認可保育園での痛ましい事故。放課後児童クラブも常に食事の際の窒息事故には注意を。事業者の危機管理が重要!
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。北海道札幌市の認可保育園で、1歳の園児が給食で提供された食物をのどに詰まらせて死亡する、とても悲しい事故がありました。多くの放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)では、おやつを提供しており、昼食の提供も急速に増えています。放課後児童クラブの世界も、子どもによる窒息や誤飲による事故を徹底的に防止する体制と態勢が必要です。事業者が危機管理を重要視しているかどうかが問われます。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<事故は増える可能性がある>
子どもが過ごす施設で、食事に伴って子どもが死亡したり、意識不明の重体に陥る事故はたびたび起こります。保育所、保育園や小学校だけではなく放課後児童クラブでも起こる可能性は十分にあります。実際に、2024年4月には沖縄県石垣市の児童クラブで児童がおやつをのどに詰まらせて一時、意識不明になるという重大な事故がありました。そのことは運営支援ブログでも取り上げました。
放課後児童クラブは昼食提供が急速に拡大しています。児童クラブで摂食の機会が増えれば、それだけ、事故が起こる確率は増えていきます。おやつとは違って一度に食べる量も多くなるので、なおさらです。この点、現場職員のみならず事業者、行政も十分に注意が必要です。
児童クラブを含む保育教育施設における事故についてはこども家庭庁が2024年8月に資料を発表しています。
【事務連絡】放課後児童クラブにおける事故防止について(令和6年8月2日)
これには、「放課後児童クラブにおける事故が増加傾向にあることがわかります。その重大性を鑑み、引き続き事故防止に努めていただくよう」との記載があります。
さらに「放課後児童クラブにおいて、令和5年中に発生した重大事故は 651 件(うち、死亡事故3件)となり、前年比 86 件の増となりました。これは、事業所数や登録児童数の増加に比例して事故件数が増加する傾向にあると言えますが、施設規模等が多様なため、増加の理由を一概に分析することは難しい」とあります。
この資料は、令和5年1月1日から令和5年 12 月 31 日までの期間内に行政機関に第1報があった、死亡事故や治療に30日以上必要な負傷、人工呼吸器の装着が必要な重篤な事故を集計しているものです。放課後児童クラブも保育所同様、事業所内で起きた重篤な負傷について「第1報は、原則事故発生当日(遅くとも事故発生翌日)、第2報は原則1か月以内程度に報告」(資料より抜粋)するよう義務付けられています。
さて資料によると児童クラブでは令和5年の1年間に648件の報告事故がありました。83件も増えました。114%の増加です。決して少なくありません。なお、認定こども園・幼稚園・認可保育所等は全部で2,115件です。児童クラブの事故では骨折が圧倒的に多く551件です。99件も増えたのは驚きです。児童数も施設数も右肩上がりですからやむを得ない、とは言えません。骨折するような事故が起きたのは不適切な環境にあったとは当然言えません(ごく普通に遊んでいて転んで骨折、というケースは相当ありえる)が、どのような管理監督のもとで過ごしているうちの事故であるのか、大変に興味深いところです。
今後は昼食提供に伴う事故の増加も十分に予想されます。子どもの安全安心な場所である児童クラブで、まさか子どもの生命身体に重大な影響を及ぼす事案が起きるとは、本人も保護者もまったく予想しません。絶対と言っていいほど起こしてはならないことを事業関係者は常時、意識する必要があります。
<児童クラブの事業者に必要なこと>
先に児童クラブの重大な事故件数が1年間で648件で、認定こども園や認可保育所等は2,115件と記しました。「なんだ、児童クラブの事故は保育所などと比べて3分の1ぐらいじゃないか。そんなに重大な事故がしょっちゅうおこるわけではない」と、どこか他人事のように思っていませんか。この資料には利用人数も掲載されています。
児童クラブの利用人数は1,457,384 人、約150万人です。
一方で認定こども園や認可保育所など、2,115件の事故が起きた施設の利用人数はどのくらいか。主な施設を抜き出してみます。
幼保連携型認定こども園 813,103 人、幼稚園型認定こども園 162,982 人、保育所型認定こども園 127,015 人
幼稚園 841,824 人、認可保育所 1,786,298 人、小規模保育事業 82,350 人、事業所内保育事業(認可 9,356 人
一時預かり事業 3,511,779 人、病児保育事業 968,448 人、企業主導型保育施設 73,956 人
認可外保育施設 226,970 人 この他にもいろいろあります。ざっと860万人です。
150万人の利用で重大事故が648件と、860万人で2,115件の事故。比べると、重大事故が起きる割合は放課後児童クラブの方が高いことが分かります。(648÷150万人>2,115÷860万人)
放課後児童クラブは、その事業の内容から、重大な事故が起きやすいといえます。子どもが活発に活動する施設ですから当然です。また、必ずしも子どもたちの行動を職員がすべて目視で監視できるわけではない状況もあります。子ども達だけで楽しく遊んでいるところを「数分に1回程度」確認することは通常あっても、「1秒たりとも目をそらさず見ている」ことはできません。現状において、けがをする、子どもが負傷することを完全に防ぐことはできませんし、そもそも、職員がしっかり見ている目の前で子どもが転んで足首の骨を折る、突き指をする、異物が誤って目に入る、ということは、そもそも防ぎようがありません。職員や事業者側の過失がないか、ほぼ無い状況があることは、特に利用者である保護者には理解を求めておく必要はあります。
しかしそれ以外の、「防げたはずの重大な負傷、負傷に基づく疾病や誤飲、窒息、アレルゲンの誤摂取」、つまり「ハザード」と分類される重大な時代は、出来る限り発生件数がゼロとなるように事業者側が意識をして防がねばなりません。
そこで必要となってくるのが、事故防止に関する危機管理体制の構築と意識の徹底です。リスクマネジメントと、その先のリスクコントロールです。
<児童クラブの事業所に必要な危機管理>
・作業行動の定型化。マニュアルを作成し、マニュアルに則った行動を職員が徹底することです。わたしがこういうことを訴えてきた中で、実際に過去、「それでは、子どもがサッカーをしている時もマニュアル通りにサッカーをさせるのですか?意味が分かりません」と支援員に食って掛かられたことがあります。ごく一部なのでしょうが、どうも児童クラブで働く者(現場も、本部も)には、二極化思考というか、白でなければ黒、という思考しかできない人が一定数存在する気がしますね。
サッカーのプレーの中身をなぜマニュアルで決めねばならないのか? そうではなく、「サッカーをする場所において、事故を招きそうな異物があれば事前に排除する」や、「サッカーゴールにはぶらさがらない」とか、「外遊びの引率に来た職員が見渡せる場所で行う」ことや、「引率する職員は、子どもがサッカーとして遊ぶときは、事前にストレッチなどをさせ、遊びが行き過ぎて乱暴な行動にならないよう参加する子どもたちの性格や最近の子ども同士の人間関係を把握し、必要に応じてプレーに参加するなどして子どもたちの遊びの状況を適切に把握する」ということを、マニュアルで決めるのです。
マニュアルを作っても、その意味が理解できない資質の職員では困ります。児童クラブの世界においては、マニュアルがどうして存在するか、どうしてマニュアルに従って業務を行うことが大事なのか、という点から職員教育を始めたほうが良いでしょう。
マニュアルで特に事故防止に資するための行動様式を定めておくのは、事故やけがが起こりやすい、いわゆる「動の時間」だけではなく、児童クラブで子どもが過ごす時間においては当然必要です。昼食提供、おやつはその最たるものです。のどにつまりやすい食べ物は出さない(大きく切った餅、詰まりやすい大きな粒状の菓子や果物)、あるいは形状に注意するといった喫食時の安全防止に関するマニュアルは必ず作成し、そこに定めた行動様式を、食事提供に関わるすべての職員が把握しておくことが当然に求められます。蘇生法、通報訓練、また重大な結果となりやすいアレルギーに関するマニュアルも当然作成と理解が必要です。
・意識の向上。これは職員だけではなく、子どもにも保護者にも必要です。特に、喫食時に食べ物をのどに詰まらせる事故を防ぐには、子ども達に、定期的に、しつこいと言われても、「のどに食べ物が詰まったら、人は死ぬよ」ということを伝えた上で、「のどに詰まらない食べ方」を理解させることが必要です。「ふざけあった状態で食べない」「一気食い競争はしない」ということは、ただそれをしてはダメ、という伝え方ではなくて、例えば「ふざけ合ってパンの早食い競争をしたら、のどにつまった。そうしたら人間はどうなるか」ということをありのままに伝えることも必要です。
できれば、保護者が参加できる時間を複数回設けて(土曜の午後や平日の夕方、あるいは受け入れ時間終了後)多くの保護者が参加できるようにしたうえで、子どもと保護者が一緒にクラブにおける事故防止について職員から話を聞く、と言う機会を設けましょう。
職員は直接的に子どもへの支援を行う立場ですから、必ず事故防止に関連する研修を受ける必要があり、事業者はそういう研修を受けさせねばなりません。また職員のみならず事業者において運営に従事する者や専従職員、非常勤の保護者会の役員も、当然ながら、安全に関する講習や研修を受けるべきでしょう。
・事業者、とりわけ保護者運営の場合は、万が一の時に対応することにはどういうことがあるのかを学びましょう。法的な責任関係について特に知ることが必要です。行政機関や警察等の調査、捜査を受けることも十分にあります。その際の対応も知っておかねばなりません。事業者は、職員が業務中に重篤なけがを負った場合は労働災害の手続きをすることになりますが、その際、警察の捜査が行われることがあります。私は現実に直面しました。結果的に送検はされませんでしたが、職員が大けがをして入院または長期の治療となった場合は警察が現場検証や関係者から聴取をします。これは警察だけでなく労働基準監督官によって捜査されることもあります。そういうことがある、ということから学んでおく必要があります。
<不幸にも起きてしまった後の対応は、事業の行方を左右する>
突き放した言い方をすれば、上記のような、組織を上げて「重大な事故をなんとしても防ぐのだ」という意識と実践を徹底していない事業者は、不幸にも重大な事故が起きて万が一、子どもを死に至らしめるようになったら、潰れて又は潰されて当然です。当然の報いです。事業者側(理事などの役員)は、私財をなげうってでも、一生、損害賠償を行ってください。億単位の賠償を支払ってください。当然です。
普段から事故防止の意識を向上させるべく研修も積極的に受講させ、職員も現場で何度も訓練を行ってきた、子どもにも保護者にも何度も事故防止について努力していると説明し、「確かに、防げるはずの事故や事案を防ごうと、一生懸命に取り組んできた」事業者であれば、あってはならない残念な事態においても関係各位からの理解が得られやすいものです。つまり、事業存続を引き続き期待される事業者でいられる可能性が高まる、ということです。
当たり前すぎて軽視されすぎていますが、「事業者が事業をやれなければ、そこで働く人はおしまい」なのです。よく児童クラブの世界は、子どもが大事、子どもが楽しく過ごせることが大事といって、遊びや集団づくりの研修や講習を開いていますが、それとて、「事業者が児童クラブを実施できるから」こそ必要となるものです。「事故ばかり起こす、あの事業者のクラブは、もういらないよ。撤退してくれ」と言われたら、遊びの技術をどれだけ磨いたところで意味がありません。子どもとクラブでずっと関わりたいと願うなら、職員は、まず、事故を極力防ぐための意識と知識を身につけましょう。事業が存続することこそ、何より大事なのです。
事故原因はもちろん、どういう状況にあったのかは、包み隠さず公表することです。被害者のプライバシーは守らなければなりませんが、税金からなる補助金を交付されて事業をしているのであれば、国民への説明責任があります。「わたしたちは、こういうふうに事業を行っていた。事故は、こういうときに発生した。事故の形態は、こういうものだった」ということは積極的に開示するべきです。それが第三者への有益な情報となって、同種の事案の発生防止に資するのです。隠し事をしたり、そもそも会見やプレスリリースを出さない姿勢は、社会から不信感を持たれて当然です。
事故後の対応があまりにも誠意を欠き、被害者側の家族、遺族に真摯に向き合わない事業者は、どんなに突っ張ったところでいずれ社会からの信用を無くします。昔であれば情報はやがて他の出来事によって上書きされて世間の記憶から消えたこともあったでしょうが、今は、SNSを中心に、ずっと情報が残り続けます。逃げられません。延々と批判を受けます。批判を受けるようなことをするからダメなのです。誠心誠意、できるかぎり速やかに社会に対応する。これを忘れないようにしましょう。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)