放課後児童クラブ(学童保育所)の運営形態ごとに長所、短所を考えてみます。理想の運営モデルはある?その3
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)は、全国各地で様々な運営の形態があります。市区町村ごとにそれぞれの運営形態があるといってもいいでしょう。その地域ごとに、地域に適した運営形態を目指した結果が現状である、と言えそうです。ではその運営形態ごとの利点や不便な点を様々な視点で運営支援の独断と偏見をもって考えてみることにします。放課後児童クラブ、学童保育について今一つよく分からない、という方にお勧めです。前回は株式会社(とりわけ広域展開事業者)運営の民営クラブを考えました。今回も民営クラブ、保護者運営をルーツにした非営利法人の運営クラブを考えます。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<民営クラブに関する留意点>
民営クラブとは、民間の団体、法人が運営する放課後児童クラブのことです。実に多種多様な運営形態を含んでいます。市区町村ではない組織が運営する児童クラブはぜんぶ民営クラブです。この中にある、例えば保護者会運営のクラブと株式会社運営のクラブはその形態がまったく異なりますから、民営クラブというくくり方で考えることは難しいのです。以下に挙げる運営形態はぜんぶ民営です。
・保護者会が運営するクラブ
・(地域)運営委員会が運営するクラブ
・地域の社会福祉協議会、シルバー人材センター、福祉事業団などが運営するクラブ
・NPO法人、一般社団法人、社会福祉法人、学校法人が運営するクラブ
・株式会社、合同会社が運営するクラブ
・個人が運営するクラブ
つまり民営クラブの中でいろいろな分類ができるのですが、今回は非営利法人の中でも、保護者運営を由来とする非営利法人の運営クラブを考えます。さらに、組織運営の中心が保護者または保護者出身の者が担っており、それらの者が常勤(=専従)か非常勤かを問わず運営に携わっているという場合です。もっとも、保護者による任意団体運営クラブを法人化したとしてその運営を事業運営を専門に手掛ける組織に委ねることはほぼありえないので、任意団体時代と法人化以後の性質の違いはそれこそ「任意団体か、法人か」程度の違いになることもしばしばです。代表的なものはNPO法人ですが、最近は設立の容易さから一般社団法人が選ばれることが多いようです。なお、保護者会による運営を法人化する際に株式会社や合同会社を選択してはダメという理由はありません。小規模な児童クラブ(児童数19人を下回るクラブ)でなければ放課後児童クラブは非課税事業に該当します。
種別 | 令和5年(増減数)・全体の割合 | 令和4年 | 種別 | 令和5年(増減数)・全体の割合 | 令和4年 |
公立公営 | 6,707(652減)・26.0% | 7,359 | 公立民営(全体) | 12,859(255減)・49.8% | 13,114 |
公立民営・ 社会福祉法人 | 3,355(147減)・13.0% | 3,502 | 公立民営・ 公益社団法人等 | 1,246(78減)・4.8% | 1,324 |
公立民営・ NPO法人 | 1,753(114減)・6.8% | 1,867 | 公立民営・ 運営委員会・保護者会 | 2,724(259減)・10.6% | 2,983 |
公立民営・ 任意団体 | 255(27減)・1.0% | 282 | 公立民営・ 株式会社 | 3,109(307増)・12.0% | 2,802 |
公立民営・ 学校法人 | 194(10減)・0.8% | 204 | 公立民営・ その他 | 223(73増)・0.9% | 150 |
民立民営(全体) | 6,241(31増)・24.2% | 6,210 | 民立民営・ 社会福祉法人 | 2,015(35増)・7.8% | 1,980 |
民立民営・ 公益社団法人等 | 485(42増)・1.9% | 443 | 民立民営・ NPO法人 | 1,116(9減)・4.3% | 1,125 |
民立民営・ 運営委員会・保護者会 | 1,205(139減)・4.7% | 1,344 | 民立民営・ 任意団体 | 66(9減)・0.3% | 75 |
民立民営・ 株式会社 | 545(60増)・2.1% | 485 | 民立民営・ 学校法人 | 348(10増)・1.3% | 338 |
民立民営・ その他 | 461(41増)・1.8% | 41 | 計(全体) | 25,807(876減)・100% |
<保護者系の人材が運営に関わる非営利法人運営クラブの利点>
上記の表ではNPO法人運営クラブはやや減っています。114クラブの減少です。これは前日も紹介した、クラブ数の数え方を間違った自治体からの修正によっての減少の可能性もありますが、大幅に増える状況にはなさそうです。それは私の推測では、「法人化が必要な任意団体クラブは、あらかた法人化への移行を済ませた。いまは法人化に消極的か、あまり必要性を感じていなかったクラブがだいぶ残っており、その中でポツポツと法人化に移行する程度の状態であるから」です。
しかし今後はまた法人化クラブが増えるのではないでしょうか。理由は日本版DBSです。この制度を導入するには任意団体では手に負えません。いくつかの任意団体クラブがまとまって1つの非営利法人になる可能性があります。
さて、保護者運営を由来とし、運営も引き続き保護者系の人材が担う非営利法人運営クラブの利点を考えてみます。
・保護者は育成支援を受ける子どもの声を代弁できる立場であることから、子どもにとって最善の育成支援を実施するために必要なこと、不必要なことを運営に従事する保護者に伝えやすく、事業の実施内容に反映させやすい。
・同じく保護者=利用者であるから、利用者が希望するサービス提供の種類や中身について要望を早期かつ詳細に知ることができ、それを事業の実施内容に反映させやすい。→この正反対のパターンも同時に起こり得ます。後述します。
・とりわけ公設民営の場合、外部第三者から見ると、「行政と住民との協働」が実現できている。→これを価値ある形態ととるか、面倒くさいことを保護者に押し付けることができてほっとしているか、その受け止め方の程度をもって行政の成熟度を測れるでしょう。
・非常勤の役員による運営の場合は、運営に従事する者へ支払う賃金コストが不要なため経費が削減できる。また常勤(専従)役員や職員がいても現状、賃金コストは抑制気味なので全般的にコスト削減が可能となる。つまり、組織運営に充てるコストが膨らまないで済む。
・(株式会社運営クラブと比べて)予算を組織運営そのものにしっかりと配分しやすい。企業の利益確保を主目的にしない分、予算を職員や育成支援実務に投下しやすい。結果、職員の無期雇用や各種手当が充実する傾向にある。
・NPO法人の場合は、計算書類が内閣府ポータルサイト等で確実に公開されるので、一定限度の財務体質が把握できる。→一般社団法人も決算は公開が必要ですがNPOほど徹底していません。なお株式会社運営クラブになると公開基準に達しない限り、予算がどの程度人件費に充てられているかなど、クラブ運営を任せている市区町村は知ることができても一般市民はほとんど知り得ません。補助金を交付されていながら、どのように使われているか国民が知ることが難しいのは、大問題です。
<保護者系の人材が運営に関わる非営利法人運営クラブの不便な点(上記の利点の反対として言及した点を除く)>
・多くの場合、法人組織の経営と事業運営に関して知識や技能がない者が運営に携わることによる組織運営の不確実さがぬぐえない。→つまり、法人組織の経営、運営の体制が不完全である、ということです。この点、さらに次の問題があります。
・会計や法律、IT等の専門的な分野に詳しかったり資格を持っていたりする保護者が、たまたま年度の巡り合わせで役員になることがあります。そもそも、児童クラブ運営は事業=ビジネスであり、子どもをクラブに通わせていることをもって保護者の持つ専門的な知識や技能を「当然のように無償で」提供を求めることは、あってはならないことです。自発的に提供する場合は別ですが。仮に、保護者が持っている知識や技能をクラブ運営に役立てるようその提供を依頼する場合には、その対価として保護者負担金(利用料、保育料など)を免除や大幅に減額するなどが必要です。もっとも「副業禁止」との兼ね合いも考慮しなければなりません。
・事業を行う団体、法人組織においては通常、事業執行の責任者は常勤であることが当然です。保護者系人材の非常勤による運営体制は、特に補助金交付を受けて事業を行う法人としては社会的な信頼度の点を傷つけることは否めません。
・役員が非常勤あるいは最高責任者以外の役員がほとんど非常勤の組織では、担当(担務)があいまい、または常にその担当(担務)に従事している状況にはないので、いろいろな場面において業務の継続性が損なわれる。とりわけ広報、周知宣伝の部門や教育研修にその悪影響が見られる。数少ない専従者の業務は経理会計や給与計算などの財務関係や入退所関係業務、行政や保護者との折衝に投入されがちになるため。
・保護者の中から運営に携わる人物を定期的に選出する場合、保護者はもともと役員になりたくない人がほとんどであるため、必ずしも組織の経営や事業の運営に適した人物が選ばれるとは限らず、やる気や意欲のない者が選ばれることになりがち。結果、経営や運営の質が低下しがちである。非常勤の保護者に支払う賃金コストはほとんどなくても、「なかなか事業に取り組まない」という時間的なコストは逆に増える。結果的に、施策が必要な時に適切な時期に行われる機会を逃すことになり、その不作為によって結果的に重大な事態を招きかねない。
・役員となる者の責任が明確に理解されない。→これは保護者による任意団体の運営の場合にも生じる問題です。とりわけ非常勤の保護者による運営では、クラブ運営によって引き起こされた問題、事件、事故に関して負うべき責任をどこまで担えるかの問題が発生します。当然、「わたしたち、くじ引きで選ばれただけの保護者でボランティアです」ということが免責の理由にはなりません。理事や監事であれば、組織を運営するために必要な善管注意義務も課せられます。使用者責任や善管注意義務といった種々の義務を担うことへの認識が極めて不十分です。
・保護者に有利となる事業運営に偏りがちとなる。→顕著な例は保護者の経済的負担と、保護者系人材が担っている役員の業務の軽減です。前者は、事業拡大や賃金アップに必要な予算増に際し、収入を増やそうとしても保護者が負担する毎月の負担額の増加について否定的な方向性として出現します。後者は、利用者へのサービス拡大を考える前に自らの負担軽減を考えてしまい結果的に利用者のサービス拡大がおろそかになる状況です。私も、入所受付に際してその提出期間を拡大することで仕事と育児の両立で忙しい子育て世帯への配慮を図ろうとずっと試みてきましたが、その方針を最後まで理解できない残念な保護者系の役員ばかりでした。結局、自分たちが楽をしたいと思っていては、福祉の面を持つ公共事業は質が低下するだけです。
・職員の負担が増える可能性が高い。→保護者による非常勤役員中心の事業運営では、結局のところ、日々の事業について職員が担うことが避けられず、結果的に日々の事業のみならず法人組織全般にわたって職員が負担を負う結果になりがち。または職員が事業運営を差配する状況にもなり、子どもや保護者よりも従事する職員の利便性を図る事業運営に陥りがち。
・市民活動、住民による子育て支援において理解が乏しい地域では、旧態依然とした考え方の議員によってその活動の意義が理解されず、活動に投じる予算の額が増えない。→これは残念ですが実態としてあることです。要は、「大事な役所の金を一般人が使うことが腹立たしい」という実に低次元のやっかみです。しかし予算を増やさない、施設数を増やさないという足かせは事業運営に深刻な影響を及ぼします。旧態依然とした考え方の議員たちは、自分たちの息がかかった人物=意のままに動かせる人物による運営に任せたいという本音を持っているものです。ひどい場合は、そのような人物によって、議員が営んでいる事業への発注を目指すことを狙うという実に情けない話もあります。
<利点、不便な点をまとめてみました>
保護者系人材運営クラブ | 子どもへの影響 | 保護者への影響 | 職員への影響 | 行政機構への影響 |
利点 | 子どもの立場に沿った事業運営の可能性は高い | 期待したいサービス、利便性の向上が図れる | 職員の期待する施策を運営に要求・伝達しやすい/保護者運営をサポートするため職員自陣も経営側に加わる機会が得られやすい | 組織運営に関するコスト削減/対外的に「住民との協働」が上手くいっている地域との評判が得られる |
不便な点 | (組織運営に不向きな保護者が役員となると)利点を活用しようとしない | 運営に関する負担が大きい/運営に関する責任を負うこと | 保護者が自身の利益だけを追求すると職員にしわ寄せが及びやすい/運営を丸投げされると業務量が過度に増える | 組織運営において能力的に素人集団による運営がもたらす不祥事の後始末が必要な場合がある/必ずしも行政経営に適した事業運営とはならない |
保護者系人材の組織の利点は、クラブ運営に保護者と子どもの意向を反映させやすいことが最も重要でしょう。それが裏目にでることもありますが。しかしこの利点は、保護者が運営に参画することを強制することが絶対的に必要であることを意味しないはずです。保護者の運営参画だけが、保護者と子どもの意向をクラブ運営に反映させることができる手段ではありません。運営者が公営でも株式会社でも何であっても、定期的に保護者や子どもの意向を確認し、運営に関して意見を表目できる機会を設定して保障すればいいだけです。事業者が自らの行動を律するための定めに、保護者等と定期的に意見を交換、共有して事業運営に反映する機会を設けること、と盛り込めばいいのです。そして保護者や子どもから「評価」を受けることも忘れずに。これが実施できれば、一部業界団体のいうところの「保護者運営こそ理想的な学童保育の運営です」ということは、そのことによる多くの不利益を葬り去ることもできます。
民営事業者を考えるうえで欠かせない、保護者運営(任意団体)についても次回以降に取り上げます。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)