盆期間シリーズ:放課後児童クラブの良さも問題も社会に知られないのは「発信力がない」から。「バレたら困る」も?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。盆期間中にじっくり考えたい課題を取り上げてみます。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)についてあまりにも多くの事が社会に知られていないと私は痛感しています。発信力がない。発信しようとする考えがない。だから良いことは広まらず、問題は解決されないのではないでしょうか。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<発信力がないのは、保護者が関わる形態に顕著>
 私は市区町村のHPをチェックし、HPで発信されている放課後児童クラブの実施状況を確認する作業を続けています。8月16日までに700を超える市区町村の確認を済ませましたが、私には、ほぼ確信に近い水準で認識していることがあります。それは、保護者が児童クラブ運営に関わっている場合の情報発信力が極めて低いことです。具体的には、保護者が運営に関わっている児童クラブが多い地域の市区町村のHPで提供される基本的な情報、利用料金や開設時間や利用上の諸注意などの情報ですが、提供される量が極めて少ない。または「クラブに問い合わせてください」となっていることも大変多いのです。1クラブで1つの非営利法人で運営している形態も珍しくありませんが、その場合、その法人がHPで情報を走んしていることは、めったにありません。複数のクラブを運営している非営利法人であっても、HPで情報を提供しているかといえばそうではなく、HPを開設していても更新は開設後数年まで、現在は数年前の状況ですっかり止まっている(入所に必要な書類に関する情報だけは更新されていることも)場合が、実に多いのです。

 一方、各地で児童クラブを展開している企業は、ある程度の情報更新もなされており、HPでの情報発信はそれなりに充実しているように私には感じられます。いわゆる広域展開事業者で情報発信に問題があるのは家庭教師で有名な企業ぐらいで、業界最大手や二番手の企業は、運営しているクラブがあまりにも多すぎるのか運営をしているクラブの数、地域に関する情報は不十分(それもかなり問題ですが)であっても、どんな事業内容なのか、なにを目標にしているかの紹介は、それなりになされているように私には見受けられます。

 それと比べると、保護者が運営に関わるクラブ、それが保護者会なのか、保護者会由来の非営利法人なのかは問わず、「保護者がかかわる」クラブは、情報発信力が大変低いのは、事実です。理由は想像つきます。広域展開事業者はHP更新担当などの担当職務を持っている職員、社員がいるので、定期的に情報更新を仕事として行っているでしょう。一方で保護者運営や保護者由来の非営利法人では、そのような広報担当の職員や担当者を設置しているところは少数でしょうし、担当として割当てていてもその他の業務と比べて重要性や緊急性が低いので、だんだんと作業が後回しになり、やがては定期的な情報の更新が停止となる、という流れになっているからでしょう。なにせ、別段、HPの情報を更新しなくたって、営業活動をしなくたって、毎年秋になれば来年春の新規入所希望者(=事業の観点からすれば新規顧客)がやってくるので、やってきた人に入所説明資料を渡すなり情報を伝えればいいのですから。それでクラブの運営業務が完結してしまうからです。通常の商売では、商品やサービスの利点を懸命にPRしなければ、客が付きません。買ってくれません。利用者の申込みが増えません。でも児童クラブは、黙っていても、お客さんがやってきます。営業活動をしなくてもいい。情報発信がおざなりだって問題ないのです。(この、顧客獲得における強度の安定性は、多くの企業が、補助金ビジネスとして放課後児童クラブのアウトソーシング事業に乗り出す動機になっているでしょう。もっともリスクの高い顧客確保が心配不要なのですから)

<本当に必要な情報公開のありかた>
 言わずもがな、市区町村から委託や指定管理者となって委託料や指定管理料を受け取っている事業者、あるいは助成金や補助金を交付されて児童クラブを運営されている場合は、事業の実施に際して、公金=税金から成る委託料や補助金を受けて、児童クラブという事業を運営していることになります。クラブの運営や職員への報酬には、税金が含まれていることになります。

 このことは、納税者たる国民、住民に対して、児童クラブ側は「説明義務を負っている」と私は考えます。当然、国民や住民、つまり児童クラブを利用する保護者もそうですが、児童クラブの事業者に「どれぐらいのお金を行政からもらって、どのように使っているのですか?」と、使い方の説明を求めて構わないはずです。クラブを利用する保護者が支払う利用料、保育料、保護者負担金といったものも、公共の児童福祉サービスたる児童クラブを利用するために「やむなく」支払う、いわば「子育て税」のようなものですから、事業者が集めた利用料などをどのように使っているのか、クラブ事業者は保護者、つまり住民、国民に説明することが必要でしょう。それは計算書類の公開という形態によってNPOや一般社団法人など法人形態を取っている場合は義務づけられていますが、保護者会や地域運営委員会では、年次の計算書類を公開している運営主体はごくごく少数でしょう。少なくとも私は見たことがありません。(クラブに所属する保護者には当然、情報を提供しているでしょうが、そういう直接の利用者に会計を公開するのは当然であって、私が言っているのは広く社会に公開するべきだ、ということです)

 つまり、児童クラブの事業者は、法人であれ任意団体であれ、いくらお金を集めて、あるいは交付され、そのお金をどのように使ったのか、社会が容易にその情報に接することができるように、事業経営や運営に関する情報をすべからく公開するべきです。また、国民は、どのようにお金が児童クラブにて使われているか、関心を持って、その使い方を注視するべきです。そうであれば、「1年間の事業の結果、800万円の収支差額となった。しかし公開されている職員の人件費や給与表では正規職員の賃金は総額20万円弱だ。賃金を25万円にしたところで収支差額は600万円も確保できるじゃないか」などと、多くの人の目で、その事業の経営内容について確認ができ、問題点を見つけることができるのです。
 逆に考えれば、特に広域展開事業者などは1つ1つのクラブの収支状況を公開してしまうと、職員1人当たりの報酬額と1クラブが生み出す収支差額について社会にあからさまに出してしまうことを恐れているのでは、と勘繰ることもできてしまいます。広域展開事業者は事業者の規模の大小を問わずまんべんなく求人広告を出しています。つまり職員が足りない。定着しないのでしょう。事業としては苦しいはずです。でもどうして毎年ものすごい勢いで広域展開事業者は運営するクラブを増やしているのか、あるいは新規参入が相次ぐのか。それは「うま味」があるからにほかならない。企業にとっての「うま味」とは確実に確保できる利益の存在です。投じられる補助金の額や徴収される利用料の額に比べて収支差額が大きいのなら、補助金を減らしたり利用料を減らしたりすることだってできます。必要が無くなった補助金の額を集めて新規クラブの設立の補助金に振り向けることだってできるでしょう。もちろん、職員の低すぎる人件費を増額することにも使えます。この点、広域展開事業者には、バレたら困ることがあるのです。

 児童クラブにつぎ込まれるお金について、しっかり情報公開をするようになり、かつ、保護者や住民、国民が、そのお金が適正に使われているかどうかを常に注意深く監視すること。これが確立すれば、私はかなりの問題が解決に導かれる土壌がうまれると感じます。なお当然ながら、児童クラブに投じられる補助金については、市区町村の議会がしっかり情報を把握して監視することは当然でしょうし、最たるものは会計検査院ですが、監査の仕組みによって不正や、過った補助金の使い方を見つけ出すことも期待できます。

<必要な情報公開はカネだけではない>
 これは特に、まだまだ多く残る保護者運営形式の児童クラブが改善しなければならない問題です。児童クラブを利用する保護者がどのようにクラブの運営に関わるのかについても、事前に、しっかりと隠すことなく情報を提供する必要があります。例えば、クラブには保護者会があること、クラブの運営主体が保護者会であるのでクラブ利用に際しては保護者会の加入が条件となること、保護者が何らかの形で運営業務に携わることがクラブの規定で決まっていることなど、です。保護者からの反発を受けようが受けまいが、事業者が設けている決まりである以上、説明をして理解を求めることは当然です。入所申請手続きの際はあまり説明せず、4月最初の保護者会総会の席で「保護者には運営に加わる義務があります」などと突然言われても新入所の保護者は困惑するでしょう。それはだまし討ちのようなもので、私は絶対に許せません。事前に説明をしておき、その結果、入所を辞退するという保護者が出たとしても、現状においてはやむを得ないとすることは不可能ではありません。この点は、保護者運営のクラブを大事にする勢力にとって、バレたら困ることですね。

 私はこのブログを公開した2024年8月17日午前5時30分にフジテレビで放送された「週刊フジテレビ批評」に出演し、番組の求めに応じて放課後児童クラブ(番組では学童または学童保育で統一)について解説をしました。番組そのものは一緒にコメンテーターとして出演された放課後NPOアフタースクールの平岩国泰先生の深い見識と豊富な知識で質の高い内容になり私もおんぶにだっこで安心できたのですが、番組のスタッフや、司会進行を務めた2人のアナウンサーが口をそろえて驚いたことがあります。「え、学童って、保護者が運営する場合があるんですか?」ということです。どうにも、利用者が、利用する施設の運営をするという形態がすぐに理解できなかったようです。無理もありません。客として利用するラーメン店の経営に客たる自分が関わっているという図式ですから。つまり、保護者運営の放課後児童クラブに対する、世間一般の理解や受け止め方は、摩訶不思議なものなのです。

 しかし、どうしてまだあちこちに残っているのか。あるいは運営主体は公営であっても、おやつ代の徴収や各種イベントの実施は保護者会が行うというように運営の一部を保護者が担う形態が残っているのか。かつては当然でした。保護者が自ら設置しなければ学童保育所は存在しなかったから。今は、市区町村が設置したり市区町村から補助金を得て事業者が設置したりできる時代です。なのになぜ未だに保護者運営のクラブに固執する考えがある?

 その答えは私の独断と偏見で申し上げれば、保護者運営システムを必要としている勢力が今なおあるからです。詳しい児童クラブの事業内容や組織運営の知識がないまま強制的にクラブ運営に従事しなければならない保護者や職員を集めて成り立っている組織や団体があるからです。そのような組織や団体にとっては、明らかに合理的である「児童クラブの運営は、プロの経営者、運営者が行えばよい」という形態は、自らの存在基盤を消滅させることになるので、受け入れられないのです。表向きは「保護者が運営に加わることで、子どもにとって保護者にとって職員にとっても、よりよいクラブ運営が可能となります」と素敵なアピールをします。よく考えてみてください。保護者や職員が運営に加わることでよりよいクラブ運営が可能となるのは、いったい、何が存在するからですか?ということを。保護者や職員の存在そのものですか?違います。保護者や職員が、子どもが過ごす環境にとってよりよいクラブの環境や事業内容について意見を出すことができるからですね、つまり、保護者や職員の、児童クラブ運営に対する「意見、希望、考え方」が必要なのです。であれば、そのような保護者や職員の意見や希望をしっかりと入手できる仕組みさえあれば、別段、保護者や職員が運営そのもに参加しなくても構わないのです。プロの経営者、運営者であれば当然、利用者や子どもからの意見をしっかり集めて事業運営に反映させます。
 分かりましたか?からくりが。保護者や職員を無理やりに運営に加わらせることでその不安を解消させるための組織や集まりが、既存の保護者運営を大事にしようと訴えている勢力が存在するために必要な仕組みだということを。もちろん、保護者や職員の中で、自分自身が「運営に関するあらゆる法的な責任を負う」ことを了承の上で運営に加わることができる制度があることは、私は大賛成です。無理やりに運営に参加させることが法的な責任を考えると大問題であると主張しているだけです。

<既存の勢力が既得権益を保持することに夢中となったあまりに招いた惨状>
 いま、全国各地でどれだけの広域展開事業者が児童クラブを運営していますか?気になる方は、このブログのページを閉じて、全国市区町村データーベースのページを開き、その中にある広域展開事業者の表を見てください。業界最大手の企業は全国各地に極めて沢山の場所でクラブを運営しています。その数は圧倒的です。二番手の企業もまた多くの地域で児童クラブを運営しています。しかも、まだそのデーターベースで確認を済ませた市区町村の数は半数に届いていません。
 一方で、公営クラブの民営化は急速に進んでいます。その民営化を引き受けるのは広域展開事業者です。静岡県磐田市はすでに来年度からクラブを運営する事業者を決めて公表しました。代表的な広域展開事業者が名を連ねています。佐賀市も2025年度以降、公営クラブを民営化すると報道発表しています。公営化の流れはこれから強まることはあっても弱まることはないでしょう。そして新たな潮流として、保護者系の運営クラブが広域展開事業者による運営クラブに切り替わっていくという流れが起きていくでしょう。

 本来なら、保護者や職員の、健全育成や安定雇用に関する種々の要望を、できる範囲で組織経営、運営に組み入れつつ、子どもの育ちにとってよりよい児童クラブの運営を手掛ける、非営利の広域展開事業者を、児童クラブの保護者運営側の勢力は意図的に育てて、営利の広域展開事業者と堂々と争うことができるようにしなければならなかったのです。戦略的に完全に失敗しました。2010年代からの10年間で、そのことに着手しておけばよかったと私は残念でなりません。2010年代も数年過ぎたころは企業によるクラブ運営の進出拡大が懸念されていました。国の補助金額が急増していった時期と同じころです。その時代に、保護者に運営責任を負わせるクラブを維持しようと夢中に、懸命になるのではなく、保護者や職員の意見や希望を組み入られる制度を備えた、非営利であっても一般の企業とまったく同じような事業者を意図的に育てて、全国各地の公募プロポーザルや指定管理者への選定の参加を相次いで行えばよかったのです。私はそれを以前から訴えていました。だれも聞く耳を持ちませんでしたが。その結果が今となっているのは己の無力さとあいまって、大変に残念です。

 ですので今、私は、とにかく情報公開が大事だと申し上げています。広域展開事業者がどうしてあれほど児童クラブの数を獲得するのに躍起となっているのか。その理由は情報公開で明らかになるのです。それをメディアが伝える。議会で議員が取り上げる。その端緒は、情報公開です。情報公開を義務づける制度をまずはメディアが訴え、議会で議員が行政執行部に要求し、条例を制定することです。それができれば、丹念に公開情報を分析して、補助金の余計な交付について監視をすることができます。収支差額に比べて低すぎる職員給与について問題視することができます。

 でもなかなか、そのことを訴える勢力や人は出てきませんね。ですから私は実名を出すことをためらわず、本を出し、テレビにも声がかかれば迷わず出演し、放課後児童クラブについて社会の注目、関心を集めようと必死になっているのです。目立ちたいだけでしょ?そういう人は勝手に言いなされ。「実名を出して意見を発信し続けることがどれほど大変なのか」ということです。

 運営事業者が黙っていても成り立っている児童クラブの時代は、もう終わりにしましょう。子どもにとって遊びがどれだけ価値のあることか、児童クラブでのんびりダラダラすごす時間が子どもにとってどれだけ価値がある時間なのか、発信しなければ社会には伝わりません。月曜日は英語、火曜日はプログラミング、水曜日はタグラグビー、木曜日はオンライン交流会に金曜日はダンス、ほら子どもたちにとってこんなに豊かな放課後があるよ!と事業者や行政がPRし、保護者も「それだけのことをしてくれる児童クラブが素晴らしい!」と満足するような放課後だらけに、なってしまいますよ。このままでは。いや、そういう過ごし方もあっていいのです。そういう体験提供型の放課後の中にも、無為の時間を過ごせる放課後があることの価値を世間に知らしめる努力を惜しんではならないのでは?ということです。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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