車いすの児童が放課後児童クラブ入所を門前払いされた不当な差別案件。明らかな差別なのに気が付かない不思議
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。
3月3日から新型コロナウイルス感染により療養しておりましたが、医師による自宅待機期間を終えたため本日から通常のブログとなります。(ほとんど変わりないでしょ、という声があるでしょうが、一応、建前として分けてみました)
さて、新1年生となるお子さんが放課後児童クラブの入所を、車いすだからという理由をもって拒否された事案について、当ブログで2月26日に取り上げました。相談者さんに私は、子どもにまったく非が無いことをお伝えし助言を重ねてきました。3月6日、相談者さんは放課後児童クラブの設置主体である自治体担当者と面談し、そこで一定程度の事態の前進がありましたので、当ブログでご報告いたします。
まずこの案件ですが、病気のため移動に車いすを使っている子どもが放課後児童クラブの入所を断られたものですが、その理由として次のようなことが事業者(放課後児童クラブを運営する大手の営利の広域展開事業者)と設置主体たる自治体から保護者に示されていました。
<事業者が挙げた拒否理由>
・子どもは思ったままに発言をする為、車椅子の子に対し残酷な言葉をかけることもあると思うから入れないほうがいい
・自信がない
・忙しくて余裕がない
・玄関も道も狭い
・移動する時、他の子との接触が危ない
<自治体が挙げた拒否理由>
・支援員は短時間で勤務条件もあまりよくない上、体力もないことを理解してほしい
・今まで車椅子の子をあずかったことはない
・病気が治ったら預かれる
・民間で探したほうがいい
・障害者差別解消法における合理的配慮の義務は小学校にはあるが児童福祉法上の事業である放課後児童クラブには適用されない
・車いすの児童を受け入れる施設としては通路が狭くすれ違い時の安全が確保できない
・安全の確保のため支援員の増員加配が必要だが、予算措置が令和6年度は見送りとなった
・当該児童を最後尾として支援員が児童の行動を管理する際、安全確保が担保できない
なお、入所を断れた車いすの子どもですが、以下のような事情があります。
・自治体が運営する公立の幼稚園に通っており、そこでは「健常児」としての扱いであること
・小学校も普通学級であること
・長距離の移動時は車いすが必要だが、それ以外の日常の所作は一人でできること。排せつも食事も介助は不要
・保護者は放課後児童クラブでも加配職員を必ずしも求めてはいないこと
・車いすの子どもの上の子がすでに入所を希望するクラブに在籍していること(いわゆる在籍児童の下の子の入所希望案件)
・クラブの利用は下校からおおむね30分であること
・学校とクラブは隣接しており、外の一般道に出ることなく、舗装路面だけで移動ができること。完全にフラットで、車いすの自走に問題はないこと
・クラブの施設も外界とフラットであり車いすの利用に何ら問題ないと思われること。多目的トイレも2つある。そもそも2020年に出来たばかりの新しい施設である。
・児童クラブは1施設に3単位あり、1単位ごとに常勤支援員が3人、それに補助員が数人付く職員配置であること
ここまで読んでいただいただけで、「車いすの子どもを受け入れるのに、何が問題なのだろう」と多くの人が思うことでしょう。明らかに、「いままで経験したことがないから、何かと大変そうだから、断ってしまえ」という程度の理由で入所申請を門前払いしたとしか思えない案件なのです。
児童クラブは公設民営で、業務委託で営利の広域展開事業者が運営を行っています。公設ですから自治体が設置した施設です。よって当然、障害者差別解消法による合理的配慮の必要が求められる施設なのですが、呆れたことに自治体は「小学校は義務で設置するので合理的配慮の対象となるが、児童クラブは法律上、任意の事業だから同法の対象外」と保護者に説明していました。その他にも、今まで車いすの子どもを受け入れたことが無いとか、予算措置ができないとか理由が挙げられていますが、いずれもまったく理由になりません。
<事業者が挙げた拒否理由に対して私が提示した反論>
・子どもは思ったままに発言をする為、車椅子の子に対し残酷な言葉をかけることもあると思うから入れないほうがいい →放課後児童クラブにおける児童の育成支援は、まさにこのような状況が起こりうることについて、子どもたちに他者との関り、共存を大事に思う心情を育てていくことである。事業者がこのような事由で受け入れを拒否することは、この事業者は育成支援の本質をまったく理解していないということを如実に示している。
・自信がない →合理的な理由にまったくならない。論外。職員への研修を行えばよいこと。
・忙しくて余裕がない →合理的な理由にまったくならない。論外。必要な職員配置を行えばよいこと。
・玄関も道も狭い →合理的な理由にまったくならない。論外。車いすが通れるだけの幅は十分ある。
・移動する時、他の子との接触が危ない →これも育成支援の本質を見誤った説明。他の子どもたちに、車いすの子どもと一緒に過ごすことにおいて注意するべきことを理解させる支援を行うことも、育成支援である。
<自治体が挙げた拒否理由>
・支援員は短時間で勤務条件もあまりよくない上、体力もないことを理解してほしい →合理的な理由にまったくならない。論外。勤務条件を向上させないのは事業者と自治体の責任。運営側の一方的な事情で公共の児童福祉サービスを提供される側が不都合を強いられることに合理的な判断が許される余地はない。
・今まで車椅子の子をあずかったことはない →あきれてものが言えない。では永遠に受け入れないつもりか。
・病気が治ったら預かれる →病児に対する不当な差別である。ではなぜ公立幼稚園ではごく普通に受け入れているのか。公立幼稚園や小学校はOKで児童クラブだけ不可能という合理的な理由がない。
・民間で探したほうがいい →民間の他の施設がこの車いすのこどもにとってより利用するにあたって合理的な根拠があるなら検討の余地があるが、その根拠の提示がまったくなされていない。
・障害者差別解消法における合理的配慮の義務は小学校にはあるが児童福祉法上の事業である放課後児童クラブには適用されない →前述。誤った解釈である。自治体が法令解釈を誤るようでは極めて情けない。
・車いすの児童を受け入れる施設としては通路が狭くすれ違い時の安全が確保できない →車いすが余裕で通れる幅はある。すれ違い時の安全確保については育成支援における他の入所児童に対する支援によって十分に対応可能。
・安全の確保のため支援員の増員加配が必要だが、予算措置が令和6年度は見送りとなった →車いすの子どもの兄弟がすでにクラブに在籍しており、2024年4月に下の子がクラブ入所を希望しているという情報は極めて早期に知ることができたはずである。それを行わず、必要な予算措置をとるだけの時間的な余裕があったのに、予算措置ができなかったというのは自治体の不作為そのものであり、その不利益を利用者に押し付けることは許されない。
上記のような反論をもって保護者さんは行政側との面談に臨み、その結果、障害者差別解消法による「建設的な対話」を事業者と自治体が怠っていたことを行政側に認識させることができたということです。その上で、「合理的配慮をしたうえで受け入れに向けて協議をすすめていく」という意向が行政側から示されたとのことです。
今後は、どのように考えて行けば双方が歩み寄れるか、希望のすり合わせが行われていくことでしょう。入所申請書も受理されたということです。これで入所が確約されたわけではありませんが、上記の反論事由にあるように、車いすの子どもを受け入れない理由については、そのすべてにおいて、何ら合理的な根拠が見いだせないのですから、いずれ、入所が認められて当然でしょう。これほどあからさまな車いすの子どもへの差別が今の時代に堂々となされていたこと自体が、まったくもってありえません。
ここで全国の市区町村の、放課後児童クラブを担当する方々に覚えておいていただきたいことを記します。全国ナンバーワンの児童クラブ等運営実績を誇る営利の広域展開事業者であっても、「車いすの子に他の子が酷いことを言うから、クラブで受け入れられない」とか「他の子とぶつかりそうで危ないから受け入れられない」という、およそ育成支援の本質を理解していない、いい加減すぎる理由を掲げて不当に差別を行うことを平然として行うという実態があるのです。行政パーソンであるあなたたちが「この業者は全国で運営しているから安心だ」と、目の前のプレゼン資料だけで容易に判断しているその実体は、こんな呆れるほど低次元の児童クラブ運営をしているという事実が、実はあるということです。こんな恥ずかしい事案が、自分の市区町村で起こったらどうなりますか?この事案はマスコミ報道されていませんが、仮に報道されでもされたら、これほどあからさまな差別案件は全国ニュースどころか、ワイドショーもこぞって取り上げますよ。市区町村への大ダメージになります。「あ、あの街はすごい差別をする地域だよね」と覚えられます。いくら放課後児童健全育成事業が市区町村の担当者にとって面倒なやっかいな事業であるからといって、事業者に丸投げでは、地域の子どもたちの健全な育成は果たせません。もう少し行政パーソンであるなら責任感を持って放課後児童健全育成事業に取り組んでいただきたい。
最後に返す刀で。学童業界にも私は非常に怒っています。これほど明確な差別があからさまに行われていることに対し、しかもそれが学童保育という世界を舞台になされているということに、どうして怒りを覚えないのでしょう。私には想像がつきます。こういう事案が起こると学童関係者はすぐに「その子を受け入れられる職員の余裕があるか」「どんなサービスを保護者から要求されるのか、それに対応できるのか」「その子を受け入れたことでその子に万が一のことがあったら責任はどうなるのか」ということを考えるのです。それらはすべて、保身です。もっといえば、面倒な業務が増えることを嫌がっているだけです。最も優先して考えるべきことは、子どもに対して不当な差別を行うことにならないだろうか、子どもの権利を守っているだろうか、ということです。余裕をもって受け入れることができるかどうかという個別的な事情は、大原則を判断した後で考えて対応するべき問題に過ぎません。
「子どもが、児童クラブに入所する権利」を不当に侵害しているかどうかをまず考えなければなりませんが、学童関係者の多くはすぐに「自分たちの仕事量はどうなるか、責任はどうなるか」の自分たちだけの都合の話に落とし込んでしまう。こういう思考回路がある限り、放課後児童健全育成事業はとても育成支援という専門性を備えたものであると私は主張できません。もっと社会正義に敏感になっていただきたい。視野を広くもっていただきたい。今の多くの学童関係者は、直接的な利害関係の有無、もっと言えば「仕事が大変になるか、ならないか」で物事を判断しているとしか思えません。子ども全体、社会全体における立場をもっと考慮していただきたい。
ともあれ、これほどひどい差別が学童の世界で行われていたことに私は本当に悲しく、悔しく思っています。一刻も早く、このお子さんに入所許可が伝えられる日がくることを待ち望んでいます。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。
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