来春、子どもの小学校入学と同時に放課後児童クラブの利用を考えている保護者さんは、小1の壁&行き渋り対策を!
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。9月も半ばになりました。来春、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)にお子さんを入所させなければ生活が成り立たないという子育て世帯は児童クラブの確実な入所に向けて、もう準備を進めていますか?「小1の壁」「行き渋り」は強敵です。少しでも対策を考えましょう。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<入所手続きは早ければ10月から>
放課後児童クラブの入所手続きについて、「〇月〇日から始まります」という案内が始まる時期になりました。来年の春、児童クラブに子どもを入所させないと生活が成り立たない世帯は準備を進めていることでしょうが、もしまだ何も準備をしていないなら、すぐに準備にとりかかりましょう。
待機児童という言葉がありますが、かつては保育所、保育園に入れなかった子どもの数を指して使われることがほとんどでした。保育所の整備が急速に進んで、今や待機児童と言えば、保育所に入れなかった人数より放課後児童クラブに入所できない子どもの数の方が数倍も多くなっています。いま、待機児童といえば、児童クラブの問題です。つまりそれだけ、児童クラブの入所が難しくなっているともいえます。
児童クラブは市区町村ごとにその方式がまったく異なります。隣の市区町村と同じ、ということはまずありません。よって、違う市区町村に住んでいる職場の同僚から聞いた児童クラブの手続きの話はまったく参考になりません。まずは、かならず、地元の市区町村の市役所・役場のホームページを確認しましょう。実は結構な数の市区町村が、「入所手続などはクラブに問い合わせてください」とホームページに記載しています。その場合は、自分の子どもが入所できる地域にある児童クラブや、クラブの運営事業者に問い合わせなければなりません。面倒くさがって後回しにしていると、あっという間に入所手続き受付期間となってしまいますよ。問い合わせの時は、「待機児童が出る可能性がありますか?」と必ず聞いてください。
入所手続きは早ければ10月から始まります。およそ11月から12月が多いですが、注意が必要なのは、市区町村によって入所受付期間が1週間や2週間の短期間で終わってしまう場合があります。その間に必要な書類をそろえるのも大変です。繰り返しますが、来春、お子さんを児童クラブに入所させないと子育て生活が成り立たない世帯は、ただちに情報収集を開始して、入所に必要な書類をそろえる準備をしましょう。HPの確認、地元の市役所・役場への問い合わせ、クラブやクラブ運営事業者への問い合わせから始まり、「入所申請書類の入手」と進みます。今はHPからダウンロードできる市区町村が増えてきました。それも確認するために必ずHPにはアクセスしましょう。
入所申請が早ければ入所に有利となる、という早い者勝ちではないですが、なるべく早く入所書類は提出しましょう。入所書類の提出もオンラインで可能という市区町村もどんどん増えています。以前は、書類を提出するために仕事を早退する、年休を取るという手間がかかっていましたが、スマホ1つで入所申請できる市区町村が増えてきているのでその点において保護者の負担はだいぶ減りつつありますね。
一方、いまだ大変なのは入所申請に必要な書類をそろえること。特に、ほとんどすべての市区町村で、児童クラブの入所要件となっている「保護者や同居親類の就労証明」は。入手するまでに結構な時間がかかります。これは保護者や祖父母が自分の勤務先に作成してもらう書類ですが、企業によっては半月ほどかかる場合もあるようですから、この書類の作成を考えると、今すぐ、作成を依頼してもいいでしょう。およそこの手の書類は有効期間が3か月でしょうから、9月に作成しても12月まで有効な場合が多いです。企業側にしても、同じ書類を作成してほしいという依頼が社員、職員から集中してしまうと作成に時間がかかることもあるので、今のうちに会社、勤め先に作成を依頼してしまうのがいいでしょう。
入所書類を提出できなければ何も始まりません。特に、今の時点では確実に児童クラブを利用するかどうか何とも言えない、という状況にある子育て世帯さんは、とりあえず入所は申請しておきましょう。およそほとんどの地域で、急な状況の変化で児童クラブが必要となった場合の「救済措置」を設けていることが多いですが、それに期待することなく、とりあえずは入所を申請する。その後、来年2月や3月になって、児童クラブを利用しなくても生活が成り立ちそうだ、ということが確実になった段階で辞退すればいいのですから。後でバタバタと入所書類をそろえるより落ち着いて対応できます。
<待機児童が出ない地域でも備えは必要>
「自分が住んでいる地域は全員がクラブに入れるから大丈夫」と思っている人も多いでしょう。拙著「知られざる学童保育の世界」(寿郎社)にも書きましたが、児童クラブの待機児童、つまり「小1の壁」が存在しない地域も多いのです。児童クラブの待機児童は人口の多さ少なさとは関係ありません。札幌、川崎、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡という超大都市でも公式には待機児童が出ていないのです。そういう地域にお住いの子育て世帯は、確かに確実に来年4月から新1年生となった我が子の放課後の居場所は確保できます。できますが、このような地域においては隠れた問題があります。
それが「行き渋り」の問題です。つまり、児童クラブに入所したはいいものの、子どもがクラブに行きたがらない、という問題。無理やりクラブに行かせようとすると子どもは身体的な症状も発するようになり、ひいては小学校そのものの不登校になるのも珍しくありません。超難敵です。もちろん、待機児童がある地域の児童クラブにおいても、行き渋りの問題はありますが、私の知る限り、待機児童が出ていない地域の行き渋り問題の方が深刻です。
なぜ児童クラブに入れるのに行き渋りの問題を気にしなければならないのか。実は、子どもの過ごす環境が影響しています。児童クラブの待機児童が出ていない地域には、カラクリがあります。それは、待機児童が出ていない地域にある児童クラブは、「実は正式な児童クラブではなくて、放課後児童クラブと放課後子供教室の機能を併せ持った市区町村独自の事業である、放課後全児童対策事業という仕組み」だからです。
この放課後全児童対策事業とは、待機児童を出さないことが最大の目的なので、つまりは利用する、入所している児童数が大変多い。よって施設の中は常に大勢の子どもで大規模状態、ギュウギュウ詰めの状態。とてもにぎやか、というより騒然としていて、大人が突発性難聴になるほどです。誰かと接しないと過ごせないほどで、静かな空間と時間がまったく確保されておらず、イライラがたまった子ども達によるけんか、トラブルも日常茶飯事。そても落ち着いて過ごせない環境によって、子どもが心理的に参ってしまうということです。悪化した子ども同士の人間関係の結果、いじめや、いじめに近い関係も発生しやすい。しかし職員数は児童数に比べて少ないので、子ども同士のトラブルに職員が気付かないことが圧倒的に多い。発達障害や発達障害に近い子どもにとってはまさにその場にいるだけでも困難な状況です。
これが行き渋りを引き起こします。つまり、待機児童が出ない=入所を申請すれば必ず入れる=施設内は子どもでギュウギュウ詰め=子どもたちが過ごす環境としては劣悪=子どもが行きたくなくなる、行き渋りとなる
こういう図式が容易に成り立つのです。よって、待機児童が出ないから安心、手続きさえしておけばよい、というものではありません。行き渋りも小学1年生に多いので、これもひとつの小1の壁、といえなくもありませんね。この点、待機児童が出ている地域は、つまり児童クラブに入れる子どもの数を制限しているので、クラブにおける子どもの過ごす環境は一定程度の質を保っている可能性があります。「待機児童を出さない=子どもがギュウギュウ詰めで子どもの過ごす環境としては悪化しがち」な地域と、「待機児童がある=子どもの入所人数を制限しているので子どもが過ごす環境としてはそこまで悪化しない」という地域に分けられるという図式にもなります。
行き渋りを解決する方法は、なかなかありません。子どもの居場所の状態によって引き起こされることが多いので、保護者個人の力で解決することができないからです。よって、まずは事前に、今のうちから、放課後に子ども達が過ごす施設の状況を見学して、どのような状況にあるかを確認しましょう。あきらかにギュウギュウ詰めで職員も疲弊していることが見て取れたら、我が子が行き渋りになる可能性を考慮して、子どもがクラブに行けなくなった場合に代わりとなる居場所があるかどうかを探す準備をしておきましょう。児童館、図書館、学習塾でも何でも構いませんが、緊急的に一時的でも子どもが過ごせる場所があるかどうかを調べましょう。最も効果的な手段の1つは「ファミリーサポート事業」ですが、実施していない地域も多く、実施していても利用したい側(つまり子育て世帯の側)と、子どもに付き添ってくれる側(提供会員と呼ばれることが多い)のマッチングが成立しないとサービスが利用できませんし、事前登録と説明会への出席が義務となっていることが多いのです。いざというときにそなえて、ファミリーサポートの制度があるなら、申し込んでおきましょう。
こうした努力を保護者が迫られるのは本末転倒で行政側がしっかりと児童クラブの環境を整備すればいいのですが、残念ながらまだそのような状況には程遠いので、子育て世帯側の自助努力が求められてしまうのです。やむを得ないですが、最悪の事態を防ぐために行動しましょう。
<子どもの居場所作りは数が先行するも、質も大事>
将来的に子育てをする可能性がある世帯、またはまだまだ子どもが小さくて児童クラブの利用まであと何年もかかるという子育て世帯には、ぜひとも考えてほしいことがあります。子育てに合わせて住む地域を考えたいとして引っ越し、マイホームの購入を考えいるならば、最優先順位として「児童クラブに入れるかどうか」を判断基準にしてほしいということです。あえて言えば、優先順位としては、「待機児童が出ていない地域。今後も出そうにない地域」を居住地の最優先としましょう。とにもかくにも、子どもが待機児童になってはどうしようもありません。
あくまで私の独断と偏見ですが、どのような放課後児童クラブの実施状況なら子どもも保護者も利用しやすいかといえば、「地域に根差した非営利法人の運営している児童クラブがある地域で、クラブ運営は法人組織が責任を持って行っている地域」が一番です。弱点は待機児童が発生している可能性があることですが、子どもの過ごす環境に配慮した運営を行っていることと、利用者である保護者が運営への参加を強制されないので運営に関する責任を負わされなくて済むことです。次いで、「地域に根差した非営利法人の運営している児童クラブがある地域で、クラブ運営の一部のみ保護者会も手伝っている地域」となります。
歓迎しにくいのは、「保護者が主体として運営している児童クラブがある地域」です。これはつまり保護者が運営者でもあるので、運営に関して否が応でも責任を負わせられるということです。責任を負うといっても普段のクラブ運営まで差配できませんから現場職員に任せることになり、そこに「責任を負わない者が業務を差配する」という図式、つまり無責任体質が生じやすくなります。クラブにおいてベテラン職員が好き勝手に運営しているのはこの形態に見られる悪しき問題です。
また、全国各地でクラブを運営している株式会社が運営している児童クラブで占められる地域は、子どもの過ごす環境としては大変厳しいものがあります。このような形態は企業が利益を確保することに重点が置かれているので質の低い職員を雇用して従事させていることがあります。スキマバイトの活用などはその最たるもの。職員全員がダメというのではなく、丁寧に子どもの支援をしたいと考えている職員の方が絶対数としては多いでしょうが、どうしようもない人手不足状態ゆえ、子どもに怒鳴ることしかしないシニア層の職員を平気で雇用するなどの弊害が実在しています。また子どもへの支援も、映像を見せるだけだったりやり方が固定化されているゲームやプログラムをただ実施するだけだったりと、子どもの自由な意志や考えを反映できるような時間の過ごし方は取り入れない形式の支援、援助が見られます。(それには質の高い職員が必要なので、おのずと、そのようなことはできない=決まり切ったプログラムしか実施できないという事情がある)
公営クラブは安心感がありますが、公営の弱点は「お役所」、つまり開設時間が短かったり、朝は遅めに開所したりという弱点があります。費用が安いのはうれしいですが使い勝手は今一つです。もっとも、実施例は少ないですが日曜日や祝日開所といった「そこまでやってくれるの?」という規格外のサービスは公営クラブにあります。民営ですとコスト面でできないことが公営ならできるという強みですね。そういうクラブが増えるといいのですが。費用の安さから、あえて公営クラブの地域を選択して住むこともありですが、公営クラブの民営化が急速に進行しているので注意が必要です。
児童クラブの小1の壁も、行き渋りも、児童クラブの整備が進めば必ず解決される問題です。よって市区町村は、まずは待機児童を出さないように放課後児童対策を進めつつ、子どもの過ごす場所、空間の質を上げるための努力も欠かさず行ってください。先行して数の整備をすることに私は賛成ですが、いつまでも数の問題だけ解決して質の問題を放置していいわけはまったくありません。ギュウギュウ詰めであっても半年後には新しく居場所を設置するからそれまでの我慢でお願い、ということなら理解できますので。
そのためには議会の働きが重要です。市区町村における議会の重要性は言うまでもありません。住民の生活のために行政執行部を相手に、数の整備はもちろん、質の整備のために行政がしっかり対応するよう行政執行部の動きを監視、あるいは後押しすることが議会、議員の役割ですから。児童クラブや全児童対策の施設を利用している保護者で、この状況を改善したいと悩んでいるなら地元の議員に相談しましょう。
児童クラブを必要とする子育て世帯は当面ずっと増え続けます。児童クラブはますます重要な社会インフラです。小1の壁、行き渋りが起きない状況を早く実現したいものです。
<おわりに:PR>
放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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