103万円の壁、106万円の壁と「壁」が話題ですが放課後児童クラブの「壁」もたくさんあります!弁当の壁も!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。ニュース番組やワイドショー、ネットニュースや新聞では103万円の壁やら106万円の壁やら、「壁」がたくさん登場していますね。運営支援ブログでも話題にしましたが、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)にも大いに関係のある「壁」でした。一方で、放課後児童クラブそのものにも、たくさんの「壁」があります。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<放課後児童クラブの壁>
 「壁」は、順調に進む流れを妨げるものですね。うまく進んでいた生活習慣が中断を余儀なくされる現象が「壁」です。児童クラブにおける壁は拙著「知られざる<学童保育>の世界」でもかなりページを割いて紹介しましたが、次のような壁があります。
・小1の壁=超有名。私の知る限り、本来は「放課後児童クラブの待機児童」を指す用語でメディアで使われていましたが、この数年は、「子どもが小学生になったときに生活習慣の変化を余儀なくされる状態そのもの」を指すように用語法が変化していますね。

・小4の壁=徐々に深刻になっています。放課後児童クラブは本来、小学生が対象ですが、施設に入所できる人数と、入所を希望する人数のバランスが取れずに入所希望者が圧倒的に多数の場合、小学4年生前後で児童クラブを退所してもらい、新1年生など低学年の入所を優先させます。本来なら、もっと児童クラブを利用したいのに入所が認められない高学年待機児童が発生しています。このことを小4の壁、といいます。これは、放課後児童健全育成事業という、放課後児童クラブの本旨を根源的に問う、実は重大な問題です。法は小学生を放課後児童健全育成事業の対象としているのに、地域に応じた事業を行って良いというこれもまた法の定めによって、施設整備よりも高学年を追い出す方を優先している自治体の姿勢は、結局のところ、「子どものことは、実はさして大事に考えていない」ということが明白だからです。小4の壁は、こどもまんなか社会が、いかに掛け声だらけかということを如実に示していますね。

・受け入れ時間の壁=放課後児童クラブで子どもを受け入れてくれる時間の長短です。夕方や夜の閉所時刻が午後6時ですと、フルタイム勤務の人で通勤に1時間程度かかる人は、とてもお迎えに間に合わないでしょう。また、土曜日の朝や小学校長期休業日(夏休みや冬、春休み、学校の開校記念日などで授業が無い日)の朝、何時にクラブが開くかという開所時刻は深刻です。午前8時開所では出勤時刻に間に合わないという保護者にとって、「せめてあと30分、早く開いてほしい」という切実な願いがあります。保育所は午前7時開所が多く、小学校の登校も午前7時30分なのになので児童クラブは午前8時なの?というのが、この受け入れ時間の壁です。

・夏休みの壁=放課後児童クラブは、利用したいすべての子育て世帯の要望を満たすことが望ましいですね。学校の授業がある日は児童クラブを利用する必要性が乏しい家庭でも、夏休みなどの長期休業期間中には、「午前中から日中」の保護者の不在時間において、子どもを安全安心な場所にて過ごさせたいと考える保護者は実に多いのです。放課後児童クラブは一時利用、スポット利用の制度を多くの自治体で採用し、その短期間の児童クラブ利用ニーズに対応しようとしていますが、うまく機能していません。というのは、すでに夏休み前の段階で入所児童数が大変多く、夏休み期間に一時利用を希望する家庭の子どもを受け入れるだけの人数の空きが生じていないからです。つまり施設の受け入れ人数がそもそも足りていないのですね。これは悪循環を生じていて、「夏休みの一時利用は、申し込んでも認められないだろう→だったら4月から入所させておこう→4~7月はあまり児童クラブは利用しない、でも夏休みはたくさん利用できてよかった→9月になった。退所しよう」という大きな流れがあるので、「本当は夏休みだけの利用で間に合うけれど、入れないので4月から入所させておこう」という人がどんどん4月入所にこだわり、その結果、受け入れの余裕人数がゼロになる、という状態が繰り返されています。
 東京都立川市は「サマー学童保育所」を設置しています。自治体の中には長期休業期間中のみ開所のクラブを設置する地域があります。国はこの短期間開所クラブのテコ入れを行う方向のyほうで、この試みは徐々に広がるものと予想されています。
 ・その他には「保護者負担(保護者会)の壁」がある場合も。入所したクラブが保護者運営クラブだったり保護者が何らかの形で運営に義務的に参加せざるを得ない場合、保護者の無償労働が強制されることです。

<そして「お弁当の壁」です>
 お弁当の壁は、長期休業期間中において児童クラブを利用するとき、子どもに持たせるお弁当作りの負担です。この壁は急速に撤廃に向けての流れが生じています。昨年そして今年と、あちこちの地域で、児童クラブにおける昼食提供サービスの開始が報じられているのです。もともと、児童クラブを利用する保護者のかなりの多数が「保育所は給食なのだから良かった。児童クラブも給食にしてほしい」「朝の弁当作りは本当に大変」と、児童クラブにおける昼食提供を求める声を以前から上げていたという背景があり、そこに国が昨年の夏休み前に児童クラブにおける昼食提供について、自治体が前向きに取り組めるように好事例の紹介を行ったことが起爆剤となって、大いに児童クラブにおける昼食提供開始の後押しになっているようです。

 この「お弁当の壁」の解消について、運営支援の立場はもちろん歓迎です。そこでひとこと付け加えます。この壁の解消に取り組む自治体の多くは、宅配弁当の利用によって昼食をクラブで提供する方式のようです。報道された事例で宅配弁当以外の方法で昼食提供に新たに取り組んだ例は確認できていません。

 以前も運営支援ブログで書きましたが、私は児童クラブにおける昼食提供について、理想的なのは給食の活用と考えています。地域に給食センターがあれば、その設備と人員を活用して児童クラブ向けの昼食を作ってもらい、それをクラブもしくは小学校等に配達してもらうという仕組みです。利点は、衛生的な環境で調理ができることで、何といっても素晴らしい。また、献立もセンターの管理栄養士さんなどにお願いできれば栄養的にも安心です。弱点は費用が相当かかります。受益者負担ではとても足りず、市区町村の独自財源で対応する必要があります。また、給食センターの設備点検などの時期にかかることがあります。

 給食センターが活用できない場合は、児童クラブにおける自施設での調理が望ましいと運営支援は考えています。給食センターがある環境でも、昼食提供に関する条件が理想的であれば児童クラブでの昼食調理提供が好ましいでしょう。条件とは、「多人数の児童に提供するだけの調理を、余裕をもって取り組める人員が確保されていること」と、「調理の設備、環境が整っていること。衛生面でも問題がないこと」です。つまり、昼食の調理のために職員をさかねばならず子どもの育成支援に従事できる職員数が減るようでは、本来の事業である育成支援がおろそかになるので、問題です。また、児童クラブは家庭の延長にあるという理解のもと、調理設備は通常の家庭か、あるいはそれよりさらに簡素(ミニキッチン)であることがほとんどです。多くの人数に昼食を提供できる調理ができるだけの設備が必要です。関連して、冷蔵庫や冷凍庫の設置スペース、電気の容量も確保する必要があります。調理人数の確保については、こども家庭庁が紹介したように国の補助金が活用できます。また児童クラブにおける昼食提供を推進するためには、今は全く規制やガイドラインのような頼りとなる規範が存在しないので、放課後児童クラブ運営指針とは別に、昼食提供に特化した、事業者や市区町村が配慮または守るべき内容について国が制定することが必要でしょう。

 弁当宅配は、何よりもコストが軽減できます。発注の仕組みさえ確立できればいいのです。制度構築に必要な時間的あるいは財政的なコストは他の手法よりはるかに低く抑えられるので、迅速に昼食導入が可能です。難点は事業の継続性です。宅配弁当の事業者が来年夏も同じように児童クラブ向けの弁当調理と配達に応じてくれる保障は絶対的にはありません。民間事業者との商取引ですから、当然です。他には事業者によってですが、メニューが多種多様であるか、アレルギー対応がどこまでできるか、保温の程度はどこまで可能かなど、事業者次第という点もあります。

 この昼食提供において報道がいくつかあった中で、十数年以上も昔から児童クラブで昼食提供を行っていた先進的な地域があることがほとんど知られていません。それは愛知県津島市での事例です。津島市の児童クラブは保護者運営が発端で、その後、合同運営に舵を切ってNPO法人を設立して今に至っています。津島市の児童クラブでは、クラブ職員が昼食を調理して提供する「給食」を長らく行っているのです。
 地産地消ではないですが、食べる場所で昼食を作っているのですから、出来立ての料理を子どもたちは食べられます。温かいものは温かいまま、冷たいものは冷たいまま、というのは宅配弁当は当然、給食センター調理でも、なかなか難しいものです。アレルギー対応も、職員は自分のクラブの子どものことですから、しっかりと把握できます。献立も、ある程度は、食材の値段を参考にできます。本当に利点が多いのです。児童クラブは第二の家庭と称されますが、クラブの職員が調理したお昼ご飯を子ども達が食べることによる、生活習慣上の効果も期待できます。作った人に対する感謝の気持ちが実感しやすいですから。

 困難な点も、もちろんあります。とりわけ、児童クラブの大規模化による児童数の増加は、単純に、調理量の増加を招きます。調理時間もかかりますし設備も不十分なので、献立にも限りがでてきます。なにより、職員のマンパワー不足。大規模クラブはただでさえ子どもとの関わりにおいてより多くの時間を必要とする中で、調理にも人手がさかれるとなると、肝心の育成支援が不安定になります。職員の疲労度、疲弊度は深刻に受け止める必要があります。

 これら利点と不便な点を総合的に考えても、津島市における、自らのクラブにおける昼食の調理と提供は、他地域における先進的な事例として私は大いに評価できるものと考えています。このほかに、津島市の放課後児童クラブ(当地では「こどもの家」と称しています)は、市長をトップに官民が協働で、子どもと保護者にとってより良い児童クラブを設置運営していくことに熱心な地域です。素晴らしく機能的な施設が相次いで整備されています。人気の高さも手伝って大規模問題は非常に厳しい局面にはありますが、次世代を担う子ども達の健全育成にとても力を入れている地域の1つであることは間違いありません。はやりの言葉でいえば、「子ども達のウェルビーイングが津島の児童クラブにある」といえるでしょう。昼食提供はもちろん、児童クラブのあり方、運営の仕組みを含めて行政視察、議員視察において津島市は最適であると断言できます。ぜひ津島市の児童クラブのことを、多くの人に知っていただきたいと切に希望します。
 メディアもぜひ、冬休みを前に改めて児童クラブの昼食提供を報道で取り上げる際は、津島市の状況を取材して報道していただけばありがたいです。

 同時に、児童クラブにおける「お弁当の壁」撤廃には、単に保護者の利便性向上だけに留まらず、福祉的な観点からの推進、普及も社会に認識してほしいのです。学校給食が無い時期に、生活に苦しい世帯の子どもは昼食を欠いてしまうことがあります。欠食児童の問題がいま、隠れた問題となっています。児童クラブにおいて昼食提供をする際は、こうした貧困世帯の児童への食事提供の観点から、費用を無料もしくは相当程度まで軽減した金額による昼食提供で、じわじわと広がっている貧困世帯の子どもの成長を支えてほしい。そのためのお弁当の壁の撤廃であれば、税金を投入する価値があります。そこをぜひ、メディアには社会に向けて発信していただきたいのです。

<最後に、メディアに関して2点>
 本日(2024年11月13日)のテレビ朝日系の朝の情報番組において、「103万円などの壁」を取り上げていました。有名なレギュラーコメンテーターT氏と、ゲストの経済評論家がそろって、壁の撤廃に対応できない事業者は市場から消えて(潰れて)当然で、その方が、優秀な事業者によって発展した大きな事業所のもとで労働者は働くことができることは幸せなことだ、と強調していました。
 総論では、その主張に私も同意しますが、テレビで公言するには乱暴すぎます。児童クラブの世界にはまったく当てはまらないからです。税制や社会保険料に関する壁の撤廃について、補助金の交付額で運営が大いに左右される、もっといえば生死を握られている児童クラブの世界には、何の公的な支えも無くして各種の壁がただ撤廃されることで、大きな事業所の傘下に入ることは、事業の質を考えた時に、とても素晴らしいこととは言えません。残念ながら、規模の大きな事業所ほど、雇用されている職員の雇用労働条件は十分ではありません。育成支援の内容も、健全育成に適合しているというよりも「見た目、体面」を優先としたプログラムをただ実施しているだけという、お粗末な内容が多いのです。
 影響力のあるメディアや有識者が、十把ひとからげに、「大きな事業所で働くことができればいいじゃないか」と主張するのは残念です。公定価格によって賃金が左右される業態においては一時的にせよ厳しい局面に追い込まれることを踏まえた主張や意見の発信を希望します。

 もう1つ。これはネットニュースで拝見しました。元AKBの柏木由紀さんは、自身についてどの程度伝えられているか「エゴサーチ」を極めて頻繁に行っているとのこと。なんでも、自身に関する書き込みは1つたりとも逃さない、と徹底したエゴサを行っているということでした。ということは、このブログも検索で柏木さんのスマホやPCの画面で表示される可能性があるということですね。
 柏木さん!このブログがエゴサの結果、表示されたとしたならぜひお願いです。放課後児童クラブ、学童保育についてぜひぜひ、興味関心を持っていただき、世間にどんどん発信してください。クラブへの訪問も大歓迎です。児童クラブに関わる人は子どもはもちろん、保護者、そして職員と、大変多いのです。小学1年生の半数が児童クラブを利用するまでになり、今や社会に欠かせない社会インフラとなっているのが、児童クラブです。次代を担う子ども達のために、柏木さんの天真爛漫なその明るさで児童クラブの世界に元気をもたらしてくださると、本当にうれしいです。

 津島市の児童クラブの昼食提供の例にあるように、児童クラブのことは世間、一般社会になかなか伝えられていません。良いことも、困ったことも、どちらもなかなか知られていないのです。知られない限り、さらなる発展も、困った点の改善も、社会の後押しがないので、なかなか前に進みません。ぜひこの行き詰った状況を打開したい、運営支援はそのように考えています。

<おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)