短時間で働く場合も社会保険に加入するとの報道。事態は急展開!放課後児童クラブの世界は大丈夫か?急いで備えを!
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。先日の運営支援ブログで、103万円の壁を取り上げましたが、事態は急展開、風雲急を告げています。というのも、短時間労働者にも社会保険の強制加入の方向であると報道があったからです。これは、控えめに言って大ピンチになりそう。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)の世界に重大な影響を及ぼす可能性が高いのです。今から対応を始めないと手遅れになってしまいますよ!
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<報道から>
短時間労働者、つまりパート・アルバイト職員のことですが、この短時間労働者にも社会保険加入を義務付けると政府が考えていることが報道で明らかになりました。これは共同通信社(新聞社やテレビ局にニュースを提供する報道機関)の特ダネ、スクープのようですね。報道を一部引用します。11月8日6時13分配信の「【独自】厚生年金、年収問わずパート加入 「106万円の壁」撤廃へ、負担増も」との見出しの記事です。
「厚生労働省は、会社員に扶養されるパートら短時間労働者が厚生年金に加入する年収要件(106万円以上)を撤廃する方向で最終調整に入った。勤務先の従業員数を51人以上とする企業規模の要件もなくす。週の労働時間が20時間以上あれば、年収を問わず加入することになる。」
「厚生年金の年収要件は「106万円の壁」と呼ばれ、保険料負担を避けるため働く時間を抑制する要因ともされてきた。」
「最低賃金の引き上げに伴い、週20時間以上の労働時間があれば年収106万円を上回る地域が増えており、厚労省は実態に合わせて撤廃すべきだと判断した。来年の通常国会に関連法案提出を目指す。」
私は年金制度は大事だと考えていますし、年金のことも勉強して社会保険労務士の試験にも合格しました。制度上の問題は多かれど、日本の皆年金制度は世界に誇れる制度だと信じています。よってこの報道も、短時間労働者、パートやアルバイトといった非正規労働者にも社会保障の枠に組み込む意義は理解しています。しかし、個別具体的に児童クラブへの影響を考えると、何らかの措置がなされない限り、控えめに言って大問題、大ピンチになりかねないと感じています。
さて上記の報道が示すことを児童クラブの世界にあてはめると、こういうことになります。
「児童クラブで働いているパート・アルバイト職員で、昼間の学校に通っている学生以外の者で、週に20時間以上のシフトに入っている人は、社会保険に加入する」ということです。社会保険とは、健康保険と、厚生年金保険になります。親や配偶者の扶養に入っている人は、その扶養から外れて、自分自身が被保険者となって、社会保険料を支払うことになります。
106万円の壁、という文字が出てきました。2024年、つまり今年の10月から、51人以上の労働者(ただし、社会保険に加入する資格をクリアしている人)を雇用している事業者は、年収で106万円を超える労働者を社会保険に加入させねばなりません。先の報道は、この106万円を超える収入を得る人は、勤め先の会社、事業者の規模に関わらず、社会保険に加入することになる、という意味です。
(私は、事業者の規模51人以上の労働者が対象であることから、児童クラブの世界はそれより雇用する労働数が少ない小規模、零細規模が多いのでこの106万の壁については、あまり重大視していませんでした。しかし、事業者の規模を撤廃するということになれば、大問題となってくるのです。)
(なお、短時間労働者の社会保険加入についてはいろいろな条件があります。週20時間以上の所定労働時間であること、報酬、つまり給与が月額8万8,000円以上であること、昼間に通う学生ではないこと、などがあります。なお、休学中の大学生などは報酬額や所定労働時間を越えれば加入となります)
現状は、週20時間以上の契約でも最低賃金程度の時給相当額で働いていれば月額8万8,000円を越えなかったので、企業の規模に関わらず短時間労働者の社会保険加入の義務が生じなかったのですが、最近の最低賃金の急激な引き上げで、週20時間以上の契約では8万8,000円を超える時代になりつつあります。これは、8万8,000円掛ける12カ月=約106万円の壁が無意味になるということが、背景にあります。時給1,200円で週20時間勤務とすると、単純に計算して1,200円×週20時間×1カ月4週×12カ月=115万2,000円ですから、106万円をあっさり超えます。これを超えないように勤務時間を減らすことが「106万円の壁」だったのですが、この壁を無くしてしまえ、という政府の方針ということです。
<どのような影響が考えられるか>
この報道が事実であれば、どのようなことが想定されるでしょうか。報道が事実ならば、「事業者つまり児童クラブを運営している組織(株式会社だろうがNPO法人だろうが保護者会であろうが全部ひっくるめて)に雇われて働いる限り、週20時間以上の雇用契約で働く人は、収入額に関わらず、社会保険加入となる」ということを踏まえて考えます。
・今まで週20時間以上の契約で働いている人が、週20時間未満の契約を希望する。これは事業者の規模に関わらない。職員数が51人を余裕で超える事業者でも起こりうる。→週4日で1日5時間の契約で働いてくれていた職員が、週4日で1日4時間30分の契約に変更を希望する、というような状況が想定されます。つまり、パート・アルバイト職員が児童クラブで働く時間が減ります。「年金なんて、将来、もらえるはずがない」という年金不信がかなり広がっている現状で、社会保険料を支払うことを嫌がる人は相当数いるものと考えると、事態は深刻です。この、週20時間未満で働く人が増えることによって、2つの見過ごせない影響が生じる恐れがあります。
1:1人の職員がクラブで働く時間が減ることによる非効率化であり、子どもや保護者と関わる時間が減ることによる関係性の希薄化の懸念。それまで担っていた仕事が勤務時間の減少によって担えなくなり、別の人に行ってもらうことになるのは効率的ではありません。
2:労働力が減った分、他の人の労働力で補う必要があるが、現状において人手不足の業界ゆえ、新たに人を雇うことが困難。よってマンパワーが減ったままでの事業遂行を余儀なくされる可能性。
・事業者の規模に関わらない、つまり51人以上という要件も撤廃されるので、規模の小さな事業者でも、週20時間以上の職員の社会保険料を負担することになり、財政を悪化させる可能性が高い。→これは、零細規模の事業者が多い児童クラブでは、事業者の財政を圧迫することになります。1クラブ1法人、あるいは数クラブの運営に留まる事業者が多いのが、児童クラブです。財政的に厳しい事業者ばかりです。社会保険料のうち健康保険と厚生年金は本人と事業者が折半します。
大まかな目安でいえば、事業者が折半分として支払う額は、健康保険は職員の給与の6パーセント、厚生年金は10パーセント弱です。8万8,000円の給与の者ならば、健康保険料で事業者が負担するのは約5,000円、厚生年金保険料では約8,050円です。合計で1万3,000円程度ですね。例えば週20時間で、最低賃金ギリギリの時給で月額8万8,000円のパート職員が2人いる児童クラブでは、1万3,000円×2人分×12カ月=31万2,000円の財政的な負担が追加で生じることになります。
また、パート職員が週20時間未満の契約を選ぶことで足りなくなった労働力を、別の新たな人を雇って補うとした場合、その新たな人に支払う月の給与が5万円であったとしたら、12カ月で60万円です。新たな人件費の増加要因となる可能性があるのです。
言わずもがな、事業規模が小さい児童クラブは本当に人件費のやりくりが大変です。特に年度末から年度初めは、補助金の振込のはざまとなるので資金繰りに窮する事業者が多い。そんな中で、さらに追加の社会保険料負担が生じた場合、小さな規模の児童クラブは、運営そのものが、立ち行かなくなる可能性すらあります。これは、控えめに言って大ピンチです。
<大ピンチを回避するには>
まずは資金繰りを余裕の持てるものにすることですが、難問です。補助金の増額を危機感を持ってこれまで以上に強く国に訴えつつ、事業者の自衛策としては、いかにして生産性を向上して予算の効率的な使い方を目指すほかありません。
どうしたって人件費が増えるわけですから、それを十分に補う国の補助金、運営費の補助額拡大が必要です。利用者、つまり保護者からの費用徴収は福祉の観点から大幅に引き上げることはできませんが、この点も再考が必要になるかもしれません。
事業者の、カネの使い方もメスを入れねばなりません。漫然と勤務をして育成支援の質の程度が問題ある職員ばかり雇っていては人件費が足りません。仮に、週20時間未満の労働時間を希望する人が多かった場合、新たに職員を雇用しなければなりませんが、この人手不足の状況では新規に人を雇うのも大変です。雇用労働条件を改善し、職場環境を職員にとって働きやすいものに変えていかねばなりません。事業者の「事業運営の実力」が、真に試されます。
私は強く言いたいのですが、児童クラブの業界はこの大激変が現実のものになる、と想定した上で、今すぐに対応策を考えることを始めねばなりませんが、その危機感を持てるでしょうか。来週末には児童クラブの世界で最大級の集会、全国研と呼ばれるイベントが開催されますが、それこそ、そのような場所で緊急に児童クラブの経営、運営についてどういうことが想定され、どのような準備や対応が求められることになるのかを検討するぐらいの危機感が必要です。なぜでしょう。この社会保険制度の大改革をはじめ、日本版DBS制度の導入、ストレスチェックの全事業者への適応と、すべからく小規模、零細規模の児童クラブ=得てしてそれは地域に根差した、子どもの育ちを大事に考えることを掲げる事業者であることが多い=の存続を直撃する可能性がある新たな制度の導入ばかりです。それはすなわち、事業規模の大きな事業者、広域展開事業者のビジネスチャンスであることを意味します。新たな制度の導入が避けられないが、それに対応できないとなれば、余裕で対応できる全国展開の広域展開事業者が、ますます児童クラブを傘下に入れ、補助金ビジネスを拡大することになるからです。
逆に言えば、ここで小規模、零細規模の児童クラブ側が適切な策を講じないことは、広域展開事業者の事業拡大をアシスト、結果的に応援していることになるのですよ。それが、分からないとならば大変残念です。いますぐにでも全国研において、緊急に、この新制度に児童クラブの運営事業者はどう対応するべきかの分科会を設定するべきでしょう。なんなら、講師を私が務めてもいいのです。最低賃金水準で引き受けますよ(あと拙著の販売もアリで)。それぐらい、風雲急を告げる状況にあるのです。
103万円の壁どころではない、大激震の予感。引き続き運営支援ブログも状況を注視し、勉強して、情報発信に努めてまいります。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)