東京都が検討中の「放課後児童クラブの独自認証制度」。利便性の向上は歓迎ですが、働く職員の処遇を最優先に!
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。東京都の子育て支援に関する新たな方針が相次いで打ち出されています。全市区町村での給食の完全無償化に、第1子の保育料も無償化です。ますます東京都に人口が集まりそうですが、放課後児童クラブに関しても都は新たな可能性を広げるために新たな児童クラブの制度を設計中で、着々と健闘を積み重ねています。先日、その一端が報道されましたので紹介します。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<保護者は大歓迎するに間違いない>
東京都は、新たな認証学童クラブ制度創設に向けて検討を進めています。すでに平成22年度から「都型学童クラブ」として独自に補助金を上乗せして利便性向上のサービス拡大を行うクラブを増やしていますが、都はさらにそれをパワーアップさせるというのです。今年8月1日に「東京都認証学童クラブ制度創設に向けた専門委員会」の第1回会合を開催し、これまで4回の専門委員会が開催されました。都のHPに資料や過去の議事録要旨が公開されています。
先日、日本経済新聞がこの進捗状況について報道しました。有料記事ですのでご注意願いますが、11月29日15時に公開された、「東京都の学童保育、長期休みに昼食提供 認証要件に」との見出しの記事のリード部分を紹介します。
「東京都は2025年度から始める学童保育の独自の認証制度で、長期休暇時の昼食提供や授業のない日の11時間運営を要件とする方針だ。国の基準を上回る要件を設け、質を高める。認証取得の学童保育に運営費などの補助を上乗せする。民間の参入を促し、待機児童の削減につなげる。」(引用ここまで)
この記事によると、新型認証クラブに課せられる認証要件は次の通りとされています。
・平日は午後7時まで開所していること。(注:現在の都型クラブも同じ)
・学校休業日は、午前8時から午後7時まで開所すること。(注:現在の都型クラブも同じ)
・開所日数は日曜、祝日、年末年始を除く毎日。(注:現在の都型クラブも同じ)
・夏休みなどに昼食提供。
・1クラス40人定員。(注:現在の都型クラブは上限70人)
これは、児童クラブを利用する都内の保護者は大歓迎でしょう。今も都内のクラブは午後6時や午後6時30分で閉所する施設が案外多いのです。昼食提供は各地で始まったばかりです。さすがに土曜日を閉所しているクラブはほとんど見られないようですが、大規模のクラブは当たり前のように存在しています。保護者にとっては、朝の開所時刻がまだ遅いとしても、午後7時までの開所と、「夏休みの弁当の壁」が無くなるのは、大歓迎されることでしょう。
<物足りない点、不安点、懸念点もまだある>
物足りないのは、学校の授業が無い日の開所時刻が午前8時から、となっていることです。もちろんこの時刻より前に開所することは妨げられないでしょうし推奨もされるでしょうが、せっかく新しい制度を始めるのですから、制度の構造として「午前7時30分から」とすればいいのではないでしょうか。
午前8時開所が基本だけれど「別料金で」午前7時30分から開所しますね、という「オプションサービスビジネス」は、必要不可欠な児童福祉サービスの分野においては、止めていただきたいものです。
都のHPには、この新型認証クラブの先行実施事業として八王子市の施設で行った朝の居場所確保のための早朝開所について報告されています。午前7時30分開所による効果を探ったわけですが、大変好評だったと報告されています。しかし、午前7時30分は、私にいわせれば格別、早朝ではありません。普通の開所です。「早朝」というなら午前7時開所で先行実施してその効果を調べるべきでしょう。
日曜日は閉所と制度で固定しまうのも不安です。日曜日でも働いている子育て世帯は、ごまんとあるでしょう。制度のたてつけで日曜日は閉所としてしまうと、日曜日に子育て支援サービスを利用したい世帯の希望を完全に打ち砕くことになりませんか。日曜日開所も推進する、推奨するとしてこそ、新しい児童クラブのあり方です。平日は留守番させないけれど日曜日は留守番させる、という構図はそろそろ無くしましょう。
懸念点は、この新型認証クラブについて、利便性向上が最優先事項で進められているのではないかと思えることです。公表されている議事録では、委員会の委員から、職員の処遇を向上させることが重要だという意見は出されています。定員が40人とされていることも一定の成果でしょう。児童1人あたりの面積を1.65平方メートル以上にしたいという意見も出されています。
しかし結局は、まずは利便性向上が真っ先に打ち出されている格好です。
利便性向上は大事です。新型認証クラブの開所時間が最低11時間あること、昼食提供を必須とすることは評価しますが、それらの事業を実際に遂行する人の処遇がより良いものでないと、これらの事業の質を高い水準で遂行できる優れた人材の確保が困難になるでしょう。ギリギリの賃金水準でなんとか働く人を確保できる程度の体制では、子どもの支援に関する業務が高い水準で実施できるとは、とても思えません。
この新型認証クラブは当然、民間企業が展開することになります。民間企業運営クラブで働く職員の賃金はあくまでその企業内部の問題ですが、この新型認証クラブには、通常の国の補助金に比べ、東京都がさらに補助金を上乗せして事業者に交付されるはずです。現在の都型クラブと同等の補助金上乗せがあるでしょう。都税を納める都民は、自分たちが納める税金の使い方について興味関心を持ち、有効に使っていただきたいと声を上げていくべきでしょう。
つまり、補助金を交付されている事業者が民間企業であっても遠慮なく、その使い道に一定の制約を持たせるべきだと考えてほしいのです。事業者の規模や法人の形態も様々ですから、正規職員の賃金水準を固定の額以上とするということを決めることは困難としても、例えば、賃金構造基本統計調査による保育士の賃金水準を参考にそれを上回るよう努力すること、という目標を掲げることはできるでしょう。そして、その努力が見られない事業者は、3年ないし5年での選考替えで外せばいいのです。
賃金水準だけでなく職員数も、はっきりと目安として掲げてほしいですね。これまでの議事録では常勤職員3人以上を求める意見も記載されています。児童数40人が上限となっていることは評価できますが、それは職員数を現行の2人(うち1人は補助員可)という最低過ぎる水準で抑えるためであったはこまります。児童数40人であれば最低4人(ただし、おやつを自施設で調理するときには別途2人)が必要で、まあまあおちついて子どもの支援、援助を行うには児童数40人で職員6人が必要です。現場で落ち着いて子どもの支援、援助を行うには職員8人が必要だ、というのが私のこれまでの経験値です。児童数40人なら、週所定労働時間35時間程度以上の常勤職員3人、週所定労働時間30時間程度以上の準常勤職員2人、週所定労働時間30時間未満の非常勤職員3人の計8人の職員配置が望ましいと、新型認証クラブの職員配置基準として掲げていただきたい。
小学6年生まで受け入れる、ということも明記してほしいものです。東京都内は小学4年生前後までしか受け入れない地域は実に多いのです。それは新1年生を受け入れるために上の学年をクラブから追い出さないと収容できる人数が確保できないからです。それはもうやめましょう。小学6年生だって児童クラブが必要な世帯は、必要なのです。都はそれなりに予算を投じて新型認証クラブの整備に乗り出すのですから、この小学6年生までの受け入れを義務とすると必ず児童数が増えるとしてもそれに対応できるだけの予算を投じればいいのです。
そして利用料への配慮が必要です。現在の都型クラブは、例えば二十三区内にある一般的な施設の場合、週5日の利用料が3万円前後となります。入会金も数万円程度必要な施設が多いようです。これでは、気軽に利用できません。オプションサービスは自由にあってもいいと私は考えますが、基本的なサービスについては一般の公設クラブと同等の料金に抑えるべきです。
これは現行の都型学童クラブにも適用されるべき考え方です。現在は、それなりに収入がある人しか利用できず、結果的に、小学4年生以上になって児童クラブが必要な世帯の場合、その世帯収入の多寡に寄って受けられる児童福祉サービスに差が生じる事態を招いています。「居場所確保」という基本的なサービスが収入の多寡で受けられる、受けられない事態は絶対に避けるべきです。この点、東京都の考え方には修正が必要でしょう。
<日経新聞が報じた意味>
この、新型認証クラブについて詳細な内容を報じたメディアが朝日新聞やNHKではなく、日本経済新聞ということに私は注目しました。この新型認証クラブは大前提として、企業の参入を求めています。企業が労働集約型産業である児童クラブに算入するうま味は、「安定した利益が確保できること」です。1施設当たりの純利益額は低くとも、「事業の当たり外れ」が無い商売は、経営者にとって本当にありがたい。商品を作って売る商売は、ヒットする、コケる、それによって利益の額が天と地ほど異なります。売れると思ってたくさん生産しても売れずに倉庫に在庫の山で大赤字、ということは児童クラブの商売ではありえないのです。大化けしてジャンジャン稼げる商売ではないけれど、よほどのことがない限り赤字にならない。日経新聞が報じたということは企業に「さあ、今こそ児童クラブ運営に算入する絶好機だぞ」と告げているということです。
その「よほどのことが起きない」という安心感こそ、都による補助金の上乗せです。私に言わせれば、定員40人となる以上、利用料(保護者負担金)による収入はほとんど期待できません。ゆえに、もともと都が補助金をたくさん上乗せする制度のたてつけになるのだから、制度設計の際に、新型認証クラブ事業の高い質的水準を維持するために、職員の賃金水準を高くし、かつ、職員数の配置基準も高めに設定すること、この、2つの人件費拡大要素をあえて盛り込んでほしいのです。いいじゃないですか、都は財政に余裕があるのですから、せめて都の新型認証クラブの職員が「この職場でよかった」と思える職場にしてほしいのです。
<その他>
東京都の動向は他の道府県もある程度は参考とすることになるでしょう。神奈川、埼玉、千葉は特に気になるでしょう。しかし財政基盤が決定的に異なるので新型認証クラブのような制度は他の道府県では導入はまず無理。無理であっても、都が、保護者への利便性向上を掲げて児童クラブを展開することはまったく無視できないものになるでしょうし、国もまた、都の動向を注視しながら今後の施策の方向性を考えることになるでしょうし、そうなってほしいものです。
特に受け入れ時間を拡大することに児童クラブの世界から懸念、反対の声がくすぶるでしょう。「そんなに長い時間、子どもをクラブで受け入れるより親子で過ごす時間を長くできる社会にするべきだ」という声ですね。また、「そんなに長い時間、働けないよ」という声もあるでしょう。視野が狭すぎます。育児時短の制度はそれはそれで進められるべきなのは言うまでもありません。「いま、困っている人を救う」ことに政治の価値があります。また、「自らの意思で長い時間働きたい保護者を支える」ことも必要です。児童クラブの開所時間が長くなったら、それだけ従事する人を増やせればいい、増やそうとしても求人応募者が集まる程度のそれなりに高い雇用労働条件にすればいいのです。どうして「自分だけが」朝から夜まで働かなければならないとすぐに考えるのでしょう。児童クラブの職員の人たちは、なんだかんだで多くの場合において「自分が」という考え方に固執しがちなのが、私には理解できません。多くの人が機能を分担して組織として事業を遂行できるという考え方ではなく、常に個人商売の延長で仕事のことを考えてしまう人が多いのも、そろそろ打ち止めにしましょう。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中で、ほぼ完成しました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子だけを描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)