東京都世田谷区の学童クラブでの児童虐待事案。クラブの職員に求められるはずの継続的なこどもとの関わりの点で問題はなかったのか?

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く、成長ストーリーであり人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
 また残念な報道がありました。東京都世田谷区の放課後児童クラブで職員がこどもの顔を蹴ったとして、虐待行為に当たると区が謝罪したという内容です。とんでもない事案ですが、運営支援が気になるのは、職員とこどもとの関わり方です。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<報道から>
 この世田谷区の事案ですが、NHKの関東ローカル放送で報じられていたのをわたし(萩原)は見ました。インターネット配信でも数社が報道しています。
 読売新聞オンラインが2025年9月4日5時に配信した「世田谷区の保育園と学童クラブで8月に虐待…園児は前歯折るけが、児童も負傷」との見出しの記事を一部引用します。
「区運営の学童クラブでも同月、職員の足が顔に当たった児童が負傷する事案があり、区はいずれも身体的虐待と認定し、保護者に謝罪した。」
「区立小学校内の学童クラブでは8月21日、児童が室内のパーティションの下から顔をのぞかせていたところ、近くにいた男性派遣職員の右足が当たり、下唇に切り傷を負った。職員は「足を振ったら顔に当たった」などと話したという。児童の顔の位置を把握していたとも説明しており、区は故意に足を当てたと判断した。」

 ヤフーニュースが9月4日19時9分に配信した、日テレNEWS NNNの「保育園と学童クラブで虐待事案 前歯2本折れた園児も 東京・世田谷区」の見出しの記事を一部引用して紹介します。
「区内の学童クラブでは、先月21日、清掃中の男性の派遣職員が、仕切りの隙間からのぞくなどした児童に対し、「イライラした」という理由で足を振り、児童の顔に当たって、下唇などから出血しました。」

 NHKが9月4日14時50分に配信した「東京 世田谷区 保育園と学童クラブで虐待 区が保護者に謝罪」との見出しの記事を一部引用します。
「8月、東京 世田谷区の保育園と小学校の学童クラブで虐待事案があったとして、区は、それぞれの保護者に謝罪しました。」
「8月21日には区立小学校の学童クラブで、男性の派遣職員がパーティションを立てて掃除していたところ、児童の1人が下からのぞいてきたことから足を振り、パーティション越しに児童の顔に当たって唇を切るけがを負わせたということです。派遣職員は「同じようなことが続いてイライラしてしまった」と話しているということです。」
(引用ここまで)

<運営支援が気になったのは>
 当たり前ですが、児童に暴力をふるった職員の行動は許せません。謝罪は当然として必要な責任を負わねばなりませんし、世田谷区としてもしっかりと個人の行為に関して責任を追及してください。

 わたくしが気になったのは職員が派遣職員であったことです。児童クラブにて派遣職員の受け入れ、派遣の活用は珍しくありません。わたくしが行っていた「全国市区町村データーベース」の資料調査中でも、クラブ職員を募集して派遣する事業者の求人広告はごく普通にありました。公営クラブへの派遣に関する求人広告をよく目にしました。まして今は派遣労働者よりも、もっと短時間、細切れの時間で児童クラブに従事するスポットワークによる労働者(スポットワーカー、いわゆるスキマバイト)ですら、児童クラブで活用されてしまっている時代です。

 しかし、放課後児童クラブの運営において標準的な仕様であるとされる「放課後児童クラブ運営指針」には、「こどもとの安定的、継続的な関わりが重要であるため、放課後児童支援員の雇用に当たっては、長期的に安定した形態とすることが求められる。」と記されています。(第4章 放課後児童クラブの運営 1.職員体制の(3))

 派遣職員が直ちにこどもと継続的な関わりが持てていないとは断言できません。2025年4月からクラブで業務に従事していた者かもしれません。時期が夏休み期間中であると思われることから夏休みの間の短期的な職員だったかもしれません。そのあたりは報道だけでは分かりません。ただ、世田谷区が派遣職員を児童クラブの運営事業者が活用していたことを事前に承知していたのかどうかが、運営支援にとってとても気になるのです。

<派遣職員の活用に頼らざるを得ない構造の改善を>
 運営指針に、放課後児童支援員の雇用に関しては「長期的に安定した形態」が求められると記されている以上、職員配置基準に関わる有資格者である放課後児童支援員については、派遣職員やスポットワーカーの活用は、運営支援としては反対です。補助員については派遣職員の活用をまったく排除することまでは求めないとしても、補助員であっても例えばフルタイム勤務が必要であってこどもと関わることが業務としてその児童クラブにおいて定められているのであれば、放課後児童支援員ではなくても、こどもとの継続的な関わりを重視する観点から、やはり派遣職員の活用は控えることが望ましいと運営支援は考えます。ましてスポットワーカーにおいては、こどもと関わる業務に従事するのであれば、活用するべきではないと運営支援は考えます。

 読売新聞の記事では「区運営」とあります。世田谷区は公設公営のクラブと民設民営クラブがあり、公設公営は放課後全児童対策事業、いわゆる全児童対策事業で、「新BOP」との名称です。世田谷区は児童クラブを「学童クラブ」と呼称しているので報道も学童クラブの名称を使用しているのでしょう。世田谷区のホームページには「新BOP学童クラブ」として事業の紹介がされています。

 インターネットでの、新BOP勤務の派遣職員は時給1,900円や2,000円で求人広告が出ています。東京都の最低賃金は2025年10月2日までは1,163円ですから最低賃金ははるかに上回る時給額です。世田谷区はHPで学童クラブの会計年度任用職員の募集記事を掲載していますが、その中で最も時給が高いのは「指導員A 報酬月額214,119円」であって、1日6時間月20日勤務が原則である旨の記載がありますから、時給換算では1,784円になります。都内ではなかなか人が集まらない時給額だと私には感じられます。

 ただ、民間事業者は時給1,900円や2,000円で派遣職員を募集しているのです。派遣職員が従事していて事案を起こしたのですから、1,900円や2,000円の時給であれば派遣職員として働くことを希望する人がいるわけです。だったら、世田谷区も、最初から会計年度任用職員の時給をもっと上げればよい、だけの話です。そもそも派遣職員を活用するには派遣会社へのマージンが必要ですから、時給1,900円の職員を派遣で集めるとしたら、それ以上の時給換算額の費用を区は派遣会社に支払うことになります。その分を含めて人件費として用意できるのであれば、区が直接、その分を上乗せした時給額で職員を募集すればよろしい。であれば、派遣職員に頼ることなく職員を直接雇用できるのですから。

 直接雇用であっても会計年度任用職員ですから有期雇用であってその限りでは派遣職員と同じです。ただし直接雇用として職員の研修や教育は区がしっかり行うことができるでしょうし、長期的なこどもとの関わりも任用期間中の限りにおいてしっかりと向き合うことができるでしょう。

 「職員が集まらない。たぶん時給が安いから。背に腹は代えられないから派遣職員を頼もう」ではなくて、派遣職員を頼む際に生じる割高なコストを、直接雇用の際の時給額に乗っければいいだけの話です。その上で、例えばより職員の人数が必要となるイベントやごく短期間において派遣職員を利用するということです。夏休み期間中は1カ月や1か月半ですが、朝から夜まで、こどもとの関わりが必要であることを考えると、派遣職員の活用は慎重になるべきでしょう。

<研修は?>
 現に派遣やスポットワーカーを利用せざるを得ない事業者もあるのは事実です。運営支援は理想論ばっかりだとよく読者様にお𠮟りを受けますが、現実的に、きょう、あす、来週に派遣職員やスポットワーカーを頼まなければとても児童クラブを開所できないクラブがあります。構造を変えるのは時間がかかるので、現に今、どのように対応するべきかもまた合わせて考えなければなりませんね。

 今回の世田谷区の事案は「同じようなことが続いてイライラしてしまった」と報道で伝えられています。こどもが掃除の邪魔をしたのでしょうか。はっきりいえば「児童クラブでは、ありえること」です。理由は様々ですが、こどもがクラブ職員の業務を結果的に邪魔する、妨げることは、あります。そういう場合に職員はどのように対応するか。それこそ、事前に児童クラブの業務に就く前に、雇う側、使用者側がしっかりと教育、研修するべきです。また職に就いた後でも定期的に研修をするべきですし、クラブの管理職的な職員であれば、派遣職員やスポットワーカーに対して気づいた都度、注意や指導を重ねるべきです。

 そうした教育、研修の態勢は、世田谷区はどのように考えていたのでしょうか。

 あえて言いますが、こどもの行動に大人がイライラすることは当然にあります。こどもの人間としての尊厳は絶対的に護らねばなりませんし、人権を侵害してはなりません。それとは別に、「うう、それをするか!」と腹立たしくなることは、そりゃあります。こどもは神様ではありませんから。人間ですから。ただし、だからといって職員が足で顔の部分を蹴るということは、絶対に許せません。口頭で、丁寧にしかしきっちりと指導する、注意するという当然の対応を当たり前に行うよう、どんな立場の職員であっても研修等で学ばねばなりませんし、雇う側は教え込まねばなりません。

 派遣職員の活用を知らなかったとは考えにくいのですが、派遣職員に対する教育研修について世田谷区はどのように考えていたのか、どのような考え方を基に教育研修を行っていたのかが、運営支援はとても気になります。まさか、説明書面を1枚渡して「こんなことはしないでください」だけで済ませていたことではないように願います。こどもとの関わりは紙っぺら1枚や数枚で説明できるほど、薄っぺらい業務、任務、責務ではございませんので。

 「なんで、この子は、いつも自分の掃除を邪魔するんだろう? この子は何を考えているんだろう、どんな思いを抱いているのだろう」
 このことを即座に考えられるように職員を育て上げるのが児童クラブの職員に対する教育研修です。そこを世田谷区はどこまで真剣に理解していたのか。運営支援にはちょっと不安が残るところです。人が他人の顔あたりを蹴り飛ばすなんて残酷なことはそうそうできるはずがありませんから。

 派遣職員やスポットワーカーだけではなく、直接雇用しているすべての職員に、教育研修をしっかり行ってください。人が人を支える児童クラブです。うまくいくもいかないも、最後は、児童クラブを支える人(現場の職員と、運営に従事する職員、役員)の資質によって左右されるのです。
 
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

投稿者プロフィール

萩原和也