読売新聞が報じた「短時間の放課後の預かり」の奇策。放課後児童クラブ充実こそ王道。奇策は最小限にして王道を。

 放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。読売新聞が2024年10月19日に、たいへん気がかりな記事を配信しました。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)が足りず待機児童が出ている地域に短時間の子どもの預かり事業を進め、待機児童を解消するというものです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<報道より>
 読売新聞の記事は「「放課後預かり」短時間でも可能に、待機児童減少へ新事業…こども家庭庁」の見出しで、2024年12月19日5時にインターネットで配信されました。一部を引用します。
「共働き家庭などの小学生を預かる「放課後児童クラブ(学童保育)」を利用できない待機児童向けに、こども家庭庁は今年度、新たな枠組みの預かり事業を始める。学童より開設要件を緩和し、預かる日数や時間が短くても認める。自治体に人件費を補助して開設を促し、都市部に多い待機児童の減少を図る。」
「新事業の対象は、50人以上の待機児童がいる市区町村で、利用を待機児童に限定。国の基準では、学童の開所日数は「年間250日以上」で、授業がある日の預かり時間は「3時間以上」、ない日は「8時間以上」が原則だが、新事業では短縮を認める。」
「安全管理のため、複数の職員の配置を求めるが、学童で2人以上必要な「放課後児童支援員」かどうかは、必ずしも問わない。こうした運用により、学童に新たに職員を雇って児童の受け入れ数を増やすより、費用が低額ですむという。今後、少子化で学童利用者の減少が予想されるため、全希望者を学童で預かれるようになるまでの代替措置という位置づけだ。同庁は、人件費などとして自治体あたり最大400万円を補助する。今年度の補正予算に約1億6000万円を計上しており、40程度の実施自治体を募る。準備が整った自治体は、今年度から預かりを始める。」
(引用ここまで)

<奇策である。奇策ゆえにやむを得ないが、あくまで奇策>
 上記の報道が事実であれば、驚きです。この新施策について私は、待機児童を救う施策としてやむを得ないものと考えます。しかし、大変な奇策であり「副反応」が大きすぎるのではないかと懸念しています。

 運営支援の立場は、絶対的な最優先事項として「放課後児童クラブの待機児童は絶対に出さない」ことです。待機児童は、待機児童となった世帯の生活を根本的に揺るがす、または狂わす、破壊するものであり、「絶対に生じてはならない」という立場です。それはつまり、「大規模状態のクラブになるが待機児童が出ない」ことと「児童クラブの適正児童数を堅持するために待機児童を生じることはやむを得ない」という2つの事例を比較すると、前者の「待機児童が出ない」ことをあえて選択する、というものです。もちろん、大規模状態は可及的速やかに解消される施策を講じることは言うまでもありません。

 今回の報道は、待機児童に限定しての施策とされています。しかも、放課後児童クラブを希望する者がすべて入所できる状態になるまでの期間限定的な措置であれば、やむを得ません。

 ただし次のような懸念があります。
「この施策が恒常的なものになるのではないか。児童クラブの整備が進まない代わりにこの施策がどんどん普及してしまい、庇を貸して母屋を取られる、という状態になるのではないか」
 本来は、児童クラブの整備を国が本腰を入れて強力に推進するべきです。いわゆる小1の壁は平成時代の半ばから、ずっと叫ばれていることです。もう20年以上もです。それなのに、解消に向かうどころかさらに悪化している。これは、やはり放課後児童クラブの施策の失敗であり、結果的に見れば怠慢です。次元の異なる少子化対策が、この奇策であることは、はなはだ残念です。

 子どもの受け入れ時間を短くすることを可能とすると報道にあります。たとえ短時間であっても、子どもが、安全安心の環境で過ごすことは保障されねばなりません。短時間だからあまりあれこれ考えなくていいよね、子どもは順応性があるから大丈夫だよね、と絶対に思わないでいただきたい。たとえ10分、15分であっても、複数の子ども達が過ごす環境には、万全の配慮が必要です。無資格者だけで子どもを見ていられるというのは、単に子どもを「数」としてしか考えていない本音が見えてしまいます。

<この奇策には次のことを望む>
 その1。この新施策はあくまでも、待機児童解消の期間限定的なものであることを明文化するべきです。この奇策は、国が、放課後児童健全育成事業を堅実に遂行することを断念した「白旗」そのものです。そうではないよ、あくまでも放課後児童健全育成事業を推進するということであれば、まずは待機児童が解消するまでのことであることをはっきり明示することです。

 その2。短時間の子どもの受け入れだからと言って、子どもの育成支援についてまったく知識も関心もない者がこの事業に従事することはあってはなりません。報道では、従事する者が必ずしも放課後児童支援員であることは問わない、となっています。これはいけません。「原則として、放課後児童支援員が配置されていること」とするべきです。その放課後児童支援員はその施設に勤務していればよく、公休日等で仕事を休む日に放課後児童支援員が現場にて従事していることが無い日があることはやむを得ないと、百歩譲って目をつむりましょう。つまり放課後児童支援員を1つの施設の責任者として1人でも雇用していればよい、とするものです。ただし、「開設時間に従事している者のうち最低1人は、児童の遊びを指導する者、であること」とするべきです。放課後児童支援員が必ずしも開設時間帯すべてに従事していなくても、必ず従事する者として最低1人は、児童の遊びを指導する者を配置する、ということです。

 その3。この事業の実施の基準として待機児童が50人以上の市区町村と報道で伝えられています。これはダメです。45人の待機児童が出ている市区町村が、「うちはそういう事業はやりません」では、この45人の待機児童は救えません。待機児童を救うために、やむなく奇策として、放課後児童健全育成事業を切り捨ててまでも悪手を繰り出すわけですから、待機児童を徹底的に防ぐ施策としなければ、わざわざ悪手を出す意味がありません。どうせやるなら皿まで食いなさい、ということです。私の提案は、「1支援の単位につき施設の定員から5人を超える待機児童が出ている場合はその市区町村内にあるすべての支援の単位を新施策の適応対象とし、定員を超えた児童を新施策の対象とすることができる」ものです。この場合、以下の例が考えられます。1つの自治体に4つの支援の単位があると想定します。
「4支援単位すべてにおいて施設定員を超える入所希望者が5人いる場合=4単位掛ける5人で20人を新施策の対象とする」
「4支援単位すべてにおいて施設定員を超える入所希望者が4人いる場合=どの支援の単位も5人を超えないので、合計16人は弾力的運用でクラブに入所させる」
「4支援単位のうち3支援単位において施設定員を超える入所希望者が4人、1支援単位のみ5人である場合=定員から5人を超える施設があるため、全体で17人となる入所希望者を新事業の対象とすることができる。または定員から5人を超えた施設のみの5人を新事業の対象とすることもできる」
 待機児童50人というのは、こども家庭庁(以前は厚生労働省)が毎年公表している、待機児童が出ている市区町村の個別名の公表基準ですね。50人でも30人でも待機児童は出してはなりません。50人で新事業の適用を判断するのは、反対します。

 その4。施設内における犯罪被害を防止するための職員および事業者への教育研修を義務づけ、その内容はHP等で公表を義務付ける。施設内すべての状況を記録することができる画像データの最低1年間の保存を事業者に義務付けること。小規模の施設では子どもへの虐待が人知れず行われる危険性があるものと運営支援は懸念します。

 その5。放課後児童クラブの整備による待機児童解消の計画を市区町村が策定し、都道府県に提出することを義務づける。その期間は原則として最長5年とする。これも都道府県がHPで公表することにします。

 その6。補助金額が低すぎます。報道では自治体あたり400万円としています。つまり1つの自治体に1施設ということでしょう。400万円で1年間、施設を安定して運営できるはずがありません。そこで働く人の処遇を無視しているのですか? まさか「有償ボランティア」という意味不明の文言を冠した職で人を募集しようとしていませんか? その、カネをかけない姿勢が、児童クラブの待機児童を生む元凶です。10倍の4千万円とはいいませんが少なくとも2千万円は必要です。国はこの事業の補助率を国:都道府県:市区町村でいえば3分の2:6分の1:6分の1とし、保護者への費用負担は実費負担分に留めるべきです。なぜなら本来、児童福祉法で定めている放課後児童健全育成事業を受けることができないためです。内容が劣る事業を受ける世帯に事業負担分を求めてはなりません。

<こういう奇策は国への信頼感を強烈に減退させることを心してほしい>
 何度も言いますが児童クラブの待機児童は絶対に起こしてはなりません。しかし現実に待機児童が出ている地域はたくさんあります。また、待機児童を出さないために児童クラブに子どもをギュウギュウ詰めに押し込んでいる地域もまた同じようにたくさんあります。私も、地域が、いかにして待機児童を出さないようにするにはどうすればいいのか、知恵を絞っている現場を知っています。悩んで悩んでどうしようもない状況に苦しんでいる現場を知っています。
 一方で、「子どもなんていずれ減るんだから、待機児童が出てもしょうがないよ」と平然としている地域もあるでしょう。

 すべては、児童クラブを必要に応じて整備することができない、整備しようとしない、整備するために現実的に効果的な施策を打ち出さない、打ち出そうとしない、採用しようとしない国と地方自治に問題があります。待機児童解消のために国が強烈に推し進めている放課後児童クラブと放課後子供教室の「校内交流型」「連携型」も、期待するほど整備が進んでいませんね。なぜでしょう。目的が違う2つの事業を無理やりくっつけることによって本来の目的を達することができないことを現場は知っているからですが、何よりも、「働いてくれる人が見つからない」、つまり予算が投入されないからです。安上がりにしようというのが校内交流型、連携型による待機児童の解消です。そもそもそれが間違いです。

 放課後児童クラブの整備だけが放課後児童の居場所である、という考え方を私はとっていません。児童館は有効な施設です。また、地域ごとに比較的少人数で過ごせる子どもの居場所を、地域づくりの団体に費用補助をすることで複数作ることも有益でしょう。児童クラブのように数十人の集団では過ごしにくい子どもが過ごせる、小規模の居場所作りは必要です。また、ファミリー・サポートセンターは自宅で過ごしたい子どもをしっかり見守ることができる有効な制度ですが、これも従事してくれる提供会員が見つからず大変です。もっと費用を出して従事する者への対価を増やせばいいのです。そういう市場化こそ進めてほしい。

 今回の報道のような奇策は、私はやむを得ない一時しのぎとしては賛成です。待機児童を早急に解消する、いわば救貧政策的に行う策として効果はあるでしょう。思い切った考えであることも認めます。しかし、このような奇策を繰り出すごとに、毎日、児童クラブや児童館で子どもの成長を支え、支援することに従事している者や、そのような施設を運営する事業者は、心を痛めるということをこども家庭庁、三原大臣は認識をしているのでしょうか。「なんだ、こどもまんなかといっても、次元の異なる少子化対策といっても、こども家庭庁といっても、結局は子どもの育ちを大事に考えず、その場しのぎなのか」と政府に落胆を覚えることを認識しているのでしょうか。救貧政策はいつまでも続けるものではない。防貧政策に切り替えていかねばなりません。しかし子どもの居場所に関してはずっと救貧政策が続いていますし、その終わりが見えないのは残念です。
 現場に従事する方に私は、「これはあくまでも一時しのぎの緊急避難的なものだから」と説得をして理解を求めたい。しかし、現場の方々が、落胆する気持ちを抱くことまでは否定しません。児童クラブや児童館、ファミサポなど子どもの居場所にもっと政府と自治体は、予算をつぎ込んでください。このままでは、国も地域社会も成り立ちませんよ。子どもの育ちを支えてくれなかった社会に国民は感謝しますか? 社会に、国土に、愛着を抱きますか? 国や自治体や社会は、子育てに何も支えをくれなかったと思う国民が増えてしまったらこの国はどうなりますか? そのような観念を抱いた国民が増えていくことこそ、最大の失政、失策であると、私は恐れています。

<おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)