石破茂総理大臣の所信表明演説。残念ながら放課後児童クラブへの言及はなし。総選挙後の演説に改めて期待。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。2024年10月4日に、石破茂内閣総理大臣(首相)の所信表明演説が行われました。首相となって初めての所信表明演説ですので、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)に一言でも触れるかどうか注目していましたが、結果は残念ながら言及はなし。総選挙後の国会における演説、来年1月の通常国会における施政方針演説に期待は持ち越しとなりました。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<子育て支援をどう語ったか>
 まず「所信表明演説」について説明しますと、新たに選ばれた首相が国会で、また臨時国会や特別国会で首相が政治姿勢を説明するものです。石破首相は国防や農政、防災にとても詳しい政治家とされており、子育て支援について熱心というイメージは相対的に薄いので、首相になって最初の国会の演説で子育て支援についてどのような姿勢を示すか、私はとても気になっていました。

 首相官邸のホームページに所信表明演説の全文が掲載されています。そこから子育て支援に関する部分を抜粋します。

「少子化とその結果生じる人口減少は、国の根幹にかかわる課題、いわば「静かな有事」です。
 今の子育て世代が幸せでなければ、少子化の克服はありません。子育て世帯の意見に十分に耳を傾け、今の子育て世帯に続く若者が増えるような子育て支援に全力を挙げます。こども未来戦略を着実に実施するとともに、社会の意識改革を含め、短時間勤務の活用や生活時間・睡眠時間を確保する勤務間インターバル制度の導入促進など、働き方改革を強力に推し進めます。さらに、少子化の原因を分析し、子育て世帯に寄り添った適切な対策を実施します。
 少子化をめぐる状況は地域によって異なります。婚姻率が低い県は、人口減少率も高いことは厳然たる事実です。若年世代の人口移動を見ると、この十年間で全国三十三の道県で男性より女性の方が多く転出する状況となっています。若者・女性に選ばれる地方、多様性のある地域分散型社会を作っていかねばなりません。それぞれの地域において、地方創生と表裏一体のものとして若者に選ばれる地域社会の構築に向け、全力で取り組んでまいります。」(抜粋ここまで)

 比較として前首相の岸田文雄氏の最初の所信表明演説における子育て支援関連部分について同様に首相官邸のホームページから抜粋します。令和3(2021)年11月8日です。当時はまだ新型コロナウイルスの流行が社会的に最も重要な関心事であったことを留意してください。
「人生百年時代を見据えて、子供から子育て世代、お年寄りまで、全ての方が安心できる、全世代型社会保障の構築を進めます。
 次に、分配戦略です。
 第一の柱は、働く人への分配機能の強化です。
 企業が、長期的な視点に立って、株主だけではなく、従業員も、取引先も恩恵を受けられる「三方良し」の経営を行うことが重要です。非財務情報開示の充実、四半期開示の見直しなど、そのための環境整備を進めます。
 政府として、下請け取引に対する監督体制を強化し、大企業と中小企業の共存共栄を目指します。
 また、労働分配率向上に向けて賃上げを行う企業への税制支援を抜本強化します。
 第二の柱は、中間層の拡大、そして少子化対策です。
 中間層の拡大に向け、成長の恩恵を受けられていない方々に対して、国による分配機能を強化します。
 大学卒業後の所得に応じて「出世払い」を行う仕組みを含め、教育費や住居費への支援を強化し、子育て世代を支えていきます。
 保育の受け皿整備、幼保小連携の強化、学童保育制度の拡充や利用環境の整備など、子育て支援を促進します。こども目線での行政の在り方を検討し、実現していきます。
 第三の柱は、看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入を増やしていくことです。
 新型コロナ、そして、少子高齢化への対応の最前線にいる皆さんの収入を増やしていきます。そのために、公的価格評価検討委員会を設置し、公的価格の在り方を抜本的に見直します。」(抜粋ここまで。太字は筆者)

 私が勝手に比較しますが、石破首相は少子化についてのみ取り上げる単元を設けていますが、少子化対策を行いますよという意思表明はあるものの子育て支援の世界に向けて何をどうするか、というところには触れていません。就労のスタイルを変えていこうという考え方の表明です。
 一方で岸田前首相は、少子化についてのみ取り上げる単元はなかったものの分配戦略として国民の所得の引き上げを掲げ、その中で、「保育の受け皿整備、幼保小連携の強化、学童保育制度の拡充や利用環境の整備など、子育て支援を促進します」「第三の柱は、看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入を増やしていくことです。」と、学童保育という単語を用いたこともさることながら、福祉の現場で働く者の所得を増やす考えを明確に掲げていました。その結果はどうあれ、首相として最初の姿勢を示す演説で、学童保育という単語を用いて福祉等の現場で働く人の所得を増やすと掲げたことは、石破首相よりも明確に岸田前首相の方が、こと少子化対策や「少子化対策の最前線にいる人」への配慮があったと、私には感じられました。

<持論の「非正規雇用制度の見直し」を!>
 石破首相はかねて、非正規雇用の急激な拡大が子育ての難しい局面を招いていると主張していました。中日スポーツ紙が2024年8月23日11時に配信したウェブ記事には、「石破氏は7月、ひろゆきさんがMCを務めるネットのニュース番組に出演。その際に、人口減少への対策について労働者全体の4割を非正規雇用が占め、所得が正社員の6割という現状では家庭を築いて子育てするのは難しいとして、「同一労働同一賃金」の重要性を強調した。」と書かれています。

 今回の所信表明演説にはこの非正規雇用の現状の見直しに相当するような内容は見当たりませんでした。大変残念です。しいていえば、「人口減少時代を踏まえ、意欲のある高齢者、女性、障害者などの就労を促進し、誰もが年齢に関わらず能力や個性を最大限生かせる社会を目指します。」と述べたくだりでしょうか。弱すぎます。

 私がこの論点にこだわっているのは、放課後児童クラブの世界は非正規雇用が主流だからです。公営クラブは東京都文京区や埼玉県川越市などごく一部の地域の、それも幹部級職員以外は会計年度任用職員であり、民営クラブは財務基盤が弱い非営利法人で無期限雇用があるものの、シェアを急拡大させている広域展開事業者においては現場クラブに配属される職員はほぼすべて有期スタッフ、つまり非正規雇用です。

 公営クラブの場合は予算を多く確保しない(それは保護者の負担額を抑制するためでもある)ために人件費が安い会計年度任用職員を多用し、広域展開事業者は数年ごとに運営事業者を決める競争があるため継続的に事業を実施できる確約がないため無期限雇用で人を雇いにくいという理由があります。

 児童クラブにおける職員の雇用が不安定なことは、子どもへの支援、援助において不利な面しかもたらしません。優秀な人材を長らく引き留めることができず、職員への「質の向上への投資」もまた消極的になります。短期間で事業者が利益を確保するのは人件費を抑えることが最も有効だからです。いきおい「スキマバイト」などその場しのぎの低コストでの職員配置に傾きがちとなります。

 石破内閣には、首相の持論である非正規雇用の見直しによって子育て環境を整えることを強力に推進していただきたいですし、そのためには児童クラブでなぜ非正規雇用が多く採用されるか、その要因に斬りこんで改善をはかっていただきたい。すなわち、数年間での公募・競争による事業者の選択の慣行の見直しです。また、必要以上に事業者が利益を確保することによる人件費削減の歯止めを設けることです。前者は、非公募での選定を基本とすることであり、公募するにしても単に事業者の規模が獲得できる点数を高めるという審査基準の偏りの見直しであり、後者は児童クラブ職員の賃金水準の監視であり、賃金水準が一定程度の下限額を下回らないようにする仕組みの導入です。

 石破首相の政治姿勢には、岸田前首相の政治姿勢を基本的に継続する、という傾向があると報道記事に同様の分析が見られます。その岸田前首相ですが、もともと少子化対策を重要な国の取り組むべき施策として位置づける姿勢を明確とする中で令和5年1月4日の年頭記者会見では「異次元の少子化対策」という文言(のちに「次元の異なる少子化対策」とさりげなく変更)で、少子化対策に取り組む姿勢を強く打ち出していました。
 であればですよ、石破首相には、かねて持論の非正規雇用の見直しとあいまって、福祉の現場に蔓延する非正規雇用による働き手の不安定な地位、生活を見直し、憲法の定める「最低限度の生活」が保障できるような賃金水準にまで収入を増やす方策を打ち出すことを大いに期待します。岸田前首相や岸田派の支持を背景に総裁選を勝ち抜いたと言われるわけですし、岸田前首相にとっては志半ばであったであろう次元の異なる少子化対策をひき続き協力に推進し、抜擢した三原じゅん子こども政策担当大臣とともに、日本の児童福祉の更なる底上げにおいて政治的遺産を残されてはいかがですか。総選挙後の各種の演説で、ぜひとも、児童福祉、とりわけ放課後児童クラブの世界に関わる者が涙を流して喜ぶような前向きな方針を打ち出されるよう期待しております。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)