滞納利用料を児童手当から充当する制度は民営事業者の救い。公設民営放課後児童クラブがある自治体は導入を!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の利用料について、あまり表面化することがない「利用料の滞納、未納」問題の解消に参考となる手法を紹介します。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<児童手当から放課後児童クラブ利用料を徴収することはできる?>
 国は可能であると示しています。すでにいくつかの基礎自治体でこの制度を導入しています。インターネットで検索しても、埼玉県ふじみ野市、茨城県小美玉市、宮城県多賀城市などで導入していることが分かります。
 児童手当は法により、権利の譲渡、担保提供、差押えと公課を課すことは例外なく禁止されています。一方、児童手当法第21条、同22条によって、「受給資格者からの申出に基づいて」、学校給食費や保育料の滞納分を児童手当から差し引くことが可能です。これによって、こども家庭庁はホームページで「各市区町村の判断により、手当から保育料を差し引くことが可能です。また、手当を受給している人からの申し出により、学校給食費などを差し引いて児童手当を支給することができます。」と紹介しています。この中でこども家庭庁は「学校給食費など」を例示しているのですが、その部分に放課後児童クラブの利用料と明記があります。つまり児童クラブ利用料も給食費や保育料と同じように、児童手当を受給している人の申請、届出があれば、滞納未納の児童クラブ利用料を差し引くことができるのです。
 (なお過去には、小中学校の給食費の未納を児童手当から差し引くことを決めた自治体にマスコミが疑問を呈し、世論も厳しい批判を浴びせたという事例があったことを私は覚えています)

 愛知県一宮市の場合、クラブ入所に際して「児童手当等に係る放課後児童クラブ利用手数料の支払申出書」を提出の必須書類にしています。この申出書を撤回する場合は、入所の必須書類が揃わないことになるので児童クラブを退会となる仕組みです。この場合、申出書の提出が児童クラブ利用の条件となっており、利用者の任意の提出ではなく事実上の強制ですから法的な部分では議論の余地があるのかもしれません。しかし、児童福祉サービスの提供を受けるための利用料を支払う必要があるのであって、それを当然とすることの前提としての申出書提出ですから、ぎりぎり許される範囲なのでしょう。このあたりは自治体も法務担当に確認しての措置であると考えます。
 児童手当からの徴収を可能としている他の自治体も一宮市と同様に、児童クラブの利用料滞納があった場合は児童手当から「保護者の事前の申出にしたがって」徴収することを申し出る、という書類(申出書)を提出させる手法をとっています。

<児童クラブ利用料滞納は深刻なはずだ>
 児童クラブ利用料の滞納は、ほとんどといっていいですが表で語られません。報道で取り上げられたことを一度もみたことがありません。小中学校の給食費は過去に国の調査があり、ネット検索では、平成28年の調査が見つかります。調査対象の0.9%に滞納があったという結果になっています。これまでの実務経験から感じるわたくしの推測ですが、児童クラブの滞納未納は、徴収方法によって差がありますが、1%前後どころではなく、もっと多いはずだと感じています。3~5%ほどにはなるのではないでしょうか。とはいえ、具体的な金額をなかなか知ることは難しいです。NPO法人であれば計算書類が公開されていますから、それを見ることで把握できる場合がありますが。

 わたくしも以前、児童クラブを運営する団体責任者といろいろ交流を持つ中で、利用料の滞納に悩まされている人と、どうしたら滞納未納を減らせるか、効率的に徴収できるかという話題になったことがあります。わたくしも同様の課題を抱えていましたから、話が尽きなかったことを覚えています。
 しかし、利用料の滞納未納が多いということは、事業運営にしてみれば、なるべく隠しておきたいこと。「運営手法が、まずいからじゃないの?」と思われてしまうことは避けたい気持ちは否定できません。一方で、ビジネス的な観点からは冷静にアプローチすることもできます。つまり「人間なんてしょせんそんなもので、ある程度の損金は仕方がない。とっとと雑損処理」という考え方です。

 利用料滞納未納が深刻なのは、児童クラブ運営における収入の二本柱の一つを揺るがす事態だからです。いうまでもなく児童クラブ運営は「保護者からの利用料」と「国、自治体からの補助金」の2つで成り立っています。常に、ギリギリの財政状況で運営している児童クラブです。運営クラブが数か所の小規模な事業者であれば、わずか数人、たった数万円の滞納未納でも運営に影響します。利用世帯数が増す、比較的大規模な事業者であれば残念ながら滞納未納の世帯数も増えます。ちりも積もれば、ではないですが、年間累計で十数万円、数十万円に及ぶこともあります。

 実費負担分の滞納未納は、クラブの現場における「おやつ購入」「消耗品購入」の円滑な実施を直撃します。どんどん商品の値段が値上がりする中で、多くのクラブ現場は、とても足りないおやつ予算の中であれこれやりくりして子どもたちが楽しんで食べ、栄養的にも偏りがないようなおやつを工夫して購入します。たった数人の、たった数千円の滞納未納ですら、クラブ職員の工夫を台無しにします。

 何よりも、利用料や実費負担分の滞納未納は、「児童クラブにて行われる公共の児童福祉サービス」のタダ乗りです。他の人が支払っているお金でサービスを受けていることになります。モラル的にも許されないことです。

<児童手当からの申出徴収、充当は行うべきだ。ただし個々の具体的状況の調査を欠かさずに>
 わたくしは、いくつかの自治体で行っている、保護者からの申出という形式を踏まえた上での、公設民営児童クラブ利用料の申出徴収、充当には賛成です。ぜひとも、公設民営クラブを設置している自治体に取り入れてほしいと期待します。
 公設民営クラブを運営する事業者は、あくまで「民間企業、民間組織」に過ぎません。支払ってもらっていない利用料を徴収するには、お願いをして理解を得て支払ってもらうことが基本とはいえ、現実的に「のらりくらり」と支払いをなかなかせず、そのまま引っ越してしまったり連絡先を変えてしまったりということが、当たり前にあります。「では、訴えればいいじゃないか」と、事情をあまりご存じではない方から言われることがありますが、その訴える行為にどれだけのコスト(費用と、時間、人数)がかかるのか、理解していないから言えることです。支払督促、少額訴訟にしても、児童クラブ運営事業者はそれほどコストに余裕があるわけではありません。内容証明ひとつとっても、その手間ひまを確保することが難しいぐらい、児童クラブの運営事業者は、組織運営において事務的な処理能力における余力がありません。(また、そのような知識があまり豊富ではない方も多いことも影響します)民事上の対応は、規模がさほど大きくないクラブ運営事業者にとっては負担そのものです。
 私は、内容証明も支払督促も行った経験があります。しかし、それで回収できる滞納未納は、それに費やしたコストとほぼ変わりありません。それでもなぜ実施するのか。それは「公平性」であり「社会責任」です。タダ乗りを放置することは許されません。他の利用者が正しく支払っている利用料をあてにしてサービスをタダ乗りで利用することは、正しく支払っている方々に著しい不公平をもたらします。滞納未納の方に厳しい態度を示すことはしっかりと支払っている方々からの信頼を得る、つなぎとめることだからです。
 クラブ運営事業者が滞納未納のために運営に苦慮する事態は防がねばなりません。子どもたち、保護者が安心してクラブを利用できない不安を与える事だけではなく、安定した児童クラブ利用を提供するという契約上の義務を果たせないということにもなります。

 しかし一方で、児童福祉の世界にある児童クラブですから、福祉の観点を必ず持って滞納未納の事態に対処することが必要です。その滞納未納が、なぜ起こったのか、保護者の状況を把握することが必要です。「保護者のうっかりミスが続いたのか」、「払う必要がないと一方的に思い込む、緩んだ順法意識意識によるもの」なのか、あるいは「本当は払いたいけれど、生活が苦しい」からなのかは、しっかり調査した上で、児童手当からの徴収、充当をするべきでしょう。
 わたくしも、生活が苦しくてクラブ利用料を支払えない、と訴える保護者と数多く面談したことがありますが、「そのライフスタイルをちょっと変えて節約すれば、利用料は確保できるのでは?」と疑問を持ったケースも珍しくありません。個人の生活様式を変えろとまで言える立場ではないので面と向かって言うことはありませんでしたが。
 とはいえ、相対的であろうが貧困がじわじわ広がっているこの時代です。一律に機械的に「滞納、即、児童手当を減額支給」ではなく、その保護者と面談して、子育ての状況や生活状況について、困ったことがあれば相談し、関係機関を相談することの援助を行ったうえで、やむを得ない場合は児童手当からの徴収、充当に進む、という段階を踏まえての対応が必要でしょう。
 また、利用料は常に経済的状況や運営状況を踏まえてその料金額の見直しを行うべきです。当然ながら、児童福祉のサービスですから、補助金を増やすことで保護者の経済的負担を軽減する努力を注ぐべきです。

 なお、メディアは世論は「児童手当から差し引くなんて鬼の所業だ」と表面的なことだけで批判するのではなく、冷静に、個々の状況を判断した上で対応していることについて理解をもって判断することが必要です。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。

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