最低賃金が決まりました。放課後児童クラブが注意するべきことはこれ。そして訴えていくことは、これ。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。最低賃金の答申が出そろいました。つまり事実上、最低賃金の額が決まったということです。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)が注意しておくべきことと、児童クラブの業界が世間に向けて訴えていくべきことを紹介します。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<最低賃金は全国平均で1,055円>
 まず報道を紹介します。時事通信社が8月2916時7分に配信した「最低賃金、全国平均1055円 人手確保へ過去最大51円増 徳島、異例の84円引き上げ」という見出しの記事です。
「2024年度の都道府県別最低賃金が29日出そろい、厚生労働省が発表した時給の全国平均は前年度比51円増の1055円だった。引き上げ額は過去最大。国が示した「目安」の50円を27県で上回り、徳島は84円増の980円と、異例の大幅引き上げを決めた。今年度は深刻な物価高や人手不足、今春闘の歴史的な賃上げ結果を背景に、最低賃金も大幅に増額。全国で時給950円を上回り、1000円超えは16都道府県に倍増した。新たな最低賃金は10月1日以降、順次適用される。」(引用ここまで)

 国全体の方針として最低賃金の底上げを目指しています。その勢いにのってか、徳島県では一気に84円、最低賃金が上がります。これはものすごいことです。最低賃金で1日の所定労働時間6時間の勤務をしている徳島県の人は、今年10月以降の定められた日の後(徳島県は今年11月1日の予定)からは、1日につき504円の収入増となります。

 放課後児童クラブの世界は、最低賃金水準の賃金額で雇用されている職員が多いので、最低賃金額の引き上げは収入増に直結します。もっとも、物価がものすごい勢いで上がっているので、賃金をもらう側としては、最低賃金をもっとドカーンと上げてほしい、と思う人がほとんどでしょう。一方で、賃金を支払う側、つまり児童クラブの運営事業者、とくに非営利法人で事業規模が小さい事業者にとってはなかなかの死活問題でもあります。ただでさえ予算ギリギリの中で運営しているので、雇用している数人分、時間にして50円ちょっとの引き上げ額にしても、予算をオーバーしてしまう可能性があるからです。

 なお、最低賃金の全国目安は次の通りです。(厚生労働省のHPから)
(プレスリリース)全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました (mhlw.go.jp)

<最低賃金引き上げで児童クラブが注意するべきこと>
・月給の職員が最低賃金を割り込んでいないかどうか確認する。
 →時給制のパート、アルバイトといった補助員の賃金であれば分かりやすいですが、月給制の職員については月給から時間給を計算して確認しなければなりません。最低賃金(正確には、都道府県ごとに決められる地域別最低賃金)以上の額の賃金を支払わないと、最低賃金法違反で罰金50万円以下の罰金刑に処されることになります。最低賃金額を計算するには、基本給と諸手当を合計した額を時給に換算します。このとき、諸手当から「時間外賃金にあたる部分、家族手当、通勤手当、精皆勤手当」は除外、差し引いて計算します。みなし残業(固定残業)代も含めてはダメです。なお、みなし残業代も最低賃金額を上回る時給額を基本に計算されなければなりませんから、みなし残業代を取り入れている事業者はここも確認が必要です。

・周知をする。
 →最低賃金については労働者に周知の義務が課せられています。最低賃金法第8条に定められており、「常時作業場の見やすい場所に掲示し、又はその他の方法で、労働者に周知させるための措置をとらなければならない。」と書かれています。違反すると、事業者は30万円以下の罰金に処せられることがあります。つまり職員が働いている児童クラブで、職員たちがよく目にする場所(職員向けの掲示板や、事務室にある掲示板など)に、最低賃金について「最低賃金の額、最低賃金に含まれない手当、いつから適用されるか」の3点についての情報を備え付けておく必要があります。これ、案外忘れがちです。コンプライアンスのために必ず行いましょう。

・処遇改善等補助金について確認する。
 →国の放課後児童クラブに対する補助金として、処遇改善等事業があります。この補助金について国が出しているFAQには、どうやら今年度から、新たに「最低賃金の引き上げ額と同じ処遇改善の額では、補助金の対象としない」という一文が加わりました。例えば徳島県の場合は84円の時給引き上げになりますが、仮に徳島県内の放課後児童クラブ事業者がクラブ職員の賃金を改善して、その改善額が84円だった場合は、処遇改善の補助金は適用されないということになります。特に時給制の職員が主体となっている事業者と、月給制でも定期昇給を特に行っていない事業者は注意が必要です。処遇改善の補助金を請求するときに算定している額が最低賃金の額の引き上げ額より上回った額になっているかどうか、しっかり確認してください。補助金が不交付となったときのダメージは計り知れませんから。

・就業規則、給与規程の表記を確認する。
 →賃金額が明記されている場合、最低賃金を下回るようであれば改定しなければなりません。実際に支払っているから改定は後回しで、ではダメです。事実上、すでに今年10月以降の最低賃金額が判明したのですから、9月や10月の所定の会議で就業規則、給与規程を変えましょう。そもそも、就業規則は極めて重要な存在です。このルールに従って職員を雇用しているともいえるほどですから、必ず法令に即していなければなりません。その重要性が分からない人が、事業の運営に関わってはなりません。

<児童クラブ業界がこの機に社会へ訴えていくべきこと>
・児童クラブの職員の賃金水準は最低賃金とほぼ同じではダメ、ということ。
 →これには2つの実践が必要です。
 「最低賃金の水準で釣り合うような専門性ではないことを社会が理解できるようにする。そのために児童クラブ職員の仕事の専門性を広く社会に訴える」
 「最低凛銀の水準で釣り合うような職務、職責、専門性ではないことを実践で常に明示すること」
 そのためには放課後児童支援員の仕事の専門性が確立していることが大前提となります。育成支援の専門性についての分かりやすい理論化とその世間への周知が欠かせません。また、せっかく児童クラブの重要性が理解されつつある現状でも、大変残念な犯罪行為をしでかす児童クラブ職員があちこちで見つかったり、検挙されています。注意をしたのに従わなかったから顔を叩いたとか、予算を着服したとか、子どもに暴言を吐いたとか、カメラで盗撮したとか性的画像を送信するよう要求するとか、残念な報道がこの数か月の間でも相次いでいます。そういうことがあるたびに、児童クラブ職員への社会が向ける評価が下がります。評価が下がれば、高い賃金を容認する理解も消えます。1人1人の児童クラブ職員は、自分1人の行動が業界全体に影響を及ぼすんだという理解をもってください。事業者は、自らの事業判断、経営判断が業界全体にダメージを及ぼす可能性があることをもっと認識してください。残念ながら、あまりに無頓着な事業者が多すぎます。

・運営費増に伴う国の補助金増額がそのまま事業者の利益とはさせない仕組みを
 →最低賃金がこれだけ上がれば、2025(令和7)年度の、国の児童クラブへの運営費補助金もそれなりに増えるでしょう。それはありがたいことですが、市区町村は、運営費が増えてもそれが職員の賃金や児童クラブ運営の経費に着実に費消されるように、しっかりと監視が必要です。つまり、最低賃金と同じやほぼ同額の賃金水準に固執し、子どもに書ける経費(教材費やおやつ代)を極端に切り詰め、行事もほぼ行わず、ただ事業者が作った意味のないビデオ鑑賞やお仕着せのスポーツを子どもに「やらせる」ことで毎日を過ごさせ、画一的な事業運営内容のために社会性も足りない職員を低額で雇い、それを「経営努力」と称して事業者の収益とする、という構図を作らせない、ということです。
 最低賃金を下回らないのは最低限の義務であり、児童クラブの仕事の専門性は本来なら最低賃金額の賃金相当ではありません。もっと高い賃金で初めて釣り合う専門性があるはずです。それを、事業者が率先して最低賃金並みの賃金しか支給しない経営方針を採用することで、業界自ら釣り合いを否定してしまっているのが、今の児童クラブの問題です。この点、全国各地で事業を展開している広域展開事業者こそ、児童クラブの賃金水準を最低賃金程度に押しとどめている元凶です。広域展開事業者こそ職員の賃金を大幅に引き上げねばなりません。「そんなことをしたら事業展開をする利点がなくなる」という反論があるとしたら、「そんなことをしても利点があるような経営をしなさい。どうしてもできないなら、利益を上げられないということが本質なのだから、潔く撤退しなさい」と私はいいます。私は営利企業が児童クラブを運営することは大賛成ですし利益を上げてよいと考える自由経済主義者ですが、それは「子どもや職員に本来充てるべき費用を削ることがない運営をしたうえで、得られた利益はどんどん手にしなさい」というものです。
 よって市区町村は、これから増えることが確実な国の補助金が職員と子どもに使われること、つまり児童クラブの事業そのものに使われることを確実とするような契約や仕様書を事業者との間で作成する、あるいは議員は、議会で公契約条例を制定するなどして、児童クラブの運営の底上げに資するようにしなければなりません。メディアにはその重要性を訴えていただきたい。

 これほどの最低賃金の引き上げですがまだ数年は続くでしょう。こうなると、事業規模の小さな児童クラブ運営事業者は経営が立ち行かなくなります。1クラブ1法人や、1クラブ1運営委員会や保護者会、という零細規模の運営事業者は、今すぐにでも複数クラブによる事業規模の拡大を考えるべきです。そうでもしないと、いざ経営が立ち行かなくなったとき、経営に安定性のある広域展開事業者によって吸収されますよ。その経営の安定性は職員と子どもに本来使われるべき予算を限界以下にまで抑え込んで確保した利益による安定性と思われるもの。そうした未来が嫌ならいまこそクラブ、地域の壁を超えて非営利団体同士の合従連衡に踏み切るべきでしょう。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)