放課後児童クラブの運営をめぐる、極めて異例の不祥事が発覚。児童クラブ運営を確実に管理監督する体制が必要だ

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)への評価、信頼を傷つける残念で異例の不祥事が報道されました。児童クラブの事業者代表者が補助金の返還に応じなかったとして行政側が刑事告訴した、というものです。本日は急きょ、その問題を取り上げます。児童クラブにおける仕事、業務量を減らすために後編は「業務の棚卸しの必要性」は後日掲載します。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<報道から>
 真実が今後、法廷の場で明かされるのでしょうか。児童クラブ運営事業者の代表者が交付された補助金の返還を求められたものの従わなかったとして行政から刑事告訴された、という事案が10月2日に報道されました。以下、いくつかの報道を引用して紹介します。
「大分県中津市は放課後児童クラブの運営事業者がおよそ550万円の委託料を返還せず、不法に利益を得たとして詐欺の疑いで刑事告訴したことを明らかにしました。中津市が刑事告訴したのは2023年度末まで市内で放課後児童クラブを運営していた一般社団法人輪笑の代表理事と理事の2人です。市によりますと、2021年度、運営にかかる見込み額として市は委託料およそ1070万円を輪笑に支払いました。輪笑は収支精算書を提出した際、支出はおよそ1500万円だとしていましたが、実際にはおよそ520万円で人件費などを水増しした疑いがあるということです。」(テレビ大分10月2日18時30分配信)※筆者注。輪笑は「わしょう」。

「放課後児童クラブを運営していた事業所が人件費などを水増しし、委託料を不正受給したとして、大分県中津市が施設の理事2人を刑事告訴しました。中津市によりますと、一般社団法人「輪笑」は2021年年度の放課後児童クラブの運営費について、人件費などを水増した収支清算書を提出し、委託料およそ550万円を不正受給した疑いが持たれています。去年2月、市に報告している施設の職員数に違いがあることが発覚。市は9月以降、実地監査などを行なってきましたが、法人が書類の提出や調査に度々応じなかったということです。このため、市は今年2月20日付けにさかのぼって施設の代表理事と理事を務める夫婦2人を詐欺の疑いで刑事告訴したことを2日公表しました。」(大分放送10月2日18時23分配信)

「中津市によりますと、市内で放課後児童クラブ「わしょい児童クラブ」を運営していた一般社団法人の役員2人は、令和3年度、人件費やクラブの運営に関係ない研修費などを水増した委託料を請求し、549万5158円を不正に受け取っていた疑いがあるということです。去年、市内の放課後児童クラブを巡回していた市の職員がこのクラブの支援員の人数が市への報告より少ないことに気づき、監査を行ったところ、不正受給が発覚したということです。市は運営に関する書類の提出を求めましたが、役員らは必要な書類を提出しなかったり、支援員の出勤簿を改ざんするなどして十分な検査ができなかったということです。このため中津市は、ことし2月、一般社団法人の役員2人を詐欺の罪で警察に告訴しました。また、市はこの法人との契約を終了し、児童クラブはことし3月末で廃止されたということです。市では、昨年度からクラブの事業者を対象としたコンプライアンス研修や定期的にクラブに出向いて監査を行うなど再発防止に向けた取り組みを進めているということです。」(NHK大分NEWS WEB10月2日18時23分配信)

 私が記事を読んで感じた報道のポイントは次の通り。
・詐欺での告訴。委託料をだまし取ろうとしたと判断したこと。
・提出した資料での人件費が1,500万円だったところ実際は520万円。3倍もの開きがある。
・一般社団法人だが告訴された役員は夫婦。(親族が一定の割合以上で役員が就いている場合、一般社団法人とはいえ公益性が否定されて放課後児童クラブ運営していても課税対象となりますが、その点が気になります)
・市の巡回で職員数が少ないことが発覚
・行政の監査に対し、書類を提出しない、出勤簿を改ざんするなど悪質な行為があった。
・今年2月に告訴。ということは前年度。(なぜ今の時点で公表?情報公開の点で問題。)

<問題点は?>
(1)不正受給は市職員の巡回がきっかけで発覚したこと。
 →この巡回にしても、別件で訪れた職員が「あれ?」と思ったのか、あるいは事前に不正に関する情報があってその確認のために訪れた巡回で情報の真偽を確認したのか、詳細は分かりません。いずれにしても、それ以前の書類の提出など別の機会では、不正受給の疑いを把握することができなかったということが、重要な点です。つまり、行政側の、事業者への管理監督の体制が脆弱である、ということが問題です。基本は「野放し」で、年度末だけ書類を提出すればいい、という体制ではとても不正を見抜けません。
(10月6日追記:読売新聞の報道によると、市の職員が巡回した際、報告では8人の支援員がいるとなっていたものが2~3人の支援員しかいなかったので不審に感じ、調査を始めたとのことです。これが事実であれば、事業執行の状況の確認を提出された資料に基づいて確実に確認しようとした行政側の姿勢は当然ながら評価できますし、巡回視察があっても偽装工作?すらしなかった(してはダメですが)事業者側のずさんさが私には想像できます)

(2)監査逃れ的な行為に強硬な対応がとれないこと。
 →市の監査に対して事業者側は必要な書類の提出を遅らせたり書類を改ざんしたりしたと報じられています。事実であればおよそ考えられないのですが、そのような意図的な監査逃れやサボタージュに対し、現行の体制では強硬な対応をなかなか取れません。それだけ事案の全容把握と解明、そしてその解決に時間がかかるということで、それはかかった時間だけ、仮に不正行為が事実であればそれだけ不正行為がなされている時間が費やされているということ。一刻も早く全容を把握できる強烈な権限を行政が発揮できるようにしなければなりません。

(3)事業者の情報を明らかにせず、親族経営の事業者に公の事業を委ねることの危険性
 →放課後児童クラブは言わずもがな公の児童福祉です。ですから、児童クラブを運営する事業者は任意団体であろうが法人であろうが、事業者の信頼性は極めて高くなければなりません。その信頼性は、事業者の経営状況や事業内容、運営内容の透明性があれば向上します。その点どうだったのでしょうか。また、親族同士で経営することはそれがただちに問題とはなりませんが、一般社団法人にしろ特定非営利活動法人にしろ、血縁関係のある親族が役員の3分の1を超えると公益性が否定されるということは、やはり親族経営について社会的に一定限度の制限が必要であるという認識があるからこそです。行政はどうして夫婦で役員を務めている団体に委託したのでしょうか。
 なお、中津市が発行している令和6年度の「ひとり親家庭サポートブック」には、「わっしょい子ども食堂」として、市が刑事告訴した団体による事業が紹介されています。これもなんか、ちぐはくですね。

<強制的に事業内容を公表させる仕組みが必要だ>
 放課後児童クラブは様々な事業者が運営主体としてクラブ運営を行っています。広域展開事業者による寡占化が始まっていますが、それは1つの地域にまとまったクラブ数を運営できる場合ですから、今後も、特に地方においては引き続き保護者運営由来の団体や非営利法人がクラブ運営を担う可能性はあります。私が行っている市区町村ごとの児童クラブ調査で、小規模や零細規模であり、保護者運営由来と思われる運営主体や非営利法人の運営主体は、情報公開がほとんどなされていません。税金からなる補助金を交付されて使用しているのですから、公のお金を交付されている事業者の情報が世間に公開されていないのは問題です。経営、運営の中身、実態がブラックボックスとなってはいけません。

 保護者由来の団体ではその提供するサービスの対象者は地域の住民に限られるとして、その住民にだけ届く情報提供で十分だと考えている可能性があります。また、運営にボランティアの保護者や保護者OBが関わっているとその者の個人情報が知られることを防ぎたいとして運営に関する情報を積極的に公開していない可能性もあります。しかし、運営支援の立場からすると、それらは間違いです。公のお金を補助金として交付されて運営している以上、その事業内容は国民に向けて開示される必要があります。また、公の事業の運営を担う責任者となっている以上、非常勤の善意に基づくボランティアだからといって個人のプライバシー情報がすべてにおいて優越することは間違っていると私は考えます。別に、住所や電話番号を公開せよとは言いませんが、だれが代表や会長であって誰が副代表や副会長であるか、氏名は少なくとも公開するべきですし、それができる人が運営事業者の役員を務めるべきであって、それができない人たちしかいない団体であれば運営そのものを辞退するべきです。

 特に今回のような、身内だけで固めている非営利法人は、補助金を受けて事業を行っている場合は情報公開を行うだけでなく行政からも定期的に詳細なチェック、監査を行うことが必要です。活動計算書も四半期ごとに提出させることは当然、賃金台帳、労働者名簿、資金についても実際の通帳を確認することも必要です。とりわけ、不正を起こしやすい要素がある「人件費」と「職員配置数」と「開所日数、開所時間」については、抜き打ちの監査も含めて、行政が随時、確実に監査ができる仕組みが必要でしょう。「あの団体は本当によくやってくれている」から監査は年に1回でいいだろう、ではなくて、どの団体においても不正が行われていないことを確認するために、しっかりと監査、管理監督することが求められるのです。

 運営支援は児童クラブの運営事業者を支えることを事業としておりその活用を呼び掛けていますが、事業の経営者、代表者自身が、運営に関して誤った考えや意図的に問題となる考えのもとで事業を運営しているのであれば、残念ながらどうしようもありません。例えそのような経営者、役員の下で働いているまっとうな法令遵守を心がけている職員がいたとしても、経営者とその取り巻きが悪しき考えに染まっていては、これまたどうしようもありません。
 そのような場合には、やはり委託者だったり補助金の交付者だったりである市区町村、行政が、やはり的確に、確実に、事業内容に不正がないか問題がないかを確認する仕組みが必要です。またその監査、管理監督を不正な意図でまぬがれようとした、あるいはまぬがれた事業者には直ちに委託や指定管理、補助を取りやめる仕組みも必要です。

 普段からの緊張関係というのでしょうか。事業の世界においては性善説はありません。常に監視、管理監督する、チェックされている、その関係が必要です。不正受給といってもそのお金は税金からなる補助金です。納税者は、もっと怒らねばなりません。「児童クラブの運営事業者には、その経営や運営の内容がすべて明らかになること」を求めて当然なのです。情報公開、透明性の向上を社会が児童クラブの世界に求めるのは当然です。

 今年度は運営委員会方式による児童クラブで、資金の横領があったり特定者に異例の報酬を支給したりした問題が相次いで発覚しました。昨年には非営利系ですが全国展開する大規模な事業者が職員の不正配置で大問題となりました。児童クラブについては普段からなかなか世間からの注目が集まりませんが、現実にはあちこちで問題が発覚しています。
 それらは、普段からの行政そして社会からの管理監督の意識が緩く、監査、管理監督の体制が甘いからです。それができてれば今回のような不正受給を疑わせる事案の発生に対する抑止力となるでしょう。国はぜひこの点を真剣に考えていただきたいですし、業界団体は自主的に事業を公開するためのルール作りに乗り出すべきです。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 なお弊会代表萩原ですが2024年10月2日に発表があった、第56回社会保険労務士試験に合格いたしました。今後、必要な講習等を経て2025年度以降に社会保険労務士としても活動を行う予定です。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)