盆期間シリーズ:「放課後ビジネス」が花盛り。放課後児童クラブが、放課後ビジネス隆盛の時代で生き残るには?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。盆期間中にじっくり考えたい課題を取り上げてみます。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)を必要とする子育て世帯が増加する中で、いろいろな形態の放課後児童クラブが全国あちこちで誕生し、事業を続けています。今はまさに「放課後ビジネス」真っ盛りです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<放課後ビジネスを定義しよう、これが実にややこしい>
 まず「ビジネス」という単語が示す意味ですが、児童クラブ業界では2つの意味がごちゃ混ぜになって使われているように私には感じられます。「goo辞書」によると、ビジネスには、「仕事。職業。また、事業。商売」とあり、もう1つの意味として「個人的な感情を交えずに利益の追求のみを目的として進める仕事」が挙げられています。私が「学童保育はビジネスだ」という趣旨を訴えると、多くの人から「学童は福祉だ!ビジネスではない!」とお叱りのお言葉をいただきますが、学童保育の本質的な役割は児童福祉法による「放課後児童健全育成事業」であるならば、まさに学童保育とは事業であり、goo辞書にぴったりあてはまります。一方で、私がよく使う「補助金ビジネス」は、goo辞書の2番目の意味である「利益の追求のみを目的として進める仕事」が、あてはまります。この両者はしっかりと区別していきましょう。

 その区別を前提にしていえば、放課後ビジネスにもgoo辞書の示す2つの意味が含まれるといえるでしょう。1つは、放課後児童健全育成事業を忠実、もしくは厳格に解釈して子どもの健全育成と保護者支援を行っている放課後児童クラブであり学童保育所を含む「放課後ビジネス」。「育成支援系放課後ビジネス」とでもいいましょうか。施設を用意、管理し、人を雇って、子ども達を受け入れて子どもと保護者の支援を継続的に行うことで収入を得ている形態です。保護者運営や非営利法人による運営のクラブが当てはまります。
 放課後児童健全育成事業を中心に行うという観点で考えれば、多くの市区町村からクラブ運営を任されることで利益を得る「補助金ビジネス」もまた、この育成支援系放課後ビジネスの枠内に存在しています。補助金は、放課後児童健全育成事業を行うことで交付されますから、放課後児童クラブを多くの施設で運営することで得られる補助金で潤う企業や法人は、育成支援系放課後ビジネス、つまり公の業務のアウトソーシング事業を収益の柱としている、ということです。

 もう1つは、goo辞書の2番目の意味である利益追求を軸にして児童クラブを運営している「放課後ビジネス」です。基本形態は、補助金をあてにせず利用者の支払う月謝や利用料で収入を得ている「民間学童保育所」となるでしょう。利用者を集めるために、利用者の要求、希望をかなえられるサービスを提供します。学習支援(というより学力増進)、英語学習、プログラミング、スポーツ、ダンス、各種アクティビティに、夕食や送迎サービスといった、子どもへのサービスと利便性に関するサービスを充実させる事業形態です。認知能力の向上を目的としている、いわば「認知能力向上系放課後ビジネス」とでもいいましょうか。補助金がないために利用料は育成支援系にくらべ高額です。
(なお、ここでサービスと言う単語を使いましたが、これもまた児童クラブの世界には拒否反応が目立つ単語です。ここでいうサービスとは「役務の提供」という基本的な意味です。児童クラブの単細胞な(おっと失礼)方々がすぐに思い浮かべる、決められた水準以上の役務を無償で提供し相手の歓心を得る、という意味ではございません)

 また、上記2つの「育成支援系」「認知能力向上系」の2つの放課後ビジネスの混合型もあるでしょう。市区町村から放課後児童クラブとして認められており補助金が交付されている児童クラブでには、子ども達へのサービス内容として、英語学習や学習支援(というよりこれも学力増進)などを行う児童クラブが少なからず存在しています。この事業形態は、人口が多い都市部を中心に、いまやごく当たり前に存在しています。これもまた、放課後ビジネスの範ちゅうに入るのでしょう。育成支援系と、認知能力向上系の双方の性質を備えている児童クラブです。
 この混合系も補助金を交付されているので補助金ビジネスと言えなくもないですが、全国各地に進出している、いわゆる広域展開事業者と比べると、各地域に根差した学習塾や英会話教室、スポーツクラブが、事業の拠点とする地域にいわばサイドビジネスとして児童クラブを開設する、という事業者が多いように私には見受けられます。企業の規模としては小さいですが、地元の子育て世帯の「子どもが学童に行っている間に、しっかり勉強や英語を学ばせてほしい」という保護者の要望をうまくすくいあげているようです。(なお、学習支援や体験型にとらわれず、独自の育成支援の理念で子どもの成長を支えるクラブも混合系になるのでしょうが少数派です)

 整理しますと、放課後ビジネスには3つの形態があります。
・育成支援型放課後ビジネス=放課後児童健全育成事業を継続して行う事業形態。なお、補助金で利益を得る業者もいる(補助金ビジネス)
・認知能力向上系放課後ビジネス=いわゆる民間学童保育所。補助金をあてにしないで行っている。都市部で急増中。
・混合系放課後ビジネス=人口が多い都市部で急増中。放課後児童クラブとして市区町村から認められているので補助金を得ているが、事業の内容としては認知能力向上系と大差ない。

<放課後はブルーオーシャンであり、ハッピーアワー>
 放課後児童クラブを必要とする人は年々増えているのはご承知の通りです。
(令和5年=2023年の放課後児童クラブ登録児童数は、1,457,384人。145万7千人です。令和元年=2019年の放課後児童クラブ登録児童数は、1,299,307人。129万9千人です。少子化が絶賛進行中ですが、児童クラブ登録者=入所している人数は、増えています)

 当然、クラブ数、施設数も増えています。公設(公立)民営(=市区町村から補助金の交付がされている)の株式会社による児童クラブは、令和5年が3,109クラブでした。令和元年は1,380クラブでした。いかに、株式会社が運営するクラブが増えているかが分かります。この増加は、主に、育成支援系放課後ビジネスのうち補助金ビジネスを手掛ける広域展開事業者によるクラブと、混合系放課後ビジネスとして学習塾や英会話教室などが設置しているクラブの増加によるものと私は推測しています。

 私が行っている市区町村データーベースでは、混合系放課後ビジネスに含まれる、企業運営による児童クラブが相当数開設されている場所が浮かび上がってきます。滋賀県大津市や愛知県春日井市、神奈川県相模原市はその典型例です。英語教室系の事業者による児童クラブの開所が目立ちます。大津市や春日井市は人口30万人台の大きな都市ですが、国が公表している50人以上の待機児童がいる市区町村の一覧表には含まれていません。相模原市は指定市である人口70万人台の大都市ですが、待機児童は111人(令和5年度)であり、決して評価できませんが、300人を優に超えるさいたま市に比べると少ないですね。これは、混合系放課後ビジネスが多い地域は待機児童の解消や抑制に効果的である可能性があります。例えば埼玉県越谷市は待機児童数328人とワースト5に入りますが、市区町村データーベースによると混合系放課後ビジネスと思われる児童クラブは1つの事業者による施設しかありません。他は社会福祉法人によるクラブがほとんどです。

 放課後児童クラブの待機児童解消は国が相当力を入れています。待機児童解消のために、夏季休業中のみ開所の短期開設児童クラブに新たな補助金を検討したり、正式に撤回したものの入所要件の厳格化が検討されているという報道もあったりしました。今後、待機児童を解消するために、混合系放課後ビジネスのような、地域の英会話教室や学習塾の事業者が相次いで児童クラブを開設する流れはさらに強まるでしょう。待機児童を0人にしたい自治体と、事業活動を拡大したい事業者の思惑が一致しています。むろん、育成支援を行う公設民営の児童クラブや、民設民営でも放課後児童クラブとして補助金を交付される児童クラブも増えるでしょうし、その運営は補助金ビジネスを行う広域展開事業者がどんどんと手掛けていくでしょう。

 放課後児童クラブへのニーズがこのまま高まる限り、放課後は事業者にとって、利益を生む時間帯です。放課後こそブルーオーシャンの世界ですが、利益を生む時間帯ですから「ハッピーアワー」ともいえるでしょう。ハッピーアワーをめぐって、人口がそれなりにある市区町村で、待機児童が出ている、あるいは出そうである地域による、放課後児童クラブの開設をめぐる競争は今後ますます激化していくでしょう。

<その可否は一概に決めつけられない>
 放課後児童クラブが英語力アップを掲げたり学力アップを掲げたりして、しかもそのような児童クラブがあっという間に受け入れ人数上限に達してしまう。それはもちろん保護者のニーズと適合しているからです。就労と子育ての両立が必須である子育て世帯にとって放課後児童クラブは欠かせない社会インフラですが、今はその「選択の基準」が、「入所できればどこでもいい」から、「希望するサービスが提供されている児童クラブに入りたい」に、移りつつあると私は感じます。もちろん、さいたま市のように、待機児童数が300人以上となり、「とにかく待機だけは避けたい」という状況であれば、どこでもいいから入りたい、でしょう。(厳密にいえばさいたま市の場合は、いわゆる公設=福祉事業団運営のクラブにとにかく入りたい、が第一希望)

 しかし児童クラブに関わっている人なら実は知っていることがあります。伝統的な、つまり育成支援系放課後ビジネスの児童クラブは育成支援を重視することとの比較において学習面については宿題程度、としていることがほとんどであり、その内容について昔から保護者の中には「もっと勉強させてください」という要望を持っている人が多いということを。
 その中で、待機児童の解消が声高に叫ばれるようになり市区町村が児童クラブ数を増やさねばならない状況において、市区町村にとっては運営費の補助だけで済む(設置は学習塾や英会話業者がテナントを借りるなどして用意する)混合系放課後ビジネスの児童クラブは、クラブ数を増やすためにはうってつけの方策です。しかも、保護者側の要望、希望に合うような事業内容(=認知能力向上)を掲げる児童クラブなので、通常、そのサービスを行うために別料金を徴収して育成支援系よりは割高になるとしても、保護者の人気を集めるようになっています。これが今、じわじわと進行しているように私にはうかがえます。

 なお、急激に増加している広域展開事業者による公営クラブの民営化ですが、広域展開事業者は自分の資金でクラブ数を増やすこと=固定資産を増やすことは、敬遠しがちです。経常経費が増えるためです。よって待機児童解消には広域展開事業者に運営を任せることは、たいして役立ちません。市区町村が施設を増やすかどうかにかかってきます。こうした面でも、運営費の補助だけで施設数を増やせる混合系放課後ビジネスは、今後さらに市場規模の拡大が間違いなく進んでいくでしょう。地元の学習塾業者や英会話スクールだけではなく大手の学習塾や英会話教室業者も、この混合系での形態による児童クラブの設置を急速に拡大していくでしょう。東京都で検討が進められる「東京都型の認証児童クラブ」も、この方向で進められていくのであろうと私は予想しています。

 育成支援系の児童クラブを運営している側にしてみれば、「あんなのは児童クラブじゃない!学童保育ではない!」と頭に血が上るでしょうが、現実に、保護者が期待しているサービス内容を提供している事業者が歓迎され、歓迎されればその数はどんどん増えていくのです。需要があれば供給があるのが市場主義です。法令によって、「児童クラブというのは、育成支援のみを行う施設である。そのような施設にしか補助金は出さない」という制限でもあれば状況は変わるでしょうが、今の国の方針は待機児童解消です。その方針がある限り、つまり数の問題が解決しない限りは、この状況は変わらないでしょう。

<放課後ビジネス隆盛時代の放課後児童クラブ>
 あえて触れてきませんでしたが、まず一番は、「子どもが、どのようなクラブに行きたいか」を重要視することです。仮に子どもが、英語にたくさん触れたいというのであれば、英会話を強みにしている児童クラブで楽しく過ごせるでしょう。子どもの希望や、保護者からみて我が子がどのような事業内容や雰囲気の児童クラブで過ごすことが適切かどうかを判断して、入所ができる児童クラブが選択できる状態が、理想の到達地点です。
 つまり「育成支援系」があれば「認知能力向上系」があり、かつ増加する「混合系」の放課後児童クラブのうち、保護者が入所できる児童クラブを選択できるような時代です。

 ですがそれはまだ実現できていません。入所先の児童クラブは決められている。そこに入れなければ、民間学童保育所に高額の利用料を支払って入所するか待機児童になるか、が今の多くの地域の現実です。しかしそこに、混合系放課後ビジネスの児童クラブが増えていきます。それは、保護者にとって(子どもにも)選択肢が増えることになるので歓迎するべきことになるのでしょう。
 一方、どんどん増える広域展開事業者。そのはざまで、育成支援系放課後ビジネスの児童クラブはどうしたら持続的かつ安定して事業を続けられるのでしょうか。それを今すぐ真剣に考えるべき時代になっています。育成支援系のクラブが行っている事業内容に「価値」があると社会に理解を広めることがその答えの1つですが、そのために何をなすべきか。そしてもう1つの答えが「事業者の安定性」でしょう。1つの事業者が、育成支援系も混合系も手掛けていくことで利用者を囲い込んでいくことで、収益を安定させることが重要です。つまり、「安定して利益を追求することで、放課後児童健全育成事業を着実に行っていく」という「混合型事業運営」が必要となる、というのが、今回の私の結論です。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。8月14日時点で、楽天ブックスなら在庫がありますし、アマゾンでも取り扱っています。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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