盆期間シリーズ:異年齢集団で過ごす放課後児童クラブの良さと言われるものは、幻想なのか?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。盆期間中にじっくり考えたい課題を取り上げてみます。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)には、在籍している子どもたちを低学年と高学年など、一定の基準で区別してクラブで過ごさせる地域が実は相当多いこと、そしてその現状に違和感を訴える声がまったく聞こえてこないことを考えます。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<どちらが当たり前なのか>
 まず私自身は、一定の基準で子どもたちを分けてクラブに入所させているという事実が不思議で仕方ありません。埼玉県民である私は、放課後児童クラブに関する基礎的な知識、見聞を、埼玉県内の、保護者運営を由来とする放課後児童クラブの状況から得てきました。自分が学ぶ範囲にある児童クラブでは、1つの小学校に複数のクラブがあっても、学年別や、低学年高学年の区別で入所児童を決めている地域は、まず目にしたことがありませんでした。
 私自身が児童クラブの運営事業者の事務局長、理事長として組織運営の最高責任者をそれなりの期間務めてきたとき、大規模クラブの分割を多数行ってきました。当然、学年別に分けるなどいう思考回路はありませんでした。
 (ところが実は1例だけ、そのような事態に直面したことがあります。1つの小学校で3つ目のクラブを設置したとき、児童の割り振り、つまり3つ目のクラブに転籍する子どもを誰にするか、現場の職員に決めてもらうよう指示をしたのですが、なんと、学年別での割り振りを決めて案を本部に持ってきました。私は、それでは異年齢で過ごす児童クラブの生活環境が損なわれることを指摘して、直ちに考え直すように指示をしました。)

 私は、児童クラブでは異年齢の子ども達、男女問わずに過ごすことが当たり前としてクラブ運営を行ってきましたし、運営支援についても取り組んできました。それが、今年春から始めた「市区町村データーベース」の作業で、「ちょっとまてよ、異年齢集団で過ごすことが当たり前という理解は、実は当たり前ではない、のではないか」と思うようになってしまいました。というのは、あまりにも多くの市区町村で、1つの小学校等(義務教育学校を含む)に放課後児童クラブがある場合、ごく普通に、低学年と高学年で分けたり、1年生とそれ以外の学年で分けたり、何らかの基準をもって入所児童を区別している施設が存在していることを知ったからです。むしろ、1つの小学校等がある場合、何らかの基準がない児童クラブの方が少数派ではないかとすら思えてくるほどです。

 思い起こすと、児童クラブに関する利点を説明する際には、私も発していますが、異年齢集団で過ごすことの良さを強調する向きがあります。例えば、三重県尾鷲市のHPには、放課後児童クラブに関する説明のところに、「異年齢集団の中で、遊びや活動への意欲を育てる。」と記載があります。同様に、決して数は多くないですが、異年齢集団で過ごすことの利点を児童クラブの特徴として説明している自治体があります。
 ところが、私の見聞の範囲に限りますが、児童クラブに関する種々の活動や、全国研究集会などで私自身は、学年別や、一定の基準で入所児童を振り分けていることに対して、「それはどうなの?」と懸念を示す声を聞いたことはなかったように思えます。全国学童保育連絡協議会が毎年発行している、とても便利な「学童保育情報」という冊子には、生活の場にふさわしい広さと設備の充実を訴えるページはありますが、一定の基準で入所児童を区分して受け入れていることに対する見解の表明は特にないようです。

<利点は、ある。それは運営する側の都合>
 一定の基準で入所児童を区分して受け入れることの利点を考えてみましょう。1つの小学校に複数のクラブがあって、それぞれに異年齢集団、つまり小学1年生から6年生までが、「ごっちゃに」なって入所している場合、運営側としては「どのクラブに、だれを入所させるか」が、非常に難しい問題です。これはもう、毎年決まって新入所児童の保護者からお叱り、クレームを頂戴していました。つまり「うちの子が学童に行きたくないって言っている。〇〇くんとクラブが別になったのが嫌だと。今からでも同じクラブになるように入所先のクラブを変えてほしい」という要望が、非常に多かったのです。
 ところが、例えば1年生と2年生はAクラブ、それ以上の学年場Bクラブとしてしまうと、上記のようなお叱り、クレームは発生する余地がありません。(もっとも逆に、〇〇くん、〇〇さんとは一緒のクラブにしないでください、という複雑な事情のある方には対応できないことになります。数は多くないですが、こちらの要望の方が実は深刻です。いじめの関係が固定化しつつある等の事情があるからです)
 これは、運営側にとって歓迎です。春先に保護者から受けるお叱り、クレームが相当減るからですね。同様に、「高学年を怖がってクラブに行きたがらない」という保護者の悩みの相談も減ることになるでしょう。新1年生にとって、「絶えず人間関係の中でもまれて生きてきた」先輩の学童っ子たちは、とても「おっかなく」見える場合があります。「しばらくすれば、クラブの雰囲気に慣れますから安心してください」と保護者に伝えても、慣れるかどうかは確実ではありませんし、慣れるまでの期間だけでも児童クラブに通えなくなるとそれだけ保護者のワークライフバランスに影響が生じます。同じ学年で構成されるクラブであれば、「上級生がおっかない」という保護者の心配の声はほぼ無くなるでしょう。

 また、現場職員からしても、おそらく本音では歓迎する考えは多いでしょう。はっきり言ってしまえば、子どもたちの集団を導く上で容易になるからです。これは、異年齢で過ごすことの難しさと利点の、ちょうど正反対の事情になります。
 同じ、もしくは非常に近い学年で構成される児童集団=遊びの組み立て、各種行動の指示については同じ指示水準でまとめられる。
 異年齢集団で構成される児童集団=学年が上の子どもと、下の子どもとでの理解や受け止め方に差が出てくるため、職員にとっては十分に配慮した指示内容にする必要がある。
 つまり、同じ学年や近い学年で構成されている児童集団は「管理」しやすいということです。

 運営側としては、児童クラブの運営において、同じ学年や近い学年の子どもたちで構成される児童クラブは、とても管理運営上においてメリットがあるといえるでしょう。

 そしてお分かりのように、そのメリットは異年齢集団の子どもたちで構成される児童クラブではデメリットとなり、同じ学年等で構成される児童クラブのデメリットが、異年齢集団の子どもたちで構成される児童クラブにおいてはメリットとなる、そういう関係が多くの場面において成り立つのではないかと、私は考えるのです。

<運営指針では?>
 ところで、放課後児童クラブ運営指針にはどのように取り扱われているでしょうか。探しましたが、「第3章 放課後児童クラブにおける育成支援の内容」の「1 育成支援の内容」の(2)に、「放課後児童クラブは、年齢や発達の状況が異なる多様な子ども達が一緒に過ごす場である。」とあります。この運営指針の内容全体の大前提として、異年齢集団で過ごす場であること、という概念が含まれており、それを基にして種々の指針の内容が組み立てられているという理解が適切だろうと私は考えます。ということは、そもそもにおいて、学年別や、低学年と高学年で区分して児童クラブに子ども達を入所させるということは、考慮されていないと考えて良いのではないでしょうか。

 だからといって、学年別や、低学年高学年で分ける児童クラブがダメだとは言えません。そもそも児童クラブは地域の実情に応じて実施することが認められている事業です。管理運営を重視する市区町村が、学年別や低学年高学年で分けて子どもたちを入所させるクラブがあるとしても、法令上において許されない、ということはまったくありません。

<これは児童クラブの世界側の問題だ>
 管理運営上からは利点が多い。また、同学年や学年が近い子ども達の中で過ごすことでも、人間関係を構築することはできる。いろいろな説明があるでしょう。しかし、異年齢集団は子どもの成長にとって素晴らしい環境であることを力説してきた世界の側は、振り返ってみて、その良さを存分に「社会に向けて」説明してきたのでしょうか。また、学術的に分析して理論化したものがあったとして、それを社会に丁寧に説明してきたことがあったのでしょうか。

 つまり、すでにこの世間において学年別や低学年高学年で入所児童を振り分けるクラブが多数存在することになったのは、「異年齢集団で過ごす児童クラブの利点、効果」が、行政当局や、予算を決める議員に伝わっていないということ、言い換えれば社会的な認知が圧倒的に不足していることがあるでしょう。

 これはひとえに児童クラブ側の問題です。私は率直に言って、「運営する側にとって、楽になることがある」からこそ、あまり躍起になって「異年齢集団こそ児童クラブのあるべき姿です」と児童クラブ業界側が声を上げることがなかったのではないかと邪推しています。全国のあちこちで、現場で働く職員や運営に(無理やりの強制的であっても)関わる保護者たちが集まる団体が児童クラブについていろいろと提言し、活動をしていますが、異年齢集団ではない児童クラブの解消を求める意見や要望を大々的に掲げていることは見聞きしたことがありません。

 「そういうところなんだよな」と、私は感じます。確かに職員の低賃金や、子どもの大規模状態は、職員と子どもに良い点は全くない(大規模も、職員の重労働が大変であると職員側の負担に置き換えられる問題)ので、直ちに解消が必要であり、毎年必ず改善を求める意見に盛り込まれています。メディアでも取り上げられる機会が増えています。
 その一方で、学年別や低学年高学年で分けられた児童クラブが多数存在することについては、真正面から問題視される、疑問視される、あるいは議論が提起されるということは全くないと言えるでしょう。児童クラブの側に、「行政が決めることだから」「事業者が決めることだから」という、自分たちが手の届かない問題であるというあきらめなのか、それとも実は管理運営上において楽な点もあるからあえて黙っているのか、もしかすると実は異年齢集団で過ごす児童クラブの良さというのはごく少数の者の信念みたいなもの、いわば幻想のようなもので、実はあまり重要ではない事項なのか。私にはこのすべてが入り混じっているのだろうと考えてしまいます。まして保護者にとっては、ごく少数の「あの子と一緒なら困る」という要望よりも「仲良しの〇〇くん、〇〇さんと離れ離れにならなきゃいい」とか「クラブは子どもを預かってくれる場だから、同じ学年の方が安心だ」という理解に終始していれば、異年齢集団ではないことによる不利な点などまったく気にも留めないでしょう。

 これは今後も深く考えないでよい問題でしょうか? 児童クラブにおける子どもの成長において考えねばならない重要な要素を含んだ問題であると私には思えます。むろん、根拠の無い、あくまで感覚的に感じているだけのことです。比較的長い期間で、異年齢集団の児童クラブと、そうではない児童クラブの、それぞれの子ども達の集団において、種々の測定要素でどういう差が見られ、あるいは見られないか、そういった学術的な研究結果を、専門家の方々には、社会に向けて大いに発信してほしいと期待します。私も、本が売れるなり運営支援にたくさんオファーが来て資金が増えてきたら、そういう地味な研究を行いたい方に資金援助をしたいのです。ですので、どうか、下記のPRをお読みいただき、ぜひご協力よろしくお願いいたします。

 <おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。8月14日時点で、楽天ブックスなら在庫がありますし、アマゾンでも取り扱っています。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
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 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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