近く成立する「日本版DBS法案」。制度導入へ不安や関心を持つ事業者は多いはずですが、業界の取り組みに疑問

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の世界を激変させることが間違いない「日本版DBS法案」(子ども性暴力防止法案)の成立が近づいています。制度に関して「あれはどうなる、これはどうする」という不安や関心を持つ児童クラブ関係者は多いはずですが、それをすくいあげようという動きはほとんど見られません。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<制度導入は間違いない>
 いわゆる日本版DBS法案は6月13日時点で、参議院で審議が進んでいます。もとより衆議院は「全会一致」で可決しています。全会一致ですから、「国民の総同意」といえます。現在の審議の状況は報道で知る限りですが、制度そのものへの疑問に関するやりとりではなく、賛成を前提として不明点を詰めている、というやりとりが展開されているように私には感じます。メディアの報道を一部引用して紹介します。

「加藤鮎子こども政策担当相は学校などに関し「親の目が届かない状況で児童らを預かる。性暴力の発生防止に特別の注意を払うことが求められる」と法案の意義を述べた。子どもの性被害根絶につながるかどうかが焦点となる。職業選択の自由や加害者更生との兼ね合いも問われる。性犯罪歴がなくても、雇用主側が子どもの訴えから「性加害の恐れがある」と判断すれば配置転換など安全確保措置が必要となる。」(共同通信6月7日11時12分配信)

「子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないか確認する制度「日本版DBS」の導入をめぐり、加藤こども政策担当大臣は、事業者の対応などをまとめたガイドラインを法案の成立後、できるだけ早期に策定し、周知を進めたいという考えを示しました。「日本版DBS」を導入するための法案は、子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないかを、事業者がこども家庭庁を通じて法務省に照会できるようにするもので、政府は法案の成立後、事業者に求められる対応などをまとめたガイドラインを策定する方針です。」(NHK NEWSWEB 6月11日17時19分配信)

 重要なのは、ガイドラインです。制度が導入されるにあたって、具体的にどのような点に留意をするべきか、どのような対応が必要なのかを示すガイドラインが提示されなければ、事業者側は具体的な対応に取り掛かれないからです。政府には、あいまいな解釈ができるガイドラインではなく、ある程度まで詳しい対応を示すガイドラインを早急に整備するとともに、現場の市区町村が戸惑うことがないFAQも速やかに公表することを期待します。

<現段階での意識調査も必要では>
 ガイドラインの作成は政府内では水面下で着々と進行していると私は想像しています。いわゆる「たたき台」程度の段階でしょうが、法案成立後速やかにガイドラインを公表するのであれば、今のうちから、関係省庁との折衝含めて準備に取り掛かっていることが当然だと考えるからです。

 それを想定するに、重要なのは、この制度に対応した事業を展開することになる事業者側からの「この点は、どうなるのだろう」「これはこうなっていただかないと困る」という諸々の疑問や質問をとりまとめ、それを政府に届くように社会に発信することです。法案が成立するまでは国やこども家庭庁がそのような疑問や質問の調査、取りまとめを行うことはないでしょうから、業界団体が率先して動くことが必要でしょう。

 例えば、次のような疑問や質問を多くの事業者、そして保護者(国民)は、持っているのではないでしょうか。
・制度導入にあたって、かかる費用
・制度導入にあたって、どのような方法で被雇用者の情報を管理すればいいのか
・制度導入にあたって、整備が求められる情報管理体制の程度
・子どもからの不安の訴えを客観的に判断する基準は事業者ごとに設けるのかどうか
・子どもと接しない職場が無い小規模の事業者においてはどのように対応すればいいのか
・市区町村は、この制度を導入していることを、指定管理者や業務委託の受託者を選定する際に前提条件とするのか、国や都道府県は前提条件とすることを推奨するのか

 放課後児童クラブの事業者は、全国各地で事業を営む大企業があれば、1クラブ1法人でその法人の役員も年度替わりで児童クラブを利用している保護者が務めているごく小さな事業者もあり、保護者会や運営委員会といった任意団体もあります。公営クラブもまだまだ多数あります。それら様々な規模や態様の児童クラブ事業者において、日本版DBS制度を積極的に導入したいのか、導入したいが不安があるのか、導入するつもりはないのか、という意識調査すら行われていないでしょう。まして、児童クラブを利用する側の保護者を対象に、制度が導入されることが望ましいか、あるいは別の形で職員による性加害の防止が実施できるのであれば制度導入は必ずしも必要としない、というものなのか、保護者の意識調査も、行われていないでしょう。

 衆議院で全会一致ということは、国民の総意と言い換えられます。むろん、不安を覚えてその意見を発信している人はいますが。とはいえ、「総論賛成、各論反対」という言葉があるように、具体的な実施条件や前提条件において、「それはちょっと困る」というような事態が起こることは十分考えられます。

<いま、必要なのは、不安や質問を届けること>
 児童クラブの事業者や、児童クラブを利用する保護者は、それぞれの立場と、それぞれの立場で知ることができる子どもたちの考えや意見も踏まえて、「こういうことは、どうなるんだろう」とか、「こうなってほしいが、こうなっては困る」という不安や質問を、持っているはずです。

 国会を経て、具体的に制度設計が固まっていく今、この段階で、先手を打って、事業者や保護者の不安、質問、疑問を丹念にすくいあげて、それを社会に発信していく。それを繰り返すことで、今後進められていくガイドラインの策定や修正に反映させることが必要です。その発信や、社会への投げかけこそ、業界団体の役割です。ところが残念ながら、そのような動きは、活発ではないようです。

 都道府県や全国といった地域を冠している業界団体であれば、地域ごとの事業者や市区町村、保護者を対象に、アンケートや意識調査を行っていくべきです。その結果として、「小規模な事業者になればなるほど、制度導入に関する費用面や時間的コストの負担が過大になることを恐れている」というような不安や、「制度導入にあたって取り組まねばならない具体的な準備、例えばどのような趣旨の社内ルールの整備が必要なのか」という質問を、丁寧に拾い上げて、「現場では、こういうことが不安や質問として持っていますよ」と、出来る限り大きな声で、政府に届くように発信していくべきです。というか、国会審議が行われている今の時点で、必要だったことです。

 いつものごとくですが、児童クラブの世界は多種多様であり、業界団体と言えどもごく一部の勢力でしか構成されていないのですが、児童クラブの今後に大変革、大激震が及ぶことが容易に想像できる事態にこそ、積極的に関わっていく必要があるのではないでしょうか。県を単位にするのであれば、県内の自治体と事業者にアンケートをして発表することぐらい、たやすく取り掛かれるでしょうに。いつもながら、本当にスピード感覚が遅い、いや、「無い」のが残念なところです。

 日本版DBS制度というものは、「子どもの人権を守る」大義や正義があります。だから賛成が圧倒的なのでしょうし、反対や疑問の意見を表明しずらい、言いにくい雰囲気すら漂っています。不安や質問を出せぬまま、現場の実情をあまり知らない、あるいは事業規模が大きな広域展開事業者に圧倒的に有利な制度設計がなされていたら、どうなりますか。地域に根差しつつ経営基盤は弱いながらも安定した質の高い育成支援を行っている事業者はその運営がなりたたないような、いびつな制度設計が実施されてしまう可能性だってあるでしょう。

 来週には法案は成立する見込みです。今すぐ児童クラブの世界は、「私たちが知りたい内容はこういうことです、私たちとしてはこうあってほしいのです」という意見や考えを調査して取りまとめ、社会に向けて発信していきましょう。遅い。遅すぎますが、今からでも取り掛かればいいのです。

 <おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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