非営利法人や任意団体の放課後児童クラブ事業者の良しあしは、監事の活躍具合で分かる。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。いずれ取り上げますが保護者運営または保護者運営由来の組織による放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)で働く人からのSOSが弊会に寄せられています。事情をおうかがいすると、運営のチェック機能がまったく働いていないのです。いわば経営陣の無責任体質が現場のまじめな職員に不条理をおっかぶせている状況。基本に立ち返って事業者内でやらねばならないことを改めて指摘します。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<監事さんはいますか?>
 弊会はまだまだ無名のちっぽけな単なる個人商店に等しい存在ですが、それでもこのところ、週に1~2件のペースで全国の放課後児童クラブ関係者から相談があります。およそ深刻で悲惨な話ばかりです。相談相手の個人情報を守れないとその方の職場の地位も危うくなるので概要については一切公開いたしませんが、このところ、あまりにひどい内容が相次いでいるので、問題点のみを近くブログで取り上げなければ、と考えています。その前段階としての今回のブログです。(弊会の受任件数や、受任件数のから解決に至った割合を公開していないなど業務の状況を公表していないので事業の信頼性に欠けるという疑念はあるでしょうが、こと、個人からの相談については今後も件数を含めて公開はいたしません。法人からの業務依頼は業務が完結したら報告します。セミナーや取材対応については終了次第、その概要は公開しています)

 ところで弊会は一般社団法人です。業務に従事しているのはわたし1人です。理事は3人いますが理事会は設置しておらず、監事も選任していません。もっと事業が拡大すれば定款を変更して監事も選任することになるでしょう。はやくそうなりたいですね。今、監事を置かなくても済んでいるのは正直なところそれだけの事業ができていないということでもあります。

 ところが、放課後児童クラブを1クラブでも実際に運営している法人や団体は違います。毎日、大勢の子どもの命の安全を守り、職員の雇用を守り、公金からなる補助金や保護者からいただく貴重な利用料を使って法令に従って事業を行うのですから、すべてにおいて適切に事業が執行されているか、誰の目から見ても明らかでなければなりません。現場の職員だけでなく、法人や団体全体の意思決定を行う役員の業務の執行についても、それが適正であるかどうかは常に確認されていなければなりません。その務めを果たすのが監事ですが、児童クラブの世界において、とりわけ保護者運営由来の事業者には、なかなか監事の重要性が理解されていないと私は感じています。

 児童クラブを運営する保護者由来の運営主体では、NPO法人、一般社団法人という法人と、保護者会や(地域)運営委員会という任意団体が主なものでしょう。株式会社や合同会社の形態を取ることも増えているようですが。NPO法人では監事は必ず置かねばなりません。一般社団法人では理事会を設置する場合は監事を置かねばなりません。株式会社については私は詳しくないのですが取締役会を置かなければ監査役も置かなくてよいとなっているようです。保護者会や運営委員会では会計監査を置くことが多いようです。

<実際、監事さんは活動していますか?>
 私がこれまで見てきた限り、こういう例が多かった。児童クラブの非営利法人の監事は理事会にもほとんど来ない、年度末にやってきて事務方が作成した計算書類を見て、口座の通帳と書類に書かれた金額が一致するのを見て、ハンコを押して、その後の総会で「特に問題はありません」と話すだけの存在になってるんじゃないの、その動きかたは?ということをかなり目の当たりにしました。
 ここで、特定非営利活動促進法第18条を見てみましょう。
(監事の職務)
第十八条 監事は、次に掲げる職務を行う。
一 理事の業務執行の状況を監査すること。
二 特定非営利活動法人の財産の状況を監査すること。
三 前二号の規定による監査の結果、特定非営利活動法人の業務又は財産に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを発見した場合には、これを社員総会又は所轄庁に報告すること。
四 前号の報告をするために必要がある場合には、社員総会を招集すること。
五 理事の業務執行の状況又は特定非営利活動法人の財産の状況について、理事に意見を述べること。

 一番最初に「理事の業務執行の状況を監査」とあります。理事の仕事ぶりをチェックすることこそ監事の大事な仕事の1つです。理事会を休むなんてもってのほか、いやいや理事会だけ出ていればいいのではまったくありません。理事の仕事とは、事業体の経営者として事業が問題なく実施できるように施策を考えて職員に実施させるのですから、監事は、実際の現場、つまり児童クラブの現場にも足を運んでどのように事業が遂行されているのか、チェックすることが必要です。職員にも話を聞いて、上司、上役の態度や事業への取り組み方、姿勢、勤務の状況を確認することが必要です。NPOでなくても一般社団法人であっても同じこと。保護者会や運営委員会での監事にも、まったく同じことが期待されるのです。

 これは当たり前のことなのですが、なかなか実現されていない。実はこの私も最初は監事の「業務監査」についてその重要性を理解していませんでした。2015年度以降に多くの児童クラブを運営するNPO法人の運営の責任者となったとき、監事に就いていただいた大先輩にいろいろ教わって学んだことです。その方は日本でも有数の規模の巨大な非営利法人の監査役を務められた経験があり、監事の本来の責務とはこういうことだ、ということを実際の活動で見せてくれました。クラブの現場には監事団だけで巡回して職員の本音を聞きだしたり、周辺の児童クラブ運営事業者を訪問してその運営の状況を調べて自身の組織に至らぬ点を指摘したりと、精力的に活動をされていました。監事会は初めの数年間は毎月1回、その後、私の組織運営が円滑にいくようになってからは2~3か月に1回ほどの割合で開かれ、その間の業務執行状況の報告も、資料や情報の数値がそろっていなければ容赦なく指摘が飛んできました。経営側の私はそれこそ数えきれないほどの不備の指摘を受けましたが、その指摘の1つ1つがまったくもって合理的であり、気づかされることばかり。組織をまっとうに経営するには、極めて優れた能力のある監事が必要であるということを、実感させてくれました。今もって感謝しかありません。

 そのような「まっとうな」監事の活動を目の当たりにしてきたので、いま、いろいろなところから弊会に寄せられる現場職員からの相談には絶句するばかりです。まともな監事がいて、監事の職責を普通に果たしていればと思うのですが、そもそも経営陣が監事の重要性も、監事の役割もおよそ理解していないだろうということばかり。そもそも、理事も監事も役員でありいわゆる善管注意義務がありますが、おそらくそのことすらも理解していないままクラブ運営の事業者の役員に名前だけ連ねているのです。実際、理事に選ばれても理事会に来ないだけでなく連絡すら取れないという役員がいるクラブ運営法人すらあります。それでは、現場のまじめな職員が苦労するだけです。それだけでなく、役員陣がただ理事会や総会だけに参加していればいいぐらいの、経営に対する真摯な姿勢を欠いている、つまり無責任な状態にあるがゆえに、現場で実権を握る職員が横暴を極め、自分たちのやりたい放題でなんでもやってしまうので、せっかく採用できた職員がすぐ辞めてしまう、という状態が固定化されてしまうのです。

 あのね、株式会社による広域展開事業者の運営姿勢ってのは変えるのは大変ですよ。現場の職員の意見だけではまず変わらない。不可能とも言っていい。地域の運営事業本部であっても結局は「その上」の本社のご機嫌を損ねないように結局は会社の決めた方針にただ従うだけ。巨大な組織として成り立ってしまっている以上、そうそう簡単に事業の実施内容は変えられない。だから広域展開事業者の運営方針に疑問を抱いても、よほどのきっかけ(報道で一斉にバッシングが始まる、法令に抵触したことで行政から指導を受ける、捜査を受ける等)がなければ会社の体質は変わりません。
 ですが、児童クラブを運営する非営利法人や任意団体ならば、ごく一部の広域展開事業者や保育所などを多数設置運営している社会福祉法人でなければ、そうそう大きな事業規模ではないでしょう。役員の本気具合で変えられるんですよ。まともな理事がいて、そしてまともな監事がいる。特に監事の権限は強大ですから、「ちょっとその方針の内容、おかしいですよ」といえば、理事会を監事の権限で開かせて再討議させることだってできるのですから。
 逆に言えば、事業はそこそこ適当でいい、という考えを明確に持っていて、かつ、それなりに監事の職務について理解のある人なら、能力の高い人を監事には据えないでしょうね。適当にやっている事業内容にあれこれ指摘を受けたくないですから。

 また、これも保護者運営系の事業者に見られることですが、事業の運営側である理事と、事業の監視側である監事が仲良しこよしの関係にあって、その個人的なつながりが業務にも影響し、監事が理事の業務執行をチェックできないという状況になってしまうことがあります。そもそも監事を務める人が理事を何期か務めてその後に回るポジションと化している。こういう組織ではおよそ監事のまっとうな業務が期待できません。名ばかり監事は百害あって一利なし、です。しかも残念ながら監事が監事の仕事を果たしていないとは自覚していない例を私は目の当たりにしています。本当に残念です。

 児童クラブの運営事業者は、監事によるいわばセルフチェック機能が弱すぎるのです。第三者機関の評価うんぬんの前に、自らの組織で構えられる監事という立場の役員からチェックしてもらうことの方がよっぽど簡単です。そもそもセルフチェック機能がダメな組織が第三者評価を受けて高い評価になるはずもない。
 児童クラブの現場で働く人や児童クラブを運営する立場の人で、うちの組織は酷すぎるとか、どうして事業がうまく進まないんだろう、どうして一部の人のわがままで好き勝手に運営方針が左右するのだろうと疑問を持っているならば、まずは能力の高い人に監事になってもらうことを画策しましょう。任意団体の場合は、団体内部で通用する規程類をしっかり整備して監事の設置と監事の職務範囲と権限をしっかりと定めてください。まっとうに組織運営ができていないと、いつ、運営の立場を行政に取り上げられて株式会社の広域展開事業者に渡されてしまうか、分かりませんよ。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)