営形態について毎年毎年同じようなテーマで同じような意見の出し合いで満足しているようですが、社会全体から評価を下げる深刻な事案に向き合わない姿勢を貫く限り、業界全体の質の底上げに役立つとは到底、言えませんね。株式会社運営のクラブが急増している危急時にも関わらず具体的な行動を考えるテーマの分科会すら設定しない、ただ単に自分たちのスタンスを「身内に向かって」叫んでいるだけで自己満足しているのですから、はなはだ残念です。
さて、この事案ですが余罪についてほとんどの記事が触れています。同じ被害児童に対する余罪なのか、あるいは別の児童に対して他にも違法な行為があったのか。報道機関におかれては、どうしてこのような悲惨な事案が起きたのか、その背景と構造をしっかり取材して報じていただきたいですし、クラブ運営法人にも取材をして法人側の説明を引き出していただきたいと希望します。
行政に対しても言いたい。「あれは個人、法人のなしたこと」ではなく、児童クラブは本来、市区町村の責任において行われる児童福祉サービスです。行政としての管理責任を認めて事態の究明と再発防止に取り組むべきです。少なくとも、事案の調査究明委員会と、再発防止のための業務改善委員会の設置は必要でしょう。
そして、これは都道府県レベルでの対応が当然必要ですが、区域内全ての児童クラブ事業者に、性犯罪を含むあらゆる不法行為を起こさないため、職場環境の点検と改善を指示し、不法行為をすみやかに見つけるための「早期発見行動」の徹底を事業者に呼び掛けるための指導、研修を行うべきです。また、今回の事案が放課後児童支援員である者によることを重大なこととして捉え、放課後児童クラブにおける資格制度のあり方についても、検討を国に要求する行動を起こすべきでしょう。早期発見行動については明日の運営支援ブログで改めてご紹介したいと考えています。
運営支援ブログは今後も同種の事案が起こるたび、同じことを徹底的に訴えていきます。そんな回数が減ることを願っています。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)