残念ながら、またしても放課後児童クラブで、子どもへの性犯罪事案の報道がありました。事業者の説明責任は?
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)における不祥事事案、ことに子どもや職員が被害に遭う事案については報道され次第、当ブログでも取り上げます。今回はまたしても残念な、子どもが性被害に遭ったとされる事案の報道がありました。運営支援ブログは事業者の姿勢を強く問います。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<報道から>
まずは事業者は被害に遭われたお子さんへのフォローを徹底しておこなっていただきたい。治療やカウンセリングが必要となればそれにしっかりと向き合っていただきたい。子どもの受けた被害はいかばかりか。被疑者個人の問題と矮小化せずに、当然ながら使用者責任があるのですから事業者は誠心誠意、事態に向き合う必要があります。
この事案を報道した記事はインターネットで2件、見かけました。それぞれ伝えている事実関係が微妙に異なっているので、同じ事案を伝える記事はもれなく確認することを勧めます。
それでは、ヤフーでも配信されている、RKB毎日放送が11月20日15時4分に配信した「娘が性被害に遭った」放課後児童クラブ利用者の父親が通報して発覚 当時職員だった25歳の男を不同意わいせつ疑いで逮捕」の見出しの記事を一部引用します。
「今年5月から10月にかけ福岡県飯塚市にある「放課後児童クラブ」の施設で複数回にわたり女子児童の胸や下半身をさわったとして当時職員だった25歳の男が逮捕されました。」
「10月に女子児童の父親が、「娘が性被害に遭った」と警察に通報して事件が発覚。」
「警察は、放課後児童クラブの別の児童に対する同様の事件の有無など余罪についても調べています。」
また、KBC九州朝日放送も11月20日15時15分に「児童クラブで小学生女児に”わいせつ”当時職員の男を逮捕」という見出しの記事を配信していました。記事の一部を引用します。
「ことし5月上旬から10月までに当時職員として勤務していた飯塚市にある放課後の児童クラブなどで、利用していた小学生の女の子の胸や下半身を触るわいせつな行為を複数回した疑いがもたれています。10月16日に女の子の父親から「娘が性被害にあった」と警察署に相談があり、事件が発覚しました。」
「女の子と二人きりになれるタイミングを狙って犯行に及んだとみられていて警察は、当時の状況や余罪についても調べています。」
まず申し上げておきますが、逮捕された、逮捕されて報道されたからといって、その者、つまり被疑者が「事実としてその逮捕容疑の犯罪を行った」ということが確定したことではないことは、指摘しておきます。
さてこの2つの記事で私が気になったことは次の点です。
・時期。今年5月から10月という半年の間に繰り返し容疑となる行為があった可能性。
・発覚の経緯。端緒。父親である。職場では気が付かなかったのか。
・被害児童と2人きりになれるタイミングで容疑となる行為があったのか。
・当時職員だった、という記載。雇用していた組織、法人、行政の対応はどうだったのか。
<どうして気になるのか>
上記4点について私の意見を率直に記します。
・時期について。今年5月から10月です。いわゆる日本版DBSを盛り込んだ通称「こども性暴力防止法」は今年6月に成立しました。放課後児童クラブは認定事業者としての扱いになる、等の報道の内容は、児童クラブの職員で日ごろから自らの知識の研鑽に熱心なものであれば、当然、知っていたでしょう。いわば、子どもへの性暴力をどう防いでいくかについて問題意識を高めておらねばならないこの時期を含めて、被疑者が、子どもへの性加害を行っていたことが事実であれば、運営支援としては本当に残念でならない。
事業者は、職員に対して、日本版DBSについて、子どもへの性加害の問題について、何も注意喚起、啓蒙をしていなかったのでしょうか。わたしのまったく個人的な感想(このブログがそもそも、そうですが)ですが、児童クラブで働く職員は正規職員であっても、子どもの保育や育成支援については熱心ですがそれ以外のこと、特にニュースで伝えられる社会情勢や政治、経済の動きについてはほとんど興味がない人が多いと感じます。はっきりいって「常識を知らない」方が多い。よく児童クラブからは「専門性があるのにこんなひどい待遇」という恨み節が上がりますが、専門性は常識、教養が備わったその上に成り立つもの。この報道のように、日本版DBSについてまさに世間が話題にしていた時期に子どもへの性加害を行っていたことが事実であるなら、たった1人のふるまいであっても、世間は「児童クラブの世界は、ろくでもない人間がやっぱり多いんだな。そんな世界の給料なんて最低賃金で十分だ」という認識に落ち着きますよ。
・発覚の経緯について。保護者であることには違和感がありません。保護者がお子さんから何らかの状況で知ることとなり警察に通報したことは親であるなら当然です。私が気になるのは、事業者は、半年間に及んで行われた可能性がある被疑容疑を、まったく気づくことがなかったのか、少しでも気になることがなかったのか、ということです。
気づかなかったから保護者が先に気付いて通報したのですが、被疑容疑に関わった職員に対し、事業者は、どのような印象を持っていたのか。同僚職員、同じクラブにて勤務していた者は、何ら疑念や不審な感じを抱かなかったのか。もし、まったく事業者が不審な点に気付くことが無かったとするならば、後述する早期発見行動がなされていなかったのでしょう。
・被害児童と2人きりになれるタイミングで被疑容疑がなされていた可能性が記事で触れられています。私が提唱している早期発見行動は、職員が特定の児童と2人だけになる機会が繰り返されることについて他の職員が「なにか、事情があるのではないか」として調べることを重要な要素として含んでいます。客観的に見て合理的な必然性がないのに職員が特定の児童と2人きりになることが繰り返されることは、児童クラブにおいては、ないはずです。しかも、2人きりになる合理的な理由というものが実はなかなかありえない。よって、同じ職員が同じ児童と繰り返し2人きりになる状況が確認されたならば、直ちに事業者はその背景を調べるべきです。
仮に、職員が特定の児童と2人きりになる状況が繰り返されていることに「見ていても、見かけていても、それが問題であるとの意識が向かなかった」のであれば、早期発見行動の重要性が理解されていませんし、「他の職員の誰もが、職員が特定の児童と2人きりになっていることを見かけなかった」ということであれば、「職員の目による監視、チェック」において死角が生じていたということです。それは、不適切な行動を誘引しかねない環境が存在したということであり、事業者の姿勢、問題を追及せねばなりません。
・当時職員だったという記載。これは想像するに、10月に保護者から警察に通報があり、ほぼ同時期に事業者にもこの問題が伝えられたでしょう。事業者は当然、この職員に対して何らかの行動をとります。今回は雇用関係の解消だったのでしょう。確かに、どの事業者でも、逮捕されるような事案を起こした職員を懲戒解雇するような規定は設けているでしょう。
しかし、私は言いたい。逮捕される前に雇用関係を解消しておけば、逮捕されたとしてもその時点では「元」職員として報道されるだろう。事業者側がそう思っているならば、社会的な責任を少しでも軽くしようという悪あがきです。雇用していた職員が逮捕されるような事案を起こしてしまったならば、事業者としてもその責任に向き合っていただきたい。本来なら裁判所で判決が出されるまでですが、少なくとも起訴まで、せめて逮捕されるまでは社内処分の確定は見送るべきです。逮捕される前にクビにする、解雇する、あるいは自主的に退職してもらうというのは、事業者として「逃げたい」気持ちしか見えません。その姿勢であれば、到底、「どうして被疑容疑が行われたのか」「児童への人権侵害が行われる素地がどこにあったのか」「どうして我々は事態に気付かなかったのか」等という、事業者が自身を厳しくチェックする姿勢からも逃げたいという気持ちが大いにあるとしか、私には思えません。事態に真摯に向き合っていない、と思われても仕方がありません。少なくともまずは事業者が、おわびの声明を社会に向けて発信するべきです。
<原因と究明、再発防止策の公表を。早期発見行動の理解と実践を>
飯塚市は市内の放課後児童クラブを一括してNPO法人が運営しているように見えます。その事業者の今回の事案に対する見解の表明はなされているのでしょうか。使用者責任があるのですから、事業者としての謝罪や、どうしてこのような事案が起きたのかについて、しっかりと調べて改善することが必要です。第三者による調査委員会や再発防止委員会、改善委員会のような機関の設置とその活動内容の公表が必要でしょう。
行政当局も同様です。事業者に任せてあるから、ではありません。公の事業であるのですから行政も管理監督の責任があります。事業者を指導し、事業者と一緒になってこの事態に向き合い、二度とこのような事案を起こさないようにするために必要なことに取り組むべきです。
そして当ブログが再三再四、呼び掛けている「早期発見行動」の理解と実践こそ必要です。過去にも記載していますので詳細は繰り返しませんが、事業者が事案の発生を予防し、仮に事案が起きているならそれに速やかに気付くこと、その体制を整えることです。
事案を起こした者はもちろん事実であれば罪を償うことは当然。しかし事業者が「あれは個人のことで」と、自らの落ち度を認めようとしないならば、それもまた、児童クラブの業界の健全な発達には悪影響しかありません。たった1人の非道な振る舞いが業界全体の評価を貶める。その回復には業界が真摯に取り組むべきです。例えば来年の全国学童保育研究集会は福岡で開催のようですね。その際に、この事案への対応と信頼回復、そして人権侵害を起こさないための組織づくりにどう取り組んだのかを報告するのであれば、それは、児童クラブ業界としての健全性の現れになります。そういう覚悟を、この児童クラブの世界は持っていますか。持っているなら、はっきりと社会に示すべきです。
残念ながら起きてしまったことに対して、時間が早く過ぎ去って世間の記憶が薄らいでほしい、ではありません。どうしてそのようなことが起きる余地があったのか、起きてしまったことに気が付かなかったのか、今後にそのようなことを起こさないために取り組むべきことはなにか、そして実際に今、取り組み始めたことはこういうことだ、について、きちんと社会に伝えるべきです。
それができない世界、業界なら、税金をつぎ込んで維持する必要がありません。児童クラブの世界は事の重大性に向き合っていただきたい。私は強く求めます。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。
(萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!)
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中で、ほぼ完成しました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子だけを描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)