知られざる放課後児童クラブ運営の悩み。利用料未納滞納問題を考える。手段と意識の改善、能力への配慮を考える・下

 放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。私が放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の運営責任者であったとき、常に悩みの種だったのが利用料等の未納、滞納問題。なかなか表沙汰にならない、しかし実にやっかいな問題です。規模の小さな事業者では死活問題ですから。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<前日(上)のおさらい>
・利用料等の未納滞納は「うっかり」系と「意図的に支払いを遅らせる」系がある。支払う能力がある場合と、支払う能力がない場合もある。
・手段の容易さを準備することが重要。口座振替は「生活口座」から引き落とすべし。
・保護者や職員の直接集金は、支払い能力が乏しいが児童クラブを本当に必要とする世帯の登所控えを招く恐れがある。やめるべし。
・子どもと保護者が児童クラブに感謝、共感している場合は未納滞納は減る可能性が高い。
・保護者が利用者に徹している場合(サービスを受けるだけの意識しかない場合)はルールの厳罰化で対応するしかないが、やむくもに退所退会はさせられないので限界はある。

<未納滞納を考える上で重要な支払能力>
 利用料を支払うだけのお金があるかどうかの話です。最終的にこれは、利用世帯の所得の状況と、その世帯が何に支出しているかに左右されます。収入が低い世帯が、利用料が比較的高い児童クラブを利用せざるを得ない状況であれば、未納滞納の可能性は当然ながら高まるでしょう。
 児童クラブの利用料を世帯の所得に対応して増減することは一般的に行われています。公営クラブでは住民税の均等割、所得割の非課税に応じて減免することがあります。民営クラブでも要保護者である生活保護受給者世帯、準要保護者である就学援助対象世帯に利用料免除や減額をすることが普通で、むしろ行っていない事業者、市区町村の方が珍しいでしょう。他に兄弟割引もごく普通に行われています。

 よって、利用料の負担についてある程度の配慮は行われているといえますが、問題は、準要保護者でなく就学援助の対象ではない世帯です。つまり利用料の減免、減額が基準に達しないので対象になっていない世帯です。児童クラブはおおむね、入所先クラブを選べません。全学区対象の児童クラブがもっと増えればいいのですが、地域によって児童クラブを展開している事業者がその地域で「独占して」事業を行っている場合がほとんどです。そのような場合において、地元で児童クラブを展開している事業者が、「うちは14,000円です。準要保護の学援助世帯は7,000円です。生活保護の世帯は無料です」となった場合、減額の対象とならなければ14,000円を支払うことになります。それができなければ、児童クラブの利用をあきらめるしかありません。しかし、どうしても子どもが安全安心に過ごせる居場所が必要だと保護者が考える場合、どうすればいいのでしょうか、ということになります。
 経済的な能力面で無理を承知で子どもの安全を優先して児童クラブに入所させると、未納滞納の可能性が常について回ることになります。

 事業者が利用者の未納滞納を防止したり減らしたりするには、上記のような「家計の能力から相当無理をしても児童クラブが必要だから入所させている世帯」への対応が欠かせないのです。これは、事業者だけで解決できる問題ではありません。世帯の所得に応じて多段階の利用料を設定したいとしても、民営事業者では公営クラブのように住民税の納入状況まで把握できません。市区町村が個々の利用世帯ごとに利用料を判定してくれなければ、民間事業者である限り、容易に把握しやすい生活保護や就学援助の有無で利用料減免の程度を判断することが限界です。

 となると、やはり最終的な解決策は、児童クラブの利用料をもともと軽減することになります。ここで問題となってくるのが、やっかいな「あのお達し」です。国が示している、あの方針。児童クラブの利用料は、利用者が半分を負担することとするという方針です。なぜ5割なのか根拠は分かりませんが、利用するかしないか任意で選べる事業ゆえ、半分ぐらいは利用者が負担しなさいね、ということなのでしょうか。この国の方針は民営事業者に重くのしかかります。公営クラブなら住民サービスということで意図的に利用者の利用料を軽減することができます。足りない分は自治体の別の予算からもってくればいいのです。
 (もっとも公営クラブの利用料の低額は、サービスの内容が民営クラブより薄い、狭いことによる費用の少なさ、人件費抑制によることによる費用の少なさに起因するものと私は考えています。開設時間が短い、土曜日は閉所する、職員が全員、有期雇用の会計年度任用職員である、という民営より薄いサービス内容とすることで、全体として必要な費用を抑える。その結果として利用者への請求額も減らせるという理屈です。もちろん、自治体が別途、予算を割り当てていることもあるでしょう)

 いま、全国各地で相次いで学校給食の無償化が行われています。それは歓迎ですが、給食費の未納滞納に頭を悩ます自治体にしてみれば、いっそ無料にして税金で負担するようになれば、未納滞納者への請求作業が無くなるわけですから心理的な負担はゼロになって万々歳でしょう。ただ給食はもともと無償で提供することとなっているもので、任意事業で利用するかどうかを保護者が選ぶ児童クラブとは根本的に性質が違います。しかし、児童クラブは小学1年生にしてみれば半数の児童が利用するまでに成長した、社会インフラです。これからも利用者が増えることが予想されています。

 今の時点では未納滞納を防ぐことに効果のある無償化に踏み切るのは時期尚早としても、もっと利用料を軽減できるように児童クラブの補助金を増やすことはぜひ国に考えていただきたいのです。

 事業者も、利用料が事業を継続して安定して行うために必要であることを利用者に常に訴え続けましょう。クラブの運営に必要な費用のうち、補助金がどのぐらいの割合があって利用者の負担額はどの程度の割合になっているのか、また、利用者が支払う利用料のうち、どの割合が職員の給与になって、どの部分がクラブの水光熱費になって、おもちゃなど教材の費用になって、ということを示して事業者側が丁寧に説明を続けるべきです。ありていにいえば、「スマホの通信料よりも児童クラブの利用料が、もっと大事な支払先なのですよ」ということを実感させられる質の高い児童福祉サービスを提供しつつ、その利用料がクラブを支えていることを知ってもらうという努力もまた、事業者にとって必要だということです。

<今後、目指すべき状況>
 各地域において、「この地域では児童クラブにおいて、どの程度のサービス提供が必要なのか」ということを考える必要があるでしょう。もっといえば、提供するサービスの内容によって当然、利用料の額も増減しますが、そのような児童クラブを複数設置して学区にとらわれず利用できるようにする、児童クラブの選択制の導入を検討するべきでしょう。
 毎月の利用料を利用者が支払う上で、最終的に市区町村や事業者が考えねばならないのは、「利用者にとって、費用が無理なく支払える料金設定であるか」どうかです。とても難しい問題です。児童クラブが利用者に提供するサービスの価値によって、対価もおのずと決まってくるものですから、その対価から、補助金で充当できる部分をのぞいて利用者に請求する分がサービスの内容と釣り合っているかどうか、つまり利用者が「これだけの内容で利用できるのだから、それぐらいは支払うことに異議は無い」と理解してもらえることが必要です。そしてその理解を得られる児童クラブが複数あること、それはつまり、提供するサービスの内容が異なる児童クラブが複数あり、それぞれ利用料が異なり、その地域に住む子育て世帯が、サービスの内容や利用料を検討した上で入所先の児童クラブを選択できるという状況を作りだすことが必要ということです。

 例えば、10のクラブがある地域において、「学力向上のための追加オプションを用意するなど相対的に学力向上型のクラブ」があれば、「スポーツクラブと提携してサッカー、テニス、バスケットボールなどを行えるクラブ」があれば、「楽器演奏ができる無音室付きのクラブ」があったり、「とにかく泥んこで遊びまくるクラブ」があったり。10あるクラブのうち5つはオーソドックスな育成支援実施クラブとして、残りはそれぞれ特色のあるクラブとする。昼食提供の有無や、受け入れ時間にも違いがある。例えば、児童の受け入れ時間が午前8時から午後6時30分までと短いものの他のクラブより利用料が数千円低い、というクラブがあってもいい。クラブへの登所は、小学校が近いのであれば徒歩で、距離があれば送迎サービスを利用すればいいのです。できれば、無理な競争を避けるために、同じエリア内は、同じ事業者によって運営するべきですね。

 こうして保護者が利用したい児童クラブを選択できるようになれば、学童ガチャは減るでしょうし、自ら選択して希望して入ったクラブだけに、やむなく気に入らないのに入所せざるを得なかった場合と比べて、未納滞納をもたらす心理的な要因は減ります。利用料も考慮して選択していればなおさらです。

 こうにでもならない限り、児童クラブの利用料の未納滞納を極端に減らすことは難しいでしょう。しかし、こどもまんなか時代の児童クラブは、保護者と子どもが選択できる児童クラブがエリアにある、ということを最低条件として満たしていくべきではないかと運営支援は考えます。

<まとめ>
 児童クラブの利用料の未納滞納を防ぐには。
「思い立った時に支払いができる仕組みを導入する。スマホ料金と合わせて請求できることが可能ならぜひ。口座引き落としは給料の入ってくる口座を指定させよう」
「児童クラブが本当に必要な場所だという事を利用者に実感させることができる、質の高いサービスの提供。育成支援の充実による質の向上と、利便性向上。児童クラブがあってよかった、と利用者に実感させられれば未納滞納は減っていく」
「利用者の所得に応じた無理のない料金設定の工夫。料金設定に見合ったサービス提供内容の確立」
「国に、補助金を増やすことを求める国民的な意識の向上」

<おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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