関東地方に恐ろしい台風が接近中。悩ましい放課後児童クラブの開所、閉所の判断。社会インフラとしての責務も必要

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。台風7号が関東地方の東の海上を北上するという予報になっています。関東地方では交通機関の計画運休が相次ぎ、国も不要不急の外出を控えるよう呼び掛けています。台風や大雪など気象災害が予想される事態になると、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の開所、閉所の問題と直面します。実に悩ましい困難な判断を必要とする難問です。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

 2023年8月15日、ほぼ1年前にも台風のことをブロブで取り上げました。その後の9月7日にも取り上げています。今回は8月15日掲載のブログを再録するとともに、改めて運営支援が考える問題点や留意点を挙げますが、こと台風接近に対する放課後児童クラブの対応は本当に難しいものばかりです。
〇優先順位について
(1)最優先で判断するべきこと
子ども・職員の安全確保。遭難防止。
(2)次いで優先されるべきこと
社会インフラに従事する子育て世帯の就労の保障
(3)優先順位が相対的に低くなるもの
通常の子育て世帯の就労の保障

〇判断に際して留意するべきこと
(1)台風による影響の予想。予報されている風速、雨量の強さと継続時間、発生する時間帯
(2)国や自治体による警戒情報や避難指示などの身の安全を守るために欠かせない情報の発出状況
(3)交通機関の状況
(4)定期的に判断を再検討し現状に適切な対応を実施することに関する確認

〇事前に準備しておくことが必要なこと
(1)台風等の自然災害時の事業運営についての規定、マニュアルの整備
(2)市区町村との協定や取り決め。台風接近時に事業者が取りうるべき対策についての取り決め
(3)情報の速やかな伝達体制。事業者内部(職員相互)はもちろん、事業者と保護者との間の情報伝達体制の確立

〇台風の接近に対する対応で児童クラブ事業者が留意しておくべきこと
(1)子どもはもちろん、事業者は職員(従業員)の生命身体の安全を守ることが法令上義務づけられていること。台風接近で暴風となることが予報され被害がもたらされることが容易に予測できる状況において、事業者がその危険性を軽視し、職員に出勤を命じたために、出勤中の職員が暴風によって倒れた木の下敷きになって死亡した、というときは事業者に責任が及ぶことになる。
(2)社会インフラの一画を担う重責があることをふまえ、台風接近によっても社会機能を維持するためにどうしても仕事に就く必要がある子育て世帯の子どもの安全を確保することもまた児童クラブの社会的な責任であることをしっかりと受け止めること。
(3)個別具体的な状況に応じて判断すること。平坦な住宅地と、川沿いの場所で、被害に巻き込まれる危険性は異なる。一概に一律の判断で地域全体のクラブについて「閉所する」「開所する」という判断を下すのではなく、個々のクラブの立地条件を踏まえた災害防止マニュアルを策定し、その策定内容に従いつつ、常に最新の状況を踏まえて判断する。
(4)社会インフラ従事者(エッセンシャルワーカー)の就労保障として地域内に最低限度の個所数のクラブを開所できる体制を整えておくこと。開所するクラブは水害や山崩れといった災害の発生の可能性が最も低いクラブとすること。従事する者は、事前に、そのような状況でも勤務することを同意している職員や管理職に限定すること。当然、危険作業中に対する手当は保障すること。そのような体制について市区町村の事前の合意を得ていること。利用できる保護者は勤務先を確認することを踏まえて事前登録制にしておくこと。 
(5)台風接近によって事業者が最終的にクラブ閉所の判断をしたことに際し、保護者から苦情、クレームが来ることが予想されるが、その対応について事業者全体で統一した説明を準備しておくこと。また、クラブに入所する際の提出書類に事前同意書を加えておき、「台風等自然災害の恐れがある際の閉所の判断に際して事業者に異議を唱えないこと」という項目を入れて、合意しない限り入所を認めない、ということにしておく。その同意書をもって苦情やクレームを阻止できるものではないが、心理的な抑止力にはなる。

 事業者さんは立地条件や運営形態によっていろいろな対応が考えられるでしょう。災害のおそれがある場合に、どのような対応をとればいいのか、常に行政を交えて協議検討しておくことが必要です。そして保護者のみなさんには、自分個人の状況だけで物事を判断しないようにお願いしたいのです。児童クラブは大勢の人の状況を考えて開所したり閉所したりの判断をします。行政の意向も影響します。総合的な見地から開所、閉所の判断をしています。ですから、すべての個人の要望や期待に応じられないことも多々ありますが、それを持って苦情やクレームを、台風が接近していろいろな準備が必要な時に延々とぶつけられてしまっては、大事な準備対応に影響が出てしまいます。仕事は休めない、という事情があるかもしれませんが、「世の中、残念ながら、自分の希望どおりにならないことは、あるものだ」ということは理解していただきますようお願いします。

<2023年8月15日掲載「台風など自然災害発生の恐れがある場合の学童保育所はどうするべきか。開所又は閉所の基準を策定しておこう。」一部を再掲載>
 日本は台風や集中豪雨、豪雪、また地震と、気象災害や自然災害がとても多い国です。最近では、新型コロナウイルスによるパンデミックというようなケースもあります。そのような事態に直面したときの学童保育所はどうするべきか、様々な意見があります。
 働く側にとって、あるいは保護者の中にも「当然、台風などのときは閉所するべきだ。働く人の身の危険を守るために当然だ」という意見が多いのは当たり前でしょう。私もそう思います。しかし一方で、東日本大震災のような社会活動がストップしてしまうほどの大災害に発展してしまった場合はともかく、そうでない場合は、ライフライン関係に勤める人、医療や福祉の世界、公務に携わる家庭が出勤を免除されるケースは少なく、そのような世帯にいる子どもの安全を確保するための学童保育所が必要となる場合もまた、多いのです。

 自然災害発生時、あるいは自然災害の発生が想定される事態において、学童保育所の開所、閉所をどうするか。利用する側も、運営する側にも、悩ましい問題です。この問題を考えるにあたって重要な要素は、純然たる民営学童保育所(営利企業が受益者負担だけで運営する施設)を除いて、市区町村から運営を任されている以上、自治体の意向が常に大きく反映されるということです。そして自治体の意向は、往々にして「基本的に開所」という判断になるケースが多いように見受けられることです。

 つまり、学童保育で働く人にとっては「危険だから閉所が当たり前」という考え方が多い中で、施設設置者である自治体は「できる限り開所」と、判断が分かれることが多いのです。なぜ、できる限り開所なのかは、「基本的な公共サービスである」「学童保育の利用が必要な人がいる限り、開所する」という考え方に沿っていると理解できますが、私の想像では「閉所によって不利益を被る方々からのお叱り、つまりクレームを受けるとその対応に困る」から「だったらギリギリまで開所しておこう」という判断に落ち着く、つまりは「面倒くさいことにならないようにしておきたい」という意向があるものだと、感じています。

 考え方の差で結論が分かれる限り、意見の集約は難しいでしょう。よって、平時において、様々な状況を想定して「このような場合は閉所、このような場合なら開所」という「自然災害時における開所、閉所の基準」を、学童保育の組織運営者は行政と協議し、明確な基準を設定しておくべきだと考えます。

 その場合、例えば台風の接近に伴う基準の策定にあたっては、一概に「台風が来たら、必ずこうする」という程度の緩い基準ではなく、気象警報の発令状況、予想進路と予想される雨量や風速、時間帯、最接近時における学童保育所運営地域の気象予報、当該地域の学校や、他の公共施設の運営状況などを勘案して判断できる基準が必要です。また、決定のタイミングと、一度決めた方針の見直しや変更を行えるとしたらその実施基準など、刻々と変化する状況に対応できる程度の基準を設けるべきでしょう。

 また、大災害時でない限り勤務が無くならないエッセンシャルワーカーの世帯の子どもに限定して臨時に受け入れを可能とする施設の設置を検討することも必要です。洪水やがけ崩れなどによる災害のリスクがほぼゼロと考えられる立地にあることは当然でしょう。この場合、出勤して子どもの対応にあたる職員が誰なのかを事前に指定しておくことが重要です。おそらく管理職的な立場の方になるでしょうが、危急時にも出勤することを雇用労働契約に盛り込んでおけばよいのです。もちろん、それなりに手当を用意することは当然です。利用できる世帯は事前申請制度にしておくことも必要でしょう。(本来は、子育て世帯者の出勤を免除するような仕組みが、各々の企業に備わっていればいいのですが、なかなかそうもいかないでしょう)

 そして、学童保育所を利用する人には、上記にような基準をしっかりと紹介した上で、それに同意する限り、入所を許可するということにすればいいのです。

 「行政が開けろというかぎり、従わざるを得ない」という意見を聞きますが、何でもかんでも委託者や、指定管理をする側の意向が絶対的に優先されるわけはありません。仮に、行政が開所を命じてその方針を譲らないとしたからといって、学童保育所を開所した結果、不幸なことに自然災害に巻き込まれた場合、実際に運営している学童保育所側も当然として、行政側の開所の判断の違法性もまた問われることになります。運営を行う側は、安全に子どもを受け入れなければならない義務を負っており、また雇用する職員に対しても安全な労働環境を提供する義務を負っています。法的な考え、また責任論的な考えをもって、受任者であっても「どうしてもできないものは、できない」と、堂々と主張することも大事です。(その結果、行政の機嫌を損ねてしまい、次の指定管理者から外されたらどうする?という声が上がりそうです。そういう意趣返しをするようであるなら、それはそれでそのことを大々的に世論に訴えて対峙することになります)

 子どもの安全を守るために、どのような対応が良いのか。職員の安全確保も必要。一方で、学童保育の利用が欠かせない世帯もいる。それら複数の、どれも大事な「希望」を、全てを完全にかなえることはできないとしても、ギリギリであらゆる希望の最小限度を満たせるだけの「基準、ルール」を、策定しておくこと。それを利用者は当然、職員にも行政にも周知しておくこと。これで、よほどのことが無い限りは、「どうしよう」と慌てる局面は回避できるでしょう。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。8月14日時点で、楽天ブックスなら在庫がありますし、アマゾンでも取り扱っています。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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