盆期間シリーズ:放課後児童クラブの不思議を考える。「どこを向いて仕事をしているの?」

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。盆期間中にじっくり考えたい課題を取り上げてみます。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)で働く人の「忠誠心」はどこに向いているのでしょう。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<よくある、しかし大事な課題>
 放課後児童クラブで働いている人は、自身が児童クラブを設立した人は別にして、ほとんどの人が「雇われて」働いていることでしょう。雇い主=事業主は、保護者会や(地域)運営委員会のような任意団体だったり、株式会社、NPO法人、一般社団法人、社会福祉法人といった法人組織だったりするでしょう。つまり、自身でクラブを設置し、経営運営している人以外は、雇われて働いています。

 雇われて働いているとすぐに忘れてしまいますが、本来は、事業主が行っている事業に魅力、やりがいを感じたり、事業主が掲げている理念に賛同したり、あるいは事業主が実施している雇用労働条件が自身の生活に適合するからだったりと、何らかの「好意的な感情」があるから、その事業主に働きたいと申し出て、選考を経て採用されているはずです。事業主が大嫌い、何一つ共感することがない、でも賃金のために働いているという場合もあるかもしれません。働き初めてしばらくは「なんていい会社なんだろう」と思っても、数年も働いていると、会社の嫌なことばかりが目について、上司を含めて「ほんと、ひどい会社。給料がそれなりだから働いているけどそうでなければ絶対、退職している」と思うようになることは、まああるでしょう。

 いずれにしても、退職届を叩きつけて辞めることを選ばない限り、雇用契約は間違いなく存在していて、契約に従って働かねばなりません。。好き嫌いの感情ははっきりって「どうでもいい」ことであって、放課後児童クラブを営む会社と雇用契約を結んだ以上、契約に従ってしっかり働いてください、会社の定めた決まり、ルールに従ってください。それらを着実に履行したら契約に従って賃金を支払います、ということです。(もちろん、会社の決めた決まり、ルールが、現実にそぐわない、合理的なものではない、ということがあれば、その決まりやルールを所定の手続きに従って変更することや変更を求めることは、まったく問題のない思考であり行動です。この点において、児童クラブで働く人の多くは、文句や愚痴は重ねるもののその文句や愚痴を生み出す原因を改善しようと「行動」することは少ないと私は感じます。逆にいえば、雇う側にしてみれば、その文句や愚痴など気にしなければ、実に制御しやすい労働者となります。)

 児童クラブで働く人には雇用主がいる、ということなのですが、もう1つ、実は児童クラブで働く人が心を寄せる存在が2つあります。おわかりでしょうか?1つは「子どもの存在」であり、もう1つは「自分が働いている場所、自分が働くクラブ」です。やや古臭い言葉を使えば「忠誠心」、つまり「このために私は働いている」という気持ちは、本来なら自分を雇っている会社、法人に向かっているはずですが、児童クラブ職員の中には、目の前にいて日々、支援と援助を行っている子どもこそ、自分が働いている土台なんだと思うようになる人がいます。自分が大事に思う子どもたちがよりどころにしている「自分が勤めているクラブ」こそ、自分が放課後児童支援員(または補助員)としての仕事の意義が見いだせる場所なのだと、思うようになる人がいるのです。

 その結果、こういう図式が生まれると私は考えています。
(何が一番大事で、自分のチカラを注ぎたいと思う対象であるか。言い換えれば忠誠心が向く度合い)
「目の前にいるクラブの子ども≧自分が配属されて勤めているクラブ>自分を雇っている事業主」

 私は、次のようであってほしいと思うのですが。
「自分を雇っている事業主(自分が配属されて勤めているクラブと、そのクラブにいる子どもたち)」 ←分かりにくいでしょうが、児童クラブの子どもや、勤め先の児童クラブは、その事業主、つまり会社に含まれているという概念です。つまり、児童クラブの子どもたちも自分の勤務先も、「事業者があるからこそ、存在している」という理解です。児童クラブの子どもたちは、児童クラブを必要としているからクラブに通って過ごしているのではなくて、児童クラブを必要とする子どもたちに「児童クラブとして機能する場所を提供し、児童クラブとして機能させる職員たちを雇用している組織がある」からこそ児童クラブを利用することができる、ということです。

 児童クラブで働く人たちの意識、「何のために自分のチカラを注ぎたいか、働きたいか」という意識が、目の前の子ども、自分が普段過ごしている児童クラブに向いてしまうということ。これはそのままにしておくと、事業主の信頼を根底から損ねる事態すら招きかねない重病に陥ります。

<児童クラブ職員が忠誠を誓う相手が子どもとクラブだけになったら>
 まず、会社組織が指示すること、掲げることが遂行されにくくなります。もっといえば、「会社(本部、事務局など)がこう言ってきた。それは子どもにとっていいことだな」と思えば実施するし、「会社がこんなことを言ってきた。それは子どもにとってどうだろう」と思ってしまったら、着実に実施されなくなりますし、実施されたとしてもいい加減、手抜きで実施されてしまう可能性が相当程度高くなるでしょう。

 現実に、私は、以前も言及していますが「爆破予告が出ているので行政の指示に従って定時点検を行い、その結果を本部に報告すること」を現場クラブに指示したところ「おやつの提供はこどもにとって大事だから、そっちを優先しました」というクラブが続出したという驚くべき事態に直面しています。まさに、「本部の指示より、子どもたちにとって大事と(自分たちが勝手に盲信)思えることを優先する。それが子どものためなんだ」と、子どもの最善の利益を根本的に取り違えてしまうという児童クラブ職員は、実は少なくないものだと私は疑っていません。この例でいえば、こどもにおやつを出すことが子どもの最善の利益ではなく、子どもの生命身体に影響を及ぼすような事態の早期発見と防止、阻止に尽くすことこそ最善の利益の実現になる、ということが「おやつを食べる時間が遅れたら子どもたちがかわいそう」と思う気持ちに負けてしまっていることが問題なのです。

 他には、業務の効率化に関する意識のずれがありますね。法人組織が考えて導入しようとする業務の効率化は、その目的は間違いない生産性の向上です。どうして生産性の向上が必要かといえば、限られた予算の中でよりより仕事の質と量を実行するため、です。それは同じ予算額であれば以前より質の高い育成支援業務の実施になりますし、同じ時間であっても以前より密度の濃い育成支援業務の実施になります。それは子どものためであり、かつ、働く職員自身のためにも、なります。
ところが業務の効率化には、「今まで行ってきた作業の変革」を必然的にもたらします。今までのやり方を捨てて新たなやり方を学ばねばならない。そこに、「新しいことは覚えたくない」「面倒くさい」という気持ちが起きてしまうと、業務の効率化のために必要な新たな作業がなかなか普及しない、ということになります。これも、自分を雇っている組織、事業主に対する忠誠心、信頼の度合いの低下によるものが影響しているだろうと私は考えています。

 この、児童クラブ職員が「このためだったら一生懸命働きたい」という気持ちが、目の前の子どもたち、自分の勤務先のクラブ(正確には、そのクラブの職場環境だったり職場で引き継がれている仕事の作法、というもの)により強く向いてしまって、事業主や雇用主に向く気持ちが相対的に低下してしまうと、それぞれのクラブ毎に、独自の世界観を持ったクラブが誕生してしまうことになります。Aクラブは、おやつの前に子どもたち全員が、誰もおしゃべりしない沈黙の時間が10秒続かないと「いただきます」ができない、つまりおやつが食べられないという習慣が根付いている一方、隣の学区にあるBクラブは「おやつは、準備ができた生活班から食べていいのよ。子どもたちが全員静まるなんて、普段過ごすクラブの場では必要ないわ」として、準備ができた子どもたちから順次食べ始める、という習慣になっているという、「クラブ毎にそれぞれに確立した児童クラブでの生活様式」が発生し、根付き、受け継がれていくことになります。

 それを、クラブ毎に自由でよろしい、という向きもあるでしょうが、各クラブで自由に行っても良い業務と、クラブが足並みをそろえておくべきこと、いわゆる業務の平準化が必要である業務は確実にあります。子どもの生活習慣をどう根付かせるかという点では、クラブ毎にバラバラでは私は問題が多かろうと考えます。目の前の子どもやクラブに、自分の所属意識、帰依する心が生まれてしまうと、「法人全体」「組織全体」における「自分の属するクラブのあり方、やり方」を意識する気持ちが、薄らいでしまう。これがつまり、同じ法人組織であっても運営するクラブごとにバラバラなことをやっている事態を引き起こす原因だと私は確信しています。そして、そのような状況があちこちにあるということは、裏返せば「会社の言う事より、私は目の前の子どもと、このクラブのやり方を大事にするわ」という児童クラブ職員が多いことの現われでしょう。

<もっと視野を広げよう>
 児童クラブで働く職員が、目の前の子どもや、自分の属するクラブを大事に思うあまり、その思いにそぐわないと判断したら雇用主である会社組織の指示すら、ろくろく実行しない。およそ組織で働く者として考えにくいことですが、児童クラブの世界では不思議ではないのです。これも以前に触れましたが、実はこの構図そのものはこの世の中に大変多い。本社と出先での対立の構図、現場と本部エリートの対立の構図は、ドラマや映画の基本的な構図の1つです。その構図が、児童クラブの世界では、とりわけその存在が法的に、社会的に護られねばならないという無条件の「絶対的な善」として理解されがちな「子ども」を対象としているだけに、より強い構造として現れるのですね。

 これを防ぐには、組織の徹底的な対策が必要です。「あなたたちが、クラブで子どもたちに最適な支援、援助を行うには、組織の指示に従うことが大前提にあること」を徹底的にクラブ職員に理解させねばなりません。効果的な手法はいくつかりますが、いずれにせよ、組織の指示が、客観的に子どもの支援、援助に役立つ要素をしっかりと含んでいるということが前提となります。仮に、「これから子どものおやつは1品でよい。1品を選ぶ基準は単価の安さだ」という指示を事業者がしたとしたなら、「それは本当に問題ないことですか?」とその指示の合理性について説明を求めることは当然あってよいでしょう。

 そのあたりは、職員個人が、しっかりと常識を持って判断できるようにならねばなりません。だから放課後児童支援員については、設備運営基準省令第7条に「健全な心身を有し、豊かな人間性と倫理観を備え、児童福祉事業に熱意のある者であって、できる限り児童福祉事業の理論及び実際について訓練を受けた者でなければならない」と定められているのであろうと、私は個人的に理解しています。

 児童クラブの職員は、目の前の子ども達だけに尽くす存在ではないということ。児童クラブに入所していない子どもたちのことも、児童福祉の枠の中で考える思考の広さが必要です。それがあれば、小1の壁によって児童クラブに入れず、放課後、いつも1人で安全な時間と空間を保障されずに過ごしている子どもたちの存在が、とても気になるはずでしょう。目の前の子どもたちだけがとにかく無事であればいいんだとは、私にとっては残念な思考です。児童虐待についても同様。児童クラブの子どもから、クラブに入っていない子どもについて虐待をうかがわせるような情報が仮に耳に入ってきたら、「クラブの子じゃないから」ではなくて、関係機関に確実に伝えていくという気持ちが当たり前に浮かんでこなければダメですね。
 もちろんこれは児童クラブ職員だけの話ではありません。組織の管理職、経営者についても同じです。経営者(とりわけ、保護者あるいは保護者出身の役員)は、法人組織のために役員として任務を果たす立場の者です。視野を広く持つこと、目の前の存在や同じ立場の仲間だけが楽する、得するような施策しか考えない、決めない、そのような施策しか採用しないということではダメです。私はこの点、プロの経営者ではない保護者理事「だけ」で運営される組織には、今後さらに社会的な責任を拡大して背負っていくべき児童クラブの運営からは淘汰されるべきであろうと考えています。それはまた後日、改めて訴えましょう。

 <おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。8月12日時点で、楽天ブックスなら在庫が14冊あります。在庫が増えてる!何があったんだ! まあでも注文はぜひお急ぎください!アマゾンでも販売しています。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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