いわゆる「長時間保育」問題。放課後児童クラブは、保護者が必要なら利用できる存在であるべきです。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。旧ツイッター(X)ではこのところ、保育士と思われる方々の間で「長時間保育」をめぐって様々な意見が投稿され、いわゆる「トレンド入り」もしました。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)でも。これとまったく同じ問題が存在しています。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<不毛の議論>
 「子どもが長時間、保育所に預けっぱなしにされているのはかわいそう。子どもにストレスが溜まり健康に悪影響だ。だから長時間保育はダメだ」という意見に対して、「保護者は子どもが長時間、保育所で過ごすことを申し訳ないと思いながら過ごしているんだから保護者を責めるようなことを保育者が言うな」「長時間働かないと暮らせない社会にした国が悪い」という意見が対立する。この構図はずっと変わらずにあり、今後も変わらないでしょう.SNSで話題になるたびに何度も何度も盛り上がるテーマです。
 だいたい、長時間という定義からして感覚的なものです。フルタイムで働く保護者が通勤時間片道1時間なら、10時間、子どもと離れる時間があるわけですから10時間の保育所利用となります。朝8時に保育所に子どもを連れて行けば午後6時の迎えとなるのですが現実は時間外勤務も入ってくることがしばしばで午後7時近いお迎えになることも当たり前です。これは間違いなく長時間保育に該当するのでしょうが、利用する側としては、もっと短い時間で保育所利用を済ませることは極めて困難です。仕事を変える、職場が変わるなら別ですが。保育者側から、長時間では子どもにストレスをためていることを理解してくださいねと言われても、いったいどうすりゃええのよ、となるのは当然の成り行きです。

 私の立場は「個々の家庭によって必要性が異なる以上、一概にどうこうと判断することは意味がない。長時間、子どもを保育所等に託すのが必要であれば必要に応じて利用すればいい。保育者側は必要がある限り保育、支援をすればいい」というものですが、「子どもファーストではない」と過去に指摘されたことがあります。まあ人それぞれですね。もっとも、私はこの考えを曲げません。

 不毛な議論だから盛り上がるのでしょうね。絶対的にどちらかが善、正しいという議論にはなりようがない。必要とする人がいる限り今後も長時間保育が存在するからです。正しくなければ少なくとも禁止される、あるいは社会全体がその状態を回避しようと試みますが、そのような動きはまったくありませんし、起きることもないでしょう。よって善悪の判断がつかない、つけようがない不毛な議論が故に、言いたい放題で言える。ある意味、それはそれで双方(賛成側、反対側)のガス抜きとなっていいんじゃないでしょうかね。

 今回の盛り上がりの発端となったSNSの投稿は、長時間保育=遅い時間に迎えに来る保護者を責めるわけではないときちんと立場を明確にしていはいましたが、冒頭に「お子さまがかわいそう」と、言外に(子どもをかわいそうと思えない人は、人としてどうなの?子どもをかわいそうだと思えないの?)と、堂々と反論しにくい「子どもは愛し、愛されるべき存在なのに、その子どもがかわいそうな状況にあるのに、それでいいの?」と鋭く突き付ける感情論を掲げてしまったがゆえに、長時間、保育所で過ごすことが続く子どもにはストレスがかかっている、ということを伝えようとしてもそのすべてが「子どもがかわいそうでしょ」との感情論で覆いかぶされてしまった印象を私は受けました。長時間保育を必要とする保護者に対して子どもへのいたわり、気配りを求めてほしいと願う文脈が、保護者が長時間保育を利用して日々を過ごすという生活様式に対して配慮を求めるように受け取られかねない部分が、議論を呼び起こしてしまったようです。もっともそれはもしかすると投稿者の本意であったかもしれませんが、もちろん私の憶測にすぎません。

 そもそも、保護者が自分の娯楽、快楽の追求のためだけを優先して子育てを忌避し、それを保育所に押し付けているという構図があるなら、保育士は保護者の子育てに関して指導することも仕事ですから、その職務を果たせばいいのです。「そんな保護者には話をしても無駄。話すらきいてくれない」ではないのです。それでも働きかけを続けるのが、資格を持つ専門職の責務です。話をしても無駄なのは、保育者側の能力が低いからと自戒せねばならないのです。結果的に無駄に終わっても、最後の瞬間まで保護者に子育てに関して働きかけることを止めてはなりません。

 ただ、投稿の中で、「長時間保育の子は難しい」と投稿者が指摘していることに私は疑問があります。長時間だろうが短時間だろうが、難しい子は難しいと感じています。また放課後児童クラブは保育所とは年齢が違う=成長発達の度合いが未就学児とはまったく違うので、短時間、短期間だけしか児童クラブに来ない子どもの方が、他の在籍児童との関係性の成熟の度合いから、児童集団の中で過ごすことが難しいということも往々にしてあります。学校で普段から交流していても、児童クラブと言うより濃密な人間関係がある時間と空間では、学校とはやはり違うことが多いですから。(しかし、いじめの構造は引き続き存在しますし、児童クラブではさらにその状況が先鋭化しがちであると感じます)

 長時間保育は是か非か。私は、それはそもそも問題として言い合うべきことなのですか?といいたいのですが、あえて放課後児童クラブについて私自身の考えを整理すると次のようになります。
・放課後児童クラブは現在、留守家庭の子どもを受け入れて生活の場とすることであるので、留守家庭となる状況がある限り、当然にその家庭の子どもを受け入れることに異論があってはならない。保護者が必要である限り、利用できる施設であるべきだ。その必要は「仕事、学業等」に限定せず、「日常の休息(いわゆるレスパイト)」でもいい、子育てに不安があるので児童クラブ職員に見ていてほしい、でも構わないはずだ。
・児童クラブ職員が感情で「長い時間、クラブで過ごす子どもがかわいそう」と思う気持ちは否定しないが、自身の職務を考えてほしい。子どもがかわいそうな状態ではないために支援、援助をするのが、自身の職務ではないのか? かわいそうだという気持ちを職務に持ち込んで利用者たる保護者の生活に変更を迫ってはならない。
・親子の幸せ、愛情の濃淡は、「親と子が一緒に過ごす時間の長さ」で決定されるものではない。1時間一緒にいても親がずっとスマホを見ていて子どもに関わっていない場合と、5分しか過ごせないけども親が子どもの目を見たり頭をなでたりしながら子どもとずっと界隈している場合、どちらが親子関係が良好と言えるのか。
・長い時間働かねばならない社会環境がおかしい、というのは否定しない。社会的な問題から長時間受け入れが避けられない状況は社会的に改善されるべきだと考える。所得保障を備えた育児時短制度の全事業者における強制適用などの実施が改善策だが社会的なコストの増加に留意する必要はある。最終的には納税者が負担するコストが増えることを受け入れられるか。
・長い時間働かなければ生活できない人だけではなく、「長時間働きたい子育て中の保護者」がいることも忘れてはならない。生活のための長時間労働=長時間児童クラブ利用だけではなく、自分の生きがいや社会活動に寄与したい、貢献したいという考え、あるいはその保護者が持っているスキルを発揮して企業や社会の利益に寄与するために、それぞれの理由において長時間クラブ利用を選択する保護者がいることは忘れてはならない。生活のためにしろ、生きがいにしろ、いわゆるエッセンシャルワーカーや高度の専門職に就いている人たちはその仕事のため、それぞれの理由において長時間のクラブ利用の必然性があることを理解すること。その理由に優劣の差はないこと。
・生きがいや専門技能を発揮して働いたり活動していたりする人も内心、子どもに対して申し訳ないという感情を抱きながら、あるいは押し殺しながら職場では笑顔で、力強く働いている。それらの人に「長時間のクラブ利用はこどもがかわいそう」という意見を突き付けるのは、自身がなんとか心の中で解決していると思うようにしている「私は子どものことをほったらかしにしているのだろうか」という疑問を思い起こさせ、あまりにも酷である。

<放課後児童クラブの存在理由を変えるべきだ>
 放課後児童クラブは、保護者が就労等により不在となる家庭の児童が対象です。つまり、保護者の監護に欠ける状態の子ども、保護者に代わってその成長を支える大人が必要である子どもが対象です。

 その考えの根底には当然、子育ては保護者が第一義的に責務を負う、という考えがあります。親が子どもを育てる。親は子どもを育てる義務がある。これは古から当然の常識とされていますし疑問を持つ人はほとんどいないでしょう。そもそも、その責務を放棄すれば児童虐待となります。

 しかし私はこの考え方に修正を求めたい。これまで実務で児童クラブの運営に関わっていて、圧倒的多数の子育て世帯は古と変わらない、家族を基本とした生活ができています。しかし、事実上、それができない家族、世帯がじわじわと増えているのではないかと危惧を抱きました。また、部分的にせよ、「それはどうなの?ちょっと問題ではないのか?」と思うような子育て、子どもと親との関係を信じて疑わないという、私から見たらそれは子どもに悪い影響を及ぼしやしないかという家庭がありました。

 はっきり言いましょう。いま、そしてこれから時代が過ぎれば過ぎるほど、家庭において子育てをすべて完結できる世帯、家族はどんどん減るだろう。子育てが分からない、あるいは子育てより自分の生活や感情を優先させることに何の疑問を持たない人が保護者となる人が増えていくだろう。ネット情報による偏りを偏りと分からないまま信じ込み、偏ったままの子育てを正しいと思って実践してその内容を疑わない保護者が増えていくであろう。つまり、家庭に子育ての基本をすべて任せるということでは破たんする、であろうと。

 これからの時代は、社会=子育てに関して専門性を備えた専門職を要する組織、施設が具体的な存在=が保護者と共に子育てをする時代に早急に変わらねばなりません。保護者が先、児童クラブはその補完、フォローではなくて、「保護者と共に児童クラブが子育てを行う。場合によっては(それが長時間受け入れであるが)児童クラブが保護者よりも率先して主体的に子育てに関わっていく」、共同であり対等の存在として、子育てを行っていくべきであると、私は考えます。(実はこれは1970年代までの日本の各地域で実質的に行われていた、地域による子どもへの関りと本質的に変わりがありません。当時は近所のおじいさん、おばあさん、おじちゃん、おばちゃんが、子どもたちを見ていて、親代わりに叱ったり褒めたり、面倒をみていたものです。地域コミュニティが児童クラブに変わっただけ、ともいえます)。いわゆる親権はもちろん戸籍上の保護者にありますが、子育てに関しては保護者「だけ」が責を負うのではなく、この社会全体として子育てに関わっていくことを義務づけるのです。

 それが実現した社会は「長時間受け入れ、長時間保育がかわいそうだ」という議論はまったく無意味になります。児童クラブで長時間過ごしても、それは当然のこととなるからです。

 そのためには、「親子が一緒にいることこそ、人間の当然の形であり、愛情の発露」であるという考え方は消え去ってもらわねばりません。親子が一緒に過ごす時間は崇高なものです。それは変わりません。親子が一緒にいること「だけが」親子の愛情表現であるという限定論を消し去るという事です。現に保護者のもとでの子育てができなくなった状況で子どもを受け入れる施設があります。そこで育つ子どもたちが不幸せとは、私は思いません。子どもに暴力を振るったり無視したりする保護者のもとで子どもが育つより、よほど子どもにとって幸せだと私は考えています。

<変えよう、いろいろと>
・法改正が必要です。本来は児童福祉法改正の前に国民世論が変わることが求められるのでしょうが、この問題については、必要性を制度として打ち出してから国民意識の変容を推し進めていくことが適切でしょう。自動車のシートベルトと同じです。法令で規制が強化されてからシートベルトが必要だという意識が定着しました。
・児童クラブ側の意識改革が必要です。自分たちは率先して子育てに加わる、保護者と「一緒に」子育てをする、という意識が必要です。
・行政の意識改革が必要です。「保護者が在宅の場合は児童クラブは利用できません」では、違います。まずは「保護者が在宅でも、子育てと仕事との並立で疲れた日常において休息が必要な場合は遠慮なく児童クラブを利用してください」と、利用に関する規定を変更してください。その後、徐々に、就労等の要件を撤廃し、「子育てに不安な方はぜひ、児童クラブの利用をご検討ください」と呼び掛けていきましょう。法改正の前でも児童クラブは地域の実情に応じて実施できますから、就労要件を撤廃することも可能です。
・児童クラブの資格を強化することが必要です。社会的な子育て推進に焦点を当てた理論の深化と、その理論を反映させた資格とすることが必要です。子どもがかわいそう、という感情で物事を判断する基準を持たない程度の、合理的な判断ができる程度以上の者に資格を付与するべきです。

 児童クラブの在り方が変わることは、長期的にも必要です。児童クラブの利用率が上がると言っても少子化は急激に進行しています。児童クラブの存在を維持するだけでなくその規模を発展するには新たな役割を持つことが欠かせません。その点は指摘しておきます。

 <おわりに:PR>
  放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)